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奇妙 礼太郎 特集~新世代における稀有なエンターテイナー
人を喰った名前に、ちょっととぼけた味わいの表現力に満ちた歌声。そして、あらゆるジャンルに対応できる柔軟なアーティスト性。奇妙礼太郎ほど、個性的でありながらつかみどころのないミュージシャンはいないのではないだろうか。ソロ、アニメーションズ、天才バンド、そして奇妙礼太郎トラベルスイング楽団と、多くのプロジェクトで音楽ファンを楽しませてきた。9月にはソロでビルボードライブ公演を控えているが、何が起こるかわからないワクワク感に溢れている。ここでは、そんな新世代における稀有なエンターテイナーの足取りを追ってみよう。
奇妙礼太郎は、1976年生まれ、大阪出身。もちろん芸名だが、本名は不詳だ。浜田省吾、長渕剛、CHAGE and ASKAなどのJ-POP、リトル・リチャードやサム・クックといったリズム&ブルースやロックンロールから大いに影響を受ける。高校生でギターを始め、大学時代は軽音楽部に所属してバンド活動をしていたが、卒業してからもそのまま音楽をやり続けた。
彼が最初に注目を浴びたのは、アニメーションズのヴォーカルとしてだろう。奇妙礼太郎のヴォーカル&ギターを中心に、生島良太郎(ギター、コーラス)、上田太一(ベース、コーラス)Qちゃん(ドラムス)という編成のロック・バンドは、2001年頃から活動開始する。サニーデイ・サービスの曽我部恵一に見初められ、2004年にRose Recordsのコンピレーション・アルバム『私たちの音楽 vol.1』に参加。翌2005年には同レーベルからファースト・アルバム『THE ANIMATIONS』を発表した。しかし、この1枚を残したのみで活動はフェードアウトしてしまう。後の2012年には久々に復活ライヴを行い、その模様が翌2013年に『ANIMATIONS LIVE!』というタイトルでリリースされた。これら2枚のアルバムは、リマスタリングされ2014年にリイシュー。いずれも小気味よいロックンロールを聞かせてくれ、復活を望む声も大きい。
しかし、奇妙礼太郎の名前をもっとも大きく世に広めたのは、なんといっても奇妙礼太郎トラベルスイング楽団だろう。10数名によるビッグバンド・サウンドに乗せて歌う姿は、レトロでオールド・タイミーな音楽性でありながら、逆に新鮮な驚きを持って迎え入れられた。スウィング、ジャイヴ、ラテンから歌謡曲にいたるまでジャンルの振り幅も大きく、彼のヴォーカルと見事にフィットしたことが勝因だ。
2010年に「機嫌なおしてくれよ」などのゴキゲンなナンバーを満載したアルバム『KING OF MUSIC』で初登場。2011年には、それまでの代表曲をソロとトラベルスイング楽団の両方のスタイルで披露するスプリット・アルバム『GOLDEN TIME』を発表し、ソロ・アーティストとしての可能性も提示した。以降は、この2つの編成を使い分けながら活動していく。2012年には『GOLDEN TIME』をほぼそのまま同じスタイルでライヴを行った代官山ユニットでの実況盤『LIVE GOLDEN TIME』に続き、トラベルスイング楽団名義でハッピーなサウンド満載の『桜富士山』をリリースするなど、精力的に作品を生み出し続ける。
2013年に入ると、初の弾き語りツアーを行ったが、その際にソロ・アルバム『HOLE IN ONE』を会場限定でリリース。その直後にはSHINCO(スチャダラパー)や曽我部恵一なども参加したリミックス盤『GOLDEN TIME REMIX』も発表された。この年はリリース・ラッシュで、トラベルスイング楽団としての渋谷クラブ・クアトロでのライヴCD&DVD作品『Live!』に続き、オリジナル・アルバム『仁義なき恋愛』も発表した。
また、同じく2013年には天才バンドも始動。これは、奇妙礼太郎がギターとヴォーカルを担当し、ワンダフルボーイズのSundayカミデがピアノとコーラス、そしてトラベルスイング楽団のドラマー、テシマコージを加えた3人組だ。2014年にファースト・アルバム『アインとシュタイン』を発表して大きな話題となり、きゃりーぱみゅぱみゅやゲスの極み乙女。などが所属するワーナー・ミュージック内のレーベル「unBORDE」と契約。2015年にはセカンド・アルバム『アリスとテレス』でメジャー・デビューも果たした。Sundayカミデが手掛けるピアノがメインのシンプルなロック・サウンドと、エモーショナルでセンチメンタルなラブソングが印象深く、奇妙礼太郎のヴォーカリストとしての新たな魅力を提示してくれる。
このような精力的な活動によって、トラベルスイング楽団は少し落ち着きを見せたが、それでも2014年には、全編を「オー・シャンゼリゼ」や「赤いスイートピー」といったカヴァー曲で構成した『東京ブギウギ』を発表して話題を呼ぶ。また、2015年には再びソロ・ツアーを行い、前回と同じく会場限定でソロ・アルバム『また春がきた』を販売した。
奇妙礼太郎の歌声は、この時点ではすでに膨大なリリースやライヴ活動によって多くの人に支持されていたが、加えてお茶の間でもその独特の声を耳にすることになる。というのも、2012年頃から多数のCMソングに起用されるようになったからだ。サントリー「秋楽」(ビール)、リクルート「じゃらん」(旅行サイト)、カゴメ「野菜生活100」(ジュース)、六甲バター「Q・B・B チーズ」など、10数本の大型タイアップを通じて、意識せずに彼の声を耳にしているはずだ。
2016年2月に、奇妙礼太郎トラベルスイング楽団は全国7カ所を周る全国ツアーを行ったが、なんと4月で解散するという衝撃的な発表が行われる。そして、ツアー後の4月1日に大阪のユニバース行われたラスト・ライヴを持って、その歴史に幕を閉じた。なお、2月のツアーの模様は、2枚組のライヴ・アルバム『LAST TOUR ~THE GREAT ROCK'N ROLL SWING SHOW~』として、解散直後の4月に商品化されている。
今後、奇妙礼太郎はどのような方向に向かっていくのか。そのヒントのひとつには、セレクトショップでのライヴとスタジオ録音をミックスしたソロ名義の最新作『Grand Gallery Presents HOMEPARTY starring 奇妙礼太郎』にヒントがあるのかもしれない。憂歌団の内田勘太郎やヴァイオリンの第一人者である金原千恵子らとセッションした本作のように、さらに多くのミュージシャンを巻き込んで新しい世界を構築していくのではないだろうか。この9月には、東京と大阪のビルボードライブでスペシャルセットと称したソロ・ライヴが敢行される。ここでもきっと新たな何かが生まれるはずだ。ぜひ、最新型の奇妙礼太郎を間近で確認してもらいたい。
公演情報
奇妙礼太郎
ビルボード スペシャルセットワンマンライブ
~王手飛車獲り鬼コロコロ 2016~
ビルボードライブ東京:2016/9/10(土)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2016/9/15(木)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
奇妙 礼太郎 / Reitaro Kimyo (Vocals, Guitar)
濱本 大輔 / Daisuke Hamoto (Drums)
MIYA / MIYA (Bass)
久次米 真吾 / Shingo Kujime (Guitar)
Gomes (Keyboards)
武嶋 聡 / Satoru Takeshima (Saxophone)
東条 あづさ / Azusa Tojo (Trombone)
若森 さちこ / Sachiko Wakamori (Percussions)
リリース情報
関連リンク
Text: 栗本斉
HOME PARTY
2016/05/04 RELEASE
XQKF-1088 ¥ 2,200(税込)
Disc01
- 01.BE BOP A LULA
- 02.イルミネーション
- 03.MAKE IT BETTER
- 04.ダンスホール
- 05.カトリーヌ with 斎藤ネコ
- 06.悲しくてやりきれない
- 07.MOON RIVER with 塚本功、金原千恵子
- 08.HAVE YOU EVER SEEN THE RAIN with 内田勘太郎、金原千恵子
- 09.SUNNY
- 10.愛の讃歌 with 斎藤ネコ
- 11.街の灯り with 内田勘太郎、金原千恵子
- 12.天王寺ガール
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