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2016年フジロックのベスト・ニュー・アクト!ジャック・ガラット 初来日インタビュー
今後活躍が期待される新人に贈られる<ブリット・アワード批評家賞>と<BBC Sound of 2016>の両方に選出され、大きな期待とともに2016年2月(日本盤2016年6月)にデビュー・アルバム『フェーズ』を発表した、現在24歳のシンガー/ソングライター/プロデューサー、ジャック・ガラット。R&B、ソウル、ヒップホップなどをポップに昇華し、ジェイムス・ブレイクばりのファルセット、ジェイムス・ベイも顔負けのギタープレイ、ルディメンタルを彷彿させるダンサブルなドラム&ベースの要素など、まさに現在のUKミュージック・シーンが彼一人に凝縮されているといっても過言ではない。すべての楽器を自分で演奏する圧巻のライブ・スタイルにも定評のある彼が、【FUJI ROCK FESTIVAL '16】へ出演するため初来日。BABYMETALの裏にも関わらず、大入りの<レッド・マーキー>に新たな伝説を残す、凄まじいパフォーマンスで観客のド肝を抜いた。2016年フジロックのベスト・ニュー・アクトと呼ぶにふさわしいジャックをライブ前に直撃、デビュー作やその幅広い音楽観について話を訊いた。
みんなで共有しているこの瞬間は一度きりなんだ、って
リマインドするようなショーをプレイする、アーティストとしての責任がある
−−デビュー・アルバム『フェーズ』がリリースされてから、様々な国でライブを行っていると思いますが、一番思い出深かったことは?
ジャック・ガラット:日本に来る直前に出演したオーストラリアの【Splendour In The Grass】だな。様々な国に行くことができて本当にアメイジングだし、すごくラッキーだと思ってる。レーベルもそうだし、僕のスタッフは自分がレーベルと契約する前から長年一緒に頑張ってきた仲間で、こうやって世界中のみんなにアルバムを聴いてもらえるようにサポートしてくれてる。僕の唯一の目的は、自分の音楽をより多くの人々に聴いてもらうこと。彼らのおかげで、日本のようなこれまで一度も来たことのない国でも音楽を聴いてくれている人がいる。
僕自身、こんなにも大勢の人が聴いてくれてるなんて、実際その国行ってみないと知らないことが多い。たとえば、オーストラリアに行った時も、アルバムに対してどんな反響があったか、まったく知らなかったし、ましてや行ったこともない国だったから、何千人もの人が観に来てくれるなんて予想してなかった。こういう出来事を色々な国で体験してきた。でも、そういったことに一喜一憂せず、いいことから悪いことまで、すべてをありのままに受け入れるようにしてるけどね。
−−そんな中、ライブ中に観客を見渡して、その“瞬間”に浸ったりすることはありますか?一人でのオン・ステージなので、なかなか大変かとは思いますが(笑)。
ジャック:確かに(笑)。でもアーティストとして自分のショーの重みを認識することは重要だ。観客、会場、都市、国が違えば、ショーもおのずと変化していく。同じショーを毎日演奏するなんて、もってのほか。それをちゃんと頭に入れるために、観客を見渡して反応を記憶するのは、大切なことだと思う。多くのライブが行われる都市で演奏するのは非常に興味深い。あんまりこんなこと言いたくないけど、毎日のように大勢のアーティストがプレイするから、観客もある程度それに慣れてしまっている部分がある。だからこそ、今みんなで共有しているこの瞬間は一度きりなんだ、ってリマインドするようなショーをプレイする、アーティストとしての責任がある。どのライブも、ユニークでフレッシュなものじゃなきゃ。とはいえ、大概の場合、ステージ上で忙しすぎて、それどころじゃないよ(笑)。
−−ですよね(笑)。では、デビュー作の制作にあたり、青写真的なものはあったのですか?
ジャック:アルバムの制作には4年ほど費やしたんだけど、3年前から書き上げてた曲もあれば、6~7か月前…アルバム・リリースの1~2か月前まで完成していなかったものもある。だから、この4年間での僕の成長が凝縮された作品になってる。色々な制作方法を試した―他のプロデューサーとやってみたり、完全に僕一人で曲作りしたり。アルバムは、そういった側面がバランス良く融合されてる。アルバム制作の準備が整った時に作品が語りかけてきた感じ。で、そこから僕が具現化していったんだ。
▲ Water (Burberry Acoustic)
−−作品を聴いていて印象的なのが、様々なジャンルやスタイルの融合、そしてディテールですが、そのあたりのこだわりは?
ジャック:自分の音楽にディテールをプラスすることと引き算することは同じぐらい重要なこと。アルバムには、カオティックな瞬間もある。でも、それは何もない、空白の瞬間もあるからなんだ。もし、アルバム全体においてカオスだったら、常に一定のレベルで、すぐに飽きてしまうけど、今作には僕の声とピアノのみの曲もある。
−−「Water」のように。
ジャック:そう!頭の中を渦巻いているクレイジーなものすべて吐き出せるような自由を持つことは大事だ。その中から使えるものもあれば、使えないものもある。そこをちゃんと判断するのは、僕の義務でもある。
−−そのゆえ、自分に対してすごく厳しくしてしまう部分もありますか?
ジャック:そうならざるを得ない。もしそうじゃなきゃ、他人がその役割を果たさなきゃならないから、逆にそっちの方がコワいよ。特に、ディテールが豊富な曲なんかは、自分で厳しく見極めないと、アイディアが多すぎてパンクしちゃう。そういったアイディアを生み出すクリエイティヴィティーはもちろんだけど、必要な場合にそれらを引き算していく力も併せ持ってなきゃならない。自分でやらなきゃ、他人がやることになって、泣きべそかきながら、それに従うことになる(笑)。
−−そして、いつの間にか自分の作品じゃなくなってる…、ってぐあいに。
ジャック:その通り。僕らしいサウンドであり、そこに人々が反応してくれること。そしてなにより、自分が誇れる作品か、ということが重要なんだ。
▲ Breathe Life MV
リリース情報
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最近作ってるビートは、ジャズに傾倒したビートメイカーにインスパイアされたものが多い
−−では、「Worry」でアンダーソン・パックとコラボした経緯を教えて下さい。ライブも息がピッタリで、最高にクールでしたね。
ジャック:あれはヤバかった!僕はアンディと彼の作品の大ファンなんだ。ヒップホップ/ソウルのみならず、現代のコンテンポラリー音楽において、きわめて重要な“ヴォイス”だ。お互いやってることに親近感を感じていて、僕が「Worry」をリリースするってなった時に…あ、何においても道理にかなってるのは僕にとって大事なこと。一つの曲に関しても、すべての音符があるべきところにあって、必要ない箇所に余計なものは入れない。リスナーが聴いた際に筋が通る曲じゃなきゃダメで、もし違和感があればその曲には何か問題がある。何もかも、その場所に存在する意味がなきゃ。
そんなわけで、「Worry」を誰かとシェアして、その人の歌声を加えることを考えた時、曲にとって適任者であることにすごくこだわった。まさに、アンディはその適任者で、すっごくいい仕事をしてくれた。こういうコラボは、僕にとって初めてのことだったから、上手くいくか予想できなかった。感じたままに、君なりに曲を表現してくれ、って曲と詞を送ったら、素晴らしいヴァ―スを送ってきてくれた。その最初のドラフトからほぼ何も変えずに彼のヴォーカルをトラックにミックスしたんだ。
▲ Worry ft. Anderson .Paak (Live From The MTV Woodies 2016)
−−『フェーズ』で、既に多彩なスタイルを探求していますが、これからさらに掘り下げたい、または興味があるものは?
ジャック:これまで少しほのめかしてきたけど、本格的に掘り下げれていないのが、最近よく聴いてるジャズ。
−−へぇ~、意外ですね。
ジャック:そう、最近作ってるビートは、ジャズに傾倒したビートメイカーにインスパイアされたものが多いんだ。
−−フライング・ロータスや<ブレインフィーダー>系のアーティストとか?
ジャック:そうそう。あとは、Jディラとか…大ファンのトム・ミッシュっていう若手UKアーティストもそうだし。それとジャズとヒップホップの境界線をぶち破るようなアーティストたち。ケンドリック・ラマーを筆頭にそういうアーティストのシーンが今すごく盛り上がってて、エキサイティングだよね。
−−今日フジロックに出演するロバート・グラスパーもその一員ですよね。
ジャック:あぁ!でも時間がなくて、観に行けそうにないから、ちょっとムッとしてるんだ(笑)。彼が成し遂げたこと、現在進行形でやっていることの大ファンだよ。ケンドリックもそうだし、カマシ・ワシントン、テイラー・マクファーリンやハイエイタス・コヨーテなど、ジャズをアップデートしたり、変形させるのでなく…
−−それが現代におけるジャズの形になりつつある。
ジャック:まさにその通り。ジャズは昔から常に進化し続けてきたジャンルだ。崇高な、過去のものとして美化されるべきではないよね。
−−彼らのおかげで、若い人たちにもジャズの“リアル”が徐々に浸透してきていますし。
ジャック:本当に喜ばしいことだよ。僕自身、そういうスタイルで曲を書くのが好きだし、使ってるコードも示唆させるものが多い。スティーヴィー・ワンダーは、世界一大好きなアーティストの一人なんだけど、彼もジャズにとても影響されているし、ジャズ・レコードを作ったこともある。大切なのは自分らしく表現することだね。ジャズには、ジャズならではの特性がある。カマシの作品があれほど成功したのは、単なるジャズ・サックス奏者では終わない彼らしさがあって、作品も彼ならではのアイデンティティーを持っているからなんだ。
▲ Surprise Yourself (Live on Vevo UK LIFT)
−−そういえば、先日ハイド・パークで行われたスティーヴィー・ワンダーのライブには行きましたか?
ジャック:もちろんだよ!幸運にも、これまで何度かライブを観る機会があったけど、いつも想像以上のライブをしてくれる。スティーヴィーは、唯一無二だ。
−−あの歳になってもコンスタントにツアーや楽曲を発表しているのは素晴らしいことです。
ジャック:うん、ツアーもレコーディングも積極的にやってるね。
−−そしてポピュラーかつ芸術性の高い作品を作り続けているアーティストの代表格でもありますよね。
ジャック:そこが彼を尊敬している理由の一つでもあるんだ。プリンス、デヴィッド・ボウイ、ポール・サイモンなど、素晴らしいポップ・ソングを書く、いわゆる“ポップスター”ではない人たち。メロディがキャッチーだけど、良質な楽曲。成功を収めたけど、それは自分たちのこだわりを貫いたゆえのものだ。
−−最後に、現在はポップ・ミュージック史において、どんな時期だと感じますか?
ジャック:チープに作れて、大儲けできるような大衆音楽は、徐々にクオリティが低下していて、リスナーもそれに気づき始めている。そして時間と誠意を込めて作られたTOP40ぽくない音楽が、注目を浴びるようになってきている。たとえば、チャンス・ザ・ラッパーの新作が様々な記録を破ることができたのは、その兆しが見えてきていて、人々が音楽やクリエイティヴィティーを大切に思っているからだ。とはいえ、良くなる前に、さらに悪化するだろうけど…目に見える変化が起こっている。何かのはずみですべてが崩壊した時、生き残るのは時間をかけて作られた、揺るぎない、“基盤”の強い音楽だと信じてるよ。このフェスは、特にそういうアーティストが数多く出演しているから、そのラインアップの一員になれてとっても光栄だね。
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フェーズ
2016/06/10 RELEASE
UICI-9050 ¥ 2,420(税込)
Disc01
- 01.コアレス(シナスタジア・パート2)
- 02.ブリーズ・ライフ
- 03.ファー・クライ
- 04.ウェザード
- 05.ウォーリー
- 06.ザ・ラヴ・ユア・ギヴン
- 07.アイ・ノウ・オール・ホワット・アイ・ドゥ
- 08.サプライズ・ユアセルフ
- 09.ケミカル
- 10.ファイアー
- 11.シナスタジア・パート3
- 12.マイ・ハウス・イズ・ユア・ホーム
- 13.フォーリング (日本盤&海外デラックス・エディション収録曲)
- 14.ウォーター (日本盤&海外デラックス・エディション収録曲)
- 15.アイ・クドゥント・ウォント・ユー・エニウェイ (日本盤&海外デラックス・エディション収録曲)
- 16.レムナンツ (日本盤&海外デラックス・エディション収録曲)
- 17.シナスタジア・パート1 (日本盤&海外デラックス・エディション収録曲)
- 18.ロンサム・ヴァレイ (日本盤&海外デラックス・エディション収録曲)
- 19.ウォーリー feat.アンダーソン・パーク (日本盤ボーナス・トラック)
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