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特集:ブロンド・レッドヘッド ~NYアート・ロックの継承者。変わらぬ創造性と実験精神を紐解く。(再掲)&プレイリストも公開!
来月10月に約2年ぶりの来日公演を行うNYアート・ロックの重要バンド、ブロンド・レッドヘッド。90年代のデビュー以来、彼の地を代表するバンドの一つとして歩んできた彼らだが、その音楽性は決して一つの地点に留まっていた訳ではない。今回はそんな一筋縄では行かないバンドの音楽性の変遷を、天井潤之介氏の文章とともに振り返る。
ニューヨークの地に連綿と続くアート・ロックの伝統
ギタリストでヴォーカリストの日本人女性カズ・マキノ、そして、イタリア人の双子で、ギタリストでヴォーカリストのアメデオとドラマーのシモーネのパーチェ兄弟。現在も活動の拠点を置くニューヨークでかれら、ブロンド・レッドヘッドが結成されたのは、20年以上前の1993年のこと。時代は、ニルヴァーナやパール・ジャムに代表されるグランジ・ロックやオルタナティヴ・ロックがアメリカの音楽シーンを席巻していた、まさに直中。そんな当時、シーンの精神的支柱とも言える存在だったソニック・ユースのドラマー、スティーヴ・シェリーに見初められてかれらは本格的なデビューを飾った――という経緯は、いかにも“象徴的なエピソード”として映るかもしれない。
▲Blonde Redhead
(1995)
けれど、そのシェリーのレーベル〈Smells Like〉から彼のプロデュースでリリースされたデビュー・アルバム『ブロンド・レッドヘッド』(1995年)を聴けば、そうした周囲とはかれらが毛色の異なる存在だったことがおわかりになるはず。たとえば、そのルーツにハード・ロックやメタルからの直接的な影響を窺わせていた同時代のグランジ/オルタナティヴ勢に対して、かれらの方はずっとフリーキーで、ある意味アヴァンギャルドな趣。形式的にはいわゆる“ギター・ロック”のスタイルをとりながらも、演奏は展開も複雑で不協和音に満ち、時おり金切り声のような叫びを上げるカズの歌声は強烈だ。ブロンド・レッドヘッドというバンド名が、70年代末~80年代にアート・リンゼイが率いたノー・ウェイヴの伝説的グループ、DNAの曲名からとられたことは知られた話だが、かれらの音楽がそのバックグラウンドに想起させるのは、言わばそうしたニューヨークの地に連綿と続くアート・ロックの伝統。ちなみに、バンドを結成する以前にパーチェ兄弟が学んでいたというジャズの素養は、そこを踏まえるうえで大きなポイント、かもしれない。
▲DNA - Blonde Red Head(Live from "Downtown 81")
セカンド以降~典型的な“ギター・ロック”の枠の外側へ
▲In an Expression
of the Inexpressible
(1998)
そのデビュー・アルバム『ブロンド・レッドヘッド』と同じく〈Smells Like〉からリリースされた2ndアルバム『ラ・ミア・ヴィータ・ヴァイオレンタ』(1995年)をへて、そうしたかれらの個性がより鮮明に表れ始めたのが、レーベルをシカゴの名門〈Touch & Go〉に移籍してリリースされた3rdアルバム『フェイク・キャン・ビー・ジャスト・アズ・グッド』(1997年)と4作目の『イン・アン・エクスプレッション・オブ・ジ・エクスプレッシブル』(1998年)。じつは結成当初、かれらはフルタイム&サポートのベーシストを置いた4人組として活動していたのだが、このタイミングでベースレスのトリオにメンバー編成を固定。それによりバンド・アンサンブルに“余白”が生まれ、自由度を増した演奏がかれらの音楽性を典型的な“ギター・ロック”の枠からその外側へと押し広げていくことになる。加えて、以降のかれらのサウンドにおいて大きな役割を担うようになる、キーボード/シンセの本格的な導入。ワシントンDCのハードコア・バンド、フガジのガイ・ピチョットがプロデューサーを務めた『イン・アン・エクスプレッション~』では、パンキッシュな演奏にニュアンス豊かなシンセ/キーボードの音色が効果的に差し込まれ、サウンド全体に奥行きと魅力的な陰影をもたらしている。
▲Melody of Certain
Damaged Lemons
(2000)
引き続きピチョットが制作に携わった次作の『メロディー・オブ・サーテン・ダメージド・レモンズ』(2000年)は、そうしたトリオ以降のアプローチと初期の荒削りなスタイルとが絶妙にブレンドされた点で、かれらのキャリアを代表する最初のアルバムと呼ぶにふさわしい作品だ。また、先鋭性とポップ感覚が損なわれることなく共存を見せたそのありようは、ヤー・ヤー・ヤーズやインターポールら、まさにニューヨークを起点として台頭する2000年代以降のインディ・ロック・シーンにおいて理想像を示す標のひとつになった、とも言えるかもしれない。
▲Yeah Yeah Yeahs - Date With The Night
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