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School Food Punishment 『Prog-Roid』インタビュー
内村友美(vo)が前作『amp-reflection』のインタビューの際に「第一部は終了です」と言った理由、昨年の夏より公の場から姿を消した真相。そこにはSchool Food Punishmentが消滅しかねない程の危機的状況、人と人によって再びバンドを立て直していく為の試練があった。今回のインタビューではそのストーリーを詳細に語ってもらい、何故に『Prog-Roid』なる開放的なアルバムへと辿り着くことが出来たのか。これからSFPはどこへ向かっていくのかを明らかにしてもらった。
初めて言いますけど、結構辞めたくなっていたんです
--今振り返ると、前作『amp-reflection』ってどんなアルバムだと感じていますか?
内村友美(vo):完成した頃と印象は変わらないですね。そこに至るまでの怒濤の1年間を詰め込んだものだった。そのとき作れる一番のアルバムだったと思います。
比田井修(dr):聴き直してみると、今でも単純に凄いアルバムだなって。本当にそれは思いました。自分たちの作品じゃなかったとしても、そう感じたと思う。
--ちょっと思い出してもらう作業になっちゃうんですけど、その『amp-reflection』を引っ提げた【『amp-reflection』release tour“Switch”】には何を感じました?
内村友美:必死でした(笑)。アルバム『amp-reflection』があって、それを聴いた人たちが来るんだっていうプレッシャーは物凄く感じていたし、その期待に応えられるだけのライブをしなきゃいけないってところで、かなり必死でしたね。
比田井修:すごく質の高い楽曲をライブで形にすることに精一杯でした。満足できたか?と言うとそうではなかったかもしれないですけど、必死でやり遂げた感じでしたね。
--あの日のMCで内村さんは「この1年の間に自信とかすごく無くなったし、自分のことがすごく分かっていって疲れていくといろんなものに興味がなくなる」という話をしていました。具体的にはどんなことが分かって疲れてしまったんでしょう?
内村友美:メジャーに来て、分からないこと、初めてのことばっかりだったし、どう適応しようか。その答えを出す前に「走り続けろ!」みたいな。走り続けないとそこにいられない感じがしていたんですよね。だからキャパを物凄く超えた中で楽曲を作っていると感じていたし「それでいいのか?」って思ってもいたし「じゃあ、どうしたらいいのか?」って悩んでいたし。自分に出来ることと出来ないことっていうのはあるなって、1年間走ってみて痛感した部分が大きかったんですよね。それを思った上でステージに立つ、人前に立つことの重圧があったんです。
--精神的なバランスを取る暇もなく多くのことをやっていたと。
内村友美:その中では「意識がバッチリ合ってる」「同じ方向を見ている」っていう風には成りづらくて。状況はどんどん変わっていくけど、意識ってそんなに簡単に合わさらないから、あのアルバムを出したときってメンバー間の仲もあんまり良くなかった。喧嘩している訳じゃないけど……。
比田井修:メンバーそれぞれが体感しているスピード感とか、諸々の進み具合とかやることの差も凄かったんです。それで分かり合える部分も少なかったというか。
内村友美:意識の差があって。それはもうスタッフとメンバーの間もそうだし、スタッフ間もそうだったかも知れないですけど、school food punishmentチームにいるみんなそれぞれに思っていることがあって、それぞれがそれぞれの意識でいる感じがすごくして。足並みが揃ってなかったんですよね。それで「どうにかしないと、先に進めない」って思っていました。
--ただ、先のMCの後に「何かに夢中になるっていうことはすごく大変なことだと思うけど、音楽を恋の初期衝動のように大切にしていきたい」とも仰ってるんですね。
内村友美:なので、恋の初期衝動のような気持ちを持ち続けることがすごく大変であると、今話した状況になって分かったんですよね。やるべきこととやりたいことがあって、そのやりたいことも何だか分からなくなっていく。そうなると、純粋さって「持ち続けよう」って思わないと持ち続けられない。だからすごく大変だし、でもすごく大事なことだなって。今も思いますよ。
--ある意味、あのツアーでschool food punishmentはひとつ完結して、次のフェイズに入っていくんだろうなと思っていたんですが、8月の【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2010】、そして9月の『flashback trip syndrome』配信を区切りに表面的な部分では動きが止まります。あれは予定通りだったの? それとも止まっちゃったの?
内村友美:止めたんです。私が『amp-reflection』のインタビューのときに「第一部は終了です」って言ったのは、さっき話した気持ちの流れがあったからで。だからもう止めるつもりだったんです。スタッフ間のことも、メンバー間のことも、school food punishmentをどうしていくのかっていうことも、一回ここで立て直さないと「次の作品は作れない」って思っていたんですね。普通の流れだったら『flashback trip syndrome』もCDシングルで出して、ライブももっとやっていって、新しいシングルも出していくんでしょうけど、それを「今は出来ない」っていう風に相談させてもらって、じっくり考えていく期間に変えてもらったんです。
--それは内村さんの判断?
内村友美:判断っていうか、私の気持ちがついていかなくて。実際……、今、初めて言いますけど、結構辞めたくなっていたんですよ。でもみんなが分かってくれようとしたことが大きくて。自分が言っていることとか、不安に思っていることとか、いろんな人がすごく時間をかけて理解してくれているのが分かったから、だんだん応えなきゃいけない気持ちになってきて。そこでメンバー間の意識もすごく変わってきたし、スタッフも入れ替わったりとかして。物凄く向き合ってもらったから、本当に人と人でschool food punishmentというものを内側から組み立て直していく流れになったんですよね。
--では、2010年の秋冬はどんなモードでどんな作業をしていたんでしょう?
内村友美:すでに「『RPG』を出したいよね。それが核になるフルアルバムを作ろうよ」っていう計画があって。そこから「どうやって作る?」ってなったとき、もっと自分たちが主体とならなくちゃいけない、自分たちでやるということにもっと向き合わなきゃいけないと思って。
比田井修:それで最初はメンバーだけでやろうとしたんですよ。
Interviewer:平賀哲雄
School Food Punishmentに対してすごく客観的になれた
内村友美:それを秋ぐらいにやっていたんですけど、年末には「これではダメだ」ってなって。なんでこんなに「良いね!」っていう感じにならなくて「これで進もう!」って良い雰囲気になっていかないのか。それを考えたら、大事だったのは自己満足じゃなくて。
比田井修:自分たちが満足するものじゃなく、聴いてもらう人にとっての良い音楽を作りたいんだなって思ったんです。で、それは自分たちだけじゃ出来ないことがよく分かって。
内村友美:だからそこを見ないで作っていても自分たちですら満足できないし、だから『amp-reflection』を超えていかない、ということにどんどん気付いていった。そもそも格好良いものが作りたくて、たくさんの人が聴いてくれるものが作りたくて、音楽をやっていた訳だから。で、その為にするべき選択は自分たちが全部やることじゃない。早く格好良いものを世に出すには。
--そこからどういう作業をしていくの?
内村友美:そこからは、今振り返ってみると『amp-reflection』を作るまでの流れと変わらなかったんです。プロデューサーと一緒に1曲1曲詰めていって。更にアートワークにもテーマ性や一貫性が欲しいと思ったし、何が一番格好良いのかもっと見つめ直したいと思ったから、新しくリンカーングラフィックスの河原さんに入ってもらって、視覚的な部分に対してもより良いものを近いところで作ってもらって。そういうことを積み重ねてみたら「あ、去年は無我夢中で分からなかったけど、同じことをしていたんだな」って気付いたんです。私たちのマインドや理解、内側からひとつひとつ積み上げていこうとしたところは違ったんですけど。
比田井修:でもそこが一番大きかった。
--school food punishmentらしさについて再考する期間が必要だった。という言い方も出来ますか?
内村友美:うん。「やっぱりそれがいい」っていう。自分たちで「絶対にこういうヴィジョンが良いんです」って引っ張っていった訳じゃなかったので見えなかったんですけど、去年のやり方が結局は正解だった。ちゃんと周りの人たちには見えていた。プロデューサーとかも「そうなるのが良い」「そうやって進めていくのが良い」「このペースが良い」っていうことを分かっていたんだなって。
--では、2ndフェイズに向かっていく上で決めたことって、言葉にするとどんなことだったんでしょう?
内村友美:音に関しては分かり易くてたくさんの人に伝わるもの、単純にパッと聴いて格好良いもの。マニアックな方向に行くんじゃなくて、もっと広がっていく方向に持っていく。今回のアルバム『Prog-Roid』もマニアックと取るのか、広がったと取るのか、実際に聴いてもらわないと分からないんですけど、私はすごく聴きやすいものになったと思っているから。
--で、今年の3月1日。オフィシャルサイトが消え「Not Found」ならぬ「Not Food」の文字と「準備中」を告げる英語のメッセージを掲載します。そして3月10日 リニューアルオープンと共に新曲『RPG』のリリースが発表。「CONTINUE?」という質問に対して「YES」と答えれば試聴できる仕組みにしていましたが、あの一連の流れは誰のアイデアだったの?
比田井修:浸食していくような見せ方は河原さんだったんですけど、その前の打ち合わせでワクワクさせることをやりたいと言っていて。これだけインターバルが開いてふわっとリリースするのは嫌だったし、分かり易い形で動き出すことを示したかったんですよ。その準備は楽しかったです。進めていくのも。
--「CONTINUE?」という質問に対して「YES」と答えると『RPG』が聴こえてくる。続けることを肯定するとストリングスの音色が響くっていうのは、school food punishmentを改めて受け止めて、その上で新しくSchool Food Punishmentを始めていく。そんなメッセージなのかなと感じていたんですが、実際のところはどうなんでしょう?
内村友美:その通りですね。過去を今が浸食していく中で、私たちは「YES」を選ぶっていう。あと、PVでは最後「YES」と「NO」のどちらも選ばずに終わるんですけど、それは聴いてくれる人が「CONTINUE?」って聞かれたら「YES」って答えてくれるものをこれから作っていきたいっていう意思表示でもあって。
--僕は『RPG』という楽曲にメジャー第1弾シングル『futuristic imagination』を感じたんですよね。イントロもそうだし、名フレーズ「未来の根を切っても構わない」を彷彿させる「クライマックスなんて来なくたって」等のリリックもそうだし、あまりにあの曲と重なる部分は多い。それは結果的に?
内村友美:そうですね。意図せずリンクするんですかね? そういうのが私の初期衝動なのかもしれない。大事にしたかった恋の初期衝動みたいな気持ちがあったときに『futuristic imagination』を作ってデビューして、今またそれが欲しいと思って図らずとして『RPG』みたいな楽曲が生まれてきたのかもしれないです。
比田井修:いろいろ話し合ったり、考えていた時間の中でSchool Food Punishmentに対してすごく客観的になれたんですよ。そうなると「School Food Punishmentの格好良さはこうだろう」っていう判断が外側から出来るようになる。その影響もあるかもしれない。
--そんなSchool Food Punishmentのニューアルバム『Prog-Roid』。仕上がりにはどんな印象や感想を持たれていますか?
内村友美:アルバムって完成させるまでの歴史そのものだって『amp-reflection』にも思ったけど、それは『Prog-Roid』でも変わらないです。
--そのアルバム、まず序盤の『free quiet』『RPG』『in bloom』の流れが秀逸で。サウンドはどんどんポップにキラキラしたものへ変わっていき、歌詞もどんどんダイレクトに“君”を求める内容に変わっていく。
内村友美:今回は「もっと伝わる“歌詞”を書きたい」という気持ちが強くて。その中でも分かり易く受け取ってもらえるものが序盤に並んでいた方が良いと思ったし『in bloom』はポップな方向に振り切ろうと思って書いてましたね。前作の『butterfly swimmer』を書いたときも、今からしたら全然分かり易いものではないけど、そのときからしたら「こんなの、出して良いのかな?」ぐらい私たちにとってはポップなものだったし、『sea-through communication』を出したときも同じことを感じていたんです。でもそれが普通になっていくんですよね。そういう曲の方が誰かに伝わってるから、人の反応もすごく大きいし、今回そこを最も目指したいと思ったのが『in bloom』だったんです。またひとつ殻を破っていく為の曲。
Interviewer:平賀哲雄
友達とか親とかがもっと喜んでくれるものを
--“ポップにキラキラしたもの”という意味では、6曲目『are』のポップ感も突き抜けています。すごく極端な言い方をすると、School Food Punishmentがキュートなテクノポップを目指すとこうなる的な(笑)。
内村友美:そうそう(笑)。
--リリックや「You don't Know.」の声が跳ねてる感じとかも含め、すごく女の子っぽい。
内村友美:この曲はまず『are』っていうタイトルが良かったんです。それで、歌詞の中にも「アレ」っていう言葉が出てくるんだけど、最後まで「アレ」が何なのかを明かさずに終わっていく手法をやりたかったんですよ。それでバーッと書いたら、この歌詞、このメロディ、こういう4つ打ちの感じで……って一気に広がっていって完成した曲です。
--あと『ハレーション』の音のうねりが大変なことになってます。それぞれの音が凄まじい存在感を放っていて重厚なんだけど、そこに開放的なメロディとボーカルがぐんぐん広がっていく。これぞSchool Food Punishment的ポップミュージックにおける芸術だと思いました。どういうイメージや発想から形にしていった曲なんですか?
内村友美:今回のアルバムを制作していく上でこれまでと大きく違ったのは、私以外のメンバーもメロディーラインに入ってきているところで。特にこの『ハレーション』は最初のデモからすべて山崎(英明/b)さんが作ってきたんですね。だからメロディやアレンジの感じがすごく新しくて、それをこのアルバムにどう馴染ませるかっていうところで、秋から年末にかけて悩んでいたんですけど(笑)。
--結果、見事に馴染んでいます。ただ、この曲も含め今回のアルバムはライブで再現するの、めちゃくちゃ難しいですよね? その分、ハマったときの衝撃や感動は半端ないと思うんですけど。
内村友美:最初は「どうしようか?」って悩みました(笑)。でも今はある程度準備できてきています。
比田井修:ドラムじゃないことをやりたい曲もあるぐらいなんですよ。だから楽しいです。
--それぞれが暴れながらも、結果として抜群のチームワークを感じさせるようなバンドや楽曲っていうのが、内村さんの目指したSchool Food Punishmentだと思うんですけど、今作はそれがかなり高いレベルで具現化できてますよね?
比田井修:プロデューサーが「個人がどう暴れれば、どう活きるか」というところをちゃんと理解してくれていて。バラバラに暴れているものを最後にギュッとまとめてくれているのが大きいと思います。
内村友美:格好良いもの、たくさんの人に聴いてもらえるものだけを目指すようになって、そこが明確になった分だけ1人1人の発言も自由になってきましたね。それも各々が暴れられる要因になっているのかもしれない。
--また、今作はクライマックスに悲しい歌が待っています。10曲目『光』。この曲が生まれた背景にはどんな想いや出来事があったのでしょうか?
内村友美:結構落ち込んでましたね……感情で言うと「苦しい」感じ(笑)。そのときは「歌詞を書く上でこれじゃダメだ」っていうところに向いていたので、ハマっちゃってました。寝ても覚めても「歌詞、歌詞、どうしよう、どうしよう……」ってずっとなってて。その表れです。
--(笑)。タイトルが『光』なのに暗いっていう。光、消えちゃうっていう。でも最後に微かな希望は残してます。
内村友美:そこが一応ポイントで。ちゃんと希望を残しておかないと、それが現実になっちゃうのは嫌だから。後々になって正夢のようになっていくのが怖いから、後ろ向きで終わる歌詞はあんまり書きたくないんです。実際に正夢になったこと? ありますよ……。リリースする頃とかに「あ、あのとき書いた気持ち、今の方がもっとリアルに響く」とか、そういうことがすごく昔からよく起こるので、嫌だなと思って。だから光をちゃんと残しておく。
--そしてラスト『Y/N』。演奏はすごく難解で複雑なことをやってるし、歌詞は「明日からbrand new wotld そんなこと無理とわかってるけど」というフレーズに象徴されるように現実的で。でも全体の印象はポップでポジティブという、今のSchool Food Punishmentにおける必殺技みたいな曲だなと思いました。よく形にしましたね?
内村友美:これこそ秋から年明けまで苦しみまくった曲ですね。
比田井修:テンポ変えたり、リズム変えたり、いろいろメンバーでいじったんですけど、上手くいかなくて。でも曲自体はすごく気に入っていて。で、最終的にプロデューサーに渡して、その作業工程に実際に立ち合ったんですけど、見る見るうちにSchool Food Punishmentらしくなっていった。
内村友美:「確かにそれは正解だ」っていうところへ持っていってくれたんです。ゾクッとしましたよ。
比田井修:演奏はすごく難解なんですけど、パッと聴くとすごく分かり易い。これこそ“Prog-Roid”だなって。
内村友美:歌詞に関しては、すごく明るい状態じゃないことをあっけらかんと言う感じにしたくて。だけど、そう簡単には上手くいかないっていう流れにしたかったんですね。現実的にして、夢物語じゃない感じにしたかったので。上手くいかせようとして頑張るけど、結局はそんなに変わるもんではない。……けど。っていうものを明るく聴かせるっていう。今回のアルバムでは、普段自分が言わない「僕」っていう言葉を使わず「私」っていう表現をしていたりするんですけど、よりリアルであろうとしている部分は全体的にあると思います。
--さて、そんなニューアルバム『Prog-Roid』を完成させたSchool Food Punishment。今後はどうなっていくとイメージしていますか?
内村友美:どんどん開いていくでしょうね。マニアックになろうとは思っていないし。もっとたくさんの人に聴いてもらえるようなもの、友達とか親とかがもっと喜んでくれるものを目指していくのが正解だと思うので。分かってくれる人だけ分かってくれればいい、じゃなくて。たくさん分かってほしい、っていう方向にどんどん向いていくと思います。
比田井修:本当に目指す先はそこなんで。その分、逆に演奏とかは凝っていくのかもしれないですし。でも目標はたくさんの人に届くような音楽を作ること。あと、秋にツアーを予定しているので、そちらも楽しみにしてもらいたいです。
Interviewer:平賀哲雄
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