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リヴィングストン・テイラー来日記念特集&インタビュー~アメリカ・ポップス界の良心
ハートウォーミングな歌とギターで心に響く名曲の数々を届けるリヴィングストン・テイラーが約10年ぶりに来日公演をおこなう。シンガーソングライターとして活動するかたわら名門バークリー音楽院の教壇に立ち、チャーリー・プースなど多くの若き才能の育成もおこなってきたアメリカ・ポップス界の良心的存在。“ジェイムス・テイラーの弟”という肩書きだけでは伝わらない魅力を掘り下げる。
リヴィングストン・テイラーは1950年に5人兄弟の4番目、テイラー家の三男としてボストンに生まれ、ノース・キャロライナで青春時代を送った。テイラー兄弟は全員ミュージシャン。アレックス、ケイト、ヒュー、そして兄弟のなかで最も早く脚光を浴びた二男=今もアメリカを代表するシンガーソングライターとして活動を続けるジェイムス・テイラーである。“リヴ”ことリヴィングストンのデビューは、兄のジェイムスがデビュー・アルバム『ジェイムス・テイラー』をリリースしてから2年後のこと。オールマン・ブラザーズ・バンドを輩出したことでしられる[カプリコーン・レコード]創設時の契約アーティストのひとりとして、1970年にデビュー作『リヴィングストン・テイラー』を発表。兄ジェイムスがワーナー移籍作『スウィート・ベイビー・ジェイムス』をリリースし「ファイアー・アンド・レイン」が全米大ヒットを記録したのと同年のことである。
デビュー作『リヴィングストン・テイラー』のプロデュースを手がけたのは、ブルース・スプリングスティーンの『明日なき暴走』(1975年)を手がけ、のちに彼のマネージャーを務めたことで知られるジョン・ランドー。さらにレコーディングに参加したプレイヤーたちも名手揃い。のちにマッスルショールズ・リズム・セクションとして数多くの名作に参加することになるセッション・ギタリストのピート・カー、そして60年代後半にデュアン&グレッグ・オールマン兄弟と活動をともにし、のちにキャプリコーン=オールマン・ブラザーズ・バンドの躍進を裏方として支えることになるポール・ホーンズビー&ジョニー・サンドリンだ。いかにもキャプリコーンらしいバンド・メンバーを従えてのレコーディングとなったリヴのデビュー・アルバムだが、そのサウンドは決してサザン・ロックやスワンプ・ロックといったジャンルに分類されるものではない。フォークを基調としたリヴの弾き語りをより爽やかに演出するシンプルで軽快なバッキング、レコーディング当時まだ19歳の青年であったリヴの少しあどけない歌声に、奇をてらわないストレートなソングライティング…若さゆえの瑞々しさとナイーヴさがほどよい加減で調和された聴き心地のいいSSW作品となっている。デビュー作は全米ビルボード82位。セールス的には兄・ジェイムスに到底およばなかったものの、新人としてはまずまずのレコードデビューとなった。ちなみに、ジェイムス家の長男であるアレックスもリヴのデビュー翌年の1971年に同じくキャプリコーンよりレコードデビューを果たしている。
その後リヴはキャプリコーンから『LIV』(1971年)、『虹の彼方に』(1973年)を発表。フォーク・ソングの持つ繊細さや内省的な世界観はそのままに、サザン/カントリー・ロック~ポップスへと音楽の幅を広げていった。3作目となる『虹の彼方に』では、ジャンルを超えて歌い継がれるスタンダードである表題曲のほか、ビートルズのカバーにも挑戦。サウンド的にも素朴でアコースティックなフォーク~カントリーから、より洗練されたポップス=AOR的なアプローチに近いものへと変化している。同作には、兄・ジェイムスとジェイムスの新妻、カーリー・サイモン(のちに離婚)がコーラスで参加。また収録曲の「ロデオ」は、数年後に姉のケイトがカバーしている。
3枚のアルバムをリリースしたところで、リヴはしばらく制作活動から遠ざかることになる。5年後の1978年にキャプリコーンを離れエピックへと移籍、通算4枚目のアルバム『三面鏡』を発表する。“AORの原点”ともいわれる名盤『イタリアン・グラフィティ』(1974年)のニック・デカロをプロデューサーに起用し、ロサンゼルスでおこなわれたレコーディングには、リー・リトナーやデヴィッド・ハンゲイト、ジム・ケルトナーなど、西海岸の錚々たるミュージシャンが参加した。リヴにとって初めてのLA録音を経てリリースされた『三面鏡 / 3-Way Mirror』は、カプリコーン時代のサザン・ロック的なアプローチは影を潜め、より都会的でソフトなAORとしてより多くのリスナーの耳にとまることになった。そして、この作品から、ついにリヴにとって初のヒット曲「アイ・ウィル・ビー・イン・ラヴ・ウィズ・ユー」が誕生したのだった。普遍的な美しさを持ったメロディーに穏やかな歌声、そして洗練されたアレンジ、決して派手さはないものの、聴けば聴くほど味わい深い、まさに大人のための珠玉のラブソングである。
ちなみに、同作のプロモーションとしてリヴは当時西海岸を代表する歌姫として爆発的人気を誇っていたリンダ・ロンシュタットの全米ツアーに同行し、彼女の前座を務めている。その流れでロンシュタットが1979年に来日公演をおこなった際にも一緒に来日を果たし、オープニングアクトとして日本武道館などのステージに立っている。数多くのアーティストの隠れた名曲をとりあげてヒットさせているロンシュタットだが、実は早々にリヴの楽曲を採用していたのは知る人ぞ知る話。1972年にイーグルスのメンバーをバンドにしたがえてレコーディングをおこなった名盤『リンダ・ロンシュタット』でのなかで、リヴの「イン・マイ・リプレイ」(『リヴィングストン・テイラー』収録曲)をカバーしている。
西海岸のエッセンスを取り入れたサウンドで幸先の良い再出発を果たしたリヴは、キャプリコーン時代の楽曲をあつめたベスト盤のリリースに続いて、80年に5枚目のオリジナル・アルバム『ベスト・フレンド / Man's Best Friend 』を発表。この作品も前作に続き“西海岸人脈”によって集められた豪華布陣によってレコーディングがおこなわれた。まず、プロデューサーにはリンダ・ロンシュタットをバックバンド=イーグルスの結成とともに世に送り出した敏腕マネージャーのジョン・ボイラン、そしてスティーリー・ダン~ ドゥービー・ブラザーズを渡り歩いたセッション・ギタリストの“スカンク”ことジェフ・バクスターの2人を起用。そしてバンドにはラリー・カールトンやジェフ・ポーカロ、ドン・ヘンリーと当時のロック~AORサウンドを担う文句なしの名手たちが集結している。また、これまでは基本的にリヴ1人でおこなってきた楽曲制作についても、この作品では共同ソングライティングを積極的に採用。そして、オリジナル曲のほかにカバーも過去最多となる4曲も収録している。このことからも、リヴにとって同作は1人のシンガーソングライターによるパーソナルなものではなく、時代背景や多くのリスナーに優しく寄り添うポップ・アルバムとしての完成度を追求した作品であったことがうかがえる。ベッドに入る前の子供の心境を歌ったユニークなオリジナル曲「パジャマ」から、マーサ&ザ・ヴァンデラスの名曲「ダンシング・イン・ザ・ストリート」まで、とにかくバラエティー豊富。それでも決して浮ついた印象にならないのは、イヴの歌声が徹底して穏やかで“癒し”を与えてくれるからにおならない。
『ベスト・フレンド』リリース後は音楽番組のホストを務めたり、名門バークリー音楽院の教授に就任したりと自身の経験を生かした新たな活動を開始。新作発表までに8年の歳月を要したものの、88年には『ライフ・イズ・グッド』を発表。前作の流れを踏襲したAORサウンドをベースに、ルイ・アームストロングのことを歌った「ルイ」や兄ジェイムスとのデュエット「シティ・ライフ」など、聴きどころ満載の大人のポップ・アルバムとなっている。
ペースダウンこそしたものの、90年代~現在まで、忘れた頃にふと良質なポップスを届けてくれるリヴ。最新作となる『ブルー・スカイ』(2014年)では、共同プロデューサーとして意外な人物を起用している。ウィズ・カリファの「シー・ユー・アゲイン」にフィーチャーされて注目を集めたチャーリー・プースだ。彼はなんとバークリー音楽院の卒業生。リヴの教え子なのである。プースは同音楽院コミュニティーサイトのインタビューにて、最も好きな教授としてリヴの名を挙げている。自身の育てた若き才能との共同プロデュースによるオリジナル曲はもちろん、今回もビートルズの「ペーパーバック・ライター」やスティーヴン・ビショップによるAOR名曲「オン・アンド・オン」など、アレンジ・センス溢れるカバーも秀逸だ。2006年以来となる今夏の来日公演は、リヴのソロステージとなる予定だ。すっかりおなじみとなった蝶ネクタイスタイルでステージに立つ「リヴ教授」。その癒しの歌声と繊細なメロディー、優しさと知性に溢れたステージ・パフォーマンスでポップスの真髄にふれる貴重な音楽体験をしてみては?
▲ Livingston Taylor in Concert 2010
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公演情報
Livingston Taylor
Live at Billboard Live TOKYO
ビルボードライブ東京:2016/9/3(土)&9/5(月)
>>9/3(土)の公演詳細はこちら
>>9/5(月)の公演詳細はこちら
リヴィングストン・テイラー / Livingston Taylor (Vocals, Piano)
INFO: www.billboard-live.com
Pied Piper House Presents
Livingston Taylor+長門芳郎 ミニライヴ
>>インストア・イベントの詳細はこちら
関連リンク
マンズ・ベスト・フレンド
2016/07/27 RELEASE
SICP-4873 ¥ 1,100(税込)
Disc01
- 01.レディ・セット・ゴー
- 02.ダンス・ウィズ・ミー
- 03.ファースト・タイム・ラヴ
- 04.サンシャイン・ガール
- 05.ユー・ドント・ハフ・トゥ・チューズ
- 06.ダンシング・イン・ザ・ストリート
- 07.アウト・オブ・ディス・ワールド
- 08.フェイス・ライク・ドッグ
- 09.パジャマ
- 10.マリー
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