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トレイン『ツェッペリンへ胸いっぱいの愛を―ダズ・レッド・ツェッペリンII』を紐解く



 3度のグラミー受賞を誇る、アメリカン・ロックバンドのトレインが、敬愛するレッド・ツェッペリンの歴史的名盤『LED ZEPPELIN II』のカヴァーアルバム『ツェッペリンへ胸いっぱいの愛を―ダズ・レッド・ツェッペリンII』を7月6日にリリースした。リリース前から国内外で注目を浴びてきたこのカヴァーアルバム。『LED ZEPPELIN II』とはどのような意味を持つ作品なのか、なぜトレインは数あるレッド・ツェッペリンの作品の中から『LED ZEPPELIN II』を選んだのか。今回はLED ZEPPELINに造詣が深い音楽評論家・伊藤政則氏に本作とオリジナル作品について紐解いてもらった。

名盤『LED ZEPPELIN II』とは…

CD
▲『LED ZEPPELIN II』

 ツアー中の過密日程の中、スタジオを替えながらレコーディングを続けた。その結果、バンドの最大の魅力であるライブ・パフォーマンスの醍醐味が、楽曲の中で躍動することになった。ツアーの過酷な状況の中でも、彼らの気力ははち切れんばかりに充実していた。若さがあり、才能に満ち、そして、何よりもバンドには勢いがあった。その総てがアルバムに注ぎ込まれていった。

 この2枚目のアルバムは英米のチャートで1位を獲得し、バンドが持ち得る強力なアイデンティティを世界中に知らしめることになる。「Whole Lotta Love」や「Heartbreaker」といった、歴史上、重要な楽曲が収録されていることもポイントの一つで、本作は後にハード・ロック・アルバムの金字塔と呼ばれた。しかし、「Ramble On」に代表されるように、多くの楽曲はアコースティック・ギターによって作られており、それ故に楽曲には奥深い趣が生まれ、その他の類型的なハード・ロック・バンドとは一線を画すことになった。 また、このアルバムが登場したのが1969年であったという事実も重い。依然として、ブルース・ロック・ブームの真っ只中にあった時代である。レッド・ツェッペリンがアルバムで、そして、ライブ・パフォーマンスで示した進化の足跡は、後続のバンド達に様々なヒントを与えることになった。例えば、第2期DEEP PURPLEはハード・ロック・バンドへと変貌し、また、一緒に全米をサーキットしたVANILLA FUDGEはバンドを解散させ、新たにCACTUSを結成する。そういった世界中のバンド群の動きの総てが、レッド・ツェッペリンへの返答という現象を生み出していく。そして、ハード・ロック・バンドは時代の中央に躍り出て、シーンの中に新たな分布図を構築していくのである。『LED ZEPPELIN II』は、アルバムそのものの完成度の高さを評価されたばかりでなく、時代を揺るがすほどの影響力を有していた。結果、バンドは自分達の立ち位置を強固なものとしていく。

▲Led Zeppelin - Whole Lotta Love (Live Video)

なぜトレインは『LED ZEPPELIN II』を選んだのか?

 トレインがレッド・ツェッペリンの数あるカタログの中から『LED ZEPPELIN II』を選んだという点に注目してみたい。周知のように、レッド・ツェッペリンのアルバムは作品毎に個性が異なっている。放つ光が多様性に満ちていると言った方が判り易いかもしれない。つまり、そこには“同じアルバムは作らない”という明確なポリシーが見えて取れる。それを承知で、アルバムを丸ごとカヴァーするのならば、やはり『LED ZEPPELIN II』か、『LED ZEPPELIN IV』ではないか。その他の作品は収録されている楽曲の個性の振り幅が大きい。カヴァーのみならず、ライブでの完全再現を考えれば、技術的にも実現可能なアルバムを選択する他はない。完成度の高い整合性を誇る『LED ZEPPELIN IV』よりも、ライブの荒々しさや、ロック・バンドとしての原初風景を感じさせるエナジーを持つ『LED ZEPPELIN II』を選んだということなのだろう。パトリック・モナハン は、トレインを結成する以前にレッド・ツェッペリンをカヴァーするバー・バンドに在籍していたらしい。ライブで演るにふさわしい曲を十分に熟知していたのではないか。トレインは、「What Is And What Should Never Be」や、「Ramble On」のカヴァーをプレイしていた。ライブ・バンドが選ぶべきは、ライヴで映えるアルバム。故に『LED ZEPPELIN II』は、TRAINにフィットした。

CD
▲LED ZEPPELIN

 『ツェッペリンへ胸いっぱいの愛を―ダズ・レッド・ツェッペリンII』の底流を支えているのは、彼らのレッド・ツェッペリンへの深い愛情だ。ただ、1969年と2016年ではあまりにもテクノロジーの違いが大きい。逆に言えば、アナログ時代の1969年のサウンドを現代に共鳴させることが難しい。しかし、そういったハンディキャップを乗り越えて、トレインは大胆に接近しようとしている。さらに、目の前に高い壁があるという事実も正しく認識している。それは、レッド・ツェッペリンを構成する4人の孤高性に満ちた個性、その4人が創造する不思議な空気感のあるサウンド、そして、ジミー・ペイジの魔術的センスが生み出すプレイ、等々である。それだからこそ、完全再現に全精力を注入しても、隋所にトレインらしさを感じさせるのだ。そこに存在する謙虚さが、彼らのリスペクトの質というものを物語っている。

▲Train - Ramble On (Audio)

トレインの敬愛と純粋さ

 ライブで様々な曲をカヴァーするのではなく、1枚のアルバムをスタジオ・レコーディングで完全再現するという、そのアイデアが実に面白い。それも、その対象がレッド・ツェッペリンである。まあ、レッド・ツェッペリンのアルバムだったから、『ツェッペリンへ胸いっぱいの愛を―ダズ・レッド・ツェッペリンII』は話題になったとも言えるが、トレインの遊び心満載のアルバムである。

CD
▲『ツェッペリンへ胸いっぱいの愛を
― ダズ・レッド・ツェッペリンII』

 レッド・ツェッペリンの音楽はタイムレスである。常に新鮮さを聴き手に与える。温故知新とはよく言ったものだ。しかし、レッド・ツェッペリンは知っていても、「Stairway To Heaven」は知っていても、アルバムの中身のディテールは知らないという人が多い。トレインの大胆とも思えるカヴァー・アルバムは、レッド・ツェッペリンのハード・ロック・バンドとしての凄みを凝縮させた『LED ZEPPELIN II』の魅力を伝えながら、その楽曲は時代を超越して輝いていることをファンに伝えている。トレインに多大な影響を与えたレッド・ツェッペリンの音楽は永遠だ。トレインの音楽もそうでありたい。そういったメンバーの気持ちが透けて見えてくるアルバムだ。そこに存在する純粋さ故に、このアルバムを分かち合うファンにも、レッド・ツェッペリンの素晴らしさが伝わるのではないかと思う。

▲Led Zeppelin : Stairway to Heaven (New York 1973)

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