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「曲作りというのは、ミステリアスなものさ」― ポール・サイモン 最新インタビュー
米ビルボード・アルバム・チャートで自身初登場最高位となる3位、そして全英チャートでは1位を記録した約5年ぶり、13枚目のソロ・アルバムとなる『ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー』を2016年6月3日にリリースしたばかりのポール・サイモン。「サウンド自体がこのアルバムのテーマ」と本人が話すとおり、イタリアの気鋭エレクトロニック・ダンス・ミュージック・アーティスト、クラップ!クラップ!をはじめ、気鋭若手アーティストのニコ・ミューリーやyMusicをコラボレーターに迎え、現代音楽家ハリー・パーチが作り上げた様々な創作楽器とともに制作された今作は、これまでに聴いたことがないほど前衛的で、奥ゆかしい音世界が広がっている。そんなポールが、新境地となった今作、現代のポップ・ミュージック、そしてアート・ガーファンクルについてユーモラスに話してくれた。
TOP Photo: Myrna Suarez
曲作りというのは、ミステリアスなものさ
だからこそ、俺はこんなにも長く取り組んできたんだと思う
−−『Stranger to Stranger』収録の「The Werewolf」で"Ignorance and arrogance / The national debate (無知と傲慢 / 国民的議論)" と歌っていますが、大統領選の動向はもちろん追っていますよね。ドナルド・トランプに会ったことはありますか?
ポール・サイモン:あぁ。
−−場所は?
ポール:(1988年の)レオン・スピンクス対マイク・タイソン戦でだ。トランプは、何人か引き連れてアトランティック・シティまで来たんだ。
−−2人ともクイーンズ出身ですよね。
ポール:俺が育ったのは、彼が生まれ育った場所から、5マイルぐらいの場所かな?俺はキュー・ガーデン地区で、彼はジャマイカ・エステイツだ。ジャマイカ・エステイツは、金持ちが暮らしてる場所だっていうのは、知ってたよ。
トランプについては、これだけ言っておこう。怒りには中毒性がある。脳が好むんだ。で、中毒者が蔓延した国があって、メディアや一部の政治家がディーラーってとこだ。だから、みんないつだって怒っていて、その怒りに酔ってる。腹を立てる対象がない、と言ってるんじゃないんだ。言いたいのは、カッとなっている時に、落ち着いた判断はできないということだ。政治は、今ではまったく違うものになっている。それが分かっている人は大勢いる、そして手玉に取っているんだ。
−−あなたは、サイモン&ガーファンクルの「America」をバーニー・サンダースが使うことを承認しました。これは、彼を支持していたということで正しいでしょうか?
ポール:彼はブルックリン出身で、同世代だ。イラク戦争にも反対したし、シチズンズ・ユナイテッドの判決にも大反対で、覆されるべきだと思ってる。加えて、気候変動は迫りくる脅威で、何かアクションを起こさなければならないと考えている。そんな彼に脱帽して、曲を使うことを許可したんだ。
−−あなたが手掛けたミュージカル『The Capeman』のブロードウェイ・デビューから18年が経ちます。そして奥様のエディ・ブリッケルが、スティーヴ・マーティンと共同制作したブロードウェイ・ミュージカル『Bright Star』が現在上演中ということで、演劇にも興味があると思いますが、『Hamilton』は観ましたか?
ポール:いいや。
−−興味はありますか?
ポール:あぁ、あるよ。少しばかり、(サウンドトラックも)聴いたし。エディとスティーヴのショーの上演がスタートしたばかりだから、そっちに集中したいんだ。比較はしたくないからね。『Hamilton』は、稀代な現象で、素晴らしいんだと思うんだけど。確信してるよ、なぜなら(リン・マニュエル ミランダは)頭が切れるから。彼には才能がある。いずれ観る機会があると思うよ。
−−最近の音楽についてはどうでしょう?詞が重要視され、音楽面でも野心的なヒップホップなどに共鳴するのではと思ったのですが。
ポール:ヒップホップが特に冒険的だと思ったことはない。ポップ・ミュージックやカントリーに比べては、そうかもしれないが。でも、正直な話、あまり聴かないね。ポップ・ミュージックもさほど聴かないし。ある時ハリー・パーチを聴いたときに、彼に興味を持った。クラップ・クラップについても同じだ。yMusicの新作が出れば聴く。あとは、ニコ・ミューリーやフィリップ・グラスを聴く。50年代の音楽はよく聴いているし、昔のカントリーも聴くよ。
−−自身の作品に関連するようなものやコラボレーターたちの作品を聴いているということですね。
ポール:そういう作品が好きなんだ。スーパーボウルのハーフタイムで演奏されるような音楽は好きじゃない。
−−プリンスによるハーフタイム・ショーは観ましたか?
ポール:あれは素晴らしかった。あの時、一度だけ観て、「凄いじゃないか!」と思ったよ。
−−近年では、あなたがインディー・ロックへ及ぼした影響を多くのリスナーが感じています。そういった作品を聴いて、ご自身のアルバムを聴いているな、思うことはありますか?
ポール:あぁ、あるよ。
−−たとえば?
ポール:それは、言いたくない。別に、問題はないと思うし、どうってことない。まったく独自のソングライティングっていうのはあり得ない。必ずしも誰かの作品を聴かなきゃならないし、誰だって何かの真似をすることから始める。問題は、そこからどうやって離れ、自分らしさを見つけるか、ってことだ。たとえばレナード・コーエンとか詩的なスタイルで曲作りをするソングライターと俺が異なるのは、俺の作品には冗談が多く含まれているということだ。スタンドアップ・コメディに由来してるんだ。
−−ボルシチ・ベルト的な詞もありますよね。
ポール:ボルシチ・ベルトというよりは、レニー・ブルースってとこだな。独特なユーモアなんだ―ニューヨーク的な。「The Werewolf」などで聴ける―"Milwaukee man, lived a fairly decent life. Made a fairly decent living, had a fairly decent wife. She killed him -- sushi knife"って具合に、ユーモアに特徴的なリズムがある、ある種のデッドパン・ユーモアだ。独特な話し方で、『Saturday Night Live』やルイスC.K.も使ってる。最終的に、自分にとって曲として面白いのは何か、ということなんだ。どの曲も名曲にしようとしたら…退屈でしかない。
−−とはいえ、ユーモアを用いて真面目な問題やアイディアに言及していますよね。「Cool Papa Bell」は、充実した人生を送ることについてでありながら、ジョークやしゃれ、“マザーファッカー”という言葉の説明も含みます。
ポール:実際、しっくりくるまで“マザーファッカー”って500回ぐらい歌ったんじゃないかな。普段は使わない言葉だからね。そこらじゅうで聞く言葉で、それについて言いたいことがあったんだけど、言葉をうまく言うことができなかった。だから、何度も繰り返さなきゃいけなかった…その点がすごく意外だったね。
−−今作にはユニークなギター・サウンドがちりばめられています。オープニング・ナンバーの「The Werewolf」の冒頭で聞こえてくるのは、ゴピチャントという楽器だそうですね。
ポール:インドの楽器で、木製の2本のバーを押したり、引っ張ったりすると音が変わる―ダ~ワワワン、ダ~ワワワンという具合に。俺にはまるで“The-weeeeerewolf”って言ってるように聞こえたんだ。そこで、「この曲を「The Werewolf」にしよう」と決めたんだ。音が詞になった。今作を完成させる上で、スタジオでは試行錯誤を繰り返したよ。
−−近年ではスタジオもあまり必要ないですよね。ラップトップのみで出来てしまうことが多いので。
ポール:俺は、小さなスタジオを所有している。ラップトップとさほど変わらないよ―もう少し複雑なだけで。自分の本能に従うために、デジタル面においてProToolsが可能にしてくれる恩恵を受けている。トラックをゆっくりしたり、キーを変えたり、反転や回転させたり。「これは何のキーだ?Dじゃなくて、Bフラットの方がいいじゃないか。」って思ったり、「これじゃいまいちだから、反転させてみよう。」とかね。自分が気にいったものが録れなくて、不機嫌なままスタジオを後にする日もよくあるよ。
−−大概の場合、あなたのソングライティング・プロセスは時間を要しますか?一瞬で曲が浮かぶことはない?
ポール:(1970年リリースの)「Bridge Over Troubled Water」は後者だと言える。でも、すごく稀なことだ―あんな風に流れにのって、全く編集されていない、ピュアかつ明晰さとパワーを兼ね備えているものが生まれるのは。そういう瞬間は、長続きせず、再び“作る”ことできない。まぁ、クスリなんかを使って、再現しようと試みる方法もあるだろうが。
曲作りというのは、ミステリアスなものさ。だからこそ、俺はこんなにも長く取り組んできたんだと思う。そのミステリーが好きなんだ。「どうしてこんな風に感じるんだ?頭の中で聞こえているけれど、具現化できないんだ?」って。それが達成できた時―自分が言いたいことを音楽を通じて伝えることができた時、ドーパミンが頭の中を駆け巡り、ワァ!って具合に、その感覚の虜になる。その感覚を再び感じるため、その後何年も挑戦し続けるんだ。
−−その話にも繋がるのですが、「Spirit Voices」は未だにパフォーマンスしていて、この曲はあなたが体験したアヤワスカの儀式に基づいた曲ですよね。
ポール:アヤワスカは、昔からあるものだが、アマゾンの外には知られていなかった。アヤワスカを使うヒーラーは何人かいて、それが効果があるとは言えないが、完全にないとも言えない。効く人もいれば、まったく効かない人も大勢いる。私は擁護者でもないければ、その行為を中傷しているわけでもない。ただ、自分の体験を曲にしただけのことだ。
−−アート・ガーファンクルについても、ありきたりな質問あるのですが。
ポール:どの質問だ(笑)?
−−サイモン&ガーファンクルから去って行ったあなたのことを“嫌なやつ”や“馬鹿”だとインタビューで発言していますが、それについて何かありますか?
ポール:特に話すことはないよ。アーティーらしいじゃないか。内に秘めた悪魔と戦っている。それが彼なんだ。彼の人生。今になっても、そんなに怒っているのは残念だと思うね。
−−2人とも74歳で、新作には死についての曲もいくつかあります。
ポール:死についての曲は少ないと思うが。あえて言えば、アルバムを締めくくる「Insomniac's Lullaby」ってとこじゃないかな。
−−あたなは不眠症ですか?ウラジーミル・ナボコフは、40年間一晩のうちに3時間しか睡眠をとらなかったという話ですが。
ポール:いや、いや。まったく正反対で、10~11時間は寝れる。ノー・プロブレムだ。むしろ、今すぐにでも寝れるよ。
Q&A by Jody Rosen / 2016年6月23日 Billboard.com掲載
ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー
2016/06/03 RELEASE
UCCO-1169 ¥ 2,860(税込)
Disc01
- 01.ザ・ウァーウルフ
- 02.リストバンド
- 03.ザ・クロック
- 04.ストリート・エンジェル
- 05.ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー
- 06.イン・ア・パレード
- 07.プルーフ・オブ・ラヴ
- 08.イン・ザ・ガーデン・オブ・エディ
- 09.ザ・リヴァーバンク
- 10.クール・パパ・ベル
- 11.インソムニアックス・ララバイ
- 12.ホレス・アンド・ピート (ボーナス・トラック)
- 13.ダンカン (ライヴ・フロム・ア・プレイリー・ホーム・コンパニオン) (ボーナス・トラック)
- 14.リストバンド (ライヴ・フロム・ア・プレイリー・ホーム・コンパニオン) (ボーナス・トラック)
- 15.ギター・ピース3 (ボーナス・トラック)
- 16.ニューヨーク・イズ・マイ・ホーム (ボーナス・トラック)
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