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akiko 特集&インタビュー ~“新しいジャズ”を鳴らし続けてきた歌姫の15年間

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 21世紀日本のジャズ・シンガー・シーンを代表するakikoが、デビューして15周年を迎えた。彼女は、ポップなイメージでジャズを歌いながら、常に新しい挑戦に立ち向かってきた開拓者でもある。現在活躍する若手の女性ジャズ・シンガーは、少なからず彼女の影響を受けているだろうし、フォロワーが全力疾走しなければついていけないほど、常に前を走り続けている。8月にはデビュー15周年を記念してビルボードライブ公演を行うakikoが、これまでにどのような活動を行ってきたのかを振り返ってみたい。

 また次ページでは、特集第二弾としてakiko本人にメール・インタビュー。新作『Elemental Harmony』やデビュー15周年を迎えた思いについて応えてもらった。

CD
▲『GIRL TALK』

 akikoと音楽の出会いは、4歳の時。ピアノを習い始め、絶対音感を身に付けたという。8歳から英会話のレッスンを受けるようになり、中学・高校と短期で留学。彼女の英語力はすでにこの頃に培われていたのだろう。また、高校生の時に大貫憲章が主催するロンドン・ナイトに足を踏み入れ、パンクの洗礼を受けたという。その後は、ロック、ニューウェーブ、ディスコなど様々なジャンルに興味を持つが、18歳の時にジャズに開眼。ビリー・ホリディ、サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルドといったジャズ・シンガーに心酔し、いつしか自身でも歌うようになる。そして、学生時代にはすでにジャズ・クラブなどでライヴを行うようになった。

 2001年に、ユニバーサル・ミュージックと契約。ジャズの名門レーベル“ヴァーヴ”で、初の日本人アーティストとして鮮烈なデビューを飾った。最初のアルバムは、同年6月に発表された『GIRL TALK』。クレモンティーヌのプロデュースでも知られるピアニストのアンリ・ルノーをブレーンに迎え、パリでレコーディグを敢行。スタンダード・ナンバーをポップかつムーディーに歌いこなし、大きな評価を得た。そして、その後も続々と話題作を発表していくのだ。

CD
▲『Vida』

 彼女はフランス・レコーディング作でデビューしたこともあり、世界中を旅して回るイメージが強い。2作目の『HIP POP BOP』(2002年)は、メインこそ東京録音ではあるが、2曲だけロンドンでスウィング・アウト・シスターとコラボレートしている。また、3作目となった『akiko's holiday』(2003年)はニューヨークで録音され、ロイ・ハーグローヴやソウライヴのメンバーともセッションしながら、ビリー・ホリデイの愛唱曲を歌ったという意欲作だ。そしてその旅先は、英米だけではない。『Vida』(2007年)ではブラジルのリオデジャネイロとサルヴァドールに赴き、マルコス・スザーノやアート・リンゼイらと共演。『Words』では、ノルウェーのピアニスト、ブッゲ・ヴェッセルトフトが全面バックアップし、実験的かつ静謐な音世界を構築して新境地を開いた。最近では米国南部のニューオーリンズで『Swingy, Swingy』(2012年)と『黒い瞳』(2012年)の2作を完成させた他、『JAZZ ME NY』(2014年)ではジャズの原点に回帰するかのように、ニューヨークでスタンダードをしっとりと歌い上げた。


CD
▲『HIT PARADE
-LONDONNITE TRIBUTE-』

 akikoのもうひとつの特徴といえば、ロックやクラブ・ミュージックとのつながりではないだろうか。ジャズ・ヴォーカリストとはいえ、R&Bやファンクのエッセンスも取り入れていたこともあって、DJカルチャーとの親和性も高い。『Mood Swings』(2003年)と『mood indigo』(2004年)では、“レコード番長”の異名を持つ須永辰緒をプロデューサーに迎え、アコースティックでありながらグルーヴィーなジャズ・ヴォーカルを展開した。また、『LITTLE MISS JAZZ AND JIVE GOES AROUND THE WORLD!』(2005年)では、元ピチカート・ファイヴの小西康陽とタッグを組み、まだ誰も手を付けていなかったジャンプ・ブルースやジャイヴにトライして話題を呼んだ。このコンビは、クリスマス企画盤『a white album』(2007年)でも結実している。そして、『HIT PARADE -LONDONNITE TRIBUTE-』(2009年)は、タイトル通り大貫憲章のイベント、ロンドン・ナイトへのトリビュート作で、ロックの名曲群をセレクトした異色作。いわゆるクラブ・ジャズの先駆け的な存在であり、たんなるジャズというくくりでは収まりきらないセンスを見せてくれる。また、ビートルズをカヴァーした『Across the Universe』(2011年)も、彼女の振り幅を感じさせる一枚だ。


 この振り幅は、これまでに彼女が共演したり客演したアーティストを見ればよく分かる。大野雄二が手がけた『ルパン三世」シリーズのテーマ曲を歌い、キャロルのトリビュートでは「ファンキー・モンキー・ベイビー」に参加した。studio apartmentや福富幸宏といったサウンド・クリエイターからも重宝され、レコーディングだけでなくライヴを含めると膨大なリストが出来上がるだろう。また、自身でセレクトしたジャイヴや北欧ジャズのコンピレーションをリリースするなど、選曲家としての一面もある。他にも、アパレブランドとのコラボレーションや、アーユルヴェーダの資格取得にいたるまで、もはや音楽に留まらない才能を発揮しているといえるだろう。


CD
▲『Rockin’ Jivin’ Swingin’』

 とはいえ、彼女はあくまでもジャズ・ヴォーカリストであることに変わりはない。デビュー当初の作品群はもちろん、ピアノ・トリオでシンプルにライヴ・レコーディングを行った『simply blue』(2005年)では本格派を印象付けたし、2008年には、『What's Jazz? - STYLE -』と『What's Jazz? - SPIRIT -』という2枚で、ジャズとは何かと自問しつつ、明快な答えを提示した。話題のビッグ・バンド、GENTLE FOREST JAZZ BANDを従えて歌ったスウィンギーな最新作『Rockin’ Jivin’ Swingin’』(2015年)も含めて、常にジャズというキーワードからブレることはないのだ。

 この度、15周年を記念して、5枚組というボリュームのベスト・アルバム『Elemental Harmony』をリリースした。近年彼女が熱を入れているアーユルヴェーダの概念を取り入れ、土・水・火・風・空に分けて選曲。ミュージック・セラピー効果も狙えるというユニークな内容だ。ただ選曲するだけでなく、ベスト・アルバムでさえもコンセプチュアルに構成してしまう企画力には脱帽させられる。15周年の集大成となるビルボードライブ公演も行われるが、これらはまだまだ通過点のひとつでしかない。今後はどんなコンセプトのもとで、“新しいジャズ”を聴かせてくれるのか。これまでの15年をおさらいしつつ、この先の15年も楽しみにしたい。

 

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akiko「Elemental Harmony」

Elemental Harmony

2016/06/22 RELEASE
POCS-9134/8 ¥ 4,290(税込)

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