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クリス・ハート『Song for You II』 インタビュー
クリス・ハートが2年ぶりの新作オリジナル・アルバム『Song for You II』を6月1日にリリース。クリス自身の作詞曲「僕はここで生きていく」や、湯川れい子×つんく♂という強力タッグの参加も話題の同作について、クリス・ハート本人にインタビュー。海外出身だからこそ語ることのできるJ-POPの自由さや、歌うことの難しさと意味について彼の言葉に、ぜひご注目頂きたい。
自分でなかなか言えない悩みとか、
伝えたいけど伝えられない気持ちを曲にしました
――久しぶりのオリジナル・アルバムですね。聴いていて、歌詞がしっかり入ってくる作品だなと思いました。
クリス・ハート:良かったです。今回は、特に歌詞を大切にしました。
――日本に来てから、今まで日本語の歌を歌い続けてこられましたが、今回も歌詞というのが一つテーマだったんでしょうか?
カバー・アルバムとオリジナル・アルバムとでは別々のコンセプトがあるんですが、カバー・アルバムはファンの方からの「一緒に歌いたい曲」や「歌って欲しい曲」というリクエストを中心にによって選曲しています。オリジナル・アルバムはファンの方からいただいた手紙をもとに曲を作るというテーマがあるんです。その手紙への返事として楽曲を作りたいなと思って。「Song for You」というアルバムのタイトルも、そういう「あなたのために」という意味を込めているんです。「Song for You」は、初めてのオリジナル・アルバムでしたので、それまでの僕の経験や今まで出会った人の事を考えながら作りました。今回は、デビューしてから3年間、沢山の出会いがあって、いろいろな人との繋がりがあって、その人達の自分でなかなか言えない悩みとか、伝えたいけど伝えられない気持ちを曲にしました。
――出会った人達というのは、ファンの人達とかでしょうか?なかなか言えないことだったり?
クリス・ハート:はい。そうですね。
――普段、なかなか言えないようなことを歌だったら言えるというのは、どういうことなんでしょうか?
クリス・ハート:1枚目をリリースしてから、よくファンの方から手紙やメッセージをいただくんですが、例えば、自分の奥さんに伝えたいんだけど、うまく伝えられないようなことを、2人でドライブしながら僕のアルバムを流して、その曲を通して自分の気持ちを伝えられたって、言われることがあって。今回のアルバムでは親への感謝の気持ちとか恋愛の曲、自分への応援ソングも収録しました。
――実際、こういうメッセージを伝えたいということを、例えば作詞家の方と相談して、どんな曲調にしようかを作っていくという感じですか?
クリス・ハート:そうですね。そういうファンの方からの手紙をもとに、作曲家や作詞家の方と話し合って、「この人には、こういう強いメッセージがあるから、こういうテーマの曲にしましょう。」って話し合ったりして曲を作りました。
クリス・ハート - 僕はここで生きていく
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色んな歌詞を読むことになったので勉強になりました。
――今回、ご自分で作詞をした、たぶん日本語の作詞は初めてだと思うんですが…
クリス・ハート:デビューしてからだと、初めてですね。
――デビューする前は、書いたことがあったんですか?
クリス・ハート:デビューする前、8年間バンド活動をしていた時は、自分で書いたことはありましたね。日本語で作詞したり。まだ、その時はアメリカに住んでいたので、作詞しても、その歌詞が日本人らしくないところはあったと思います。フランクすぎたり、スピリットすぎたり。思い描いている日本の景色とかも、あまり伝わってなかったと思います。その経験があったからこそ、やっぱり日本に住まないと良い曲は作れないから、24歳から日本に来て、サラリーマン生活をしながら音楽の勉強やライブをやったりして、日本の名曲も勉強したり、ヴォーカルのトレーニングもやったりして、いつか その経験を活かしてまた作詞をしたいなとずっと思っていました。
――なるほど。じゃあ、一度やってみてうまくいかなかったこともあったけど、今はそれができるタイミングかなって思ったんですね。
クリス・ハート:今は、まず自分のストーリーが書けるかなと思いました。「僕はここで生きていく」という曲は僕は、今 帰化申請中で日本人になることが、日本で僕はここで生きていくというテーマで作りました。それは、自分のストーリーでもありながら、他にも共感できる人もいるんじゃないかなって思っています。例えば結婚したばかりの人とか、仕事の影響で新しい街に行って頑張っている人とか、不安な気持ちはあるけど、今まで応援してくれた人のこととか、家族のこととかを忘れないで、自分の約束として、どんなことがあっても、ここで頑張って生きて行こうっていうメッセージを込めました。
――なんか、戻ってくるっていう?
クリス・ハート:そうですね。帰りたいけど、帰らないで、皆さんの応援によって結果を出せるように新しい街で頑張ってくださいっていう思いを込めました。
――クリス・ハートさんも辛い時期はありましたか?
クリス・ハート:ありました。本当に。文化の違いとか。やっぱり、違う国に来たというだけで苦労はあると思うけど、例えば地方から東京に来た人も、生活リズムが全然違うだろうから、やり慣れてることとか大事にしている部分とか。それは、日本の中で引っ越しをした人にとっても、色んな苦労があるんだろうなと思うし、共感できるかなと思って作りました。色々、大変でしたね。
――クリス・ハートさんは英語での作詞もされたりするんですか?
クリス・ハート:10代からずっと日本語で歌っていてたまに英語の曲を作詞したこともあるんですけど、英語で作詞したり英語で歌うことの方が少ないですね。ずっと日本語で歌ってきていますから。
――日本語で作詞する方が自然?
クリス・ハート:そうですね。僕にとっては、日本語の方が自然です。ただやっぱり日本に住んで7年ですが、言葉の意味など日本語が色々分かるようになって、言葉のチョイスなどが少しは上達してきたかなとは思います。アルバムでも、自分の曲を共作で作詞したことはあるんですけど、たくさん音源を聞いて、自分の曲を選んで、そのあとはたくさんの作詞家の方の歌詞を読んで、自分の曲に合っているかどうかについて自分で選んで。スタッフの皆さんと話し合って、もう少し細かいところを修正したりして。一曲を作るだけでも、100作くらいの歌詞の中から選ぶから、けっこう色んな歌詞を読むことになったので勉強になりました。
――コンペみたいな?
クリス・ハート:そうそう。自分に合うフレーズとか、珍しい言葉遣いとか、それも全部勉強になりました。そういう経験もあるからこそ、今回作詞にチャレンジできるかなと思いました。
――そういう100作の中から、「これは良い歌詞だな」って思うポイントというのは何なんでしょうか。
クリス・ハート:曲次第ですね。例えば、「ハッピーデイズ」はメロディがすごくかわいくて楽しいから、ファースト・キスのようなドキドキ感があった方が良いなって思って。だったら、そんなに深い言葉じゃなくて楽しい言葉が良いかなって思いました。逆に「Goodbye today」は音源が、暗くはないけど、なんか深いからこそ、その曲にはポエムのような詞ではなくて、会話のような自然な言葉が一番合うんじゃないかなと思いました。
――話し言葉じゃなくて?
クリス・ハート:だから、曲によってそれぞれ全然違うポイントがあります。
――こういう曲があって、こういうメッセージを伝えたいというのがあって、その中で合っていく歌詞を探していくっていう作り方なんですね。
クリス・ハート:そうですね。あとは、珍しいフレーズや同じ言葉を繰り返す事で、よりメッセージを強める手法とかもありますよね。
クリス・ハート - 『Song for You II』ティザー映像
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今の若い人達に、日本の音楽にもっとプライドを持ってほしい
――特に、好きな作詞家の方っていたりしますか?
クリス・ハート:たくさんいますね。今回、湯川先生と一緒に作らせていただいた曲もあるんですが、そういう結婚をテーマにしている曲とかは、自分の結婚式を思い出したりして、「これからの2人の道で乾杯しよう」っていう箇所がすごく好きで、”乾杯”って言葉で2人の祝福の瞬間が表現されていいますよね。湯川先生って素晴らしいなって思います。あとは、今回のアルバムで何曲か堀江里沙さんと一緒に作ったんですが、いつも僕のイメージにぴったりの歌詞を書いてくれます。自分で全部の曲を作りたいなとは思っていなくて、逆に日本のJ-POPを作っているからこそ、日本人のいろいろな作曲家、作詞家の方とコラボしたいなって思っています。勉強にもなりますし。カバーの方では日本の音楽の素晴らしさを見せる機会になっていると思うけど、オリジナルの方では、この作家さんすばらしいなとか、こんな作詞家の方がいるんだっていう発見がリスナーさんにあれば良いなって思います。
――特に日本のポップスの素晴らしさを教えたいなと思うのは、誰ですか?
クリス・ハート:そうですね。歌手を目指している若い日本人の子達ですね。僕はデビュー前にボイストレーニングの仕事をしたことがあって、生徒の子達は、日本人の中にうまい歌手やアーティストがいないって言っていたのですが、それは違うなって思って。たくさん良い曲とか、良い歌手の人って日本に沢山いるから、もっと素晴らしい曲を紹介したいと思いました。今の若い人達に、日本の音楽にもっとプライドを持ってほしいなって思いました。素晴らしい音楽はまだまだたくさんあるから。良い曲も、いろんなジャンルもあるし。ロックも、クラシックも、R&Bも。ありがたいことに、僕は自分のアルバムで色んなジャンルの曲を歌わせてもらえるから、それを聴いて日本の音楽って素晴らしいなって思ってもらえたら、何よりも嬉しいですね。
クリス・ハート - Still loving you
――さっき、湯川さんのお話が出ましたが、今回つんくさんにも作曲してもらっていますが、いかがでしたか?
クリス・ハート:番組などではコラボさせてもらったことがありましたが、つんくさんとコラボできるなんて想像していませんでした。つんくさんには、つんくさんらしいアレンジやメロディがあって、なんか力強いメロディだなって思いました。湯川先生とつんくさんのコラボは最強だなって思います。自分の歌手としてのスキルの限界を感じたというか、自分のレベルがまだまだと感じた作品でした。うまく、その気持ちとか歌詞の内容が分からないと、そして自分のスキルがないとうまく歌えないと思うんです。
――それくらい良い曲だなって思ったんですね。
クリス・ハート:そう。本当に、すごい良いチャレンジになりました。
――僕、1985年生まれで、クリス・ハートさんとは1年違いなのかな。僕とかだと、モーニング娘。って小学生か中学生の頃だったと思います。その頃はJ-POPは聞いていましたか?
クリス・ハート:聴いていました。
――まさにモーニング娘。が大ブレイクした時に青春時代を過ごされたと思うので、そういう意味でも思い入れのある作家さんなんじゃないのかなって思いました。
クリス・ハート:そうですね。リアルタイムでモーニング娘。さんのデビュー曲も聴いていたし、たくさん良い曲があるなって思って。アイドルって言っても、彼女たちの作品には色んなジャンルが込められているから、そういうところも好きになった理由の一つですね。
――なるほど。つんくさんって、本当に曲調が幅広いですもんね。
クリス・ハート:すごく幅広いですね。シャ乱Qの時も、ロック、ポップス、バラード、可愛い曲もクレイジーな曲もいろいろと作られてますし、そういう考え方が素晴らしいと思っていました。
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J-POPは自由
――今回は、ストリングスの入った曲が多いですよね。
クリス・ハート:多いですね。この2年の間にクラシック・ツアーもあったり、47都道府県ツアーも10人のバンドでやっていて。ピアノとか、アコギとか、ストリングスの音が好きで。けっこう多くなった気がします。もっと深い曲も作りたいなと思ったので、その深さが伝わるために、大きいアレンジというか、ピアノやストリングスを入れた曲が多くなったように思います。
――こういうサウンドのアルバムにしたいっていうのがあったんですね。今回、「WE are FAMILY !」という曲を聞いて、アレンジがちょっとジャクソン5みたいだなって思いました。
クリス・ハート:AIさんの「Story」を作った2 SOULのKENさんに作ってもらいました。前のアルバムでも1曲作ってもらっていて、今回のアルバムでもお願いしたところ、この曲はクリスに合うよって言ってくれたのがこの曲です。デモを聴いた瞬間、ちょっとグルーヴィーというかモータウンサウンドみたいなところがあって、だったらやっぱりハーモニーが必要だなって。この曲は、やっぱりみなさんと楽しく歌いたいなって思って。
ファンの皆さんが、僕の家族のような存在というのがあって、これからも一緒に頑張りたいとか、皆さんが泣いている時に僕も泣いているよとか、皆さんが笑顔の時は僕も笑顔だよとか、そういうメッセージも伝えたいなと思って。職場とか学校のスポーツ部とか合唱部とか、そのグループの中のコミュニティって、家族のような存在だと思うんです。そのみんなで歌える曲になれば良いなと思って。この人達が一緒にいて、成長して、頑張って幸せだなっていうメッセージを伝えられたらなって思いました。
――すごいアップテンポな曲ですもんね。
クリス・ハート:そうですね。アップテンポな中にゴスペルのコーラスの声も最後に入っていて。そういいう楽しい明るい曲を作りたいなって思いました。
――「Joyful Joyful」みたいな印象を持ちました。ライブとかの最後で、みんなで歌ったら絶対気持ちが良いんだろうなって。
クリス・ハート:そうですね。コーラスは友達のゴスペルグループが入っていて、ソウルバーで録音しました。本物のゴスペルの雰囲気が出るように、アットホームな感じで皆さんが歌ってくれたので、自然な仕上がりになりました。
――この曲もそうだと思うんですけど、J-POPってすごく色んな国の音楽の要素が入っていると思うんです。そういうことを、改めて聞いてみて、すごくJ-POPが好きって色んなインタビューでおっしゃっていますが、でもJ-POPって日本だけじゃなくて、すごくグローバルな要素を取り入れている曲なんだなってことを改めて感じました。
クリス・ハート:そうですね。僕は1997~8年頃かな、日本の音楽を初めて知って。その時は、色んなジャンルがあってX JAPANさんのようにメタルとクラシックのミックスとか、ラテン系の音楽とポップスのミックスとか、そういう自由さがすごく好きで。自分のアルバムでも、同じようなことをしたいなと思って。だからクラシックぽい「I Believe~手をつなごう~」とか、ファンク系の「WE are FAMILY !」とか、可愛いJ-POPの「ハッピーデイズ」とか「Brand New Day」とか。そういう自由さはなくならないように頑張っていきたいなと思います。J-POPでは、これはやっていい、やってはいけないということではなくて、J-POPは自由なので、なんでも作れるから。そのいろんなジャンルの影響で、曲を作ることにも歌声への影響にもなるし、作曲のアレンジの考え方も変わっちゃうし、すごい大事な勉強だと思う。
自分の歌い方でも「WE are FAMILY !」と「I Believe~手をつなごう~」の歌い方って全然違うと思います。アレンジやメッセージの違いがあるので。J-POPSの影響で、全部の曲を、同じように歌うんじゃなくて、その曲に合ったベストの声を使うということが分かってきましたね。
――実際に、J-POPSに出会う前って、J-POPSが自由な音楽だとしたら他の音楽はちょっと不自由だなって思ったりしましたか?
クリス・ハート:そうですね、けっこう厳しいですね、むこうは。今はちょっと変わってきたんですけど、1990年代に話題になったのはギャングスタ・ラップとかグランジ・ロックとかもあって。それでもやっぱり黒人はラップ、白人はロックっていう考え方がありました。僕がやっていたのは、クラシック音楽です。フルートとかオーボエ、クラリネットを吹いていました。でもクラシックの音楽でも厳しくて、クラシックとロックはミックスしないとか、全部分けていて、ジャズはジャズだからとか。そういう考え方があったんですけど、僕は全部好きだったから、全部チャレンジしたいなと思って。でも、それぞれコミュニティが別だから不自由なところや不便なところがありましたが、日本のいろいろなアーティストの曲を聴いて、ボッサとか、グルーヴィー系とか、ジャズでも同じアルバムでも全部自由に音楽を作っているなと思いまして。なんでもあるなって。ダンスの曲もロックな曲もあるし。
Kiroroさんの「未来へ」を聴いた時、すごいなと思ってアルバムを聴いたら中にはもっとアップテンポな曲もあって。この自由さって何なんだろうって思いました。こんなに自由に色んなジャンルの曲を作れるのは天才だなって思いました。
――今回、アルバムに収録されていた「I love you」という曲はYoutubeを中心に爆発的なヒットになりました。クリスさんの新しい代表曲と言える一曲だと思います。
クリス・ハート:びっくりしました。そんなに色んな人に知って貰えることになるなんて。
――率直に、これだけ多くの人に聴かれる曲になるとは思っていましたか?
クリス・ハート:思っていませんでしたがとても嬉しいです。もともとデビュー前にレコーディングした曲だったのですが、まずは歌手としての僕の自己紹介としてカバー・アルバムをリリースしようということになりました。その後、やっと初のオリジナルシングルとして「I love you」をリリースしました。ショート・ムーヴィーも作って、それも楽曲のコンセプトに合っていると思いました。僕はどんな曲を歌っても、ストーリーがあった方が良いと思っているんです。「I love you」は沢山の人から感想や「歌ってみた」動画を送って貰いました。中には「(技術的に)難しい曲だからこそ歌ってみた」っていう人もいて、なるほどなと思いましたね。僕は何回も歌ってきてやっと慣れてきたけど、逆に何回も歌っているからこそ、自分の歌い方も自然に変わってきましたね。
クリス・ハート - I LOVE YOU
I LOVE YOU 短編ドラマ
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Song for You Ⅱ
2016/06/01 RELEASE
UMCK-1540 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.Brand New Day
- 02.続く道 with ゴスペラーズ
- 03.僕はここで生きていく
- 04.ハッピーデイズ
- 05.Hold on to Heart
- 06.あなたへ
- 07.WE are FAMILY!
- 08.memento
- 09.I LOVE YOU (Studio Live ver.)
- 10.Still loving you
- 11.Dear me
- 12.I Believe~手をつなごう~ with May J.
- 13.Goodbye today
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