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松任谷正隆インタビュー ~名盤『フー・イズ・ディス・ビッチ・エニウェイ』との出会い~
1975年に発表されたアルバム『フー・イズ・ディス・ビッチ・エニウェイ』。その名盤を支えたメンバーと共に、2009年からビルボードライブでリユニオンツアーを行っているマリーナ・ショウが、今年7月の来日で最後のジャパンツアーを迎える。 『フー・イズ・ディス・ビッチ・エニウェイ』は、「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」をはじめとするマリーナの名唄、そして名手揃いのバンド・メンバーの演奏によるエヴァーグリーンな内容で、ジャズ~ソウル・ファンという枠を超え多くのリスナーに愛されてきた。そんな歴史的名盤を愛する1人、音楽プロデューサーの松任谷正隆に、アルバムとの出会いや、作曲家としてではなくリスナーとして大切にするアルバムへの想いを語ってもらった。
「この6枚があれば、ほかにはもういらない」
▲Marlena Shaw
『Who Is This Bitch Anyway?』
−−アルバム『Who Is This Bitch Anyway?』との出会いから教えていただけますか。
松任谷:リリース当時に原宿にあった輸入盤専門店『メロディハウス』で勧められたのが最初。
当時の僕は“ミュージシャン買い”をしていてね。レコードのクレジットに気になる名前を見つけたら買いました。
その頃、僕の周囲の日本人ミュージシャンの間ではチャック・レイニーの『Coalition』がバイブルとされていたんですよ。
だから、店で『Who Is This Bitch Anyway?』を勧められた時も、迷わず聴かせてもらいました。
『Street Walkin’ Woman』、1曲聴いただけで、驚きましたよ。
かっこいい! とね。自宅で最初から聴き直したら、どの曲も衝撃だった。
それから何年もの間、毎日聴きました。
▲The Stylistics『The Stylistics』
僕には、死ぬほど聴いたアルバムがいくつかあります。
スタイリスティックスの『The Stylistics』
ポール・サイモンの『Still Crazy After All These Years』
スティーヴィー・ワンダーの『Music Of My Mind』
マイケル・ジャクソンの『Off The Wall』
ボブ・ジェームスの『BJ4』
そしてマリーナ・ショウの『Who Is This Bitch Anyway?』。
この6枚があれば、ほかにはもういらないと思うくらい大切です。今も聴いています。
▲Paul Simon
『Still Crazy
After All These Years』
−−グルーヴのほかに、『Who Is This Bitch Anyway?』の何が松任谷さんに響きましたか。
▲Stevie Wonder
『Music Of My Mind』
松任谷:全体的に僕の好みのサウンドでもありました。
都会的なR&Bです。汗を感じない、風のような音楽です。
チェック・レイニーとハービー・メイスンの脂が乗りきっている演奏が、あの時代にジャストにはまっていてね。
偶然性も味方しています。楽曲やパフォーマンスがスペシャルなだけでなく、メンバーのキャリアで一番いい時期であることや、いろいろな要素が味方している。さっき言った僕にとって特別な6枚は、どれも奇跡が起きています。
マイケル・ジャクソンは『Off The Wall』のほかにもヒット作はたくさんありますよね。
セールスで見れば『Thriller』や『Bad』のほうがはるかに売れているはずです。
でも、奇跡の量や大きさは少ないと思う。『Off The Wall』は、マイケル、ポール・マッカートニー、スティーヴィー・ワンダーのほかに、ヒートウェイヴというバンドのキーボードプレイヤー、ロッド・テンパートンが曲を提供しています。
タイトル・チューンもロッドです。マイケル、ロッド、そしてプロデューサーのクインシー・ジョーンズの一番脂の乗ったタイミングが重なっている。
ロッドはね、『Off The Wall』以降はそんなにいい曲を書いていないんですよ。それを思うと、マリーナの『Who Is This Bitch Anyway?』は、マリーナ、チャック、ハービー、コンポーザーのバーナード・アイグナーの脂の乗り切った時が重なっています。マリーナのほかのアルバムも聴いたけれど『Who Is This Bitch Anyway?』のパフォーマンスが、僕は一番好き。チャックも、彼自身の『Coalition』よりも僕はこっちの演奏のほうがいい。ハービーもこれでしょう。
プロフィール
松任谷 正隆(Masataka Matsutoya)
音楽プロデューサー。
1951年11月19日東京生まれ。
4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。
20歳の頃プロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド“キャラメル・ママ”“ティン・パン・アレイ”を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして多くのアーティストの作品に携わる。
1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。2001年4月からはジュニアクラスもあらたに開校し、子供の育成にも力を入れている。
モータージャーナリストとしての顔も持ち、長年にわたり「CAR GRAPHIC TV」のキャスターを務めるなど、自他共に認める車好き。
「AJAJ」の会員、および「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員でもある。
公演情報
UMK SEAGAIA JamNight2016 ~40th anniversary~
“Jazz Night ~Feel the Groove~”
2016年7月23日(土)
⇒詳細はこちら
Marlena Shaw LAST TOUR IN JAPAN
featuring Chuck Rainey, David T. Walker,Larry Nash, Harvey Mason
“Who Is This Bitch Anyway?”
2016年7月25(月)~26(火)
ビルボードライブ大阪
⇒詳細はこちら
2016年7月28日(木)~30(土)
ビルボードライブ東京
⇒詳細はこちら
関連リンク
Interview:神舘和典
「『Who Is This Bitch Anyway?』は、どの曲も、景色、見えるでしょ。」
--松任谷さんの言う音楽の奇跡とは、狙って起こせるものなんですか。
松任谷:作為的にはできませんよ。奇跡ですから
--松任谷さんが手がけた音楽でも奇跡はありましたか。
松任谷:小さいのは、あるかな……
--それは?
▲松任谷由実
『松任谷由実
40周年記念ベストアルバム
「日本の恋と、ユーミンと。」』
松任谷:由実さんの『守ってあげたい』とか。あの曲はレコーディングでは、由実さん自身のコーラスとコーラスグループのコーラスが重なった時に、突然景色が見えました。
ミュージシャンは、その奇跡を目指すというか、指標にして、作品を作っていくものなんです。景色に向かって音を重ねていく。でも、レコーディングの時に見えた景色が完成品にもあるかどうかは、努力とはまた別の力が関係している。それを思うと、『Who Is This Bitch Anyway?』は、どの曲も、景色、見えるでしょ。
--名盤、名曲は景色が見える。
松任谷:そうです。このアルバムがリリースされた頃、マリーナはまだ世界的にメジャーなアーティストではなかったと思います。メジャーではないから、当時、日本ではそれほど知られていなかったんじゃないかな。僕の周りには、このアルバムに夢中になっている人はいませんでしたから。それが、時間とともに名盤と言われるようになっていった。このアルバムの影響を受けたミュージシャン、たくさんいると思いますよ。そういった意味でも貴重な作品です。あっ、でも、僕、このアルバムを当時のアルファの社長でプロデューサーでもあった村井邦彦さんに教えたんです。すると、村井さんも感激して、すぐにバーナードに連絡して、仕事をオファーしていました。
--特に好きな曲はありますか。
松任谷:全曲好きです。すごくきちんとコーディネートされていて、はみ出す曲、違和感を覚える曲、ないでしょ? ふつうはあるんですよ。アルバムの中に何曲か、ちょっとテイストが違うなあ、と感じる曲が。でも、このアルバムには1曲もない。コーディネイションもヴォーカルパフォーマンスも演奏も見事です。
--このアルバムのメンバーの中に、松任谷さんの仕事で、演奏を依頼した人はいますか。
松任谷:ハービー・メイスンには、由実さんのアルバムで叩いてもらっています。ただ、『Who Is This Bitch Anyway?』の時ほどタイトではなかったかな。1980年代の後半、マリーナのアルバムから10年以上経っていましたから。年齢もキャリアも重ねて、レイドバックした演奏になっています。レイドバックしたハービーも味がありますけれどね
--ハービーのグルーヴは、ほかのドラマーと比べて、何が圧倒的なのでしょう。
松任谷:筋肉の躍動感、かな。この頃、いや、もう少し後、スティーヴ・ガッドが世界的に注目されたでしょ。ハービーと比べると、もっと正確無比なドラマーですよね。日本人のドラマーにもすごく影響を与えた、今も与えていると思います。でも、僕はずっとハービー派でした。あの短距離選手のような躍動が好きでね。『Who Is This Bitch Anyway?』を聴くと、バラードですらグルーヴを感じます。『Davy』も『Rose Marie』もね。
プロフィール
松任谷 正隆(Masataka Matsutoya)
音楽プロデューサー。
1951年11月19日東京生まれ。
4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。
20歳の頃プロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド“キャラメル・ママ”“ティン・パン・アレイ”を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして多くのアーティストの作品に携わる。
1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。2001年4月からはジュニアクラスもあらたに開校し、子供の育成にも力を入れている。
モータージャーナリストとしての顔も持ち、長年にわたり「CAR GRAPHIC TV」のキャスターを務めるなど、自他共に認める車好き。
「AJAJ」の会員、および「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員でもある。
公演情報
UMK SEAGAIA JamNight2016 ~40th anniversary~
“Jazz Night ~Feel the Groove~”
2016年7月23日(土)
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Marlena Shaw LAST TOUR IN JAPAN
featuring Chuck Rainey, David T. Walker,Larry Nash, Harvey Mason
“Who Is This Bitch Anyway?”
2016年7月25(月)~26(火)
ビルボードライブ大阪
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2016年7月28日(木)~30(土)
ビルボードライブ東京
⇒詳細はこちら>
関連リンク
Interview:神舘和典
「だって、最後でしょ? 観なくちゃだめだと思います。」
--松任谷さんがマリーナのパフォーマンスを観たのは、2009年の最初のビルボードライブ東京公演でしたよね?
松任谷:ええ。あの時は、まさかこのアルバムからほとんどの曲をやるとは思いませんでした。というか、このアルバムの曲以外はほぼありませんでしたよね。驚きましたよ。マリーナのこのアルバムを初めて聴いた時の自分がよみがえって、ちょっと……、涙があふれてきました。リスナーとしての自分にとってすごく大切な作品をマリーナ自身も大切に思っていることが伝わってきて、胸にぐっときました。
▲ Marlena Shaw @ Billboard Live Tokyo / Photo: Masanori Naruse
--歌と演奏そのものにはどんな感想を持ちましたか。
松任谷:僕はパフォーマンスを評価するつもりはありません。だって、アルバムをレコーディングした時とは、時代も、メンバーのキャリアも年齢も違うわけですから。メンバーそれぞれの音楽性が変わっているでしょ。ただね、今の音から、レコーディングした頃のフィーリングは感じました。僕にとっては、それが一番大切です。予想もしていなかったのは、アルバムの1曲目というか、オープニングの『You, Me & Ethel-Dialogue』もやってくれたこと。ナンパする会話ですけれど、ハービーがナンパ男の役で、アルバムとほとんど同じ台詞をしゃべった。僕、レコードでも、あのナンパの会話から、カツカツカツとヒールで歩く音が響いて『Street Walkin’ Woman』が始まるフェイド・イン、好きなんですよ。
--今回の来日公演も観ますよね。
松任谷:もちろん。だって、最後でしょ? 観なくちゃだめだと思います。アルバムとライヴは違うものだとは、僕は十分に理解しているつもりだけど、オープニングだけは同じようにやってほしいなあ。マリーナがハービーじゃない誰かと『You, Me & Ethel-Dialogue』のセリフを言い合いながら客席から現れて、バンドは先にステージにスタンバイしていて、『Street Walkin’ Woman』が始まるなんてどうでしょう。『Who Is This Bitch Anyway?』は、自分自身が音楽をやっていることを忘れて楽しめる数少ない作品。ほんとうに好きな音楽って、リスナーのマインドに完全に戻れます。心の中で、初めて聴いた頃の自分と重ねて観ますよ。
プロフィール
松任谷 正隆(Masataka Matsutoya)
音楽プロデューサー。
1951年11月19日東京生まれ。
4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。
20歳の頃プロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド“キャラメル・ママ”“ティン・パン・アレイ”を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして多くのアーティストの作品に携わる。
1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。2001年4月からはジュニアクラスもあらたに開校し、子供の育成にも力を入れている。
モータージャーナリストとしての顔も持ち、長年にわたり「CAR GRAPHIC TV」のキャスターを務めるなど、自他共に認める車好き。
「AJAJ」の会員、および「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員でもある。
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2016年7月23日(土)
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2016年7月25(月)~26(火)
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2016年7月28日(木)~30(土)
ビルボードライブ東京
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Interview:神舘和典
フー・イズ・ジス・ビッチ、エニウェイ?
2015/09/30 RELEASE
UCCU-99144 ¥ 1,100(税込)
Disc01
- 01.ダイアローグ
- 02.ストリート・ウォーキン・ウーマン
- 03.ユー・トート・ミー・ハウ・トゥ・スピーク・イン・ラヴ
- 04.デイヴィー
- 05.フィール・ライク・メイキン・ラヴ
- 06.ザ・ロード・ギヴス・アンド・ザ・ロード・テイクス・アウェイ
- 07.ユー・ビーン・アウェイ・トゥー・ロング
- 08.ユー
- 09.ラヴィング・ユー・ワズ・ライク・ア・パーティ
- 10.プレリュード・フォー・ローズ・マリー
- 11.ローズ・マリー(モン・シェリー)
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