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クロスオーヴァー&フュージョン・コレクション1000
世界初、日本初CD化タイトルをピック・アップ
愛好家から好評を博したソニー・ジャズ・コレクション1000のスピン・オフ企画となる新たなシリーズ『クロスオーヴァー&フュージョン・コレクション1000』が始動!ColumbiaとRCAというアメリカを代表する2大レーベルを中心に、ソニー・ミュージックが所有する膨大なカタログの中から、大名盤をはじめ、ファン待望の再発作品、初CD化となるレア作品まで…魅力を知り尽くしているリスナーはもちろん、ヒップホップやクラブ・ミュージックのファン、明日のミュージシャンやDJ志望者にもおススメの100タイトルを厳選。
今回は、このシリーズの大多数の作品の解説を務めたライターの原田和典氏による特別コラムと、編集部によるマニア垂涎の世界初CD化音源と、クラブ・ミュージック・ファンにオススメしたい音源紹介、さらに、テン年代の日本電子音楽シーンを代表する異能=Seihoが往年のギタリストの作品3枚を紹介!
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ソニー・ジャズ・コレクション1000第1弾・第2弾 特集>>>
ソニー・ジャズ・コレクション1000第3弾・第4弾 特集>>>
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越境・融合を重ねた約40年間の歩み
ジャズをベースにした、なんでもありの表現。ロック、ソウル、ファンク、MPBなど同時代の他のポピュラー音楽からの影響を巧みに取り入れながら、親しみやすく、心地よく、時には超絶技巧の限りも尽くす。ヴォーカルの比重も、いわゆるモダン・ジャズに比べてはるかに高い。それがぼくにとってのクロスオーヴァー/フュージョン・ミュージックである。スラッピング・ベース(かつてチョッパー奏法と呼ばれた)がンペンペと唸り、ドラマーがハイハットをスッチースッチーと鳴らし、DX7のようなシンセサイザーが白玉音符でコードを鳴らすのも、たしかにひとつの形ではあろうが、もともとクロスオーヴァーには“越境”、フュージョンには“融合”というニュアンスがある。主にジャズ経験を持つミュージシャンたちが、持ち前の感性と腕前を生かしながら越境・融合を重ねた約40年間の歩み、それがこの「クロスオーヴァー&フュージョン1000」シリーズの100枚に刻まれているのだ。
オッサンの昔話になってしまい恐縮だが、ぼくが洋楽に目覚めた1970年代半ば、クロスオーヴァーというフレーズは最新最先端の音楽用語だった。76年3月新譜として国内発売されたアース・ウィンド&ファイアーのLP『灼熱の狂宴』の帯には「クロスオーヴァー(ロック、ジャズ、ソウル、ファンキー、ラテンの完全混合サウンド)」と書いてあり、雑誌広告には彼らが75年度の全米クロスオーヴァー大賞を獲得したこと(詳細は不明だが、“音楽ジャンルとしてのクロスオーヴァー”が和製英語ではないという証拠にはなろう)も記載された。いっぽう、フュージョンという言葉が使われ出すのは78年下半期から。米国でこうした音楽がクロスオーヴァーよりもフュージョン(ジャズ・フュージョン)と呼ばれていることに対応したのでは、と思われる。
メロディ・ラインに、より多くの比重がかかっている。
ジャズの大きな魅力がアドリブ(即興演奏)にあるとすれば、クロスオーヴァー~フュージョンはメロディ・ラインに、より多くの比重がかかっている。そして名料理人が旬の食材を使うように、演奏家も新鮮な機材を積極的に導入した。フェンダー・ローズ、ミニ・モーグ、メロトロンといった鍵盤楽器、エレクトリック・ギターに接続されたエフェクターの数々、ヴォコーダーやターンテーブルなどなど。アコースティック・ギターの音を拾うピックアップも進化した。録音技術にも、「基本的に、その場で鳴っている音を生々しく収録することが望ましい」ジャズ・レコーディングとは別種のテクニックが求められた。極端な話、リズム・セクションをニューヨークで録り、ホーン・セクションや歌をロサンゼルスで重ね、最後にハリウッドでストリングスをダビングして完成、ということだってあり得る。そうした音の数々を、いかにスムーズにミキシングして心地よく届けるかもエンジニアの腕の見せ所といえよう。よりよい見晴らしを持つ音楽を構築するためには、曲の展開図を頭に叩き込んでいるアレンジャー(編曲家)の存在も欠かせない。当シリーズを飾る面々は皆、すぐれたパフォーマーであると同時に、卓越したアレンジャーである。そう断言してもさほど間違ってはいないはずだ。
こんな興味深いサウンドが流行ってきたよ、こんな新しい機材が発売されたよ。面白そうだね、じゃあ一丁それを入れちゃおうか・・・そんな「共鳴」と「実行力」。クロスオーヴァー~フュージョンの、とくに70~80年代に制作された作品を聴くごとにぼくは、新しいおもちゃに出会ったときのような、演奏家たちのわくわくした高まりを感じるのである。
― 原田和典
▲Herbie Hancock「カメレオン」
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