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SuG 『不完全Beautyfool Days』インタビュー
90'sと現代のヴィジュアル系シーンを比較しつつ、武瑠(たける/vo)の思想を掘り下げていたら、話はなんと銀杏BOYZやレディー・ガガ、ゴールデンボンバー、きゃりーぱみゅぱみゅへ飛び火。自ら腹黒いと認めるSuGの素顔、天下を獲る為の戦略、彼の考えるセンセーションなど“異端”の本音を余すことなく吐き出してもらった。SuGを聴かずに、このインタビューを読まずに、2012年の音楽シーンを語ることなかれ。
清春さんと銀杏BOYZに同じものを見ている
--自分はSuGというバンドは“異端”だと感じているんですが、自身ではどんなバンドだと自覚されていますか?
武瑠:以前はすごく分かり易いことを言わなきゃいけなかったので、よく「笑顔のバンドです」とか言っていたんですけど、物凄く解りづらいバンドだなって思ってます(笑)。基本的に“キャッチー”っていうお面をかぶった腹黒いバンドだと思っています。
--世間からいわゆる“ヴィジュアル系”と称されることについては、どんなことを感じていますか?
武瑠:単純に“ヴィジュアル系”という風に称されることで、出られる場所が減るのはイヤです。メイクを濃くすることもあれば、いきなりメイクなしのときもあるんですけどね。ただ、今やヴィジュアル系は世界観とか音楽で縛るのが無理なジャンルだとは思ってます。基本的に“そういうライブハウスで始めたかどうか”ぐらいの括りだと思うんですよ。だから許容できるところもあれば、許容できない世界観ももちろんありますし。
--今現在、ヴィジュアル系と称されるロックバンドは多数存在しますが、そのシーンは武瑠さんの目にはどんな風に映っているんでしょう?
武瑠:いわゆる今のヴィジュアル系は基本的に恋愛がマストだなと。世界観としては。そういう意味では、90年代とは“売れ線”とか“キャッチー”というものが変わってきている感覚はあって。
--興味深い話ですね。
武瑠:みんなが口ずさめたりとか、ポップなものが売れるという定石がちょっと崩れている気がして。それはみんながCD買わなくなったからだと思うんですけど。そのいわゆる“みんな”っていう人たちはダウンロードに移ってしまって、コアなファンだけがCDを買うようになった。で、恋愛はキャッチーではあるんですけど、コア寄りなんですよ。
--どういうことでしょう?
武瑠:「みんな、元気だそうよ」みたいなキャッチーは、CDを買うコアファン寄りじゃないというか。恋愛はみんなが共感できるキャッチーさを持っているけど、ヴィジュアル系のそれはどこか切なかったり、暗い方向だったり、コアな部分も持っているじゃないですか。そういうものが今は一番ウケやすいんだなっていうのは、実際の数字を見ても、人気のあるバンドを見ていても、統計的に出ている感じはあるんですよ。今のヴィジュアル系のスタンダードは、激しくて、マイナーコードで、恋愛の歌詞であること。
--要するにSuGの音楽はスタンダードではないと(笑)。
武瑠:そういう状況に対して、SuGがやっていることは挑戦だなとは自分でも思っています。
--武瑠さんは、90年代のヴィジュアル系と称されるバンドもよく聴いていたんですか?
武瑠:バンド自体はよく聴いていたんですけど、ヴィジュアル系はなかなか取っ掛かりが掴めなくて。あんまり聴くきっかけがなかったんですけど、黒夢さんやSADSさんが入口になっていわゆるヴィジュアル系も聴き始めました。ただ、自分は儚くて壊れてしまいそうな感情が好きで、それは耽美という意味じゃなくて。それもちょっと含まれてはいるんですけど、汚くても無理やりやっちゃう感じ。例えば、銀杏BOYZさんとか、そういう感覚も自分の中では好きな一部であって。
--意外な名前が出てきましたね。
武瑠:複雑に混ざり合っているので“これだけ”って決められないんです。そういう中で出てきた『不完全Beautyfool Days』という今回のシングルは、正に自分が作ったものだなって。“不完全”という言葉がそれを象徴している。だからSuGは“これだ!”っていうルーツが見えづらいバンドだと思うんですね。これを言うと“SuGは新しい”みたいな過剰な捉え方をする人がいるんですけど、そういうことじゃなくて。
--具体的に聞かせて下さい。
武瑠:ヴィジュアル系って「このバンドの後輩」とか「このバンドの影響を受けている」って言う人たちが多くて。それを言うことで先輩のバンドのファンが付いてきたり、縦社会がすごく強いジャンルなんですよ。誰かを「好き」って言えば、それが入口になりやすい。でも自分たちは言えない。バラバラ過ぎて、円グラフの分かれ方がすごく細かいんですよ。だから解りづらいし、誰かのファンがたくさん付いてくることもないので、結構(理解されるまで)時間がかかるバンドだろうなって(笑)。
--銀杏BOYZに関しては、具体的にはどんな部分に魅了されたんでしょう?
武瑠:峯田(和伸/vo,g)さんのことは、映画「アイデン&ティティ」を観てからちゃんと知って。そこから銀杏BOYZさんの曲を聴いたり、映画「色即ぜねれいしょん」とかも観たんですけど、佇まいからして独特な色気があるところに惹かれて。あと、少年性。それがしっかり残っている人は好きなので、ああいう感覚は無くしたくないとすごく思います。あと、自分はあんまり分けてないんですよ。清春(黒夢/SADS)さんと峯田さんに同じものを見ている感覚がある。
--武瑠さんはアートワークやPV監督も務められていますが、そこまで手を伸ばしているのは何故なんでしょう?
武瑠:バンドよりそっちが先なんですけど、頭の中に描いた映像や話をどういう形で物に残していくか、という作業をしているだけなんですよ。音楽をやりながらそこまで手を広げていくと「何がやりたいか分からない」という風に見られてしまうんで、そこは難しいんですけど。でもアートワークやPVまで含めて表現した方が、曲も伝わりやすいと思うんです。そうしたもので説明せずに伝わるんだったら別にいいんですけど、伝わり易さを考えると今のやり方がいいんだろうなって。
--そこの部分で影響を受けている人っているんですか?
武瑠:手法としてそれを選ぶきっかけになったのは、きっと村上龍さん。バンドとかをやる前に感覚として「そういう手法があるんだ」ということを知ったんですよ。完全な初期衝動で言えば、4,5歳のときに読んだ手塚治虫さんの「火の鳥」とかが自分の中に残っていて「こういうの、面白いな」ってなったんだと思います。自然に物語を頭の中で空想する子供だったので。あくまで今はそれの延長。中高生でバンドに出逢って、急にそれをやりたい。みたいな感覚はなかったですね。
--そうした特性もあってか、SuGってヴィジュアル系シーンの中で捉えようとすると、異質な印象になります。サウンドもモノクロではなく音色豊かなものが多いし。
武瑠:シングルはカラフルなものが多いですね。その反面、アルバムとかでは逆にすごく暗い曲もある。だからよく思うのは、ヴィジュアル系って一番「世界観、世界観」とか「J-POPとは違う」とか言うくせに、意外と見た目だけが派手だったり、あべこべなところがすごくある。とりあえず黒ければ「凝ってる。世界観がある」って一瞬でダマされちゃうところがあるから、リスナーとしては「すごく勿体ないな」って。
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Interviewer:平賀哲雄
不完全Beautyfool Days
2012/02/01 RELEASE
PCCA-70318 ¥ 1,028(税込)
Disc01
- 01.不完全Beautyfool Days
- 02.Vi-Vi-Vi <Rebirth version>
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