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特集:二階堂和美~一度聴けば、忘れられなくなる声
一度聴けば、忘れられなくなる声。二階堂和美は、そんなシンガーではないだろうか。けっして派手に自己主張するわけでもないのに、優しく慈しみに満ちた歌によって人の耳を惹きつけ、いつしか心の襞に入り込んでいるのだ。ジャンルを超えてゲストのオファーが絶えず、スタジオ・ジブリの高畑勲監督が自作品にその声を熱望したというのも納得がいくだろう。地方在住というハンデをものともせず、マイペースに活動する二階堂和美の魅力に迫ってみたい。
さらに、ビルボードライブの公演を目前に控え、本人からメッセージが到着!
プリシラ・アーン×二階堂和美のオープンレター・プロジェクトはこちらから>>>
“ひなげし”でデビュー、プロを目指し上京
広島県大竹市出身の二階堂和美は、父が僧侶という家系に育った。そのため、自身も浄土真宗本願寺派僧侶の資格を持っているというユニークな経歴の持ち主だ。幼少時には、実家であるお寺の縁側でピンク・レディーの真似をして踊っていたほど、音楽は好きだったという。高校生の頃からバンド活動を始め、その後5人編成の「ひなげし」というグループで活動。解散後はソロでの弾き語りを始め、大学卒業後にプロを目指して上京した。
手探りでアーティスト活動を行っているうちに、1999年にデビューのチャンスをつかむ。筋肉少女帯の内田雄一郎をプロデューサーに迎え、初のアルバム『にかたま』をリリースした。しかし、自分がやりたい音楽とのギャップに悩み、限定600枚プレスしたのみで廃盤にしてしまう。その後は、2作目のアルバム『たねI』(2001年)、3作目の『また おとしましたよ』(2003年)と、地道にリリースとライヴを継続。また、USツアーを行い、その時の映像とライヴ音源をまとめた『Nikaidoh Kazumi US tour 2003』(2005年)も発表している。
イルリメとタッグを組み、『二階堂和美のアルバム』で新たなスタート
紆余曲折を経て、彼女が自信を持って作品を世に送り出すことができたのは、2006年になってから。イルリメこと鴨田潤をプロデューサーに立て、『二階堂和美のアルバム』を発表する。この頃にはすでに東京から広島の実家へ戻っていたこともあり、タイトルから連想できる通り、本人にとっても新たなスタートという意識が強かったのだろう。それまでこだわっていた自作自演から少し距離をおき、イルリメにすべての歌詞を一任。楽曲はイルリメと二階堂が共作し、アレンジは、渋谷毅、サケロック、レイ・ハラカミなどバラエティに富んだ人選で固めた。そして、シンガー・ソングライターとしてだけでなく、ひとりのシンガーとしての立ち位置をしっかりと築き上げることに成功する。加えて、笠置シヅ子が歌った服部良一の名曲「アイレ可愛や」をカヴァーすることで、日本の“うた”の系譜に位置する正統派歌手であることも、無意識のうちに浮かび上がらせたのだ。
2007年にはミニ・アルバム『ハミング・スイッチ』を発表。自動車のCMに起用されたタイトル曲の他、YOUR SONG IS GOODと競演した「関白宣言」のカヴァーなどを含む企画色の強い作品だ。前作『二階堂和美のアルバム』で自由になったこともあり、本作はさらにのびのびと肩肘を張ることのないリラックスした歌世界が広がっている。そして、さらにシンガーとしての魅力を目一杯引き出したのが、2008年に発表したカヴァー・アルバム『ニカセトラ』だ。「蘇州夜曲」や「雪の降る街を」といったスタンダード的名曲から、松田聖子やプリンセス・プリンセス、クレイジーケンバンドにいたるまで幅広い選曲がユニーク。そして、どんなメロディを歌っても、二階堂和美という個性が一切ブレないことを証明した。また、一転して2010年にはスタジオで弾き語り一発録音に挑戦した『solo』を発表。オリジナル楽曲をシンプルに歌ってみせている。
キャリア最高傑作と呼び名高い5年ぶりの新作『にじみ』、ジブリ作への起用
東日本大震災を挟んで発表された5年ぶりのオリジナル・フル・アルバム『にじみ』(2011年)は、これまでの彼女のキャリアの中で最高傑作との呼び声が高い作品だ。原点に立ち返り、全曲の詞曲を自身で書き下ろした。フォーク、ジャズ、ブルース、歌謡曲、演歌といった様々な音楽のエッセンスを自身のフィルターに通して解釈し、自然体のヴォーカル・スタイルで奔放に歌っている。CINEMA dub MONKSのメンバーなど気のおけない仲間を集めたサポート陣も無理がなく、シンプルながら的確な演出を施している。また、すでに実家の跡を継ぎ、シンガーと僧侶という二足のわらじで活動していた彼女だけに、どの歌にも仏教的といってもいいほど慈愛に満ちた世相や人生観が投影されているのも特徴だ。いずれにせよ、本作は2010年代を象徴するヴォーカル・アルバムとして高く評価され、後にデラックス・エディションがリリースされるなど、ロングセラーとなった。
『にじみ』で徐々に注目を集めていた彼女にとって、2013年は大きな転換期ともいえる。スタジオ・ジブリ製作、高畑勲監督による映画『かぐや姫の物語』で主題歌を担当することになったからだ。シングルで発表された「いのちの記憶」は、映画共々大きく評価され、二階堂和美という名前をお茶の間まで一気に広める役割を果たした。そして、その主題歌やオリジナル・ナンバー、そしてこれまでのジブリ作品の楽曲カヴァーなどを収めた企画アルバム『ジブリと私とかぐや姫』も同年に発表。ジブリ作品のほのぼのとした雰囲気と、彼女の飾らないシンプルなスタイルが見事にマッチすることとなり、さらにファン層を広げていった。とはいえ、広島を拠点に活動することは変わらず、マイペースに創作活動やツアーを行っている。
国内外のアーティストとのコラボ、ビッグバンドとのスペシャル・プログラム
二階堂和美は、一見すると孤高の存在のように感じられることもあるが、実は自身のソロ活動以外にも多数のコラボレーションを残している。テニスコーツのさやと組んだ「にかさや」では、『イピヤー』(2005年)と『ワンサマーハイム』(2009年)という2枚のアルバムを発表しているし、シカゴ出身のマルチ・プレイヤー、タラ・ジェイン・オニールとも、『タラとニカ』(2011年)を共作。他にも、レキシ、大友良英、Double Famous、neco眠る、ハシケン、スガダイロー、モールス、cinqなどなど、個性的な顔ぶれとの共演が多く、しかもその個性派の中でもしっかりと存在感を嫌味なく打ち出しているのがさすがだ。
6月にビルボードライブ東京で行われる、Gentle Forest Jazz Bandを従えたスペシャル・プログラムも、彼女のユニークなコラボレーションのひとつに数えられる。在日ファンクのメンバーとしても知られるジェントル久保田率いるビッグバンドは、女性コーラスも交えてスウィング・ジャズを新たな解釈で提示する斬新なグループだ。もちろん、二階堂の持つ歌謡テイストとの相性も抜群なはず。2016年の新春公演として大喝采を浴びた組み合わせが、ビルボードライブという特別な空間でどのような化学反応を起こすのかが楽しみだ。そして、二階堂和美という稀有なヴォーカリストが、これまでとは一味違う新しい魅力を見せてくれることだろう。
メッセージ from 二階堂和美
二階堂和美がビルボード?「上質な都会の夜を演出するクラブ」で?
私の場合、「間近で見られる」のもそれほど珍しいことでもないですし、 おかしいですよね。不釣り合いですよね。
でもこの日は全然違うんですよ。
なんてったって、Jentle Forest Jazz Bandという最高のビッグバンドが、
この公演を唯一無二のものにしてくれようとしているのです。
彼らとの出会いによって、かつてない最強のエンターテインメントに向かっている手応えがあります。
バンドを率いる、ジェントル久保田曰く、 「1+1が10にも100にもなるものすごい組み合わせ」。
まさに! 自分の中から、知らなかったよろこびを引き出してもらっています。
彼らと演奏している間は、音楽の中に身をゆだねる、夢のような時間。
作為もなく、押し出されるままに、歌えばいいんですもの。
今年新春の初共演から、水面下で進めてきた新曲制作やレコーディングを経て、
バンドとの一体感が格段にアップした今の私たちの演奏。
22人の演者全員、PA、スタッフ共々、一丸となって、自信を持ってお届けします!
この喜びを、どうぞご一緒に体感してください。
二階堂和美
公演情報
二階堂和美
with Gentle Forest Jazz Band
ビルボードライブ東京:2016/6/23(木)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
二階堂和美 / Kazumi Nikaido(Vo)
【Gentle Forest Jazz Band】
ジェントル久保田 / Gentle Kubota(リーダー / 指揮 / Trombone)
他
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Text: 栗本斉
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