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ドレスコーズ Blu-ray&DVD『SWEET HAPPENING』インタビュー
現在のドレスコーズの極地とも言うべきライブBlu-ray&DVDをリリースしたドレスコーズ 志磨遼平に、急逝した巨星たち、ビルボードが志磨に怒られた事件、世間を賑わすスキャンダル、恋愛を歌わない理由など多岐に渡る質問に応えてもらった。
デヴィッド・ボウイにプリンス、マイノリティを肯定してくれたヒーロー
--今回の取材直前にプリンスが急逝しました。志磨さんはプリンスも聴いていましたよね?
志磨遼平:20歳の頃に『Purple Rain』を買ったんですけど当時は良くわからなくて、 自分の感覚にあまりフィットしなかったんですよ。ただ最近はブラックミュージックというかファンクっぽいものばかり聴いていて、その一環として本当につい最近、今年に入ってから改めて聴くようになった所だったのでびっくりしましたね。
▲ドレスコーズ「SWEET HAPPENING the dresscodes 2015 “Don’t Trust Ryohei Shima”JAPAN TOUR」TRAILER 2
--年明けにはデヴィッド・ボウイも他界しました。時の流れの中では必然ですが、両者とも象徴的なアーティストだっただけに、本当に驚きました。
志磨遼平:当然レジェンドではあるんですけど、毎回革新的なことを続けて、常に同時代的だった人たちだと思いますね。セオリーとか方法論、音楽商業みたいなものを作り上げたパイオニアなわけですから。--彼らが開拓したものを引き継いでいく、という思いは?
志磨遼平:彼らは“自分はなにがしかのマイノリティである”ということを肯定してくれたヒーローなので、そういうことを僕もできれば良いなあとは思いますね。デヴィッド・ボウイは“みんな一緒だよ”っていうメッセージを決して出さなかったというか、“君は誰とも違う、そして君は素晴らしい”っていうのはプリンスもそうでしょうし、ロックンロールみたいなものはきっとみんなそうですよね。僕が彼らに救ってもらったとすれば、常に独りぼっちでいることの美しさみたいなものですね、誰とも分かり合えないっていう。普通の営みはドラマチックなもの
--60年代や70年代、80年代とはリスナーもミュージシャンも状況があまりに違います。もちろん常に変化していくものですが、今現代の日本でロックスターと称して語弊がない存在が生まれてくると思いますか?
志磨遼平:彼らのやり方では難しいと思いますけど、かつての彼らがそうであったように、その時ヒップに見える存在っていうのはどの時代にもいる。60~70年代っていうのはロックンロールがもの凄くメインストリームだったから、何がしかの才能を持っていた人、惹きつける魅力がある人が集まっていたんだろうし、そういう才能がさらに発展させていくから、どんどん鋭く求心力のあるものになっていったんだと思います。それが最近は割と政治的な時代になっているのかもしれなくて、若い人たちがちゃんとメッセージを発している姿は、語弊を恐れずに言うのならロックスター的ではあるのかなって。ストリートから群集をアジテーションする若い人たちとか。
--以前、別のインタビューで、デモをやっている若者に嫉妬をしていたとお話ししていたことがありましたよね。
志磨遼平:そうですそうです。彼らもクールに見えることを意識的にやっているとよく言っているじゃないですか。そういう部分も含めて、今かっこいいやり方をちゃんとに意識してやるっていうのは若者の得意技というか武器でもあるし。--それはかつて毛皮のマリーズで志磨さんが行ってきたアプローチとも繋がる部分がある?
志磨遼平:やっぱり自分がどう見えているのかに対して過敏な時期でもあったし、時には戦略的にもなりますよね。--当時の僕はそういう戦略性も含めてのロックンロールの面白さを、毛皮のマリーズから受け取っていました。
志磨遼平:それは僕らにとって非常に重要な問題のひとつでしたね。どういう風に見せるか、どういう風にストーリーを紡いでいくか。僕がロックンロールに対して持っていたロマンとかやり方だと思ってるので、戦略というよりは凄く当然のことのように思っていて。これは“Don’t Trust Ryohei Shima”なんてことを言っているしっぺ返しみたいなものでもあるんでしょうけど、「今回もどういう風に騙してもらえるのか楽しみですね!」とか「意識的にやられているんでしょう?」とか訊かれると、そうですねと思いながらも、“誰だってそうだ”と思う部分もあります。人が誰かと出会って新しい物事を生み出したり行動を起こしたり、そこで怒ったり落胆したりっていう普通の営みはドラマチックなものだと思っているので、逆にそうじゃなくやることにあんまり魅力を感じないですね。
- Billboard JAPANが志磨遼平にTwitterで怒られた事件
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Interviewer:杉岡祐樹|Photo:杉岡祐樹
Billboard JAPANが志磨遼平にTwitterで怒られた事件
--近年、志磨さんはTwitterを始められました。SNSはファンとの交流の場になりますし、自分の言葉を発信できるツールでもありますよね。
志磨遼平:はい。--で、僕らは先日ニュース記事のタイトルを「ドレスコーズ 中村達也 越川和磨ら参加のツアーBD&DVDジャケ写を解禁 各種特典の情報満載!」として、志磨さんから「うちのコレをらにしたのどこのどいつよ!」と怒られたサイトでございまして。
志磨遼平:アッハッハッハ! コレぴょんの仇を取ったアレですね(笑)。--しかもその前日には、ライブレポ記事を志磨さんにTwitterでご紹介いただいていたタイミングだったのが面白かったなと。
志磨遼平:このBlu-ray&DVD『ドレスコーズ「SWEET HAPPENING~the dresscodes 2015“Don’t Trust Ryohei Shima”JAPAN TOUR~」 』 にも入ってる「愛さなくなるまでは愛してる(発売水曜日)」っていう曲は、まさしくそういうのが面白いと。最近は多様化と言われてますけど、情報源としては一極集中じゃないですか。とにかくスマホ。新聞があってテレビがあって、2ちゃんやニュースサイトがあってと選択肢があった時代はすでに過ぎてて、ほとんどの世代の人が情報を電話から得ている。ああいうライブレポみたいなものだって昔は音楽雑誌の中の局地的なニュースだったけど、今はライブが終わった瞬間からダーッと流れる。ライブレポートとして音楽を言語化するって凄い挑戦的なことだと思うんですけど、たとえばライブのMC部分だけを拾われて文字にされるのは、もの凄くこっ恥ずかしいもので(笑)。“「行くぞTOKYO!」と志磨は拳を突き上げ”とか書かれると、自分がもの凄く薄っぺらい人間に思えるというか……。
▲ドレスコーズ - M4「愛さなくなるまでは愛してる(発売は水曜日)」TRAILER VIDEO from 「オーディション」
--「“かかってこいよ!”とツバを吐き……」(笑)。
志磨遼平: 「ニヤリとほほ笑み、ステージを去った」(笑)。--僕もけっこう使ってます(笑)。
志磨遼平:自分たちの表現を屈折して伝えられているように思うことがあって、そうやってサイトにまとめられることによって、どんどんロックバンドみたいなものの存在が画一化されるんですよ。大体みんな拳を突き上げ、何かを叫ぶんだなって(笑)。それこそ最初の話に戻りますけど、誰とも違うからロックバンドを選択したわけで、街頭に立つ、スポーツをする、記事を書く……、色々ある中でロックバンドっていう手段を選んだのは、誰とも違うやり方で自分は打って出たかったから。でも携帯電話を通して見ると、大体みんなと一緒に見えてしまうんですよ。
日々流される記事、ライブレポートについて
--以前Twitterに「MC抜粋して「ここで◯◯を投下」とかセトリ並べただけの即出しレポはどうにかならんのかしら。ちっとも観たい!と思わせない。アレをあとで見るとこっちが恥ずかしい。」と投稿していましたが、アレは記事を書く側からするとなかなかドキドキする話で。
▲ドレスコーズ - M2「jiji」TRAILER VIDEO from 「オーディション」
--次のライブの時に、ともすればライブレポ掲載を見送る媒体だってあるかもしれない。音楽とビジネスの結びつきがより強い現代に、ああいったことを発信するのは面白いと思うんですよね。
志磨遼平:ビルボードのライブレポは嬉しかったんですよ、“こういう風に書いてくれれば良いのに”って。だからあの記事をリツイートした後に、そのツイートを書いたはずなんですよ。まあ、挑発ってほどのことではないですが、普通に音楽と言葉っていうのを生業にしているのなら、それは無いんじゃなかろうかってことが凄く増えてきている。音楽に詳しくなければ日本語の使い方もちょっとおかしいような人が、音楽と言葉を仕事にしているっていうのは、もっと危機感を持つべきだし。それにライブっていうのは本当はニュースではないですよね。“ライブがあった”ということはニュースでもある、という禅問答のようになりますが。
--僕らが書いている記事ってYahoo!などでは日常的なニュースと並びますし、読む人も特に音楽好きじゃないことが多いと思います。それゆえに角を削ぎ落とした内容にすることが多いですし、自分が得た感動とは180度違う言葉になっていることもあります。
志磨遼平:うんうんうん、それは凄い良くわかります。全てを報道的に扱うのが当たり前になっていますけど、創作やクリエイティブの全てに時事性があるわけではないんですよね。もちろん、それを批難しているわけではないですよ?--今作の映像に収録されている「jiji」なども、そういった部分について歌っていましたよね。
志磨遼平:そうそう。僕が今、初めてプリンスのレコードを聴いているみたいに、時系列をまったく無視して存在しているものっていうのは、僕らの頭の中にしかないんですよ。それを形にしちゃうと劣化するのが世の理で、放っておけば紅茶も冷めるように、時間の流れには逆らえないものしか世の中には無いはずなんです。でも、どうしてか音楽だったり写真だったり、そういう創作っていうのは世の中の法則を無視して、時代を飛び越えて僕らに関わってくる。それが“如何に新鮮かどうか”だけで採点されてしまうというのは、僕らはそういうことがわかっているから良いけれど、たとえば僕が今、中学生だとしてその判断ができるかどうか。古臭いっていう理由で見過ごすことがあったら勿体無いなあって、そういう歌ですよね、「jiji」っていうのは。
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Interviewer:杉岡祐樹|Photo:杉岡祐樹
あさましかったり、みすぼらしかったりする「通りすがりの野良犬」
--今回のBlu-ray&DVDは、毛皮のマリーズ時代の楽曲も収録されています。あの時代の名曲たちをドレスコーズとして表現するのは、ある人にとっては非常に残酷なことでもある。という所まで覚悟していたからこそ、“Don’t Trust Ryohei Shima”だったと思うんですね。
▲ドレスコーズ「SWEET HAPPENING the dresscodes 2015“Don’t Trust Ryohei Shima”JAPAN TOUR」TRAILER 1
--年が明けてからは文春を始めとする週刊誌が連日のようにスキャンダルで世間を賑わせていますが、今はネットの記事になることで、ともすれば一生消えない事象として強く残ってしまう可能性がある。そういう世界の中では“許す”ことが難しくなってきていると思うんですよ。
志磨遼平:そうですね。--僕はロックンロールというのは負け犬の側から始まった文化だと思っていて、当人たちも含めて様々な物事を許すものなのではないかと思っていたんです。だからこの『ドレスコーズ「SWEET HAPPENING~the dresscodes 2015“Don’t Trust Ryohei Shima”JAPAN TOUR~」 』というのは実は今という時代にタイムリーな作品で、先ほど志磨さんが仰っていたお話と真逆の作用が生まれているんじゃないか、と。
志磨遼平:やっぱりロックンロールの懐が広いのは ―――ほとんど宗教みたいな話になってきますけど――― 人間っていうものがそんなに良く出来たものではない上で、そこから色んなものが生まれてきた歴史がある。何の役にも立たないような奴らが作ってきた歴史だったりするから許してもらえることを期待して聴くんだろうし、ろくでなしとか不良とかすでに道を踏み外している所で何かを語るっていう。今はたぶん、もの凄く潔癖な場所で“不謹慎だ!”なんて話が行われている。人間がそんな綺麗な生き物だと思っているとしたらもの凄く怖いけれど、他人の恋愛事を正せるような人がこんなにたくさんいらっしゃってるとは驚きました(笑)。発言のひとつひとつに気をつけるのは当然だとも思いますが、僕はやっぱりステージに立ったり、音楽を作ったりっていうことが、胸を張って出来ることと思っていない。
あさましかったり、みすぼらしかったりすることをやっていると思っているから、「何なんだアイツは?」と言われても「通りすがりの野良犬ですけれど」っていうのが当然の感覚としてある。だから、たとえばドレスコーズと名乗ってドレスコーズでは無い曲をやるとか、そういうのも今に始まった話ではないっていう。そうやって人の感情を逆撫でするものだと思っているので。
“Don’t Trust”はRyohei Shimaに限った話でもない
--“Don’t Trust Ryohei Shima”は今に始まった話じゃないと。
志磨遼平:そう! そして“Don’t Trust”はRyohei Shimaに限った話でもないっていう自己弁護です(笑)。そんなに優れた行いを見せるつもりは無くて、それよりも汚い感情だったり、あまり人が見せたがらないような行動、表情を並べて見せる。それが最初に言ったプリンスやデヴィッド・ボウイが僕らに見せてくれたものだったりするから。--先ほど「“みんな一緒だよ”っていうメッセージを彼は決して出さなかった」と仰っていましたが、同時に「みんなそんなもんだよ」と教えてくれたのも彼らのような存在だったと思います。
志磨遼平:それがまた面白いんですよね。彼らみたいに自意識の肥大したモンスターみたいな人たちの偉業で、あんな人はそこら辺にはいないっていうのも事実だし、でも倒錯とか大きくなってしまった自意識とかは誰もが持っているものでもある。それを作品に昇華する生け贄じゃないですけど、みんなが「奴こそ悪魔だ!」って残酷な気分で見ていて血祭りに上げられる。凄く大げさに言うと、彼らも僕もそういう仕事をしていると思っています。--このBlu-ray&DVD『ドレスコーズ「SWEET HAPPENING~the dresscodes 2015“Don’t Trust Ryohei Shima”JAPAN TOUR~」』の中で、「ビューティフル」と「愛に気をつけてね」が同時に収録されているのが正にそれだと思うんですよ。「ビューティフル」は当時のロックキッズにとってのアンセムになった名曲中の名曲です。
志磨遼平:エヘヘヘヘ(笑)、すいません笑ってしまって。ありがとうございます。--いえいえ、だからこそ余計に「愛に気をつけてね」がエゲツなく響くんですよ。「HEART OF GOLD」から始まって、「ゴッホ」があって「愛する or die」があって、「ビューティフル」を歌って「愛に気をつけてね」で終わる。過去のライブの模様を収録した作品ではありますが、今のドレスコーズの極地となる作品だなと。
志磨遼平:うわー、それは嬉しいですねえ。僕は文章を書くのも読むのも好きですし同じものを目指しているんですけど、たとえばライブに行った人とまったく同じ感動を味わわせることができるライブレポートがあったとすれば、それはもう文学ですよね。で、そういうことをやろうとすると、音楽は凄くやりやすい。「あ~あ、悲しい」って思ったことを曲にして聴かせるっていうのは、けっこう伝播率、感染率を高く保てるんです。--他の文化と比べても、一番高いかもしれませんね。
志磨遼平:それが音楽のマジックですよね。メロディの旋律だったり和音だったりで、凄く細かい感情まで表現できる。「愛に気をつけてね」は特にそういう楽曲だと思っていて、僕はあの曲を最後に歌うことで“伝え忘れたことは無い”って気分になるというか。昔はよくあったんですよ、ただ綺麗なことだけを並べて終わってしまったり、ただ怒りとかオドロオドロしいものだけをステージに叩きつけて帰ってきちゃったり……。特に30分のステージとかだと、自分の喜怒哀楽とか人生みたいなものをまるっと伝えるのが凄く難しいんです。でも、「愛に気をつけてね」だとそれを5分くらいでできるので、勘違いされないんじゃないかなって。
どうして志磨遼平は恋愛を歌わないのか?「あんまり興味ない」
--ただ、この作品が「愛に気をつけてね」で終わるからこそ際立つのですが、最近の志磨さんは恋愛については歌っていないように思うんですよ。それこそ毛皮のマリーズの『ティン・パン・アレイ』が最後だったんじゃないかとすら。
▲ドレスコーズ - 「愛に気をつけてね」 from “Don't Trust Ryohei Shima" TOUR 〈完全版〉
--そのまんまじゃないですか(笑)。
志磨遼平:ラブソングは好きですし、女の子は好きなんですけどね(笑)。曲にするテーマとかが、20代の時とは当然変わっていて、最近はあんまり題材にならない所がありますね。--僕は今年で39歳になるのですが、年齢が年齢になってくると無責任なことができなくなってきますよね。
志磨遼平:で、仕事とかではもっと責任が大きくなっていく。だから人間って“任”できる“責”の重量が大体決まっていて、10~20代の頃は他の社会的な“任”が全然“責”してないから、そのぽっかりと空いた所に大事な女の子を思いっきり乗せられる。“一生好き!”みたいに、簡単な感じで背負えるんですよ。それはまったく嘘偽り無い気持ちなんですけど、30代後半の男が言う“一生好き!”って残りを考えたらまあまあガチじゃないですか(笑)。かつ、今は他の“任”も“責”しているから、僕のなで肩に空いているスペースって本当にちょっとしかないんですよ。夏休み前の終業式の子供みたいにランドセルとナップサックを背負って朝顔の鉢植え持って、“もう拷問やんか!”みたいな状態になるのが嫌で! レーベル担当者:またそうやってそれらしい言葉を並べて……。
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Interviewer:杉岡祐樹|Photo:杉岡祐樹
SWEET HAPPENING ~the dresscodes 2015 “Don’t Trust Ryohei Shima”JAPAN TOUR~
2016/05/11 RELEASE
KIXM-230 ¥ 5,720(税込)
Disc01
- 01.HEART OF GOLD
- 02.スローガン
- 03.ボニーとクライドは今夜も夢中
- 04.jiji
- 05.もあ
- 06.愛さなくなるまでは愛してる(発売は水曜日)
- 07.Lily~ダンデライオン
- 08.それすらできない
- 09.トートロジー
- 10.あん・はっぴいえんど
- 11.ゴッホ
- 12.愛する or die
- 13.犬ロック
- 14.ビューティフル
- 15.みなさん、さようなら
- 16.愛に気をつけてね
- 17.CREDITS ROLL
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