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BJ・ザ・シカゴ・キッド 来日記念特集~ケンドリック・ラマーやドクター・ドレーも重用する破格のシンガーの魅力に迫る

 この6月、モータウンの伝統と革新を担う大型ソウル・シンガー、BJ・ザ・シカゴ・キッドの初来日公演が行われる。メジャー・デビュー作『In My Mind』で現行ブラック・ミュージック・シーンのキーマンたちと次々と共演、底なしのポテンシャルで注目を集めるBJ・ザ・シカゴ・キッドとは、果たして何者なのか?そのキャリアを振り返りつつ解説する。(以下、文:山本大地)

 ケンドリック・ラマーのパフォーマンスが今年のグラミー賞の受賞式の中でダントツのインパクトを放っていたことが象徴するように、2016年もブラック・ミュージック・シーンの熱は醒めちゃいない。そのケンドリックの昨年のアルバム、『To Pimp A Butterfly』のサウンド面でタクトを振った人物の一人であるテラス・マーティン、先日初来日を果たしたKING、ジャンル横断型の新作が高評価を獲得し客演も引っ張りだこのアンダーソン・パークなど若手の台頭も随所で見られる。その熱はメインストリームにも拡がり、これまでの作品群を破り捨てるような実験的な新作、『ANTI』で大胆に現在のR&Bシーンへ参入したリアーナも印象的だった。また、ロック寄りなところではアラバマ・シェイクスやレオン・ブリッジズなど、幅広い意味でブラック・ミュージックを土台にした優れた作品が生まれているのもこの動きについて述べる上では特筆すべき点だろう。本稿で紹介するBJ・ザ・シカゴ・キッドもまた、そうした機運、タイミングの中で一気に花開こうという人物の一人だ。

“デビュー” 作にして、既にシーンの中心にいる人物―BJ

 今年2月にメジャー・デビュー作を発表したばかりのBJ ・ザ・シカゴ・キッドだが、彼の下積み期間は長く、音楽活動を始めた時期はいまから15年ほど前まで遡る。名前の通りシカゴ出身の彼は2001年、同郷のデイヴ・ホリスターの楽曲に参加、その後拠点をLAに移してからも2005年にスティーヴィ・ワンダーの『A Time To Love』に参加したり、カニエ・ウエスト、ビッグ・K.R.I.T.、ウォーレン・G、フレディ・ギブスら大御所との共演を通して自身の活動の下地を作っていく。

Schoolboy Q - Studio ft. BJ The Chicago Kid


 BJは、2009年にミックステープ『A Taste of Chicago』でデビュー。以来、自身の名義でこそ大きなヒットに恵まれなかったものの、周囲からの支持は厚く、当時頭角を現していた西海岸のレーベル、TDE所属のケンドリック・ラマー、スクールボーイ・Q、アブ・ソウルら若手MCとの共演を通して、そのボーカルやヒップホップと交わった音楽性が徐々に評価されるようになる。そして、近年もBJは、チャンス・ザ・ラッパー、ジョーイ・バッドアスなど新人のデビュー作や昨年のドクター・ドレの復活作『Compton』など、話題作に頻出する名前になっていた。メジャー・デビュー作『In My Mind』が、インディ時代に発表した前作と比べ、客演陣が増えただけでなくその名前に大御所も並ぶようになったのは、長らく築いた人脈がバックにあるということだ。そう、初のメジャー・レーベルからのアルバムながら、彼の名前自体はシーンに浸透しており、シーンの中心に居座っていた人物だと言えるのだ。そして、このデビュー作は、まさに長らく温められていたかのような形で、そして何よりこのブラック・ミュージック熱が最高潮に達したこのタイミングで満を持して産み落とされた。

あらゆるブラック・ミュージックのクラシックを踏襲

 彼の音楽性の土台にあるのは、幼少期から愛聴していたという、60年代~70年代のソウル・ミュージック、あるいは5歳の時にライブを観て音楽活動のきっかけとなったというジャネット・ジャクソンやベイビーフェイスといった80年代~90年代のR&B。そのソウルフルな歌い姿はもちろんのこと、特にマーヴィン・ゲイの「I Want You」のライブ映像のオマージュと思われる「Turnin’Me Up」のビデオは彼のソウル・ミュージック愛を体現しているかのようだ。

BJ the Chicago Kid - Turnin Me Up


 R&Bやソウル・ミュージックのルーツを踏襲しそれらが軸になりながらも、全体の空気が決してレトロな感じに落ち着かないのは、BJ自身今年初頭にカバーEPも発表したディアンジェロや、少年期に流行っていたヒップホップもソウル・クラシックと同等に聴き、あるいは前述したように西海岸の若手MCたちとも積極的に客演してきたからであろう。また、「Church」において、彼のフロウが客演したチャンス・ザ・ラッパーのそれとさして変わりのないものに聴こえるのも印象的だ。BJは2013年のComplex誌へのインタビューで、「俺が初めて自分の詩とメロディを組み合わせてみたとき、それはラップ(のようなスタイル)だった」という言葉を残している。60~70年代のクラシックだけでなく、あらゆる時代のブラック・ミュージックのスタイルを踏襲しているのがBJなのだ。現代のヒップホップなどを通してソウル・ミュージックをアップデートするスタンスはまさにケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークとも共振するだろう。

BJ the Chicago Kid - Church (Explicit) ft. Chance The Rapper, Buddy


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