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【再掲】「リスナーの許容範囲を広げていくことは、ジャズとその未来にとって有意義なこと」― カマシ・ワシントン x ブランドン・コールマン スペシャル対談

ブランドンxカマシ インタビュー

 今何かとアツいLAシーンで一際注目を浴びる鍵盤奏者ブランドン・コールマンとサックス奏者カマシ・ワシントン。幼馴染の2人は、サンダーキャットことスティーヴン・ブルーナーや彼の兄ロナルド・ブルーナーJr.、マイルス・モズレーなど地元の気の知れた仲間と学生時代から音楽コミュニティを育み、その類まれな音楽センスと才能を開花させていく。そしてウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、チャカ・カーン、スヌープ・ドッグ、ローリン・ヒル、フライング・ロータス、ケンドリック・ラマーなどジャズ、ソウル、ファンク、ゴスペル、ヒップホップ…ジャンルを問わず数多くの実力者との共演するとともに近年のLA発の重要作に軒並み参加し、シーンに革命を起こす存在となりつつある。今では一目置かれるミュージシャンとなった2人が、ブランドンのリーダー公演のために来日、その出会いやウェスト・コースト・ゲット・ダウン結成、盟友テラス・マーティン、LAの音楽シーンについて和気あいあいと語ってくれた。(※2016年5月9日初出)

カマシと一緒だと、不思議とマッコイのようなプレイができる
カマシを通して、コルトレーンのスピリットが伝わってくるから

−−昨年末以来の来日ですが、今回楽しみにしていることがあれば教えてください。

ブランドン・コールマン:グッド・ミュージックをプレイして、グッド・エネルギーをみんなと分かち合うこと。あとは、アルバムが売れれば、言うことがない(笑)。

カマシ・ワシントン:ブランドンが作った音楽をプレイするのは大好きなんだ。けど、最近プレイする機会がなかった―最新の楽曲じゃなくて、(『セルフ・トート』収録の)昔の楽曲を。だから、個人的にすごく楽しみにしてるんだ。

ブランドン:だよな、すごく久しぶりだ。

カマシ:オールドスクールでファンキーなブランドン・サウンド!曲の質感やブリッジがファンクな感じの。

−−そしてカマシは【FUJI ROCK FESTIVAL】に出演にするために再び7月に来日します。

カマシ:そう!

−−その時は、ブランドンも一緒に?

ブランドン:それって、7月だよね?たぶん行くと思うよ。

−−来週は【コーチェラ】にも出演します。普段のオーディエンスとは、少し違う、若めの客層だと思うので、反応が楽しみですね。

カマシ:そこが面白いんだ。ちょっと前に、ケンドリックやディアンジェロも出演した【バイロン・ベイ・ブルース・フェス】に出演したんだけど、徐々に慣れていっているよ。

ブランドン:エネルギーが大切なんだ。俺たちが発したグッド・エネルギーを観客が受け止める心があれば、年齢やそういったものはあまり関係なくなる。

−−わかりました。では、2人の出会いについてお聞かせください。確か、15歳頃ですよね?

カマシ:あぁ、俺が中3か、高校1年ぐらいの時だろ?

ブランドン:いや、俺が駆け出しの16、17歳の頃だから、カマシは高校2、3年じゃないか?

カマシ:いや、もっと前だったような気がするけど…どっちにしろ俺は1歳年上だから、高校2年ぐらいだな。

−−一緒にプレイし始めたのは、どのような経緯で?

カマシ:当時、ブランドンはロバート(・ミラー)とプレイしてた。ある時3人でハングアウトしてて、どっかのバス停にいた時に、ロバートに「こいつ中々凄いんだぜ。」って言われたのがきっかけ。そこでブランドンの家でリハをすることになって、アニタ・ベイカーの曲なんかをプレイしたんだ。そん時って何のためのリハだったんだっけ?

ブランドン:なんかのライブがあったんだよ!てか、近い未来にワールド・ツアーをすることを想定してリハしてたんだよ(笑)。

−−これまで何度もステージを共にしてきましたが、中でも印象深いライブは?

ブランドン:難しいな。毎回ステージに立つ時、常に頂点を目指しているから。そこが大切。その心持ちで挑んだら、どのショーが良くて、良くなったか、って比べることはできない。特にカマシの音楽は“自由”を体現している―その時のお互いのフィーリングを感じ合いながら、プレイしているって感じだな。

−−では、お互いに相手から学んだと思える部分はありますか?

ブランドン:何もない!あえて言えば、ダシキの着こなし方…っていうのは冗談で(笑)。

カマシ:ブランドンに出会う前に、俺は60年代~70年代前半のハービー・ハンコックの音楽にハマっていたんだけど、彼から70年代後半~80年代のハービーの作品の良さを学んだ。確か、『Sunlight』のレコードをくれたのがブランドンだった。それまであんな名盤が存在していたなんて知らなかったんだ。

ブランドン:カマシからは色々なことを学んだけど、一番記憶に残っているのは、マッコイ・タイナー。当時、どうしてもマッコイの音楽が俺には理解できなかった。それはまだ耳が肥えていなかったからだと思うんだけど、ある時カマシがコルトレーンの『A Love Supreme』のレコードをくれて、聴いた瞬間に天に召された気分になった。それにカマシは、コルトレーンと似たスピリットと才能を持っている。だからカマシと一緒だと、不思議とマッコイのようなプレイができる。カマシを通して、コルトレーンのスピリットが伝わってくるから。

カマシ:ブランドンが凄いのは、プレイに様々なスタイルを融合できるところ。たとえば、出会って間もないころに教会でプレイしていた時にはジャズの要素を入れてきたり、逆にジャズをプレイする時はゴスペルやファンクの要素を取り入れたり。そういったジャンルの融合を、俺たちの中で一番最初やっていたのが、ブランドンだった。俺たちより、プレイし始めたのが遅かったのにも関わらず。その頃の俺が、勿体ぶりながら「このファンキーなトラックにジャズを乗せてやろうじゃないか。」って感じだったのに対して、ブランドンはそんなことを考えず、行動に移していたから。それが俺たちの仲間全員に影響を与えたのは間違いない。彼がごく自然とやっているのを目の当りにして、楽曲とは異なるスタイルを無理矢理覆いかぶせず、シームレスに共存させることは可能なんだ、って気づかさせられたんだ。

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