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生きる伝説たちの2016~ボブ・ディラン / エリック・クラプトン / ポール・マッカートニー
昨年の後半から今年にかけ、音楽界は特に多くのスターを失うことになってしまった。悲しいかな、訃報を機にしばらく遠ざかっていた懐かしのレコードやCDに手を伸ばし、改めてその偉大な功績を実感した、という音楽ファンも多かったに違いない。その一方で、デビューから50年を過ぎた今もなお、世界中を精力的に飛び回ってライブをこなし、さらに新作を発表し続けている正真正銘の“リヴィング・レジェンド”たちがいることも、私たちは決して忘れてはならない。ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ニール・ヤング、ポール・マッカートニー、そしてローリング・ストーンズ。彼らの最新情報をまとめてチェック!
▲「Melancholy Mood」
2年ぶりとなる来日ツアーを終えたばかりのボブ・ディラン。4月28日のツアー最終日をもって通算100回の来日公演となった今回も、日本のファンに新たな感動と衝撃を与えてくれた。そんなディランの最新情報は、自身の75歳の誕生日にあわせてリリースされる通算37作目となるスタジオ・アルバム『フォールン・エンジェルズ』。日本国内盤は、ディランのバースデーから1日遅れの5月25日に発売となる。
最新作も昨年2月にリリースされた『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』の流れを汲み、アメリカのスタンダード曲をカバーしたセルフ・プロデュース作品。現在公開されている音源は、シナトラが歌ったことで知られる「メランコリー・ムード」と、同じくシナトラが主演映画『抱擁』(1957年)の劇中で歌い大ヒットを記録した「オール・ザ・ウェイ」の2曲。そのほかにも「メイビー・ユール・ビー・ゼア」「オール・オア・ナッシング・アット・オール」など、シナトラが、そしてディランが愛した名スタンダードの数々が収録されており、前作に続きディランの最新の“歌声”をたっぷり堪能できる作品となっている。ディランの歌声は、お世辞にも若々しいとは言えないが、若かりし頃とはひと味違うタフさや生命力を存分に感じさせてくれる。
75歳の誕生日とアルバムのリリースを終えても、もちろん、ディランはツアーは終わらない。6月上旬から7月中旬にかけては、女性R&B/ソウル大御所シンガー、メイヴィス・ステイプルズとの全米ツアーが組まれている。その公演数は、なんと27公演。2日以上の移動・休演日をほとんど設けることなく全米を飛び回る予定だ。毎年100公演以上のライブをおこなっていることから、生涯“ネヴァー・エンディング・ツアー”中だとも謳われるディラン。まだまだ“ツアー・ファイナル”を迎えるつもりはなさそうだ。
▲「Can’t Let You Do It」
4月13日を皮切りに、日本武道館5daysを大盛況で終えたエリック・クラプトン。すでにツアー引退を公言しているだけに、いつ最後の来日となってもおかしくないところだが、そのことを嘆く声よりも、またの来日を期待するファンの声のほうが多いのが実際のところ。1974年の初来日以来、計91回におよぶ武道館ライブはもちろん海外アーティストとしては最高記録だ。
2010年代に入っても、ライブ活動と並行してコンスタントに新作発表をおこなっているクラプトン。5月20日には通算23枚目となるニューアルバム『アイ・スティル・ドゥ』をリリース。名盤『スローハンド』のリリースからまもなく40年を迎えるのを機に、同作でタッグを組んだ名エンジニア/プロデューサーのグリン・ジョンズを久しぶりに起用。また、カバーの肖像画は、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』やクラプトンの大ヒットライブ盤『24ナイツ』のアートワークも担当したポップ・アートの巨匠、ピーター・ブレイクによるもの。新曲のほか、今回の来日ライブでも披露されたボブ・ディランのカバーなども収録されている。
また、親友のジョージ・ハリスンのダミー・ネームらしきものがクレジットされていることから、彼が残したギター&ボーカルの音源がアルバムに収録されているのでは?とファンの間では話題となっている。新作そのものはもちろん、親友・ジョージとの“共演”にも注目だ。
▲「Wolf Moon」MV
今年、バッファロー・スプリングフィールドとしてデビューを果たしてから50年の節目を迎えるニール・ヤング。徹底して“孤高”、良い意味で“偏屈”であり続ける一方、若い世代とも積極的に交流しながら新作の発表やライブ活動を続けている。
2014年12月には、オーケストラとの共演による『ストーリートーン』、昨年夏にはウィリー・ネルソンの息子(ルーカス&マイカ・ネルソン)たちのユニット、プロミス・オブ・ザ・リアルとともに『ザ・モンサント・イヤーズ』と、かなりコンスタントに新作を発表しているニール・ヤングだが、アニバーサリーイヤーとなる今年も、6月に新作をリリースすることがつい先日発表されたばかり。『EARTH』と題された新作はツアーで演奏した自身の名曲や未発表曲に動物や虫の鳴き声、物音といった“地球の音”をオーバー・ダビングしたライブ・アルバムになるそうだ。
アルバムの詳細については、これから徐々に明らかになっていくはずだが、リリースについて明かしたインスタグラムの投稿のなかで「iTunes向きではない」という一言が入っているのも非常に彼らしいところで思わずニヤリとしてしまう。音楽ストリーミングサービスの音質に批判的なコメントを出し、自らハイレゾ音源配信サービスまで立ち上げた孤高のレジェンドが、“地球の音”をどのように切り取り、いかにしてひとつの作品としてまとめ上げてくれるのか。期待大である。
▲ベスト盤収録の「Too Much Rain’」(2005年)
2013年から2015年にかけておこなわれた大規模なワールドツアー「アウト・ゼアー・ツアー」では、無念のキャンセルもありながら2回の来日を果たし、3時間弱にわたって「水一滴すら飲まない」ぶっ通しのパフォーマンスを披露し、日本の音楽ファンに大きな感動と勇気を与えてくれたポール。レジェンド級のアーティストともなると、毎回「これが最後のツアーになるのでは?」という噂が出回るものだが、そんな噂がたつ間もなく「ワン・オン・ワン・ツアー」と題した新たなワールドツアーをスタートさせている。
初演となった4月13日の米・カリフォルニア州フレズノ公演では、ソロとして初めてビートルズの「ア・ハード・デイズ・ナイト」「ラヴ・ミー・ドゥー」の2曲を披露し、往年のファンを大いに歓喜させた。
現在発表されているツアー日程は8月まで、さらに6月にはオランダとベルギーのフェスにも出演するポール。さすがに新作のリリースとまではいかないが、6月10日にはソロ・キャリアを集約したベスト盤『ピュア・マッカートニー』がリリースされる。ビートルズ解散以降の45年間を改めてじっくり掘り下げつつ、次の来日公演を楽しみに待ちたい。
▲『ザ・ローリング・ストーンズ、初の大規模展示会 First-ever major exhibition on Rolling Stones opens in London』(AFPBB News)
ここまで挙げてきたレジェンド達がすべてソロだということからも、いかにローリング・ストーンズというバンドが特別な存在であるか知ることができるだろう。3月にはキューバで初公演をおこない、50万人ものファンを熱狂させたのも記憶に新しいストーンズだが、ツアーに続き、英・ロンドンのサーチ・ギャラリーにてバンドの50年を振り返る初の大規模展示会「エキシビジョニズム」が4月5日よりスタートしている。
ギャラリーの9フロアをすべて使用し、音源や衣装、機材や映像など、500以上のアイテムを展示。注目は、キース・リチャーズが一番のお気に入りだと語った、ミック、キース、ブライアンの3人が共同生活を送っていたアパートが再現されたコーナー。本人が太鼓判を押すほど、リアルに“とっ散らかった”仕上がりになっているそうだ。開催は9月4日まで。日本向けのインタビューで、ミック・ジャガーがいつか日本でも開催すると答えていたが、思い切ってロンドンに飛んでみる価値も大いにありそうだ。また、最新のインタビューでスタジオに入ったことを明かしており、年内に新作を発表することを匂わせている。こちらもぜひ、続報に期待したい。
Text: 多田 愛子
フォールン・エンジェルズ
2016/05/25 RELEASE
SICP-4784 ¥ 2,640(税込)
Disc01
- 01.ヤング・アット・ハート
- 02.メイビー・ユール・ビー・ゼア
- 03.ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス
- 04.オール・ザ・ウェイ
- 05.スカイラーク
- 06.ネヴァザレス
- 07.オール・オア・ナッシング・アット・オール
- 08.オン・ア・リトル・ストリート・イン・シンガポール
- 09.イット・ハド・トゥ・ビー・ユー
- 10.メランコリー・ムード
- 11.ザット・オールド・ブラック・マジック
- 12.カム・レイン・オア・カム・シャイン
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