Special

「対等に打ち返せば受け止めてくれる」― 小曽根真 インタビュー

小曽根真インタビュー

 小曽根真とチック・コリア。世界を代表するジャズ・ピアニスト2人が、出会いから約30年を経て初のピアノ・デュオコンサートを開催する。今回は、PAを使わず、ステージから聴こえるのはアコースティックなピアノの音色のみだ。世界を舞台に幅広い音楽活動を行う2人が向かい合った時、どんなサウンドが飛び出すのか。公演に向け、インタビューを行った。
CHART insightについてのインタビューはこちらから>>>

TOP Photo: © 篠山紀信

対等に打ち返せば受け止めてくれる

−−小曽根さんがチック・コリアと出会われたのは1982年ですよね。出会った日のことは、覚えてらっしゃいますか?

小曽根真:もちろん。僕はまだ学生の頃でしたが、学校のバークリーパフォーマンスセンターというホールでイベントがあったんです。前半は学生のバンドで、後半はチック・コリアが出演する予定になっていて、学生バンドの準備中に僕がステージでピアノを練習していたら、チック・コリアが入ってきたんです。で、友人と「チック・コリアだ!」ってざわざわしていたら、チックが僕のところまでまっすぐ歩いてきて「How is a piano?」って言ったんです。もし、こんな風にチックから話しかけられたら、あなたなら何と答えますか?

−−私なら、「どうぞ。自分で確認してください」ってピアノを譲ると思います。

小曽根:そうですよね。僕も同じように「どうぞ、弾いてみますか?」って席を立ったんです。そうしたらチックが「僕は、君がピアノの音色をどう思うかを聞いたんだ。君に答えてほしい」って。それで、「I think it’s a good piano」って答えたら、チックは「OK」って言われました。衝撃的でしたし、自分の考えがいかに日本的なのかを感じさせられましたね。

−−私も、つい「私なんかがチックに感想を言うなんて」と思ってしまいそうです。

小曽根:そうですよね。でも、そもそも英語には丁寧な言い方は存在しますが“謙譲語”というものはありません。そういう発想がないんでしょうね。僕はチックから質問された時に「良いピアノ」って答えたあと、彼が弾いて「音が良くない」って感じたらどうしようって思ったんです。でもチックには、そういう考えは必要ないんだということを、そのやりとりで感じました。それは、その後彼と演奏するようになってからも同じ。彼は色んな音色を出しますが、「チックは、こういう風に返してほしいのかな」等と余計なことは考えず、対等に打ち返せば受け止めてくれます。

−−なるほど。

小曽根:実は、今 僕は学生にピアノを教えていますが、学生が対等に投げ返してこなかった時は「僕を、先生だと思って演奏しているだろ。遠慮するな」って怒ります。自分の学生時代の経験は、棚に上げて(笑)

−−音色で、遠慮しているかどうか分かりますか?

小曽根:もちろん。遠慮したり、緊張していたりする子の音は一発で分かります。緊張するということは、間違えたくないと思っているからですよね。でも学生ですから、間違えたって構わない。緊張している子には「今は間違えて当たり前」って伝えるようにしていますね。

−−間違って弾いても良いんですね。

小曽根:もちろんです。間違っても怒りません。でもそうは言っても、みんな「間違えないように弾こう」って思っちゃうんですよね。だから「学校に勉強をしに来ているのか、かっこよく見えるために来ているのかどっち?もし音楽に対して謙虚な気持ちがあるなら、今ここでボロボロになってみろ。そうしたら、絶対3年後に上手になっているから。 格好良く弾く事が大切なら僕は教えたくない。音楽よりも自分が大切な人は成長の大きさが限られちゃうからね」って言うんです。ここまで言うと、みんな体当たりで弾いてくる。そしたら面白いですよ。本当は曲がらないといけない道を直進して進んでしまって、大事故を起こす子もいますから。そういう子には「よくやった!」って褒めるようにしています。

−−間違ったのに褒められるんですね。

小曽根:バンドメンバーは、みんな弾き終わっているのに自分だけ必死で弾き続けていたりしますから、その子は大恥をかきます。でも、一度そういう経験をしたら、その子はもう二度と同じ失敗はしません。「一生懸命に演奏して素晴らしかった。あと重要なポイントを抑えるだけ」と教えれば、それで充分。だから僕は「こういう風に弾きなさい」と教えることはないんです。チックから教わった「会話をきちんと打ち返す」ということを、子供達にも実践しています。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 嘘のない会話を聴きに来て
  3. Next >

チック・コリア 小曽根真「CHICK & MAKOTO -Duets-」

CHICK & MAKOTO -Duets-

2016/04/20 RELEASE
UCCJ-2136 ¥ 2,750(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.デュエット・インプロヴィゼーション No.1 (未発表トラック)
  2. 02.ブルー・ボッサ
  3. 03.デュエット・インプロヴィゼーション No.2 (未発表トラック)
  4. 04.デュエット・インプロヴィゼーション No.3 (未発表トラック)
  5. 05.サマータイム
  6. 06.デュエット・インプロヴィゼーション No.4 (未発表トラック)
  7. 07.ラ・フィエスタ
  8. 08.クリスタル・サイレンス (未発表トラック) (Bonus Track)

関連キーワード

TAG

関連商品