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特撮『ウインカー』&ももいろクローバーZ『白金の夜明け』発売記念 NARASAKI単独インタビュー
ギタリストにしてサウンドプロデュースも手がける特撮の新作『ウインカー』 & 計3曲を提供したももクロの4thアルバム『白金の夜明け』と、2016年2月はNARASAKIが大活躍! ……ということで、新たな名盤となった『ウインカー』と大ヒット中の『白金の夜明け』の制作について、本人に訊いた。
「桃源郷」は一番普通に好きな感じ
--2月17日にももいろクローバーZの4thアルバム『白金の夜明け』がリリースされました。NARASAKIさんが手がけた楽曲は既存のものも含めて計3曲になりますが、新曲を作る上でアルバムコンセプトについては知らされていたとか。
▲YouTube「ももいろクローバーZ - 4th ALBUM「白金の夜明け」 試聴×視聴ビデオ総集編」
--また、タイトルにもあるようにプロローグとして収録されているM-01「個のA、始まりのZ -prologue-」もNARASAKIさんによる楽曲です。
NARASAKI:(プロデューサーの)宮本(純乃介)さんに「3rdと4thを繋げる感じのものになったらいいんじゃない?」っていう提案をしまして。回顧する意味で「HAPPY Re:BIRTHDAY」(3rdアルバム『AMARANTHUS』収録)のメロディをオルゴールで始めてからの逆再生とか、フェードインで始まるイメージがありましたね。--シングル『ピンキージョーンズ』のリリースから数えても、ももクロとのタッグは5年を越えました。制作は当初よりもやりやすい?
NARASAKI:5人の声の感じはわかっているというか、どういう歌なら映えるか、らしさが出るかは容易に想像できるようになりましたけど、曲を作る時はそれが最大限の魅力というわけではなく、自分の役割としてはちょっと変わった感じのスタンスでいた方がいいかなって。ももクロのサウンドは一貫してアーリー90'sみたいテーマがあって、90年代初期のものをやろうみたいな。でも「桃源郷」の 音楽のスタイルは80年代半ばな感じなんですけどね。--「桃源郷」のダンサブルなサウンドやギターの音色は、ダフト・パンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』をちょっと思い出しました。
NARASAKI:一番普通にやった感じですかね。たぶん、俺の作風をよく知っている人からすると「一番普通に好きな感じで作ったなー」っていう感じじゃないかなって思ってるんですけどね。その日によって明るく聴こえたり悲しく聴こえたり変化するのが自分が好きなので。「桃源郷」は自分らしさがすごくあると思います。『ピンキージョーンズ』は「やらかしてるなあ」
--個人的には2012年の『ピンキージョーンズ』以降、圧倒的な情報量で高めていく構成のアイドルソングが増えたように思うんですよ。
▲YouTube「ももいろクローバー/ピンキージョーンズ Web ver.(MOMOIRO CLOVER/PINKY JOHNS)」
--でも「ピンキージョーンズ」とは違うアプローチではありますが、「桃源郷」もやらかした曲だと思いますよ。
NARASAKI:イントロは確かにいまどきめずらしい感じですよね(笑)。宮本さんはそういう所を認めてもらっているんだと思いますけどね。おそらくですけど(笑)。--ももクロ以外にもBABYMETALや、最近ではLADYBABYなどの楽曲も手がけましたが、アイドルソングを聴く機会は増えましたか?
NARASAKI:以前は知らない世界だったので、多少増えましたね。--シンパシーを覚えるクリエイターなどは?
NARASAKI:(アイドル界隈は)あまり詳しくないのですが、細胞彼女やPassCodeは面白いと思います。あとベルハー。(ベルリン少女ハート)。--ももクロでは「桃源郷」のようなアプローチはあえて避けていたようにも思っていたのですが。
NARASAKI:特に意識はしていないですけどね。宮本くんが持つももクロのイメージが、もうちょっと構成やキメがいっぱいあった、バキバキした感じだと思うんですよ、なんとなく。--確かに3rd『AMARANTHUS』の方が、そういう楽曲は多いです。
NARASAKI:ですよね。展開が激しい曲とか、詰め込んでいる感じが。リリース情報
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Interviewer:杉岡祐樹
アルバム『白金の夜明け』が指し示す方向をちゃんと作れた
--また、M-11「『Z』の誓い」についてはシングル発売当初、自身のTwitterに「表題曲はpinkyjonesから5年ぶり。なので原点回帰の意味で少しだけ意識して作りました」と投稿していました。
▲YouTube「ももいろクローバーZ - 『Z』の誓い(Pledge of “Z”/MOMOIRO CLOVER Z) "Dragon Ball Z: Resurrection ‘F’" THEME SONG」
--これは後で伺おうと思っていたんですけど、特撮の新作『ウインカー』収録のM-06「富津へ」という曲で、大槻ケンヂさんに対して「もう少し抑えて歌って欲しい」とリクエストしたとか。
NARASAKI:そうですね。--ただ、「富津へ」はサウンド的にもメロディ的にも、古き良き洋楽の名曲のように歌い上げても成立する所はあると思うんですよ。
NARASAKI:強く歌う歌詞じゃないと思ったんですよね。晴れていない景色というか、どんよりとした曇りとか雨みたいなイメージがあって。作り始めた時からじんわりした感じのイメージで作っていたので。--これは「桃源郷」も含め、どこか霧がかった世界観というのはNARASAKIさんが得意とするアプローチのひとつだと思います。
NARASAKI:普段聴いている音楽がアンビエントだったり、音が色々混じっているような幻想的な曲が多いので、そういうものは好きですね。だから好きなものが出ているんじゃないかなって思いますね。--では、NARASAKIさんにとって『白金の夜明け』はどのようなアルバムになったと思いますか?
NARASAKI:世界観があって、作風的には4thの方が好きな曲が多いかなって思いました。そういうアルバムのM-01、M-02という重要な所をできてよかったと思いますし、アルバムが指し示す方向をちゃんと作れたんじゃないかなって思うんですよね。芸術性が高いアルバムになったら良いなって気持ちがあったから、プロローグもフェードインから始まる感じを提案しました。「人間蒸発」は“大槻ケンヂ”の存在感がすごい
--そしてこの両作に先んじて、2月3日にリリースされたのが特撮のニューアルバム『ウインカー』で、今月は本当にNARASAKIさんが大活躍です。
▲YouTube「特撮 NEW ALBUM「ウインカー」ダイジェストトレーラー」
--今作はセッションで作られた楽曲が多いそうですが。
NARASAKI:セッションで作ったのはM-02「音の中へ」、M-09「人間蒸発」、M-12「ハザード」ですね。去年の5、6月くらいの時に、まったく曲ができないような状態が続いていたんですよ。特撮のアルバムで何をやったらいいのか、何を提示すればいいのかがまったくできなくて、なんのモチーフも無い状態でスタジオに入ったんですね、ARIMATSUとサポートベーシストと。とにかく大きな音で合わせて……みたいなことをやって、楽しいねって所から作った曲が「人間蒸発」で。--僕にとって「人間蒸発」は現状今年No.1の名曲ですよ。曲も歌詞も最高です!
NARASAKI:なんか“大槻ケンヂ”の存在感がすごいなって。この曲は歌、歌詞がハマッてないのがすごく良いと思ってて、早口というかメロが無いというか。これは初めてに近い作り方だったと思います。ここは「こういう感じで言ってください」くらいしかメロを作ってなかったのって。--サビで迫力のあるラウドなギターを一発鳴らして、そこに荒井田メルがまた登場したりと大槻さんらしい歌詞があって、終盤に一気に加速してあの一言でシメる。完璧な1曲ですよ。
NARASAKI:ハハハ(笑)。--重ねて厚くするのではなく豪快な音で圧倒するサウンドって、最近あんまり聴いてなかったのでものすごく感動してしまいました。
NARASAKI:70年代によくあったロックのテイストだと思うんですよ、土台は。モーターヘッドだったりブラック・サバスだったり。そこに大槻さんがああいう感じできて、わかりやすいサビがあって。メンバーもみんな余裕があって自由にできて。作り込まない面白さが上手くいったんじゃないですかね。イメージですけど今は展開が激しいロックが流行ってますから、おじさんはおじさんの通ってきた道をというか。メンバーはみんな手癖でやっている感があって、それが特撮らしさなんじゃないですかね。ピアノの三柴さんは譜面を渡せば何でも弾けるくらい達者だなと思うんですけど、おおむねいつも三柴さんらしいピアノが聴けますし。
--三柴さんが作曲したM-08「ハンマーはトントン」のリフも、ならではな感じですよね。
NARASAKI:なんなんでしょうね、あの不思議な感じ(笑)。打楽器的な感じっていうんですかね。ピアノはハンマーで弦を叩いて音を出す楽器でもありますし、面白いですよね。携帯のメールに送られてくる“ズズンズンズンプリズンプリズン”
--歌詞に関しては、大槻さんはM-03「愛のプリズン」に対して大きな思い入れがあるようで。
NARASAKI:相当気に入ってるみたいで嬉しいですね(笑)。--大槻さんがずっと歌ってきた愛についての考え方、アイロニーやペーソスも含めた表現を、ある意味非常に歌詞らしい歌詞で作り上げている点がすばらしいと思います。
NARASAKI:完成した歌詞って最初、俺の携帯のメールに送られてくるんですよ、改行無しで。ただでさえ読みにくい上に、来た歌詞が“ズズンズンズンプリズンプリズン”ですから。「やべえのがキタ!」って(笑)、最初は何事かと思いましたね。--河田貴央さんが編曲したアニメ主題歌ver.は2Aでリズムが変化したりしていましたが、今回のバージョンはより直情的ですよね。
NARASAKI:「愛のプリズン」は18歳の自分が作る感じというか、自分がハードコアパンクだった時の感覚で作ったので、2番でリズムが半分になる世界はその頃の自分にはまだ無かったんですよ(笑)。なので特撮はもっと直線的でいいだろうと思って。--大槻さんはよくインタビュー等で、特撮の音楽はミニマルミュージックっぽいと表現されますが、ループの中で気持ちいいグルーヴを生み出していくのは特撮ならではとも言えますよね。
NARASAKI:1stの頃から自分と三柴さんはミニマルを好きで、当時「マリリン・マラソン」っていう不思議な曲があって、なかなか終わらないミニマルをやってるっていう。今振り返ると本当に天才的だなって思うんですけど、何であんな構成だったのか……。今だったらタブーですね(笑)。--え、そうなんですか? ARIMATSUさんが作曲したM-08「中古車ディーラー」で強烈なリフがループする感じや、前作に収録されていた「桜の雨」も構成は複雑ですが……
NARASAKI:あれはちょっとミニマル的ですよね。リリース情報
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Interviewer:杉岡祐樹
『ヌイグルマーZ』で一番やっちゃいけないことをやった
--そういう楽曲が、M-05「シネマタイズ」やM-10「7人の妖」のようにある種、特撮のパブリックイメージ通りの曲と混在しているのが今作の素晴らしい所だと思います。
▲YouTube「特撮 NEW ALBUM「ウインカー」ダイジェストトレーラー」
まったく何にも作れなくなった時から、ああだこうだ悩みに悩んで「人間蒸発」とか、ちょっと静かめの「荒井田メルの上昇」とか「富津へ」とか全然違うものを作って。そういうのも経て最後に作ったのが、一番特撮っぽい曲だった。元サヤに戻った結果を出せてすごくよかったなって。 端から見た特撮のイメージってこれだなっていう、このギターの音で、このテンポでっていう吹っ切れ方で「7人の妖」ができて、今だったらまたすぐアルバムが作れそうな感じです。本当に悩んでたから……。
--悩んでいた理由というのは?
NARASAKI:俺は映画『ヌイグルマーZ』で一番やっちゃいけないことをやったような気がして……。自分はロックを演出として考えちゃいけないと思うんですよ。自分は劇伴作家とかもやりますけど、そういうことと真逆なものがロックというか・・・、演出として成らないものがロック。なのに『ヌイグルマーZ』の時に、その両方とも成り立つものをやってしまったというか。その演出としてロックを差し込むことを引きずっていて、特撮だったら、そういう演出みたいな考え方は全部捨ててやらなきゃいけないと思っていたんです。曲がある限りそこに演出があるように感じるなら、それを捨ててやらないとダメかな?っていう葛藤と戦っていた、っていう感じですかね。
上手いこと「こうやったら気に入られるんじゃないか」とか「数字が伸びるんじゃないか」とか、そういったっ邪念を捨てて制作したいっていう気持ちですかね。だから三柴さんが持ってきた曲とかを聴いて安心して「ああ、そういうことでいいんだな」って、「自分の居場所を探す場所でいいんだな、特撮は」って。
--たとえばギターの音色からも「この音が一発鳴れば気持ちいい」みたいな、一番原点にあるような強い衝動が、特に「中古車ディーラー」「ハンマーはトントン」「人間蒸発」「7人の妖」という並びからは痛感させれられました。
NARASAKI:おお。--なのに、アルバムとしては「荒井田メルの上昇」というバラードから始まる感じが最高で、また凄い名盤が誕生したと思ってます。
NARASAKI:ありがとうございます。それも不思議というか、ギターの機材もどんどん進化していて、今定番的に使われているものも持っていますし仕事では使っているんですけど、今回のこのアルバムでは12~3年前、1stから3rdまででよく使っていた機材でやったんですよ。それが音抜けが悪くて……(笑)。そもそもそういう機材なんですけど、その頃と同じ音がちゃんと出てるというか。まあ、自分探しをしてたこともあって、結果として抜けてこない、でもそれでいいんだっていうような割り切り方というか。そういうことも踏まえることができたかな。
ボブ・ディランのイメージ
NARASAKI:自分が納得するものをやればいいっていう話であって、それが昔の自分を肯定する意味もあった。やっぱりミュージシャンって10年前の作品とかって聴けないと思うんですよ、幼いというか未熟な部分がたくさんあって。でも今は一周して、その良くない感じが良い、みたいに許せるようになったというか。特撮の場合、色んなものを取っ払ってやってて、良いとか悪いとかの基準であんまりやってないというか。
--今作は15周年記念盤と銘打たれていますが、そのキャリアを経て辿り着いたのでしょうか?
NARASAKI:特撮が始まった2000年の時からサウンド・プロデューサーとして入ってましたけど、その頃とはスキルが違うと思います。でもやっぱり音楽的な考え方とかあり方とかは、三柴さんの意見を良く聞いていて、良く話してます。何を持って良いとするかは、特撮では自分があんまり決めない方がいいかな、と思っていて。いびつなものも含めてまとめていこうって感じですかね。--そういう今の雰囲気が一番表れている1曲をあえて選ぶとすると?
NARASAKI:それは……ちょっと、難しいかなー……。--僕が勝手にリスナーとして思ったのは、やっぱり「人間蒸発」かなと思いましたね。頭から終わりまで特撮じゃなければ出せない音、できない展開がわかりやすく出ている。この4人である理由がそのまま音になっていますし、これが今の日本の音楽として発表されることがすごいと思います。
NARASAKI:歌の感じがまず聴かない感じですよね、……歌なのか何なのか(笑)。俺、全然聴いたことないんですけど、ボブ・ディランのイメージがあって。本当に全然聴いたことないんですけど、早口で詰め込んでる感じとか、歌なのかしゃべりなのかわからないみたいな、何となくなんですけど。あと、奇跡的に良いと思ったのが、この曲の最後、「ハザード 人間蒸発 それでも」の後に「あ、あ……」って狼狽してから「夢と希望を持て」じゃないですか。ここは大槻さんが実際にうろたえてしまって録れたものなのですが、それがすごく面白くて良いと思って。
--「愛のプリズン」とも通じる部分があって、今、大槻さんがこの言葉を歌うことが感動的ですらありますよ。
NARASAKI:いきなりっていう感じもするけど!(笑) それも良いんですよね。このセリフはワンテイクで言ってますからね。--これがライブでどう表現されるのか、すごい楽しみですよね。
NARASAKI:ツアーでもやりますんで、ぜひ。--……なんてシメておいてなんですが、やっぱり1曲を選ぶのは難しいですか?(笑)
NARASAKI:んー! なんだろうなー……。大槻さんは「愛のプリズン」って言ってるけど、俺は「音の中へ」かな。なんか楽しい曲だし、、、あれ?この曲しかメジャーの曲って無いのかもしれない(笑)。【特撮「ウインカー」発売記念ツアー】
2016年2月20日(土) 渋谷WWW(終了)
OPEN 17:00 / START 18:00
2016年2月27日(土) 大阪 umeda AKASO
OPEN 17:00 / START 18:00
2016年2月28日(日) 名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 16:30 / START 17:30
【ウインカーツアー 対バン編! 「特撮!NoGoD!打首獄門同好会!」】
2016年3月11日(金) 恵比寿リキッドルーム
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:特撮、NoGoD、打首獄門同好会
リリース情報
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Interviewer:杉岡祐樹
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