Billboard JAPAN


Special

沖野修也×谷口慶介(Playwright) Billbioard Liveスペシャル対談

 新世代のジャズが多面的な盛り上がりを見せる中にあって、3月に象徴的な公演がふたつ開催される。ひとつはMondo Grossoが90年に行ったヨーロッパ・ツアーの模様を収録したライブ盤『The European Expedition』の発売20周年を記念したトリビュート・ライブで、B-BandjやMonday満ちるといった当時のメンバーと、SOIL&"PIMP"SESSIONSら、Mondo Grossoに影響を受けた世代のミュージシャンが融合し、スペシャルなライブを披露する。もうひとつはfox capture planの結成5周年を記念したアニバーサリー・ライブ。こちらはストリングス・カルテットを招いた特別編成でのライブが行われる。

 今回は当時Mondo Grossoのマネージャーを務め、トリビュート・ライブの企画者でもあるKyoto Jazz Massiveの沖野修也と、fox capture planが所属するレーベルPlaywrightを主宰する谷口慶介を迎え、両者の対談を行った。90年代のアシッド・ジャズ・ムーヴメントの立役者である沖野と、そんな沖野の背中を見つめ、アーティストよりも裏方の仕事に憧れてきた谷口の対話からは、日本のジャズ・シーンが築き上げてきた豊饒な歴史の一端が感じられるはずだ。(取材・文:金子厚武)

京都から海外への視線 国内アシッド・ジャズ・シーンの誕生

――まずは90年代初頭の日本でいかにしてアシッド・ジャズのシーンが形成されて行ったのかを振り返っていただけますか?

沖野修也:当時、東京にはU.F.O.(United Future Organization)がいて、関西にはKyoto Jazz MassiveやMondo Grossoがいたわけですけど、すごく海外を意識していて、日本のメジャーな音楽シーンは視界になかったですね。僕は20歳のときにロンドンに行って、実際にアシッド・ジャズのシーンを見てきて、こういうシーンを日本でも作りたいと思ったんです。面白かったのが、ロンドンの人が日本のジャズやフュージョンをかけていたんですよ。今でこそ「和モノ」って言われますけど、僕は結構早い段階からそこに注目していて、旧譜の日本人ジャズと、Mondo Grossoなどの新しい世代の日本人アーティストを混ぜて発信できないかっていうのがありました。

――谷口さんは当時まだ学生ですよね?

谷口慶介:僕はずっとファンだったんです(笑)。ソイル(SOIL&"PIMP"SESSIONS)の社長とは中学一年から同級生なんですけど、ビートルズとかを聴いた後に、「もっとかっこいい音楽は何だろう?」って2人で話してた中で、沖野さんがこっちに来て、THE ROOMができて、そこからが僕や社長の音楽人生の始まりだったんです。Mondo Grossoに関しては、僕は大学を卒業するときに、『FAMILY』のアナログ盤を持って写真を撮ったんですよ。このアートワークは最高でしたね。一昨年に『FAMILY』っていうPlaywrightレーベルのコンピレーションを作ったんですけど、そのジャケットもアフリカで撮った写真を使っていて、Mondo Grosso盤の雰囲気をちょっとモチーフにさせてもらいました。だから、さっきの沖野さんの話で言うと、僕にとっての海外がKyoto Jazz Massiveだったんです。

――当時Mondo Grossoはどのようにして音楽性を確立していったのでしょうか?

沖野:まだ大沢くんと知り合う前に、U.F.O.の松浦(俊夫)くんと一緒に京都のWHOOPEE'SってライブハウスでMondo Grossoのライブを初めて見たんですよ。もともと大沢くんがニューウェイヴのバンドにいたのもあって、当時はThe Lounge Lizards的な、ニューヨークのパンク・ジャズみたいな感じだったかな。僕はその頃CONTAINERってクラブで店長をしてたんですけど、そこでDJをやってたときにたまたま『Straight No Chaser』って雑誌の編集長のポール・ブラッドショウと、GALLIANOのロブ・ギャラガーが遊びに来てたんですよ。そうしたら、僕のDJが印象的だったみたいで、ロンドンの雑誌にチャートを書いてくれって言われて、書き始めたんです。そういうこともあって、京都の人も僕に興味を持ってくれるようになって、ある日噂を聞きつけた大沢くんから「一緒にやりませんか?」って電話があって。

――なるほど。

沖野:その頃ちょうどCONTAINERをやめて、フリーでDJを始めたときだったんで、それからはDJがKyoto Jazz Massive、ライブがMondo Grossoって形で、METROでイベントをやるようになるんです。それでMondo Grossoのリハーサルにも顔を出すようになって、意見を言うようになってから、音楽性がアシッド・ジャズ化していったというか。もちろん、大沢くんもそういうのはチェックしてたし、そこにB-Bandjが入って、ジャジーなヒップホップのエッセンスが加わり、METROの店長だった中村雅人をサックスで加えて、だんだんジャズ度が上がっていったんです。

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東京、そして日本のジャズ・シーンへ

――そして、1993年にMondo Grossoのデビューと共に上京して、渋谷にTHE ROOMを開店させたと。

沖野:京都ではCONTAINERやMETROがあったことが大きかったから、東京にも自分がコントロールできる空間があった方がいいと思ったんです。そこでMondo Grossoのメンバーも働けるし、たまれるし。オープン前はGOLDやINK STICKとかに行って、どんどんお金がなくなってたんだけど、自分でお店を開けば、タダでお酒飲めるし、稼げるし、一石三鳥ぐらい(笑)。で、ラッキーなことに瀧見(憲司)くんがオープニングからいて、ラヴ・タンバリンズがデビューしたし、小山田(圭吾)くんとかカヒミ・カリィが来たり、やっぱりTHE ROOMは大きかったですね。当時、渋谷系の文脈でTHE ROOMが語られることはあんまりなかったですけど、アシッド・ジャズだけじゃなくて、フリー・ソウルのムーヴメントもTHE ROOMで盛り上がった感覚がありますね。

――谷口さんは当時THE ROOMをはじめとしたクラブに通っていたわけですか?

谷口:同級生がNIRVANAのコピーバンドとかを始める頃に、僕はU.F.O.の「Loud Minority」に衝撃を受けて、クラブに行くようになったんです。初めて行ったのは青山のBlueだったんですけど、2周年のパーティーかなんかで、骨董通りの入口くらいまで行列ができてて。ジャイルス(・ピーターソン)が来てたんで、たぶん沖野さんもいらっしゃったと思うんですけど、Monday(満ちる)さんもいたし、ホントに勢揃いって感じで、そのときの衝撃はでかかったなあ。


▲「Loud Minority」(MV)

沖野:やっぱり「Loud Minority」は大きくて、「東京のジャズ・シーンが来てるな」って狼煙を上げる感じだったと思うんですけど、U.F.O.がDJのコラージュアートみたいなトラックだったのに対して、Mondo Grossoはバンドで、ヒップホップとかブラジリアンも混ざった、よりクロスオーヴァーっぽい、どの国にもないミクスチャー音楽みたいなのを目指してましたね。シーンとしては、そこにDJ KRUSHがいて、Mondayがいて、SILENT POETSがいて、SOUL BOSSA TRIOがいて、SPIRITUAL VIBESがいて……ロンドンに追いついたとまでは言わないけど、日本のシーンと言えるだけのアーティストが出揃った感はありました。DJがいて、バンドがいて、アシッド・ジャズのシーンが可視化されて行ったというかね。

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3世代のレイヤーによるトリビュート・ライブ

――今回『The European Expedition』のトリビュート・ライブが開催されるに至ったのは、どういった経緯があったのでしょうか?


▲Mondo Grosso
『The European Expedition』

沖野:そもそものきっかけは、ROOT SOULの池田(憲一)が専門学校生の頃、ソイルの元晴がバークレー時代にアメリカで、同時期にMondo Grossoのライブ盤を聴いてたらしいんです。彼等がそれに憧れて音楽をやってたって聞いて、「そうなの?」って思ったことなんですよ。もちろん、社長とか野崎(良太/Jazztoronik)くんとか、下の世代がMondo Grossoを聴いててもおかしくはないんだけど、僕としては彼らと一音楽仲間っていう感じで接してたので、元くんとかがMondo Grossoの影響を受けてるとは夢にも思ってなかったんです。

――なるほど。

沖野:で、Mondo Grosso再結成の話っていうのは、これまでも何かの区切りのタイミングで何回か話には出てたんですけど、大沢くんは過去を振り返るタイプじゃないので、流れ流れてたんです。でも、ちょうど去年が『The European Expedition』の20周年で、元晴とか池田がそれに影響を受けたって聞いて、これは影響を受けたメンバーを集めて、それでライブをやったら面白いんちゃうかなって思ったんですよ。だから、再結成ではなくて、Mondo Grossoをモチーフに、若い世代……って言っても、結構キャリアありますけど(笑)、僕からしたら10歳以上下の世代が、Mondo Grossoをどう解釈してくれるのかに興味があったんです。

――元晴さんと池田さん以外の参加メンバーはどのように選んでいったのですか?

沖野:キーボードは野崎くんっていう案もあったんだけど、平戸祐介はKyoto Jazz Sextetで一緒で、彼も『The European Expedition』に影響を受けてるって言ってて、cro-magnonのコスガツヨシも、バークレーで聴いてたらしいんです。ただ、若手を集めるだけじゃなくて、ラップはオリジナルメンバーのB-Bandjっていうのは僕の中で外せなかったんですよ。彼の息子もラッパーで、息子に入れ替えるのもいいかなって思ったんだけど、まだプロデビューしてないから、素人ステージに上げちゃあかんだろと(笑)。で、たまたまMondayさんの来日も近かったから、その2人に参加してもらえれば、世代が2世代にまたがるじゃないですか?

――さらに、ゲストドラマーとして屋敷豪太さんが参加されますね。

沖野:僕今京都に住んでて、豪太さんとはちょくちょくやりとりがあるんで、「ここに豪太さん入れたらどうだろう?」って思って。Mondo Grossoに影響を受けた世代、Mondo Grossoに参加していたラッパーとボーカル、そこにさらに僕らが憧れてたSoul II Soulのメンバーが入る。この3世代のレイヤーが面白いなって。ある意味、トリビュートでありながら、Mondo Grossoをモチーフに、今の日本のオールスターが新しいバンドを作るみたいな感覚でもあって、トリビュート・ライブは一回だけですけど、このメンバーで化学反応が起きて、全然違う音楽を作るのも面白いだろうし。

谷口:一個だけ物申したいのは、たぶんタブゾンビは、当時デスメタルを聴いてたはずです(笑)。

沖野:まさにその指摘通りで、タブくんは最初招集してなかったんです。でも、元晴から絶対タブがいいってアピールがあったんですよ。もともとMondo Grossoはサックスとフルートの2管なんで、元晴がアルトで、最初テナーはKyoto Jazz Sextetでやってる栗原健に声をかけたら、Mountain Mocha Kilimanjaroのオーストラリアツアーと被ってたんですよ。それで元晴に相談したら、タブがいいって言われて、オリジナルとは違うサックスとトランペットっていうのも面白いかなって。だから、タブは今必死で聴いてるんちゃいます?(笑)

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ジャズ・シーンの世代間の接点

――同じ3月にはストリングス・カルテットを招いたfox capture planの公演もありますね。

沖野:フォックスはどうやって関わったの?


▲fox capture plan
『BUTTERFLY』

谷口:もともとベースのカワイ(ヒデヒロ)がImmigrant's Bossa Bandをやっていたので、彼のことはよく知ってて、新しいバンドを組んだっていうのも知ってたんです。そうしたら、あるとき「手売り用のCDを作りたいんですけど、お金がないんで、谷口さん作ってもらえませんか?」って言われて(笑)。で、「せっかく作るんだったら、タワレコ新宿で100枚限定で売るとか、そういうこともやってみたら?」って提案して、実際出したら一瞬で売り切れて。そこから徐々に一緒にやっていった感じですね。

――昨年は一年で3枚のアルバムリリースも話題になりましたが、今回の公演はどんな風に位置付けているのでしょうか?

谷口:今年で5周年なので、何かしらやりたいとは言っていたんですけど、具体的には何も決まっていなかったところに、ちょうどお話をいただいたので、これはもうやっちまおうっていう(笑)。フォックスはいつもそうで、一生懸命考えて、「これはもうちょっと寝かせておこう」じゃなくて、ちょっとでも興味があれば、「やります!」っていうスタンスなんです。「来年3枚出しちゃう?」「やりますか!」みたいな(笑)。今回もそんな感じで、5周年企画のスタートって感じですかね。

――Playwrightレーベルをはじめ、今新たなジャズ・シーンが盛り上がりを見せていますが、谷口さんは90年代のアシッド・ジャズとの関連性をどのように感じられていますか?

谷口:基本的には、僕らのファン層とは違うものだと思っていて、僕がレーベルを始めるにあたっても、アシッド・ジャズとかクラブ・ジャズ、「リバイバル」とか、そういうキーワードはなるべく使わないようにしました。僕もたまにDJをやるので、現場の雰囲気を体感する中で、今はそこに乗っかる雰囲気じゃないと感じていたので、ちょっと違うことをやりたいなって。僕らは常に新しい提案をしていかなくちゃいけないとも思うから、フォックスみたいな変拍子の曲をクラブでかけたりして、だから音楽性に関しては全然違うと思うんですけど、ただ、その広め方に関しては、いろいろマネをさせていただいてる感じですね。『The European Expedition』のようなヨーロッパ・ツアーとかもまだやれてないですし、常に目標にしていて、だから螺旋構造のような少しずつ形を変えながら繰り返すイメージでしょうか。

沖野:僕はタワレコの京都店でフォックスを知って、確かに、違う文脈でやってるなっていうのはわかった。どっちかというと、ライブ寄りのお客さんを対象としてて、僕らのお客さんとはちょっと違うなって。今で言うと、GOGO PENGUINとかが近くて、ドラムンベースもブレイクビーツも好きだけど、ちゃんと演奏もできるって感じで、僕らはもともとジャズやソウルの旧譜が好きで、それを新譜にスライドさせていった人たちだから、背景が全然違うんですよね。

――確かに、そうですね。

沖野:ただ、GOGO PENGUINもジャイルスが見つけてプッシュしてるし、フォックスも谷口さんが関わってるって知って、ちょっと安心したんです。90年代を含め、これまでの音楽をちゃんと知った上で、使えるところは使って、差別化するところは差別化されてるから、どこか繋がる部分はある。これが何の接点もなかったら、将来的に交わるのは難しいし、今日みたいな機会もなかったと思うんですよ。「あの人たちはフェスの人」ってなってたかもしれないけど、谷口さんがいてくれることで、繋がることができた。だから、どこかで僕や大沢君とフォックスが交わる瞬間っていうのも、きっとあるんじゃないかって思いますね。

MONDO GROSSO「The European Expedition」

The European Expedition

2004/09/22 RELEASE
FLCG-3113 ¥ 3,666(税込)

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Disc01
  1. 01.BUDDHA
  2. 02.YELLOW NOTE (LIVE VERSION)
  3. 03.PIVOT THROW
  4. 04.ANGER (LIVE VERSION)
  5. 05.VIBE・P・M
  6. 06.ESPIRITO,ALLEGLIA,EMOSAU
  7. 07.INVISIBLE MAN
  8. 08.SOUFFLES H
  9. 09.THAT’S HOW IT IS (LIVE VERSION)

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