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ビーチ・ボーイズ 来日記念特集 ~1988年「ココモ」以降のビーチ・ボーイズ~
「サーフィン・U.S.A」「ファン・ファン・ファン」など、アメリカ西海岸の海と太陽を彷彿させるヒット曲の数々で60年代の全米音楽シーンに頭角を現し、ロック史における金字塔『ペット・サウンズ』ほか、これまでに数えきれない作品と功績を残してきたアメリカを代表するロック・レジェンド、ビーチ・ボーイズ。
2016年は『ペット・サウンズ』のリリース50周年記念イヤーとなり、バンドのサウンド面をリードしてきたブライアン・ウィルソンと現在までビーチ・ボーイズの名前を守り続けてきたマイク・ラヴ率いる現ビーチ・ボーイズの来日公演がそれぞれ決定している。ここでは、チャートを席巻した60年代のヒット曲の数々や名盤『ペット・サウンズ』ではなく、それから20年以上の歳月を経て再び全米No.1に輝いたヒット曲「ココモ」(1988年)以降のビーチ・ボーイズにあえて焦点を絞り、そのキャリアを振り返ってみたい。
80年代のビーチ・ボーイズ
まずは当時のビーチ・ボーイズについて少し説明しておこう。70年代以降、精神的に問題を抱えていたブライアン・ウィルソンのバンド不参加や、ソロ活動を希望したカール・ウィルソンの一時離脱など、80年代前半の彼らは常にどこかの車輪が欠けているような状態で、メンバー間の関係も決して良いものではなかった。さらに、83年にデニス・ウィルソンの事故死という大きな悲しみがバンドを襲った。
▲ 「Good Vibrations」 at Live Aid 1985
しかし、デニスの死という悲しみを乗り越えた彼らは、85年6月に“再出発作”としてバンド名を冠したアルバム『ザ・ビーチ・ボーイズ('85)』を発表する。当時の音楽シーンを席巻していたカルチャー・クラブの仕掛人、スティーヴ・レヴィンのもとでメンバー全員が曲を作り、さらに外部ソングライターとしてスティーヴィー・ワンダーとカルチャー・クラブを起用、レコーディングにはゲイリー・ムーアがゲストで参加するなど、時代に沿ったアプローチを試みたものの、結果は全米52位と商業的には大きな成功にはいたらなかった。リリース直後の7月には【ライヴ・エイド】で、ひさびさにブライアンを含むメンバー5人が集結してパフォーマンスを行うが、以降、ブライアンは再びバンドを離脱。正式なバンド脱退こそないものの、88年に初のソロ作『ブライアン・ウィルソン』を発表し、ソロ・アーティストとして音楽シーンへ復帰することになった。
22年ぶりの全米No.1「ココモ」大ヒットとその後
ビーチ・ボーイズが「ココモ」を発表したのは、ちょうどそんな時だった。ジャマイカにあるリゾート地を描いた「ココモ」は、マイク・ラヴとプロデューサーのテリー・メルチャー、元ママス&パパスのジョン・フィリップス、シンガーソングライターのスコット・マッケンジーの共作によるもので、バンドを離脱していたブライアン・ウィルソンは一切参加していない。しかし、同曲のレコーディングにはドラムにジム・ケルトナー、ギターにライ・クーダー、そしてアコーディオンには、かつてアルバムの共同制作も試みた旧友、ヴァン・ダイク・パークスが参加するなど、ブライアン不在を補って余りある超強力布陣で、再び音楽史に残る名曲を作り上げたのだった。
ちなみに、「ココモ」のレコーディングには参加していないブライアンだが、日本でも人気を博した海外ドラマ『フルハウス』に久々にビーチ・ボーイズの一員としてゲスト出演(1988年11月放送/シーズン2・第6話「ビーチ・ボーイズがやってきた!」)し、ドラマ内で「ココモ」をパフォーマンスしている。これがブライアンにとって初の「ココモ」参加となったのは、ファンの間では有名なエピソードである。さらにドイツ国内限定発売された同曲のスペイン語バージョンにもブライアンはコーラスとして参加している。
久々の大ヒット曲に恵まれたこの年、ビーチ・ボーイズはビートルズ、ザ・ドリフターズ、ボブ・ディラン、スプリームスとともに「ロックの殿堂」入りも果たしている。これらの追い風を受け、翌89年には「ココモ」を収録した『スティル・クルージン』、3年後の92年には『サマー・イン・パラダイス』を発表しているが、全盛期のような高い評価を受けるにはいたらなかった。そして1998年2月、カール・ウィルソンが肺がんによりこの世を去り、アル・ジャーディンもバンドから離脱。バンドは空中分解状態となり、マイク・ラヴとブルース・ジョンストンが引き続き“ビーチ・ボーイズ”を名乗り、ライブを中心に活動を続けるようになった。以降、彼らの直接的な交流はほとんどなく、2001年に第43回グラミー賞功労賞受賞のため揃って授賞式に姿を現しただけ。その際もメンバー間には終始ピリピリした雰囲気が漂っていたという。
奇跡の再集結から現在
しかし、デビュー40周年を過ぎたあたりから、事実上分裂状態にあったビーチ・ボーイズの各メンバーが、再び交流を持つようになったという情報が徐々に流れ始めるようになっていく。そして2006年5月、ついにビーチ・ボーイズ名義のアルバム『ソングス・フロム・ヒア・アンド・バック』が期間限定でリリースされる。同作品は1974年と1989年のライブ音源と、ブライアン、アル、マイクによるソロ各1曲を収録したものではあったが、これはオリジナル・メンバー再集結への布石であるとして、多くのファンの期待をあおった。さらに5月には、ベスト盤『サウンズ・オブ・サマー』のダブル・プラチナム獲得を記念したセレモニーにブライアン、マイク、アル、ブルース、デヴィッドが揃って出席した。その後、数年の間にブライアンとアル、マイクとアルなどの組み合わせで共演が実現しているが、2011年、ついに再集結への動きが本格化する。
まずは4月に東日本大震災へのチャリティ・シングル「フレンズ(アカペラ・ヴァージョン)」を、続いてアルのソロ作『ア・ポストカード・フロム・カリフォルニア』にビーチ・ボーイズの未発表曲「ドント・ファイト・ザ・シー」をカップリングした7インチシングルを発表。さらに11月には全メンバーの合意のもと、60年代に“失われたアルバム”と称された未発表音源を再構築した作品『スマイル』を発表した。これら一連の動向は往年のファンのみならず、彼らに影響を受けたミュージシャンやフォロワーの間でも大きな注目を集め、『スマイル』は過去音源ながら全米27位を獲得した。そして、デビュー50周年を迎える2012年にオリジナル・メンバーでリユニオン・ワールド・ツアーを行うことが正式にアナウンスされた。
こうして迎えたデビュー50周年記念イヤーの2012年2月には第54回グラミー賞授賞式にてマルーン5、フォスター・ザ・ピープルとともに名曲「グッド・バイブレーション」のパフォーマンスをおこない、4月からはワールド・ツアーも予定通りキックオフ。6月には新作『ゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオ~』を発表し、1976年の『15・ビッグ・ワンズ』以来約36年ぶりに全米ビルボードアルバムTOP10入りとなる3位を記録している。同年秋まで続いたツアー終了後もオリジナル・メンバーでの活動継続を望む声はファンのみならず、メンバー本人からも聞こえていたが、残念ながら様々な事情により再び別々の道を歩むことになった。
<関連ニュース:ビーチ・ボーイズからB・ウィルソンがクビ? マイク・ラヴは否定>以降、ブライアンとアルの2人は共演をおこないながらも、それぞれソロ・アーティストとしての活動に戻り、マイクとブルースはこれまで通りビーチ・ボーイズとしてライブを中心に現在も活動を続けている。
『ペット・サウンズ』発表から50年、再び日本へ
名盤『ペット・サウンズ』のリリースから50年の節目となる今年は、ブライアン・ウィルソン、そしてマイク&ブルース率いるビーチ・ボーイズによる来日公演がそれぞれおこなわれる予定となっている。ブライアン・ウィルソンはアル・ジャーディンやブロンディ・チャップリンらとともに『ペット・サウンズ』の再現ライブを、一方、マイク&ブルースによるビーチ・ボーイズの来日公演にも2人のゲスト・アーティストの参加が決定している。1人目は「ココモ」のレコーディングをはじめ、80年代以降のビーチ・ボーイズの活動に数多く参加する一方でブライアン・ウィルソン・バンドとしても活躍してきたジェフリー・フォスケット。もう1人は、ビーチ・ボーイズのサウンドにも多大な影響を与えたコーラス・グループ、フォー・フレッシュメンのリード・ボーカルを務めていたブライアン・アイケンバーガーという、これまたファンにはたまらない豪華布陣。どちらの公演もファンにとっては絶対に見逃すことのできない、プレミアムなものとなるだろう。
公演情報
The Beach Boys
ビルボードライブ東京:2016年3月23日(水)~24日(木)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2016年3月26日(土)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
マイク・ラヴ / Mike Love (Vocals)
ブルース・ジョンストン / Bruce Johnston (Vocals, Keyboards)
ジェフリー・フォスケット / Jeffrey Fosket (Vocals, Guitar)
スコット・トッテン / Scott Totten (Vocals, Guitar)
ティモシー・ボノーム / Timothy Bonhomme (Piano)
ブライアン・アイケンバーガー / Brian Eichenberger (Vocals, Bass)
ジョン・カウシル / John Cowsill (Vocals, Drums)
Brian Wilson
presents Pet Sounds
東京国際フォーラム ホールA:2016年4月12日(火)~13日(水)
オリックス劇場:2016年4月15日(金)
INFO: bw-japantour.com
BAND MEMBERS
ブライアン・ウィルソン / Brian Wilson
ポール・マーテンズ / Paul Mertens(Music Director, Horns, Vocals)
アル・ジャーディン / Al Jardine(Guitars & Vocals)
ブロンディ・チャップリン / Blondie Chaplin(Guitar & Vocals)
ダリアン・サハナジャ / Darian Sahanaja(Keyboards & Vocals)
ゲイリー・グリフィン / Gary Griffin(Keyboards & Vocals)
マイク・ダミコ / Mike D’Amico(Drums)
ネルソン・ブラッグ / Nelson Bragg (Percussion & Vocals)
ニック・ワルスコ / Nick Walusko (Guitar & Vocals)
プロビン・グレゴリー / Probyn Gregory(Guitars & Vocals)
ボブ・リジック / Bob Lizik(Bass)
マット・ジャーディン / Matt Jardine(Vocals)
関連リンク
Text: 多田 愛子
カリフォルニア・フィーリン ベスト・オブ・ビーチ・ボーイズ
2015/07/15 RELEASE
UICY-15389 ¥ 2,241(税込)
Disc01
- 01.サーファー・ガール
- 02.イン・マイ・ルーム
- 03.ドント・ウォリー・ベイビー
- 04.太陽あびて
- 05.アイ・ゲット・アラウンド (モノラル録音)
- 06.カリフォルニア・ガールズ
- 07.キャロライン・ノー (モノラル録音)
- 08.神のみぞ知る (モノラル録音)
- 09.グッド・ヴァイブレーション (モノラル録音)
- 10.英雄と悪漢
- 11.サーフズ・アップ
- 12.ワンダフル (モノラル録音)
- 13.ビジー・ドゥーイン・ナッシン
- 14.ウィアー・トゥゲザー・アゲイン
- 15.タイム・トゥ・ゲット・アローン
- 16.ディス・ホウル・ワールド
- 17.ティル・アイ・ダイ
- 18.マーセラ
- 19.セイル・オン・セイラー
- 20.カリフォルニア・フィーリン
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