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クリス・デイヴ & the Drumhedz 来日記念特集 ~ Text:柳樂光隆(Jazz The New Chapter)(再掲)
ロバート・グラスパー、ディアンジェロ、アデルなど等、現代のジャズ/ブラック・ミュージック~ポップ・シーンの最重要アーティスト達と数々の共演を果たし、音楽の新たな可能性を切り拓いて来たドラマー、クリス・デイヴ。来たる10月10日からは、クリス・デイヴ&ドラムヘッズとして、来日公演も行う。
今回はそんなクリス・デイヴの音楽の革新性を改めて検証すべく、『Jazz The New Chapter』の監修者としても知られるジャズ評論家、柳樂光隆氏に、彼のプレイ、そしてその音楽家としてのキャリアを、数々の動画と共に振り返って貰った。題して「動画で“再発見”するクリス・デイヴ」特集。来日に向けた予習にぜひご覧頂きたい。
新たなるグルーヴを模索し続けるクリス・デイヴ&ドラムヘッズ
▲CHRIS DAVE AND
THE DRUMHEDZ MIXTAPE
ここ数年のジャズ・シーンの隆盛に最も貢献したミュージシャンとして、クリス・デイヴをあげることに異論がある人はいるだろうか。ロバート・グラスパーの『Double Booked』『Black Radio』はヒップホップ育ちのジャズ・ミュージシャンによるマイルストーンであるだけでなく、ここでクリス・デイヴがもたらしたリズムが、多くのミュージシャンを刺激し、ジャズ・ミュージシャンたちによる様々な形のクロスオーヴァーの呼び水になったことも重要だろう。そのクリス・デイヴは自らのグループ“ドラムヘッズ”を率いて、新たなるグルーヴを模索し続けている。
まずはクリス・デイヴが現在唯一リリースしているフリーダウンロードのアルバム『CHRIS DAVE AND THE DRUMHEDZ MIXTAPE』をダウンロードしてほしい。
生演奏を軸にしたものでありながら、ビートメイカーが作るビート集のように、様々なビートが次々に提示される驚異的なアルバム。Jディラ的なヒップホップ、アフロ・ビート、ブラック・ロック、レゲエなど様々なタイプのリズムを次々に奏でてみせる本作はクリスのドラムの音響的かつディープで多彩なテクスチャーを存分に味わえる。まずはここから聴いてほしい。
Chris Dave The Drumhedz(Live 2014)
そして、そのドラムヘッズのライブ映像がこちら。ディアンジェロ&ザ・ヴァンガードの同僚でもあるギタリストのアイザイア・シェイキー、トランペットのキーヨン・ハロルドと共にミックステープにも収録されたレパートリーを中心に演奏する。ジェームス・ブラウン、ハービー・ハンコック、フェラ・クティなどの様々なタイプのファンクを斬新なリズムでカヴァーするさまは圧巻だ。
動画で見るクリス・デイヴのドラムプレイの魅力と秘密
Chris Dave and The Drumhedz at Guitar Center's Drum-Off Finals(Live 2014)
クリスのドラムプレイ自体をじっくりと見たいならこの動画がお勧め。ドラムに焦点を当てたカメラが何台も用意されていて、ドラムのセッティングを丸裸にしている。クリスの超個性的なドラムセットも完成形といえる形態になっているので、異常に低いチューニングから、音が伸びるスネアに、全く伸びないスネア、改造シンバルなどなど、今のクリスの音色の秘密をじっくりとチェックできる。
D'Angelo & The Vanguard「Betray My Heart | Spanish Joint」(Live 2015)
クリス・デイヴ&ドラムヘッズのメンバーが在籍するディアンジェロ&ザ・ヴァンガードのサウンドは基本的にはジェームス・ブラウン的なオールドスクールなファンク・サウンドだが、それをクリス・デイヴが叩けばまた別のグルーヴになる。下の動画では、2014年の『ブラック・メサイア』収録曲から、2000年の『Voodoo』収録曲へのメドレーの5:20あたりのつなぎ目や、9:40あたりのブレイクからリズム・パターンを変える瞬間が最高にかっこいい。
Adele「He Won't Go」(2011)
ちなみにクリス・デイヴの最もネオソウル・テイストの演奏を聴けるのはディアンジェロよりもアデルのこのアルバム。ライブではなかなか聴けない端正な“ソウルクエリアンズ・サウンド”なクリス・デイヴもすばらしい。
Chris Dave x Big Sean「Ass(Drum Cover Remix)」(2012)
Big Seanの楽曲の打ち込みのビートを生演奏のドラムで置き換えたこのリミックスは、クリス・デイヴの魅力をわかりやすく見せてくれる。クリス・デイヴのどのタイコがどの音色を出しているのかがはっきりとわかるのも面白い。極端なチューニングが施されたドラムの叩き分けや、リムショット、スティックの持ち替えなど、彼の音色への繊細なこだわりがよくわかる。
CHRIS 'DADDY' DAVE(Live 2010)
ヒップホップを叩きだすドラマーとしてのクリス・デイヴがいかに驚異的かを見せてくれるのはこれか。スネアとハイハットのコンビネーションだけで生み出すブレイクビーツ。今では個性的なセッティングが特徴にもなっているが、そんなものがなくてもヒップホップを鳴らすにはリズム感覚だけで充分だと言わんばかりの演奏。ラッパーのフリースタイルをドラムが食ってしまっている。
公演情報
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動画でたどるクリス・デイヴのキャリア
「彼のキャリアと、そのドラムスタイルの変化は、
クエストラブ以降の生演奏ヒップホップの歴史そのものという感覚さえある」
Mint Condition(Live 1996)
ここからは少し彼のキャリアを動画で辿ってみようと思う。まずはクリスのキャリアの飛躍のきっかけになったR&Bグループ、ミント・コンディションのライブから(1996年)。ボーカルのストークリー・ウィリアムズ(Stokley Williams)とはその後も親交が深く、ストークリー・ウィリアムズは『Black Radio』にもゲストとしてフィーチャーされている。
Kenny Garrett Quartet at Jazz Baltica(Live 1999)
ジャズ・シーンではケニー・ギャレットに起用されたことが大きかった。ロバート・グラスパーやコーリー・キングといった鍵盤奏者をはじめ、ブライアン・ブレイド、ジャマイア・ウィリアムス、ジャスティン・ブラウンといった90年代以降を代表するドラマーたちまでもが起用され、ここから大きく羽ばたいていった。その意味で、ケニー・ギャレットのバンドは現代ジャズの登竜門といっても過言ではないだろう。
Me'Shell Ndegéocello「Good Intentions」(2003)
また、クリスはケニー・ギャレットとも共演経験のあるミシェル・ンデゲオチェロの『Comfort Woman』にも参加している。打ち込みを模したようなリズムだけでなく、ダビーで、エフェクティブなサウンドを引き立てる乾いたリムショットやパーカッションのようなハイハットの鳴らし方など、クリスの独特の音色使いが楽曲を彩っている。
Pat Metheny and Friends at Montreal Jazz Festival(Live 2005)
これはそのミシェル・ンデゲオチェロと共にモントリオール・ジャズ・フェスティバルに出演した時の映像(2005年)で、何とパット・メセニーとの共演。元々はスティーブ・コールマンの門下だったミシェル・ンデゲオチェロのベーシストとしてのすさまじさにも驚きつつ、ヒップホップ/ファンク感を全く出さないプログレッシブなジャズ・ドラマーとしてのクリス・デイヴが観られる貴重な映像でもある。
Robert Glasper, Alan Hampton, Chris Dave「Jelly's da Beener」(Live)
変わり種のクリス・デイヴなら、これも面白い。日本でもジャズ・ミュージシャンの間で話題になったというプライベート音源で、クリスのドラムは、今のような個性的なセッティングは完成しておらず、ハイハットの上に載せた金属と、チューニングくらいしか目立った変化はない。が、ここで聴かれるのはまさしくクリス・デイヴの音そのもの。グラスパーと共に、ジャズとヒップホップを融合させるサウンドはすでに完成されているのがわかる。
Mos Def, Chris Dave, Robert Glasper「Thelonius」(Live)
下の動画は、おそらく上の動画と同時期(2008年ごろ)に『Black radio』にもフィーチャーされていたラッパー、モス・デフのバックバンドとしてグラスパーと共に演奏しているもの。ミニマルにループしながら、サンプリング特有のブツ切れ具合を表現した人力ブレイクビーツをグラスパーと共に完壁に奏でている。
Pete Rock, Stefon Harris & The Robert Glasper's Experiment「Tribute To Roy Ayers」(Live 2010)
上記、モス・デフとのセッションから、2年後の2010年。デリック・ホッジ、KCベンジャミンとのロバート・グラスパー・エクスペリメントでの演奏。まだリンゴの皮をむいたようなスパイラルシンバルが導入されていない時期だが、エクスペリメントとしての演奏自体は『Black Radio』とほぼ変わらないところまで来ている。「ヒップホップにサンプリングされた元ネタとしてのジャズ・ファンク」という文脈でロイ・エアーズの曲を演奏するコンセプトのライブ。そのカギはやはりクリス・デイヴのビートだ。
そして、この後、『Black Radio』がリリースされ、クリスはディアンジェロのバンドに加入し、更に自身ではドラムヘッズを結成するということになる。こうやって改めてまとめて見てみると、彼のキャリアと、そのドラムスタイルの変化は、クエストラブ以降の生演奏ヒップホップの歴史そのものという感覚さえある。そんなクリスのドラムが今、どんな進化を遂げているのか。ドラムの現在地を知るためにも彼の今の演奏を見ることができる機会を見逃すわけにはいかない。
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