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「前週とのランキングの違いも意識して見ます」 ― 西田井 幸生(株式会社USEN コンテンツプロデュース統括部) インタビュー
店舗のBGMでお馴染みのUSENが、スマートフォンでも楽しめる「スマホでUSEN」。無料の音楽サービスが溢れる中でユーザーに届くために心掛けていること、そしてヒットチャートをどのように見ているのかについて話を聞いた。
USEN放送で培ってきた選曲力が強みです
−−USENのサービスがスマートフォンで楽しめる「スマホでUSEN」ですが、2013年12月にサービスを開始して以来、主なユーザー層はどのあたりですか?
西田井 幸生:最も多いのは、男性の30~40代ですね。
−−洋楽や邦楽、変わったものですと、羊の数を数え続けるチャンネルなど1000以上のチャンネルがありますが、どういったものが人気ですか?
西田井:人気の高いチャンネルは洋楽、邦楽の最新/ヒット曲系です。また「スマホでUSEN」は、サービスの特性上、音楽への欲求が強いユーザーと、そうでもないユーザーのちょうど中間くらいの方たちをメインターゲットにしています。なので、チャンネルの内容もですが、チャンネル名についても「泣けるBLACK MUSIC」や「お月見J-POP」、「通勤ストレス解消音楽」など、シチュエーションに沿ったチャンネルを多く作るなどして、聴取機会の背中を押せるような編成を心掛けています。公開以降、手を加えなくても良いチャンネルや、毎週手を加えないといけないチャンネルなど様々ですので、50名ほどの制作スタッフで作り上げています。
−−今年は、AWAやLINEなど新しいサブスクリプション型音楽配信サービスがスタートしました。これらのローンチによって、御社のビジネスに影響はありましたか?
西田井:具体的な影響は、今のところ特にありません。配信できる曲数は他社と比べて大差はありませんが、私達の強みは50年以上続くUSEN放送によって培ってきた選曲力だと思っています。どのチャンネルに何の曲を入れるかというきめ細やかな選曲によって、ユーザーにより多くの音楽との出会いの場を提供していきたいと考えています。
−−選曲する時に意識していることは何ですか?
西田井:誰もが聴いて安心できるヒット曲を入れること、そしてチャンネルの流れを大切にしつつ新たに出会えるような楽曲を織り交ぜることです。好きな曲を自分で探して聴くオンデマンド型音楽配信サービスの場合、結局自分の好きな曲やジャンルに偏ってしまう傾向にあります。ですが「スマホでUSEN」の場合、ラジオ型サービスのため次に流れる曲は自動的に決まっているので、知らないアーティストとの出会いが格段に広がると思っています。
−−そんな選曲の強みを継続させていくために、スタッフに対する教育で心がけていらっしゃることは何ですか?
西田井:月並みではありますが、やはり多くの曲を聴くことですね。新しい曲についてはレコード会社から資料をいただくことも多いですが、ライブにも数多く足を運ぶようにしています。音源を聴くだけですと、自分の主観的な感想しか浮かびませんが、ライブに行くとその場の観客の反応を見ることができます。どんな年齢層に人気なのか、どんな表情をしながら聴いているのかなど、自分以外のリスナーの空気を肌で感じることは、チャンネルを作る上でとても有効なんです。インディーズのアーティストでUSENに音源がない場合は、直接本人に交渉することもあります。
前週とのランキングの上下動も意識して見ています
−−新しい曲を探すために、チャートはご覧になりますか?
西田井:もちろんです。ビルボードジャパンチャートも見ますし、レコチョクのランキングも見ています。レコチョクは、個人が求める作品がより濃く反映されているように感じますね。あとは、チャートを見る時は、結果だけでなく、前週とのランキングの上下動も意識して確認し、その原因を考えるようにしています。
−−ビルボードジャパンチャートでは、CDのセールス数以外にも、ダウンロード、ラジオ、ストリーミング、YouTube、ルックアップ、Twitterという合計7つのデータを合算しています。無料で聴けるサービスも、有料で購入した数も全て合算してチャートを作ることに関して、どうお感じになりますか?
西田井:音楽は商品でもあり、文化でもあると思うので無料で音楽を聴くということに対しては、正直なところ違和感はあります。アーティストがきちんと収入を得られる仕組みを整えないと、新しい才能も育たないし、昔ヒットした曲をカバーするしかなくなってしまいますから。ただ、僕の子供と話をしていると、やはり音楽はCDを買って聴くという感覚はなく、無料で聴くものだと感じているようです。しかも、気に入った曲だけを聴くので、アルバムという概念もないですし、「コンセプトアルバムが~」なんて話題には付いて来れない気がします。そういった意味では、ビルボードジャパンチャートのような合算データも、リアルなリスナーニーズを把握するうえでは欠かせないものと感じています。
−−「スマホでUSEN」は、月額490円(税別)なのでとても安いという感覚ですが、10~20代の方にとってはお金を払うということだけでハードルがあるのでしょうか。
西田井:そうですね。ただ、音楽フェスに行っても、ライブに行っても若い子たちも沢山来ているんですよ。490円とは桁違いのお金を払って、数時間のライブに行っているんですよね。その情熱を生み出すことができるアーティストのパワーは、やっぱりすごいと思うし、一方で僕たちは、その情熱をどう継続させるのかが課題だと思っています。「スマホでUSEN」では音楽チャンネル以外にもトーク番組も制作しているので、例えばライブ後のオフトークを楽曲と一緒に流すのも面白いかなと思っています。
−−今後、御社のサービスや、サブスクリプション型音楽配信サービスは日本に根付くと思いますか?
西田井:そうですね。世の中全体に根付くかと言われると難しい質問ですが、まず僕たちは他社との差別化として、先ほど申し上げたようなトーク番組の充実にも力を入れたいと思っています。楽曲だけではなく、アーティストとファンが出会うプラットフォームになればと思っています。一方で、1000チャンネルもあると聴取がトップページにバナーを掲載しているチャンネルに寄ってしまっていて、好きな曲まで辿りつけていないユーザーもいると思います。なので、チャンネルをより探しやすくすること、そしていかに直観的に好きな曲まで辿りつけるかについては常に考えていて、改善を続けています。あとはリスナーの利便性の向上だけでなく、ミュージシャンが活躍できる場を増やしていくことも僕らの重要な役目だと思っています。10年後も20年後も聴かれ続けるような素晴らしい曲を生み出していくためには、音楽で生計が成り立つような仕組みを整えて、音楽で活躍したいと思ってもらうことが重要です。なので、私たちは自分の演奏した曲を自由に投稿できる「MUSIC TANK」というチャンネルなども用意しています。現在5チャンネルをラインナップしており、応募者とリスナーのどちらにも分かりやすいように、応募された順に1週間ずつ区切って配信しています。
−−「スマホでUSEN」の今後の展望についてお聞かせください。
西田井:もちろん、一人でも多くのお客様にご利用いただきたいと思っていますが、「スマホでUSEN」で音楽を聴くことがゴールではなく、僕らのサービスを通じて音楽を好きになってもらえるような橋渡しができれば良いですね。そのためにも、通勤中や仕事中、家に帰ってからなど一日を音楽で埋められるようなサービスであり続けたいと思っています。
プロフィール
西田井幸生(株式会社USEN コンテンツプロデュース統括部 制作部 課長)
兵庫県明石市出身。1964年生まれ。
1988年株式会社大阪有線放送社(現 株式会社USEN)入社。
USEN放送にて「B-58 HEAVY METAL SOUNDHOUSE (伊藤政則) 」「B-51 A.O.R. (中田利樹)」「D-41 rockin’on channel」などをch.化。
2005年、完全無料パソコンテレビGyaO(ギャオ)開始時には音楽チャンネルを担当。
現在はUSEN放送、スマホでUSEN、OTORAKUなど株式会社USENの放送、配信事業の制作を担っている。