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<ブルーノート>初のロック・バンドとなった4人がバンド活動にかける熱き想いとは?― ヴィンテージ・トラブル 来日インタビュー
これまで18か国で600公演以上行い、200万人もの観客を熱狂の渦に巻き込んできたロック・バンド、ヴィンテージ・トラブル。時には稲妻のごとくラウドで骨太なロックロールを轟かせ、時にはオールドスクールなソウル・マナー溢れるバラードで聴かせる、ロック、ソウル、ブルースをこよなく愛するタイ・テイラー、ナル・コルト、リチャード・ダニエルソン、リック・バリオ・ディルによるLAを拠点に活動する4人組だ。ローリング・ストーンズ、ボン・ジョヴィ、AC/DCらのツアーのオープニング・アクトを務め、スタジアムからクラブ空間まで、規模を問わず観客の心を掴む、その万能なスキルと卓越した演奏力は、各国で熱狂的なファン=”トラブルメイカーズ”を生み、その数は年々増殖中。そしてそのライブ・パフォーマンスに惚れ込んだ<ブルーノート・レコード>の現社長で、名プロデューサーのドン・ウォズが手掛けた『華麗なるトラブル』で、<ブルーノート・レコード>から初のロック・バンドとして2015年8月にメジャー・デビューを果たした。アルバム・リリース直後にプロモーション来日を果たした4人に、来日時に行われたショーケース・ライブ、ドン・ウォズとのレコーディング体験や<ブルーノート・レコード>への想いについて話を聞いた。
たくさんの人々の想いを背負ってるから、
いつでも燃えていて、気迫に満ち溢れている
−−昨日のショーケース・ライブを拝見して、非常に印象に残ったのがステージ上での4人のケミストリーだったのですが、これは活動スタート当時に4人とも瞬時に感じたものだったのですか?
リック·バリオ·ディル:メンバー全員、これまで数えきれないほどのバンドで演奏してきたけど、実力っていうのはバンドが上手くやっていくのに必要な要素の1/10にも満たない。これまで一緒にやってきた人々も、もちろん実力はあったし、アティチュード、仕事観、スタイルだったりも合致していたけれど、初めてこの4人で演奏した時に、これ以上のものはないって、僕は個人的に感じた。部分的に感じることはあったけれど、ここまで完璧だったことは過去になかった。以前リチャードが言っていたけれど、まるで空中浮遊しているような、神がかった瞬間だったね。
−−まさに、バンドとして目指すような瞬間ですね。
リック:そう、それを一度も感じずに一生過ごすバンドもいるわけだしね。
タイ・テイラー:俺たちのYouTubeのページに、出会って3日目に行ったセッションの映像がUPされているけど、まさにその瞬間が捉えらえているよ。当の本人たちにとっても信じられないような光景だったな。
ナル・コルト:自分たちが作る音楽のことを“プリミティヴ・ソウル”って呼んでるんだけど、お互いがいるからこそ作れる音楽だと思ってる。すべてのリンクが不可欠で、ひとつでも足らなかったら上手くいかない。
リチャード·ダニエルソン:本当にその通りさ。そのケミストリーが無ければ、出会って3週間でライブをするなんて不可能だっただろうし、その3か月後にアルバムのレコーディングを始めて、3日間で完成させることなんて出来なかったと思う。最初の頃なんて、ずっと一緒に過ごしていた感覚だよ。一緒に演奏するのが楽しくて、来る日も来る日も、スタジオに通うのが待ち遠しくてしょうがなかった。あれだけのパワーを感じることができたんだから、戻らない手なんてない。そのおかげで、瞬く間にバンドとして演奏が上達していったんだ。
タイ:しかも場所がローレル・キャニオンだった、っていうのも肝だと思う。ジェームス・テイラー、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェルなど名だたるアーティストが素晴らしい音楽を作った場所で、なぜかケータイが繋がらなかったから、外部とも連絡がつかず、朝からリハをスタートして、気づくと夜になっていたから“タイム・ヴァキューム”って呼んでたぐらいさ(笑)。それもいいサインだったと思う。これまで俺が参加してきた、こういったセッションは時間が進むのがすごく遅かったから。
ナル:ニュー・アルバム『華麗なるトラブル』も、ツアーから帰ってきて、すぐにスタジオに入って完成させたものなんだ。僕らにとってスタジオは、家と同じぐらいリラックスできる場所だから。
▲ 「1 Hopeful Rd.」 (Album Trailer)
−−今作も、かなり早いペースで作られたそうですね。
ナル:そう、10日間。
タイ:数週間プリプロダクションを行って。
ナル:何度も何度もテイクを録って、完璧にするという感じではなく、スタジオ・レコーディングでもライブ感を大切にしているから。演奏ミスをして、完璧じゃないからって、それはそれで美しいんだ。
−−テクノロジーの発達とともにプロダクションに必要以上にこだわるバンドも多くいるので、そういったアプローチを取っているのは逆に新鮮です。
タイ:特にポピュラー・ミュージックの世界においてはね。でも、音楽の自然なヴァイブに惹かれていて、その文化を絶やさないようにしようとしている人々も多くいる。あまり手を加えすぎると、リスナーの元へ届くまでに“生きた”音楽ではなくなってしまうと感じる。だから、俺たちはそういう文化を大切にしているアーティストたちを代表している、という認識なんだ。俺の親友で若いスペイン人のギタリストがいるんだけど、彼が送ってきてくれたエタ・ジェイムスの言葉で…完璧には憶えていないけれど、彼女がライブ・パフォーマンスを精力的に行っていたのは、彼女のように毎晩パフォーマンスできるようなアーティストではない人たちの想いを代弁するためだった。俺たちが、アルバムを作って、ライブをするのをこんなにも愛しているのは、俺たちのような境遇に恵まれていないアーティストたちの想いや文化を代弁できるからなんだ。未だにアナログ・レコードを聴いたり、一発録りで録音して、自分たちの不完全な部分を表に出すのを恐れない人々はたくさんいる。そういうたくさんの人々の想いを背負ってるから、いつでも燃えていて、気迫に満ち溢れているようにみえるんだ。
リック:僕らの場合、考えすぎて、時間をかけすぎると、逆にあまりよくない結果に終わったりする。ライブ・バンドとして成長を遂げてきたし、ファンも“作られた”作品よりも、ありのままなリアルな姿を捉えた作品の方が繋がりを感じてくれるということがわかったからね。
ナル:もちろん、それを成し遂げるのが難しいこともある。特にこの新作ではね。
リック:プレッシャーもあったし…。
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(LAは)ハート、ソウル、美しさ、リアルさに溢れた
奥深い場所で、僕らが心から愛する街さ
−−それに、今回はあのドン・ウォズがプロデューサーとして参加していますし。
ナル:そう、その話がしたかったんだ(笑)。これまで、ずっと自分たちだけで音楽を作って、プロデュースも担ってきて、外部の人間が創作プロセスに加わったのは今回が初めてだった。彼の存在は本当に素晴らしかった。親友であるとともに、父親のような存在でもあり、まるで5人目のメンバーのようだった。ライブ・テイクを重ねていく上で、やっぱり壁にぶち当たることもある。そういう時に彼は僕らの不安を取り除いてくれ、心を落ち着かせてくれるような存在だった。経験豊富だし。また是非彼と一緒にレコーディングできたら、って思うよ。
リチャード:レコーディングは、個々の葛藤というよりはチームとして受けて立たなければならない挑戦だから、それを乗り越えた時にさらにバンドとして結束力が高まるんだ。もちろん1人1人ちゃんと演奏はしなければならないけれど、それをバンドとして一丸となってやることに意義があると思うから、このレコーディング方法を貫いてるんだ、とも言える。
リック:そう。たとえば、僕とリチャードは最高のテイクを録れたとしても、他の2人のテイクが最悪な場合もある。そういう時にドンが仲裁に入って、「いや、君が言う最悪な部分は俺には聴こえなかった。」とか「ここはダメだ。」とか客観的に物事を判断してくれた。それは僕たちにとって初めてのことで、もちろん彼は信頼のおける人間だから、そういう部分ではすごく助けられた。それにあの眼鏡と帽子姿で、目の前に座ってるのをみると、なんだか心が落ち着くんだよね(笑)。
−−そんなドンからのアドヴァイスで、心に一番響いたものは?
ナル:よりお互いを信頼することかな。個々のプレイではなく、4人が1つとなった時に美しい音楽が生まれるから、それを忘れるな、っていう言葉だね。あと、これはアドヴァイスではないんだけど、1週間前ぐらいにLAで業界の人々のためにショーケース・ライブをやったんだけど、ライブの前に彼がステージ上に表れ、バンドの呼び込みをしてくれたんだ。すごく緊張したけど、彼がわざわざそこまでしてくれるなんて、まるで【グラミー賞】を獲ったぐらいに嬉しくて、感動的な出来事だった。
タイ:ヴォーカル・ブースで俺のヴォーカルを録ってた時に、戸惑いがあって、自問していたことがあって、それを聞いたドンに「グダグダ考えるのは止めて、君自身が答えになればいい。」と言われたのにはシビれたね。
▲ 「Doin' What You Were Doin'」 MV
−−では、バンドが結成されたLAへのオマージュとも言える「Angel City, California」について教えてください。
リック:僕はフロリダ州出身なんだけど、LAへ引っ越すまで“生きている”っていう気がしなかった。真の自分がまだ生まれていなかった、というか。僕が大好きな都市で、世界中のどの都市より、豊かな色彩を持った場所。これは世界を旅することで、さらに浮彫りになったことだと思う。自分がどんなクレイジーなことにハマっていようと、必ず同志が見つかる。外部の人間は、セレブがたくさんいる煌びやかな場所っていう印象かもしれないけれど、その反面ダーティーで、ダークな部分もある。どれだけパーティーしても構わないけど、そのツケは必ず回ってくるんだ。特に、曲の中に登場する“I am I”っていう詞は、個人的に胸にガツンとくるね。LAは自分自身を見つけることを可能にしてくれた場所だから。
ナル:ツアーからLAへ戻ってきた時に飛行機の窓の外に広がる夜景をみると何とも言えない感情がこみ上げてくる。僕は元々スウェーデン出身だけど、LAは今や“ホーム”で特別な場所だ。
リチャード:誰もが夢を追い求めてやってくる場所で、それはとても美しいことだと思う。成功するためにお互いを食いつぶし合う、薄っぺらな人間ばかりの場所だと思われがちだけれど、まったくそんなことない。ハート、ソウル、美しさ、リアルさに溢れた奥深い場所で、僕らが心から愛する街さ。
タイ:この曲では、あまり語られないLAのアーバンでリアルな姿を描きたかった。俺がLAに来た当初よく通っていたDoes Your Mama Knowっていう怪しげでダークなバーがあって、あそこは一般的なLAの印象とはかけ離れているような場所だった。だから、LA的なアンセムを作りたいと言う話になった時に、こういった情景を彷彿させる曲にしたかった。底抜けに明るいんじゃくて、ちょっとパンクなNY的なアティチュ-ドも持った曲にね。
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自分たちの作品にかける想いと共通するものがあったからこそ、
<ブルーノート>と契約しようと思えたんだ
−−<ブルーノート>初のロック・バンドとなった気持ちを改めてお聞かせ下さい。
ナル:最高だね。<ブルーノート>が僕らと契約するという大きな一歩を踏み出してくれて、本当に光栄さ。多くの偉大なジャズ・レジェンドを輩出してきた由緒あるレーベルで、その一員に加われるなんてクールだとしか言えないよ。ドンにとっても大きなリスクだったと思うけれど、彼らの多大なるサポートには非常に感謝している。
リック:素晴らしい巡り会いだったね。ドンが社長になった直後にかかげたミッション・ステートメントは「とにかくクソみたいなレコードを作らないこと」だった。ある日、僕らのライブを観に来てくれて、そのライブ・パフォーマンスに圧倒され、「君たちは今のままで最高だから、バンドを変えることはしたくないし、このまま突き進んで欲しいんだけど、俺は今<ブルーノート>の社長だ。」って言われた。それに僕らもとりわけ新しいレーベルと契約したいとは思っていなかった。音楽業界は…特にビジネス面において目まぐるしく変化している中で、自分たちだけの力でこれまでやってきた、という自信もあったから、今更大きなレーベルと契約する必要性があるのかも疑問だった。これまで他のレーベルから声をかけられたこともあるけれど、ドン、そして<ブルーノート>という組み合わせは、まるで天からの賜物という感じだった。僕らにとって<ブルーノート>というレーベルは高い水準を持ち、そこから外れることなく、クオリティの高い作品をリリースし続けている。音楽はもちろんだし、アートワーク、レーベルとしてのアティチュード、社風も天下一だ。自分たちの作品にかける想いと共通するものがあったからこそ、彼らと契約しようと思えたんだ。
タイ:<ブルーノート>は、信頼のおけるレーベルで、名前を聞いただけで、即契約してもいいって思わせてくれる要素がたくさんある。でも、その一方で、実際にその一員になるのは大きな挑戦でもある。レーベルの名を汚さないような良質な作品を作らなければならないから。契約することで、これまで以上に学ぶ意欲やよりオーセンティックな作品作りを心がけるようになった。初めて契約したロック・バンドという肩書に恥じないように、ドンをはじめ、<ブルーノート>、<キャピトル・レコード>、そして<ユニバーサル>の人々が誇りに思ってくれるようなバンドになりたいと思えるようになった。これまでバンドとして成し遂げてきたことを誇りに思っているけれど、その現状に満足せずに、さらに上を目指すきっかけにもなった。
リチャード:まさに、その通りさ(笑)!
▲ 「Run Like The River」 (Fender Studio Session)
−−最後にヴィンテージ・トラブルが奏でる音楽のコアにあるものは何でしょう?
ナル:やっぱり“プリミティヴ・ソウル”だね。
リック:ある意味、退化していくこと。これまで所属していたバンドでは、スタジオで様々なレイヤーを足していったり、トレンドを追いかけて、ある特定のスタイルに従ったり、余計なものをプラスしていく傾向があったんだけど、このバンドでやろうとしているのは、その反対。音楽の核心、本質に辿り着くまで、必要ないものを次々と削ぎ落としていくこと。自分たちの内から流れ出る音楽を捉えるという感覚だね。
リチャード:それってすごくエキサイティングなことだと思うんだ。剥き出しの状態だと、隠れることはできない。生々しくて、リアルで…それこそ人間味があって、最高にセクシーだ。
ナル:そう、難しく考える必要はなくて、この4人でプレイすることが、自然で意図も簡単な行為だということ。シンプルであることが、時には一番難しいことでもあるんだ。
タイ:それに加えて、この数年間で、ザ・フー、ストーンズ、AC/DC、レニー・クラヴィツなど数々の素晴らしいアーティストとツアーをしてきた。だから、彼らの影響も自ずと聞こえるはず。例えば「Another Baby」のコーラスはザ・フーを彷彿させると思うし、彼らの音楽を毎晩聴いていたのは無意識にアルバム、そして俺たちに影響を与えていると思う。
リック:過去の名盤を見てみると多様な作品が多い。今のトレンドは何かが流行ると、そればかりを取り入れがちだよね。けれど、「Angel City, California」や「Soul Serenity」、「Run Like The River」など、ヴァラエティに富んだ楽曲が“共存”できるようなアルバムをこの4人で作ることができて最高だね。
『華麗なるトラブル』 アルバム・トレイラー
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