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ザ・ストライプス 来日インタビュー

ザ・ストライプス インタビュー

 2013年に衝撃のデビューを果たした、アイルランドの小さな町キャヴァン出身の4人組ロック・バンド、ザ・ストライプス。現在平均年齢18歳という若さだが、リズム&ブルースやパブ・ロックをベースとした直球のロックンロールを鳴らす本格派で、ボー・ディドリーの「You Can’t Judge a Book by its Cover」のカヴァーがエルトン・ジョンの目に留まり、彼のマネジメント会社と契約を果たす。2013年のデビュー・アルバム『スナップショット』は本国アイルランドでは2位、イギリスでは5位を記録。今年7月には待望の2ndアルバム『リトル・ヴィクトリーズ』のリリースとともに来日を果たし、ソールドアウトとなった一夜限りの来日公演で圧巻のライブを披露してくれた。11月には来日ツアーを控えるに4人に、日本での1年ぶりのライブやロックなニュー・アルバムについて話を訊いた。

観客が高揚感を得られるような演奏をすること

Get Into It
▲ 「Get Into It」 MV

――昨日のライブでは日本で発売になったばかりの2ndアルバム『リトル・ヴィクトリーズ』からの楽曲を数多く披露してくれましたが、新曲を日本のファンの前でプレイしてみていかがでしたか?

ジョシュ・マクローリー (Gt.):アメイジング!日本の一番好きところはファンだから、みんなにまた会えて嬉しかったし、ライブの1曲目から最後までずっと盛り上がってくれて最高だったね。そういうエネルギーを感じると、演奏にさらに拍車がかかるんだ。本当に戻って来れて嬉しいし、またウマイ寿司が食べれて申し分ない(笑)。

――既にニュー・アルバムからの楽曲を口ずさんでいるファンもいました。

ピート・オハンロン (Ba.):そう!それ僕も驚いたよ。新曲をプレイするたびに大きな歓声が上がったのも予想外だったけど、ホント最高だね。

――「(I Wanna Be Your) Everyday」などバラード調の新曲が加わることで、ライブの展開によりメリハリがついたのもポイントですよね。

ロス・ファレリー (Vo.):たしかに1stの曲とはエネルギーが異なる曲がいくつかあるから、ライブで演奏し始めたころは、ちょうどいいバランスを保たせるのが大変だったけど、公演を重ねていくごとにコツを掴んでいって、今では自然とこなせてるって感じだね。

――1曲の中でも時間をかけてコードやメロディーを展開させている印象を受けましたし。

ジョシュ:うんうん、君の言ってることよく分かるよ。俺のギターパートなんか、特にそうだと思う。なんて言うんだろう、曲に空間と奥行きが生まれて、断続的に演奏しなくてもよくなったから、その分、色々試したりできる余地がある。

ピート:そう、インプロヴィゼーションね。

――MC5やボー・ディドリーのカヴァーを演奏した時に、ジャムりながら、ちょっとだけインプロヴィゼーションしてましたね。

ピート:これまでは「Smokestack Lightning」のカヴァーとか、特に昔のブルースを演奏する時、曲の途中2~3分間即興で演奏するセクションを設けてて、エヴァンと僕が合図し合って、曲に戻るとかはやってたけど、最近はそこまできちん決めてやってないね。

エヴァン・ウォルシュ (Dr.):うん、今はフィーリングが合えばって感じで、もっと自然な形で取り入れてる。

Scumbag City
▲ 「Scumbag City」 (Live)

――スタジアムや大きな会場で演奏することを想定しながら、新曲作りをすることはありましたか?

一同:ノー。

ロス:それは無いね。そうすることで、ある意味制限されるし、どんな会場で演奏しても映えるような曲じゃないとダメだと思うから。

ジョシュ:たとえば「Scumbag City」をレコーディングしてる時、この曲は大きい会場で演奏した時しっくりくるんじゃないか、とは思ったけど、ロスが言ったみたいに、スタジアムで演奏した時に映える曲を書くっていう風に、限定することはないね。

――今、「Scumbag City」の名前があがりましたが、あの曲では観客にジャンプするように煽って、会場を巻き込んでいてて、新鮮でした。

ジョシュ:うん、アメイジングだった!

ロス:あれは、まったく予想してなかったね。

ピート:UKツアーでも多少試してみて、反応は良かったけど、あそこまで観客が一体になってくれることはないから。日本ってそういうところが、すごくユニークだよね。

――では現時点で、自分たちのライブ・パフォーマンスのどの部分に一番重点を置いていますか?

ピート:観客が高揚感を得られるような演奏をすること。みんながエキサイトして、ジャンプして盛り上がってくれて、いい時間を過ごせた、って感じてもらう。それに尽きるね。それが僕らのような生身のエレキ・バンドの使命だと思うから。

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4人の個性が集まることで、曲にユニークさが生まれる

Now She’s Gone
▲ 「Now She’s Gone」 (Live)

――デビュー・アルバム『スナップショット』がリリースされてから精力的にツアーを行ってきましたが、『リトル・ヴィクトリーズ』に収録されている楽曲はツアー中に書かれたものが多いのですか?

ロス:半分ぐらいそうだね、残りはツアーが一段落して1か月後ぐらいに書かれたものだよ。内容も主にツアー中に経験したことや世界を旅することが僕らにどのような影響を与えたか、について。

ジョシュ:一番の違いは、1stの時はスタジオに入る前に曲の構造やアレンジがほぼ完成していて、それをレコーディングしたという感じだったけど、今回はそういった細かい所はまったく決めてなかった。レコーディング中に書かれた曲もいくつかあったし。結果、曲を分解しながら、よりディテールに目を向けることができた。その分、時間はかかったけれど、個人的に興味深かったし、曲の構造のアイディアを色々考えるのは面白かったね。前作よりプロダクションにこだわって、時間をかけたんだ。

――プロダクションに時間をかけたと言いましたが、前作に比べよりプロデュースされているものの、ザ・ストライプスの魅力であるライブ感も程よくバランスされている作品に仕上がっていると感じました。

ピート:その部分はプロデューサーの力が大きいね。意見があれば話し合ったりしたけど、基本的には彼らが主導権を握っていた。君が言うとおり、今作はよりプロデュースされた作品だと思う。

ジョシュ:ただライブ感がどう、とかそういうことは余り考えてなかった。単純にいいアルバムを作る、それだけさ。満足できるようなアルバムが完成した時に初めてライブでどう演奏するか考えた。アルバムとライブは切り離してるんだ。俺自身、そういうアーティストの方が好きだしね。たとえば、ジョン・メイヤー。アルバムを車やリビングで聴いても素晴らしいけど、ライブだと同じ曲なのに一味違う。生だと新たな息が吹きこまれるんだ。今作では、それを目指していた。

エヴァン:時間をかけてスタジオで曲を作り上げていくっていうプロセスを楽しめた。ギター、ベース、ドラムのベーシックなトラッキングが終わったら、色々な種類のパーカションを持ち入って、叩きまくって、どんなものが出来るか実験してみたり。僕は今回初めてレコーディングでキーボードを弾いているんだ。

写真
2015.07.17 THE STRYPES @ SHIBUYA CLUB QUATTRO
Photo: MICHI IKEDA

――他に意識的に取り組みたかったことはありましたか?

ジョシュ:いや、特になかったよ。ごく自然なプロセスだった。個々のメンバーが影響されたものを巧く組み合わせた、それだけ。だから、前作よりもヴァラエティに富んだ作品になったんだ。

ピート:うん、あまり深くは考えてなくて、ただスタジオに入って、早くレコーディングしたいってウズウズしてたんだ。本当はもっと早くスタジオに入りたかったんだけど、ツアーが長引いてたから、それが難しかった…。

ジョシュ:4人とも影響を受けているものが微妙に違うから、ソングライティングの方法も独特なんだ。個人的に、好きなものや影響されているものの知識がさらに増えたことで、自分がどんなソングライターか、っていうのも徐々に確立されてきたと思ってる。演奏のスタイルもバラバラだから、4人の個性が集まることで、曲にユニークさが生まれると感じるね。

Eighty-Four
▲ 「Eighty-Four」 (Live)

――ソングライティングの面で、特に影響を受けたものがあれば教えてください。

ジョシュ:僕は断然ヒップホップだね。

――90年代のオールドスクールなヒップホップ?それとも、もっと最近のもの?

ジョシュ:全部!ケンドリック・ラマーやチャイルディッシュ・ガンビーノなんかは、よく聴いてたね。特にヒップホップのビートに興味があったんだ―詞やフロウとビートの関係性…ラップ・ソングって独特なリズムがあるでしょ。FruityLoopsっていうソフトがあるんだけど、それで数えきれないほどビートを作って、その上に詞をのせて、それからコードだったり、ギターのパートをのせていった。それらのなんていうんだろう…メロディーがない曲を、みんなで集まって演奏すると、みるみるとロック・チューンへと変わっていったのが、僕的にすごく刺激的だった。新作のサウンドがヘヴィーになっているのは、ベースにヒップホップのビートがあるからだと思うんだ。

――演奏面ではどうですか?

エヴァン:僕はニューウェーヴやパンクぽいものとか、ザ・スペシャルズ、初期のスカとかレゲエの影響を受けたね。結果、演奏する時にディレイのかかったフィルを使ったり、レゲエや2トーンっぽい演奏の仕方を意識した。様々な音楽に触発されたね。

ピート:うん、本当にたくさんのことを吸収して、アウトプットした数か月間だったね。

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自然と進化し、成長していくことが一番大事

(Live)
▲ 「I Need To Be Your Only」 (Live)

――これほどバラエティに富んだ作品になるとは『スナップショット』からは予想できなかったのですが、アルバムの出来には満足していますか?いわゆる『スナップショット』のヴァージョン2.0的な作品を作っても良かったと思いますし。

ジョシュ:それだと無理強いされた感じになっていただろうし、そんな作品だったら絶対に作りたくない。自然と進化し、成長していくことが一番大事だから。ただ、完全に満足できる作品か、どうかっていうと、また別の話になる。メンバーは4人だし、全員影響されているものや考え方が違う。そこは少し妥協して、みんなが納得できるものに仕上げないといけないから。

――アイルランドの小さな町キャヴァン出身ということで、どのシーンにも属していないことがザ・ストライプスのユニークさにも繋がっていると思うのですが、この数年間で自分たちが共感できるような同世代のバンドに出会うことはありましたか?

ピート:キャヴァンじゃないけど、アイルランド出身のRaglans(ラグランズ)やThe Mighty Stef(ザ・マイティ・ステフ)とかは、一緒にツアーしたりして、仲がいいよ。まだ、あまり知られてないかもしてないけど。同世代や、僕らより若いバンドで、気に入ってるバンドも最近結構増えてきた。あ、Sugarman(シュガーマン)っていうバンドも一緒にツアーしたけど、サウンドがすごく好みだね。彼らはイギリス出身だけど。

ジョシュ:キャヴァン出身のTravis Oaks(トラヴィス・オークス)も最高。ジャック・ホワイト直系で、サウンドがヘヴィーでカッコイイ。去年のクリスマスに地元で一緒にライブをやったんだけど、徐々に売れてきていて嬉しいね。地元のシーンが活性化していくことはいいことだと思う。俺たちがバンドをやり始めた時なんて、誰も一緒にやりたがらなかったんだから。まぁ、当時13、14歳だったって理由もあるけど。今アイルランドからはいいバンドがたくさん出てきてるんだ。

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2015.07.17 THE STRYPES @ SHIBUYA CLUB QUATTRO
Photo: MICHI IKEDA

――先日BBCで放映されたジュリアン・テンプル監督によるザ・ストライプスと地元キャヴァンについての音楽ドキュメンタリー『The Strypes: Best Thing Since Cavan』はどのような経緯で実現したのですか?彼はセックス・ピストルズや最近だとウィルコ・ジョンソンなどを題材にしたドキュメンタリーを手掛けている大御所ですよね。

ピート:そう!ウィルコのドキュメンタリーは公開されたばかりだよね。後、ジョー・ストラマーのドキュメンタリーも手掛けてる。彼の作品は昔から観ていて、個人的に大ファンだったんだ。地元の知り合いで、僕らの過去のミュージック・ビデオも手掛けた若い映像作家がいるんだけど、僕らがレコード契約をした時に、マネージメントの人間が彼をツアーに同行させたらいいんじゃないか、って提案してきた。後に何かに使えるかもってことで。1年、1年半ぐらい、特に音沙汰がなく、彼はその間ずっと映像を撮り続けていたんだけど、その話をジュリアンがどこかから聞いて…。

ジョシュ:Radio1でセッションをやった時に観に来てくれた。

ピート:それで興味を持ってくれて、キャヴァンに足を運んで、ライブやプライベートの映像を撮り始めた。その時点では、どこで放映されるとか決まってなかったんだけど、BBCがセイント・パトリックス・デーに放映するアイルランドの音楽特集に組み込みたいって言ってくれて、この間放映されたんだ。

――彼がまだ駆け出しのバンドのドキュメンタリーを撮るなんて、今までなかったですよね。

ジョシュ:そうだね。彼にとって現役のバンドを撮ること自体も、初めてのことだったし。自分たちの地元がこんな風にTVでフィーチャーされたのは、すごくクールなことさ。いかにもな、胡散臭いサクセス・ストーリーに仕上げることもできたと思うけど、そうじゃなくて、真実味があるのに共感できると思う。バンドとして活動すると楽しいこともたくさんあるけど、その反面、様々な葛藤もある。作品の中で一番いいシーンは日本で撮影されたライブ映像なんじゃないかな。制作中、ここは変だなとか、ちょっと気になる部分もあったけど、完成した作品を家族と一緒にTVで観た時は「俺たちTVに出てる!」って感情が高ぶって、すべて吹っ飛んで、そういう細かい事は気にならなかったよ。

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ハッピーである限りやり続ける

A Good Night's Sleep And A Cab Fare Home
▲ 「A Good Night's Sleep And A Cab Fare Home」 MV

――(笑)。地元の友人からの反響は?

ジョシュ:みんな気に入ってくれてるよ。何人が出演してるやつもいるし。あとは、俺がインタビュー中に料理してるシーンが途切れ途切れで出てくるんだけど、「いつまで料理してんだよ。」ってちょっとからかわれたぐらいかな(笑)。

ピート:うん。僕らが、キャヴァンの名を世界に広めていることを誇りに思ってくれてるね。僕らの作る音楽が好きか、好きじゃないかは別として、自分と同じ学校に通ってたやつらが、今では日本で演奏するようになったなんて、頑張ってるじゃないか、ってぐあいに。

エヴァン:一大事だったよね。大がかりな撮影クルーもいたし…キャヴァンがこんな風にフィーチャーされるのは初めてだから。

――地元を歩いてたら、これまで以上に声をかけられたりするんじゃないですか?

ジョシュ:ガキの頃から、俺たちのことを知ってる人が大半だから、そうでもないよ。アイルランド人特有だと思うんだけど、コミュニティ意識が強くて、みんな家族みたいなもんなんだ。だから道で会っても、大スターと接してるとかそういう感じじゃなくて、「親父にヨロシクって言っておいてくれ!」とかその程度だね。

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2015.07.17 THE STRYPES @ SHIBUYA CLUB QUATTRO
Photo: MICHI IKEDA

――以前エルトン・ジョンにロンドンに引っ越したらどうか、って言われたことがあるそうですが、ロンドンのような都会に移りたいとは思いますか?

ジョシュ:うん、一度言われたことがあるよ。

ピート:でも、どこに住んでるか、っていうのが、そこまでバンドのキャリアに影響があるか、正直疑問なんだよね。

ジョシュ:それに4時間もあれば行けるしね。

ロス:飛行機に乗ってる時間はたったの1時間。

ピート:これからアメリカに行ったり、また日本に戻ってきたりツアー三昧だから、引っ越しても寝るだけだし。

エヴァン:僕も引っ越したいとは思わない。ツアーで疲れて帰って来たら、家族や友達に会いたし、自分がリラックスできる環境にいたいから。

ピート:家賃が無駄になるだけ(笑)。

エヴァン:彼が若かった頃は、テクノロジーが盛んな今とは時代が違って、ロンドンのような都会に行かないとチャンスが掴めなかったというのもあるんじゃない?今は自分たちの音楽を発信する方法が数えきれないほどあるし、従来の方法じゃなくてもレコード契約を獲得することが可能だからね。

――とは言え、4人はSNSを積極的に使ったというよりは、地道にライブ活動を続けていたことがブレイクに繋がったという印象です。

ピート:多少はソーシャル・メディアのおかげでもあると思うよ。レーベルが興味を持ってくれたのはライブの反響を聞いたからだけど、その後ライブ映像をネットでチェックしてる。だから、使うことでチャンスが増えるというのは紛れもない事実だと思う。

エヴァン:2012年初頭にカヴァー曲を4曲収録したEPをリリースした時、別に売れたいとか思ってたわけじゃなくて、ただ自分たちのバンド名が書いてあるCDを作ってみたいと思ってただけなんだけど、その当時からファンだった人たちはもちろん買ってくれたけど、レーベルとかが収録曲のライブ映像を観たことで、チャンスを掴むことができたから、両方大切だと思うよ。

――では最後に、まだ若いですが、今後の活動についてきちんと考えていますか?

ジョシュ:ハッピーである限りやり続けるよ。そうじゃなかったら止めたらいいと思うし。バンドとして成功して、一生音楽をやり続けることがゴールだからね。

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