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THE MAN 冷牟田竜之が語る『ルパン三世』 Billboard Liveスペシャル・インタビュー
元東京スカパラダイスオーケストラのメンバーとして知られる冷牟田竜之が率いるスカ・バンド、THE MANが先月7月29日、アニメ『ルパン三世』のTV第1シリーズ、通称“ファースト・ルパン”の劇伴音楽をフィーチャーした最新アルバム『Taboo 殺しの唄 』をリリースした。
もちろん、『ルパン三世』と言えば、言わずと知れた国民的なアニメ作品。だが、そのファースト・シリーズは、後続のシリーズとは一線を画する異色の作品として根強い支持を集めてきた。今回、THE MANもそのファースト・ルパンにこだわったアルバムを作ったわけだが、その象徴とも言えるのがチャーリー・コーセイの起用。当時もエンディング曲などでヴォーカルをとっていた彼の独特の歌声が、THE MANの奏でる手に汗握るクールなスカ・サウンドに乗る、ハード・ボイルドな展開に本作の最大の魅力がある。
だが、それにしても、なぜいま『ルパン三世』のファースト・シリーズなのか? そこに冷牟田個人の思い入れを超えた狙いなどは隠れてないのだろうか? そんな思いを胸に、冷牟田本人に話を聞いた。今月、東京と大阪のビルボードライブで、本作のリリースを記念したスペシャルライブも行う、THE MANのリーダーの言葉にぜひ注目して欲しい。
チャーリー・コーセイとの出会いから始まった“ファースト・ルパン”カバー
――まずは今回、『ルパン三世』の楽曲を取り上げたアルバムを作るに至った経緯から教えて下さい。
冷牟田竜之:もともと、僕が小学校4年生だった当時、戦隊モノの番組を楽しみに家に帰ったら、いきなりその番組が終わって『ルパン三世』が始まっていたんです。夕方くらいの子どもが観る時間帯でした。その第1話で、手術台みたいなところにレザーのジャンプスーツを着た峰不二子が縛り付けられていて、ヒール役の男性キャラクターにマジックハンドみたいなものでコチョコチョとされているシーンがあって。そいつが「ルパンの何を知ってるのか?」とか「今日がルパンの最後の日だ!」みたいなことを言いつつ、だんだん不二子の胸がはだけていくっていう。今の時代だったらTVで放送されても驚かないと思うんですけど、当時のお茶の間では全く和にそぐわない雰囲気でした。おそらく親が同席していたら見させてくれなかっただろう思います。
その大人の世界の入り口を垣間見た、みたいな所に衝撃を受けて。なぜか分からないけど、子どもながら引き込まれて、劇伴曲もすごく好きになりました。
――なるほど。
冷牟田竜之:東京スカパラダイスオーケストラを結成して暫く経った頃、影響を受けた曲とか映画とかをインタビューで聞かれる機会が増えました。そうすると、いつも『ルパン三世』が一番に浮かぶんですよね。ふと気が付いたら、自分の着ている服とか時計とか車も、ものすごく影響を受けていて。それを自覚したのが20代の後半くらいで、その頃から、いつかスカパラでカバーしたいと考えていました。
ところがずっと実現しなかった。それには、当時、チャーリー・コーセイさんがどこで何をやっているのか、全然分からなかったっていう理由もありました。
――当時からチャーリー・コーセイさんありきで考えていたんですか?
冷牟田竜之:エンディング・テーマがやりたかったので。あのヴォーカルが必要だと思っていました。ところが、2年ほど前に共通の知り合いができて、それが縁で、僕が何のアポも取らずにファースト・ルパンのLPを持ってチャーリーさんの働いてるバーに行ったんです。そこで始めてお会いして、目の前であのエンディング・テーマを歌って貰って。その日は近年で稀に見るくらい気持ちが動いた夜で、その日のうちに「一緒にやりたい」って話をしちゃいました。でも、何のアポも取らずに行ったから、向こうも何も知らないじゃないですか。だからその1ヶ月後に、自分のやってきたことの資料なんかを持って、もう一度行ったんですね。その時にはチャーリーさんも僕のことを知ってくれていたようで、「じゃあ、やりましょう」となりました。
――その後はどのように進んだのですか?
▲THE MAN feat. チャーリー・コーセイ(Live)
冷牟田竜之:ちょうど、自分が始めたイベント【Taboo】の15周年イベントがその年末に恵比寿ガーデンホールでやることが決まっていたので、まずはそこを目指してやろうと決めました。ところが、お互い忙しくしていたので、結局本番までリハーサルも一回もせずに臨みました。その音源が今回アルバムに収録されているものなんです。上手く行くか行かないか分からないような状況だったんで、今回、ちゃんと皆さんにお届けするレベルに達したこと自体、奇跡的なんですよね。
――チャーリーさんとはその後、何回か共演されているんですか?
冷牟田竜之:そうですね。もう数回やってますね。やればやるほど一体感が出てきて良くなって来ますね。ライブの時、「何小節繰り返すか?」とか、あえて構成を決めていない曲もあるので、そういうのはやっぱり面白いですね。
――ビルボードライブでのライブはどうなりそうでしょうか?
冷牟田竜之:ビルボードでしかやらない曲を用意しようと思ってます。詳細はまだチャーリーさんと詰めているところですね。
鬼才・山下毅雄の音楽とロックな時代性
――アルバム冒頭に収録されている新録の4曲はどのような基準で決めたんですか?
▲THE MAN with チャーリー・コーセイ 「ルパン三世主題歌Ⅱ(エンディングテーマ)」MV
冷牟田竜之:ライブでうまくいかなかったなと思ったのが一曲。あと一曲は、誰にも頼まれていないですが、自分が『ルパン三世』の世界にテーマ曲を作るとしたらこういう曲、というものを1曲目(「天国のブルース」)に入れています。あとエンディング・テーマに関しては、ライブでやったものとは違うアレンジのものを入れたいと思ってやりました。
――『ルパン三世』のファースト・シリーズの劇伴といえば、当時のオリジナルの録音物が既に失われていることも有名ですが、今回はどのバージョンを元にアレンジしたのですか?
冷牟田竜之:まず、アニメのDVDから良いなと思う曲を選ぶのがひとつ。さらに、ファースト・シリーズの劇伴が入ったアナログ・レコードを持っていたので、そこから良い物を選ぶのがひとつ。あと、コロンビアから出ていたCD音源からも、何をやるか決めました。
――アレンジはどのように進めていったのですか?
冷牟田竜之:まず、ヘッドアレンジは僕が考えて、それぞれのパートは各メンバーが考える形でした。一番大変だったのは、劇伴曲なので、元々30秒くらいしかサイズが無い、一曲の曲として完成してないものを、一曲にする必要があったことです。だから、カバーというより、半分は制作しているような気分でしたね。
――アレンジをする上で、改めて作曲者の山下毅雄さんの音楽に向き合うことになったと思うのですが、制作を通して印象の変わった部分などはありましたか?
冷牟田竜之:山下さんはジャズ畑の方だと思うんですけど、アプローチは当時で言うロック寄りものだったんじゃないかなと思って、それが面白かったです。当時は先端だったんじゃないかな。アレンジ力とか音色の使い方も、いまだに色褪せてなくて、すごいと思いましたね。
もうひとつ思ったのは、決して作りこまれた音楽じゃないんだなっていうこと。現場で、ある意味では、行き当たりばったりで作られた要素はかなりあるんじゃないかと思いました。だから、今回のカバーでは、そこをもっと作りこんでいくような作業をしました。これはチャーリーさんに聞いたんですが、オープニング曲とかも、当日現場に行ったら、いわゆる歌詞カードではなくて、スタッフが断片的なフレーズだけを書いたものがあって、それを適当に歌ったとも言ってました。だからある意味ではジャズ的なやり方ですよね。
――冷牟田さんは以前、ご自身のインタビューの中で、ロックとは“エッジが立っていて、匂いがあって、毒を含んだもの”という風に表現されていました。そうした要素は山下さんの音楽にも通じる部分があるのではないでしょうか?
▲かまやつひろし「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」(Live)
冷牟田竜之:そうですね。そういうのはやっぱり感じますね。あと、実は僕はロックにハマる前はフォークにハマってたんですけど、当時(ムッシュ)かまやつさんと吉田拓郎さんが急接近していた時期に出た、その2人が出したシングルを買ったことがあって。A面は、「我が良き友よ」といういわゆるフォークのシングルだったんですけど、B面がかまやつさんの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」という曲で、僕はそのB面の方にハマったんですよね。「ゴロワーズ~」ではタワー・オブ・パワーがバッキングを担当してるんですが、その感じも、いま振り返ると『ルパン』の音楽と通じていると思います。
――時代的に両者がシンクロしたということでしょうか?
冷牟田竜之:やっぱり、どちらも当時の最先端だったんだと思います。
昭和の表現が持っていた“力”
冷牟田竜之:もともと、『ルパン三世』というアニメ自体、子ども向けに作られてないんですよ。僕も後に調べて分かったんですけど、まず、東京ムービーの当時の社長さん(藤岡豊)が日本で初めての大人向けのアニメを作りたいっていう思いがあって、モンキーパンチさんの漫画をアニメ化しようと決めて、作画(大塚康生)と脚本(大隅正秋)の人を選ぶんですけど、その3人が素晴らしかったんですよ。そこでルパンの世界が作られたんですね。
当初のルパンは、皆さんが知ってるイタリア系の目をギョロつかせた人物像ではなくて、アンニュイなフランスの貴族の末裔で、金にも物にも執着せず、人も平気で殺す。で、退屈しのぎに盗みをやる、という感じだったんです。あと、使用するクロノグラフの種類とか、乗る車とか、使用する銃まで決まってるっていう、そういう設定もシビれるんですよね、男の世界という感じで。
でも、当初は視聴率が悪かったみたいで、途中から軌道修正して、宮崎(駿)さんとかに任されるようなって、だんだん今のルパンに近づいていくんですよ。だから、ルパンの顔つきとかも前半と後半で違ってくるんですよね。それでも最初の放送のうちは視聴率は戻らなかったみたいで、後々、再放送されるうちにだんだん評価されるようになったようです。
――時間を経て評価されたということは、やはり少し早かったってことなのかも知れないですね。
冷牟田竜之:そうですね。でも、やっぱり最初の設定が良かったんだと思います。そういう、皆さんがあまり知らないハードボイルドなファースト・ルパンは、いま取り上げるのにちょうど良いのかな、と。ああいう匂いがいま世の中に漂うと良いなあと思いますね。
――それはいまの社会の状況的に、ということですか?
冷牟田竜之:そういうのもあるし、あと制作された時期ですよね。昭和の非常に夢のあった時代で。その時期に制作されたものって、当時の時代の空気感を反映していて、ひと言で言えば“力がある”んですよね。
――ご自身も小学生の頃はそういう社会の状況を感じて居らっしゃいましたか?
冷牟田竜之:そうですね。一切閉塞感が無いんですよ。未来は良くなるとしか思ってなかったし、みんながそう思ってた。幸せな時代だったんですよね。そういう時代に作られたものってすごく力があるんですよね。いまこの空気感で作ってるものとは違う。いまこそ、ああいう昭和の時代に音楽が持っていた空気みたいなものが必要だと思いますね。
――少し脱線しますが、当時、歌謡曲などもお好きでしたか?
冷牟田竜之:歌謡曲とかも本当に面白かったですね。特に沢田研二さんとかすごく好きでした。例えば、チャートも今より多様性がありましたね。今のチャートを見ると、同じようなものが常に並んでいますよね。当時のチャートはちょっと異質なものが混じってるというか。でも、そういうものがあるから面白いわけで。だから、あえて昭和の匂いがするようなアレンジとか音質とかの作品を、こういう時期にリリースすることに意味があるのかなと思いました。
――何か異質なものを世に問いかけたい、ということですか?
冷牟田竜之:そうですね。いまラジオで「天国のブルース」とか、エンディング・テーマが掛かると、明らかに異質だと思うんです。けど、そういうものが世の中に無いといけないと思うんですよね。
――だからこそ、こういう作品を今の時期に作ったということですね。
冷牟田竜之:そうですね。でも、THE MANを始める前から、昭和の頃のような力のある楽曲がないといけないんじゃないかなと感じていました。
――では、逆に今のもので同じように力があると感じる楽曲はありますか?
冷牟田竜之:いや…残念ながら無いですね。あ、でも、クレイジーケンバンドの(横山)剣さんなんかは近い感じがしますね。あまりに他と違い過ぎて、一聴して直ぐ分かるじゃないですか。剣さんの場合、僕と同世代というのもあると思いますけど、やっぱりそういう表現に惹かれますね。
Taboo 殺しの唄
2015/07/29 RELEASE
VICL-64394 ¥ 2,970(税込)
Disc01
- 01.天国のブルース
- 02.ルパン三世主題歌Ⅱ (エンディングテーマ)
- 03.ルパン三世主題歌Ⅰ (オープニングテーマ)
- 04.In The Dark
- 05.INTRODUCTION (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
- 06.AFRO “LUPIN ’68” (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
- 07.YEAH! LUPIN (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
- 08.ルパン三世主題歌Ⅲ (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
- 09.COOL LOUNGE (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
- 10.ルパン三世主題歌Ⅱ (エンディングテーマ) (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
- 11.ルパン三世主題歌Ⅰ (オープニングテーマ) (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
- 12.Misirlou (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
- 13.GABBA GABBA HEY (LIVE “Taboo 15th Anniversary ~殺しの唄” 2014.12.6 @恵比寿 The Garden Hall)
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