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原田悦志(NHK『J-MELO』 チーフプロデューサー) インタビュー

原田 悦志 インタビュー

 今年で10周年を迎える音楽番組『J-MELO』。海外へ向けた日本の音楽を紹介する番組として、NHKワールドTVおよび、NHK BSプレミアムで毎週放送されている。チーフプロデューサーの原田 悦志氏に、日本の音楽は海外でどのように支持されているのか、今後日本のアーティストが海外で活躍するために必要な要素とは何なのかを語ってもらった。

「彼らに何かを伝えたら、彼らから何かを伝えてもらう」

??今年で10周年を迎える『J-MELO』ですが、毎週のテーマや紹介アーティストは、どうやって選定してらっしゃるんですか?

原田 悦志:ゲストを決める際の要素は2つあります。1つは海外からのリクエストが多い人。もう1つは、番組で紹介したい人。その両方のバランスを考えて会議で決めています。海外からも1年間に400組以上のリクエストがあるので、そちらを参考にしつつ、日本の音楽の豊かさを伝えるために幅広いジャンルを取り扱うよう意識しています。

??10年間、番組を放送されてきて変わらないことは何ですか?

原田:日本の音楽の多様性を世界に伝えるというコンセプトは変わっていません。これがあったから10年持ったんだと思います。あと、視聴者の声を大事にすること。彼らに何かを伝えたら、彼らから何かを伝えてもらう。この点もずっと変わりませんし、これを変えるなら番組を変えた方が良いと思っています。

??逆に、変わったことはありますか?

原田:協力してくださるミュージシャンや音楽関係者がとても増えたことですね。はじめは、「こんなの海外で、誰が見るの?」って言われましたから(笑)。BONNIE PINKやmelody.の出演で、ちょっと風向きが変わり、L'Arc?en?Cielの出演で大きく風向きが変わりました。L'Arc?en?Cielが海外を意識して出演してくださるようになって、そのあたりから出演者がどんどん増えていきました。

Stamp!
▲ 「Stamp!」 / SCANDAL

??海外からの反響もとても大きく、毎月100通以上のメールが届くと伺いました。

原田:100通どころじゃないですね。色んな募集企画を行っていますが、昨年SCANDALがワールドツアーをする際に、「皆さんの国で流行っているものは何ですか?」などのアンケートを取ったら、2週間で約50カ国から約600通のメールが届きました。つい最近だと、152カ国地域目として、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエヴォの視聴者から「SUGIZOと渡辺香津美さんのライブが素晴らしかった」というメッセージが届きました。なので、月によってバラツキはありますが、多い月だと1000通以上届いています。

??特に多い地域はありますか?

原田:国だとインドネシアで、地域だとヨーロッパが最も多いですね。数は少ないですが、アフリカからも少しずつ届き始めました。いつもメールをくれる子の中にスーダンのハルツームに住む女の子がいます。日本のビジュアル系のミニコミ誌を自分で作っているようです。他にも、スロヴァキアで日本のイベントをやっている子から連絡がきたこともあります。

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青春小僧が泣いている
▲ 「青春小僧が泣いている」 / モーニング娘。'15

??日本で人気のアーティストと、海外で人気の高いアーティストに差は感じますか?

原田:重なっているところもありますし、違うところもあります。海外から支持される三大要素は、ジャンルでいうと、アニソンとビジュアル系とアイドルです。具体的に言うと、アイドルだと嵐などのジャニーズ、女の子だとモーニング娘。とAKB48が人気で、ビジュアル系ではthe GazettEが圧倒的に人気です。ちなみに以前、日経エンタテインメントが分析した結果によると、どの国も上位は、モー娘。、嵐、L'Arc?en?Ciel、the GazettEといった顔ぶれでした。

??どの国も、同じアーティストが支持されるというのは興味深いですね。

原田:でもアニソンもビジュアル系もアイドルも、全て外形を表すジャンルであって、音楽のジャンルではないですよね。音楽的には、どれもとても幅が広い。そこに、日本の多様性が感じられるなと思いますし、日本の音楽の象徴だと思います。ちなみに、この前、調査したんですが日本のアニソンを歌っているアーティストやバンドの中で、一番リクエストが多かったのは誰だと思いますか?

L'Arc~en~Ciel LIVE 2014 at 国立競技場 -Trailer Long Ver.-
▲ 「L'Arc~en~Ciel LIVE 2014 at 国立競技場 -Trailer Long Ver.-」 / L'Arc~en~Ciel

??水樹奈々でしょうか?

原田:世界一は、L'Arc?en?Cielなんです。

??L'Arc?en?Cielですか?

原田:2012年にL'Arc?en?Cielが開催したマディソン・スクエア・ガーデンのライブではアニメ『鋼の錬金術師』のオープニング曲「READY STEADY GO」を みんなで歌って、ものすごく盛り上がっていました。海外の皆さんが日本の音楽に触れるファースト・コンタクトがアニメしかないんです。ストリーミングではJ-POPはほとんど流れていないし、日本のラジオが海外で聴けるわけでもない。なので、アニメをきっかけにアーティストを知って、ファンになっていくっていうのが圧倒的に多いです。

INSIDE BEAST
▲ 「INSIDE BEAST」 / the GazettE

??きっかけが、アニメしかないんですね。

原田:その他に感じることは、海外のJ-POPファンの同時代体験の少なさです。まず、2000年頃、インターネットの普及によって日本の音楽と出会う波がありました。そして2回目の波が、2008年のYouTubeの普及です。要は、同時代体験が21世紀以降しか発生していないんです。その結果、21世紀になってから活躍している人が、すごく海外では知名度もあって、支持が高いです。

Cry out
▲ 「Cry out」 / ONE OK ROCK

??21世紀以前の曲が、海外ではあまり知られていないんですね。

原田:もちろん、一部のアーティストは知られています。ただ、日本での感覚より、もっと新しいアーティストが支持されているということです。90年代より以前から活躍しているアーティストで、今でも人気が高いのはL'Arc?en?CielとX JAPANです。L'Arc?en?Cielって歌詞も日本語ですし、音楽的にも、日本的な要素が込められているように思えます。だから、日本のことが大好きな外国人に、人気が高いんです。そして海外へ進出するアーティストにとっての次のステップは、ジーパンとTシャツでも自分たちのことが主張できて、ローカライズドができることだと思います。VAMPSやONE OK ROCKは、そういった次のステップにトライしているアーティストだなと感じます。東方神起や少女時代が、なぜこれだけ日本で支持されたかというと、完璧な日本語で歌ったからですよね。だから、イギリス人やアメリカ人が車を運転しながら口ずさめるような、同化じゃなくてアジャストすることが必要だと思います。

Video Diary Vol.1 - REVOLVER MAG
▲ 「Video Diary Vol.1 - REVOLVER MAG」 / VAMPS

??アジャストですか?

原田:例えば日本の車をアメリカで車を売る時に、アメリカ人のスタッフが作った日本製のキャデラックを作ることは求められていません。アメリカの消費者が欲しがるものは、性能の良い日本車なんですから。必要なことは、日本車のハンドルを右から左に変えること。それが、アジャストするということです。ONE OK ROCKやVAMPSって、ものすごく曲が繊細で音が綺麗ですよね。あの音色は、日本のロックの特徴だと思います。それでいて、海外にローカライズドさせようとアプローチしているので、ONE OK ROCKやVAMPSはTシャツとジーパンで歌っても伝わると思います。

??日本の良さと、アジャストさせる部分の配分が重要ということですね。

原田:そうですね。重要なのは英語の歌詞であり、英語の発音は完璧であるということ。そして、サウンドは日本的な要素を失わず、でも耳心地が良いこととだと思います。

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??番組放送以外にも「J-MELOリサーチ」という市場調査もされていますが、どんなきっかけでスタートされたんですか?

原田:私たちが自発的に集計しているリクエストやアンケート以外に、彼らがどうやって番組を見ているのか、何が好きなのかをもっと知りたくなったのがきっかけです。それで研究者の方と一緒にやろうということになり、東京藝術大学の毛利准教授にご協力いただいてスタートしました。実は、こういう市場調査ってあまり回答されないことが多いんです。「アンケートの御礼用のグッズを用意した方が良いのでは?」という声もありましたが、僕は日本の音楽について視聴者の方が伝えたがっている、発信したがっているという自信がありました。結果的には、第一回目の2010年は728人の方から回答があって、2014年には87カ国から1708通の回答をいただけるようになりました。

??すごいですね。

原田:音楽を起点にして、音楽ファンが日本の何を欲しているのか、そしていくら音楽にお金を使っているのか、日本のライブに行ったことあるのか、行くとしたら、いくら払えるのかという、日本の音楽を世界へ発信する場合に必要なデータについて色々調査しました。また、今年からは関西大学にもご協力いただき、日本の音楽の好きなところなどについて自由記述してもらった回答から読み解いて、ゼミで発表をするという取組も実施しました。

??世界の視聴者による自由記述とは興味深いですね。

原田:それぞれとても長いコメントを頂いています。また、回答者の2/3が女性で3/4が10~20代でした。日本で音楽番組を見ている層とは少し異なりますよね。10年先も20年先も日本の音楽を好きでいてくれる未来の世代が、多く見てくださっていることが分かり、ここはすごく受け止めるべき点だなと感じました。あと、女性は自分の好きなことを伝えたいとか、共有したいっていう気持ちが強いですよね。共有されたいと思わせるようなコンテンツをどんどん発信しつつ、世界中の声をもっと取り入れていく必要があるなと思いました。

??どんな回答がありましたか?

原田:「もっと昔の曲も流してほしい」というメッセージや「時間が短いから、もっと長く放送してほしい」など、とても丁寧に見てくださっているんだなと感じました。過去のリクエストでは、イスラエルの方と、イランの方が、同じアーティストのファンだったりするのが、とても興味深かったですね。僕たちがハブになって、繋がりが生まれれば。東日本大震災の時も、励ましの写真とかメッセージが世界中から届きました。一番印象的だったのは、リビアの子が送ってくれた「リビアも内戦で大変だけど、日本も頑張ってね」っていうメッセージでした

??この番組を通じて、世界中が繋がっている感じがしますね。

原田:番組では、実際に視聴者のご家庭にお邪魔することもあるんです。ディレクターが取材にいきますと伝えておいて、実際は扉を開けると元モーニング娘。の高橋愛ちゃんがいるとか。みんな泣いたり、抱き合ったり、大喜びですね。

??夢のある企画ですね。

原田: 『J-MELO』の最多視聴者層は10~20代の女性です。これに対し、NHKワールドのメインターゲットは、J-MELO視聴者の平均的年齢層より上の、ビジネスに関心があるような方々なんです。当初、家族揃って日本ファンなのかと思ったら、『J-MELO』を見ている子のご家庭は、たいてい、その子だけが日本ファンなんです。『J-MELO』の視聴者って、まさに点在しているんです。だから、1人1人を大切にしないといけないなと思います。

??J-POPが好きな子たちは、音楽以外の日本の文化にも興味があるんでしょうか?

原田:もちろん。アニメやマンガなど。それに、ビジュアル系が好きな子は100%日本のファッションにも興味がありますね。でも、彼らの中で一番関心があるのは日本語です。日本語の響きがエレガントで好きだと思っているようですよ。

??日本語がエレガントですか?

原田:すごく洗練された響きに聴こえるようです。そこは私達が気付いていない日本の魅力ですよね。

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「アニソンの次のコンタクト」

もんだいガール
▲ 「もんだいガール」 / きゃりーぱみゅぱみゅ

??今年は、世界中の視聴者に投票やコメントをしてもらう『J-MELO Breakthrough Artist Showcase 2015』も開催されます。

原田:以前から、海外への意欲の高い日本のアーティストたちを世界へ発信したいと思っていましたが、番組では放送時間が限られていたため、Webサイトも使って展開することになりました。今回の応募資格は2013年以降にデビューもしくは結成した人で、オリジナル曲であることです。20組くらいの応募を想定していたんですが、蓋を開けたら合計48組の応募がありました。こんなに世界に興味がある方が多いなんて、驚きました。今回の企画は、僕らが知らない新しい才能を世界に発信していけるチャレンジになると思っています。そして、それが日本の音楽文化の発展に繋がると思っています。これは、公共放送の1つの使命だと考えています。今年はもう締め切ってしまいましたが、僕らがまだ気づいていない、素晴らしい才能を持ったアーティスト達が今後もどんどん応募してくれるといいなと思っています。

Dragon Night
▲ 「Dragon Night」 / SEKAI NO OWARI

??今後、番組の枠を超えてアーティストを応援していく予定は、ありますか?

原田:もちろん。NHKワールドの使命の一つは、日本の文化を世界に発信することです。どんどん日本のミュージシャンが世界で活躍してくれれば、僕らにとっても取材対象が増えます。ですから、『J-MELO』は出口ではなく、入り口、通過点にして活躍していただければなと思います。そして、不特定多数の人たちが見ている番組なので、先入観を持たずにやれたらなと。きゃりーぱみゅぱみゅとか、SEKAI NO OWARIを初めて見た時、「なんだこれは」って思いませんでした?でも、そういう「なんだこれは」っていう人たちが、今すごく活躍していますよね。異端だったものが、努力と才能と支持を重ねて正統になっていくんです。日本は高度経済成長の際に、経済分野で、電化製品、車など異端をたくさん作り出してきました。なので、音楽の分野でも、もっと異端を出していくべきだと思っています。そして「なんだこれは」っていう作品をどんどん生み出してローカライズさせ、その国の人が口ずさんでくれればと思います。

HATSUNE MIKU EXPO in New York
▲ 「HATSUNE MIKU EXPO in New York」 / 初音ミク

??その出発点が、『J-MELO』になればなと。

原田:そうです。これまで音楽のシーンを築いてきた人たちも大事にしながら、そういう面も作っていきたいです。

??そうですね。どんどん若い方たちを巻き込んでいくためにも、そういった取組は必要ですね。

原田:そうですね。今、『J-MELO』の視聴者は10代より20代の比率が多くなってきています。早く、アニソンの次のコンタクト方法を見つけなければいけません。そして、それはおそらくWebの中にあるんだろうと思っています。ですから、僕らはまず第一に『J-MELO』で良い番組を作っていくこと、そして次に、Webの中で何ができるかということを考えないといけないなと思っています。どうすれば日本の音楽をもっと聴かせられるのか、平面ではなく点在するファンに、どうやって伝えていけるのかということを音楽関係者全員で考えていかないといけないと思っています。

Road of Resistance - Live in Japan -
▲ 「Road of Resistance - Live in Japan -」 / BABYMETAL

??一方で、海外へ進出するよりも、日本で売上を伸ばし、活躍の場を増やすべきという考えもあります。

原田:そうですね。海外で活動しても、海外ではCDが売ってないから意味がないという声もありますね。でも、SCANDALは海外での興行をビジネス面でも成功させていますし、FLOWは、今度ブラジルでツアーもやるんですよ。

??そういう活躍を、もっと日本の人たちに伝えていくべきですね。

原田:僕が最初に衝撃を受けたのがパリのジャパンエキスポでモーニング娘。が、4000人集めてフランス人がみんな合唱していたこと。ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでL'Arc?en?Cielのライブを見た時も、みんなで合唱していました。去年の秋には、モーニング娘。、X JAPAN、初音ミク、BABYMETAL、Perfumeが1週間おきにニューヨークでライブやっていました。だから、日本のアーティストが活躍する素地はあるんですよ。ちなみに、VAMPSはアメリカでクラブやホールを回るツアーをやっていたんですよ。HYDEが、ツアーバスに乗って回ったそうですよ。でも、それをどうしてもやりたかったんですって。アメリカをツアーバスで回って街から街へ、自分のバンドで回る。でも、それがローカライズなのかなと思います。

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