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羽鳥麻美(ロッキング・オン/RO69洋楽編集部 副編集長) インタビュー
国内最大級の音楽専門誌『ロッキング・オン』。副編集長の羽鳥麻美に、ジャパン・チャートから見える国内洋楽シーンなどについて語ってもらった。
「売れている」「売れていない」にユーザーは左右されない
??普段はビルボード以外でもチャートをご覧になりますか?
羽鳥麻美:はい、見ますね。『ロッキング・オン』の読者層は年代や聴いている音楽において幅広く、読者の関心や購買をもっとも反映するものとしてチャートはとても重要だと思います。なので、週1くらいのペースでアメリカや日本のチャートを見ています。
??読者層は変わってきた印象はありますか?
羽鳥:あんまりは変わりません。しかしここ最近は『ロッキング・オン』の持つ「洋楽エントリーマガジン」という従来の役割のひとつとして少子化の割には十代二十代の層も見て下さっているなあとすごく実感しますね。
??フェスの影響でしょうか?
羽鳥:それもあると思います。洋楽だけでなく邦楽のフェスに行く読者の方々にとっても、やっぱり普段熱心に聴いているのが洋楽邦楽関係なく好きになれるようなリファレンスを取り込んだボーダーレスなアーティストがすごく増えてきて、そういうアーティストを取り上げていることも大きいかもしれないですね。
??洋楽って売れていないと思いますか?
羽鳥:データとして「売れる」という意味でいうと、もちろん十年前と比べて総体的に見て売れていないと思います。今は二極化してますよね。御社のチャートとかを見ていても感じるのは、「売れる」という概念が変化してきたんじゃないかということです。セールスそのものでいうところの「売れている」か「売れていない」かにあんまり左右されないユーザーのモードっていうのがビルボード・チャートにはすごく出ていると思います。昔は“みんなが聞いているから”とか、“流行っているから”という動機で音楽を聞くこともあったと思うんですが、今はそれが大きな理由ではないですから。特に「CDを買う」ということが、どうしても「アイテムを買う」ということになっていると思うので、純粋にそれが「音楽を楽しむ」という行為とイコールなのかというと、そうではなくなってきているのかなという気がしますね。ただ、私たちが取り上げるようなロックアーティストのCDを買う人の熱量は、セールスと密接に結びついていると思います。「CDを買う」ことがその「バンドが好き」っていうことにダイレクトに現れやすい。でも、大きなマーケットでいうと、ちょっと変わってきているのかな、という気がしています。
??どのアーティストを取り上げるかを決める際には、チャートは参考にされますか?
羽鳥:はい、チャートはすごく見ています。ただ、チャートを意識し始めたのはここ最近の話です。「作品自体の評価」だったり、「作品の素晴らしさ」を主軸に取り上げるアーティストを決めるだけでなく、最近は、日本でどのくらい支持されているのか、ということが雑誌を作る上で欠かせなくなってきています。特に、私達はWebサイトの『RO69』も運営しているのですが、そちらだともっとダイレクトにユーザーの興味が反映されていますね。もちろんチャートをそのまま順番に紹介するというわけではなく、さらに「編集」していくイメージに近いですね。なので、実売だけではなく「批評家」の観点ももちろん入ります。例えばジェイク・バグといったアーティストは、シーンに現れたときからサイトで取り上げていましたが、その頃のジェイク・バグはイギリスでもチャートに上がってくるようなアーティストではありませんでした。そういうふうに、音を聴いてこれは、と思えばもちろんすぐに取り上げます。
??新しいアーティストは、どのように発掘されるんですか?
羽鳥:(『ロッキング・オン』は)日本で買って頂く雑誌なので、日本盤が出るかという情報は大事なので、レコード会社からの情報はとても重要です。あとは、やっぱり最近だとYouTubeで何回再生されたのかとか、Twitterのフォロワー数など、今までにはなかった軸も考慮しています。私達メディアにとっても、アーティストを評価する時、アルバムが出るまでは判断に迷うことがあったと思うんです。そしてアーティストの価値自体も、以前は今よりずっと「アルバムアーティスト」に重点が置かれていました。でも、ここ数年でそれがドラスティックに変わって、例えばそのアーティストのインスタグラムはどういう影響力があるのか、Twitterの発言はどれくらいメディアに取り上げられているのか等、わりと複合的なアーティスト像というものが作られてきていますよね。それらを全て誌面に反映するわけではありませんが、そういう反応を見て新しいアーティストに注目することはあります。
プロフィール
羽鳥麻美
1980年生まれ、神奈川県出身。2005年ロッキング・オン入社。以来、洋楽誌「ロッキング・オン」編集部員を経て、現在は月刊誌「ロッキング・オン」と音楽情報サイト「RO69」の洋楽コンテンツを運営するロッキング・オン/RO69洋楽編集部 副編集長を務める。
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売れなくなったからって聞かないわけじゃない
▲ Billboard JAPAN HOT 100
7月13日付
??3年くらい前にあった、アメリカで流行っていた曲が3ヶ月くらい後にようやく日本で流行るという時差が最近ほとんどなくなってきたように思感じます。アメリカのHot100と日本の洋楽チャートってここ1、2年似てきたように感じますか?
羽鳥:確かに。例えばグラミーのアーティストは特にそうだと思います。数年前だとグラミーを取ったから知るというアーティストがすごく多かったですが、サム・スミスやロードのように、以前から知っていて、グラミーを取ったことで改めて聞いてみるというアーティストが増えました。音楽に限らず向こうのメインストリームのポップ・カルチャーが時差なく入ってきていることが大きいと思いますね。
??そういう観点だと、洋楽不振と言われていますが、決して洋楽を聞いていないし、見ていない、ということではないように思えます。実際、YouTubeの再生回数順で見ても洋楽はたくさんチャートに入ってきていますし。
羽鳥:そうですね、ファレルなど、少し前にリリースした曲も多く見られてるんですね。このYouTubeの洋楽のラインナップを見ると、数多く再生されているアーティストは、日本でもキャラクターを確立している方が多いように感じますね。カーリー(・レイ・ジェプセン)だと日本から海外に与える影響力は大きいと思いますし、イディナ・メンゼルにしても洋楽リスナー云々というところを超えて、さっき言ったような、ポップ・カルチャーがリアルタイムで入ってくるということもあって、ここまで受け入れられたのかもしれません。色んなカルチャーが反映されて複合的に愛されるキャラクターが上位にチャートインしているような気がします。
??今度はラジオのランキングでソートしたものとYouTubeでソートしたランキングを比べてみると、いかがでしょう?
羽鳥:全然違いますね。ラジオだとベックが上位に来るんですね。こうしてみると『ロッキング・オン』のセレクトは本当に折衷だと思います。(ラジオが強い)ベックやミューズは表紙を飾るアーティストですし、(YouTubeで強い)ワン・ダイレクションはアイドル的で『ロッキング・オン』だと取り上げないアーティストだと思われがちですが、ライブレポをガッツリ掲載したり、『RO69』で大規模な特集をしたこともあります。従来的な洋楽ファンは、ラジオチャートを見ると楽しめそうですね。それに対してYouTubeで上位に入っているアーティストの方がより市場のリアリティに近そうに見えます。なので、私どもの場合は両方反映させている、という感じですね。
??洋楽はシングルカットされる曲が少ないので、ソングチャートの場合、まずラジオとYouTubeでポイントを稼がないと順位が上がらないのですが、特にYouTubeのデータを見ていると、古い洋楽も含めて多く再生されていることが分かります。またセールスのデータにはストリーミングのデータも推定合算しているんですが、そちらには洋楽が多く入ってきています。特に、最近の新サービスが複数スタートしてからは顕著です。
羽鳥:そういう数字が反映されてくると心強いと思います。パッケージのセールス規模が変わっても、音楽を聞いていないわけじゃない。様々なストリーミング・サービスも始まった今が過渡期であり、転換期のような気がしますよね。パッケージを買っていないけど聞いている、ということを単純にネガティヴに捉えるだけでは、シーン全体を語ることはできないと思います。もちろんパッケージは売れて欲しいですけど、音楽リスナーとしても、CDが何枚売れているかということだけに重きを置いているわけではないでしょうから。これだけ音楽の聞き方が増えている中で、どれかに絞ってしまうのはもったいない。ストリーミングもあれば、パッケージもあって、それこそアナログもあって良いわけだし。ストリーミングで聞きながらアナログを買う人はアメリカでは増えていて、定着もしていますよね。
??先日、tofubeatsさんにもチャートに関するインタビューをしたんですが、CDを買って封を開けずにYouTubeを見る人もいるそうですよ。
羽鳥:面白いですね。
プロフィール
羽鳥麻美
1980年生まれ、神奈川県出身。2005年ロッキング・オン入社。以来、洋楽誌「ロッキング・オン」編集部員を経て、現在は月刊誌「ロッキング・オン」と音楽情報サイト「RO69」の洋楽コンテンツを運営するロッキング・オン/RO69洋楽編集部 副編集長を務める。
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時代やジャンルのボーダーを越えて
??Hot100は売上と潜在需要をバランスしてマーケット全体を反映させることでヒット(ソング)チャートを作っています。極端な話、アーティスト名を隠してソングチャートを作ることに挑戦すべきなのかもしれません。そこで質問なのですが、『ロッキング・オン』の特集でもアーティスト名ではなくて曲にスポットを当てて作っていくことはできますか?
羽鳥:それはなかなか難しそうですね。でも何号か前に、「今聴くべき名曲100」という特集がヒットしました。これはアーティストよりも楽曲が立っているわけなので音楽リスナーの関心はそういうところにもあるんだなと思いましたね。その特集ではサム・スミスもいればレッド・ツェッペリンもいて、しかも彼らの究極の1曲というのを選んでいます。だから読む人によってはプレイリストなんですよね。そして、それが今の聞き手の感覚に通じる部分があったのかもしれません。極論すれば、サム・スミスやレッド・ツェッペリンも同じように聞けるユーザーが増えてきているということかなあ、と思いました。
??ユーザーは昔の曲も新しい曲もひっくるめて聞いている、と?
羽鳥:アーティストもそうだと思います。「ああこの人は何々から影響されているな」というのが分かるアーティストも多いですが、今は、60年代と00年代とか、80年代から現在までとか、時代を超えた影響源を自分たちの表現としてごく自然に鳴らしているアーティスト、特に若手が増えてきていて、シーンを切り拓いていると思います。ザ・ストライプスやディスクロージャーなんかは、そうしたアーティストの筆頭じゃないでしょうか。作り手と聞き手の間で、良い意味ギャップが薄まっているとも感じます。アーティストとユーザーの音楽の聞き方も、方向性としては近くなってきていると思います。
??音楽は多様化している、つまりタコツボ化していて、「ヒット」しているのはその分野の狭いところでしか「ヒット」していない、と思いますか?
羽鳥:(笑)ひとつ言えるのは「ジャンル」というものの考え方じゃないでしょうか。音楽をカテゴリで分けようとすると、どうしても、これはロックなのかポップなのかダンスなのか、それこそブルースなのか…という話になってしまうけど、今の時代、そうして音楽をくくるのがより難しくなっている。それらの中で何か一つが大きな現象になっているとは言い難いですから。特定のジャンルがヒットしているというのは、そのジャンルが時代に応じてひとつの層として大きくなる瞬間が変動しているだけのように思います。例えば、今、EDMは巨大なシーンですが、もともとダンス・ミュージックそのものはずっとあったものだし、移り変わっているだけであって。そういう事象もあるなかで、「多様化」という言葉でまとめてしまうと単純過ぎる気がします。EDMのようにある一定の大きなムーブメントはあるけれども、「CDを買う」、「買ってステレオの前で聞く」というだけではなく聞き方も色々なわけだし、「ライブに行く」ことはもちろん、様々な行動を含めてカルチャーとして捉えてみると、違うヒットが見えてくるかもしれません。
??嗜好が多様化してきていると言われている中で、今も「ヒット」曲ってあると思いますか?
羽鳥:もちろんです!そこは変わらないと思いますよ。ここ数年をとってみても、アデルの“サムワン・ライク・ユー”にしてもダフト・パンクの“ゲット・ラッキー”にしても、1曲が世界現象になりうるわけですから。そこには言葉を超えたエモーションがあって、多くの人の心を揺さぶったらそれはもうヒットになるんだと思います。そして、そこに運や、タイミング等色んなものが左右してヒット曲になる。それも含めてポップ・カルチャーの面白いところだと思います。単純に曲が良いから、とか「良い曲は売れます」とか、そういう話でもないと思うんですよ。もしかしたら従来の価値観で言えば「悪い」曲でもヒットすることもあるだろうし、それはそれでヒットのありかただと思うんです。
??ジャパン・チャートには洋楽も邦楽も入っています。今後、『ロッキング・オン』でも邦楽を載せていく必要を感じますか?
羽鳥:例えばWeb『RO69』は邦楽洋楽を並列に出していて、トピックス切り替えで好きなように読む人が選べるようになっています。でも(『ロッキング・オン』は)一定数いる洋楽ファンに向き合っていくことがひとつの使命だと思っています。ただ、洋楽邦楽とを分け隔てなく聞くということも今だからこそ可能なのであって、そこは常に意識していきたいです。
プロフィール
羽鳥麻美
1980年生まれ、神奈川県出身。2005年ロッキング・オン入社。以来、洋楽誌「ロッキング・オン」編集部員を経て、現在は月刊誌「ロッキング・オン」と音楽情報サイト「RO69」の洋楽コンテンツを運営するロッキング・オン/RO69洋楽編集部 副編集長を務める。
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『ロッキング・オン』は入口になる
??CHART insightを触ってみてどうですか?
羽鳥:YouTubeのソートが面白かったですね。あと、「比較する」っていうのをやってみたんですけど、例えばカーリーの曲とテイラーの曲とで。そうするとカーリーはラジオオンエアがこんなにあるんだ、テイラーだとそれぞれの項目で均等に順位が上なんだな、とか。総合で上に来れば来るほど、色んなチャネルで影響を与えられる人なんだな、ということが分かってきて面白かったですね。あと「PCから取り込む」の指標も面白いですよね。
??パッケージ購入よりも若い年齢層のユーザー動向が分かる指標です。レンタルとか友達との貸し借りだったりとか。
羽鳥:なるほど。TVで話題になったのをPCに取り込んでいたりするんですね。世相を反映している感じですねえ。Twitterも面白いですね。まだ知名度の高くない人が上位に来たりして、今後の活躍が期待できたり。あとは、セールスにパッケージもダウンロードもストリーミングも合算しているのも面白いですね。パッケージに比べてダウンロードが上回るような曲もあるでしょうし。
??シングルカットされない曲も多いので全部合算してセールスにして良いと思ったんですよね。アメリカと違ってストリーミングは日本では全て有償なので、セールスのカテゴリに入れることにしました。そこで質問ですが、雑誌って「購入」もありますけど、「立ち読み」もありますよね。それってどう思いますか?
羽鳥:1冊ずつ保存版にしてもらいたいという意識で作っているので、もちろん買っていただきたいですが、実際には図書館で読んだり、貸し借りしている人もいると思います。(『ロッキング・オン』は)入口だと思っていて、究極は、これを読んで音楽を聞いてくださることが私たちにとって最大の喜びです。アーティストの言葉に影響されて音楽を始めたいと思ってくれたら素敵だし、そうじゃなくても、『ロッキング・オン』を読んでライブに行ったり、友達とのつながりが広がったりしたら、すごく嬉しいですね。
??こういう指標があったら面白いっていうのはありますか?
羽鳥:ライブの動員があったら面白いと思います。他には、どういう時間帯に聞かれたのかとか、どういう層が買ったのかとか、聞いてくれている人の顔がもっと見えてくるようなチャートがあったら面白いですね。
??アメリカはリアルタイムでチャートを書き出すようなことを考えているみたいですね。Twitterだけじゃなく。
羽鳥:パッケージの発売曜日がアメリカでは変わりましたものね。なるほど面白いかも。
??日本ではこれらのデータをもっともっと充実させていこうかと考えています。これからも末永くチャートをご覧頂ければと思います。
羽鳥:(笑)はい、今も見ているので、これからも見ていきます!
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羽鳥麻美
1980年生まれ、神奈川県出身。2005年ロッキング・オン入社。以来、洋楽誌「ロッキング・オン」編集部員を経て、現在は月刊誌「ロッキング・オン」と音楽情報サイト「RO69」の洋楽コンテンツを運営するロッキング・オン/RO69洋楽編集部 副編集長を務める。