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葉加瀬太郎【情熱大陸 SPECIAL LIVE SUMMER TIME BONANZA'15】インタビュー
「ヴァイオリニストで死にたい」と思ってる
デビュー25周年を迎えた葉加瀬太郎が、自身の音楽家/表現者としての生き様を語ってくれた。クラシックしか知らない少年とピストルズの出会い、クライズラー&カンパニーの解散、セリーヌ・ディオンとのワールドツアー、クラシックをカジュアルにしようとするシーンへの苦言、そして今年も開催される【情熱大陸フェス】の魅力(前夜祭で朝まで呑んだり、アナ雪の衣装着て女装したりしている理由含め)について等。全音楽ファン、必見。
セリーヌのツアーを廻りながらも「……これのどこが面白いんだろう」
--デビュー25周年おめでとうございます。四半世紀を音楽家として過ごしてきた訳ですが、どんな25年だったと感じていますか?
葉加瀬太郎:一昨年の末ぐらいからスタッフたちが「2015年で25周年なんですよね」みたいな話をするようになって。ただ、自分としてはバンド時代とソロ時代の境目ぐらいしかなくて、それ以外は毎年ただ繰り返してきただけなんです。いつも大体9月ぐらいから年末にかけて自分のツアー、そして春は春で【ライブ・イマージュ】だったり、もうひとつ自分のソロのツアーをやる。それを繰り返して、大体1年に100本ずつぐらいのコンサートをやってるんですね。それで全てのプロジェクトが今“15周年、20周年”っていう感じで畳み掛けてきちゃってるんですけど、大体それぞれのプロジェクトをやっている最中に「さて、来年、このプロジェクトどうしますか?」という打合せをする訳ですよ。ちょうど1年後ぐらいを見据えて、小屋探し、バンドメンバーのブッキング、どんなことをやるのか……って動き出す訳じゃない? そうすると、ただひたすらローリングストーンで、自分の中では「25周年」って言われてもよく分かんないんです(笑)。--そこを意識して活動してきた訳じゃないですもんね、きっと。
葉加瀬太郎:あまり先を見据えて動くのが怖いので、僕は。それこそ自分のスケジュールも明日までしか知らない。知らないようにしてるんです、わざと。見たら最後。--何がそんなに怖いんですか?
葉加瀬太郎:いや、単純に忙しすぎるので。自分のスケジュールを見ると「1週間の中でこんなに出来るんだろうか」とか思っちゃうから、ひとつひとつ片付けるようにして、先のことはスタッフにどんどんどんどん準備してもらって。だから僕はここにぶら下がったニンジンだけを追い掛けてる。--そしたら25周年を迎えていたと。
葉加瀬太郎:ハハハハハ!--葉加瀬さんは、ヴァイオリニストとしてはもちろん、音楽シーン全体で見ても他に類を見ないアーティスト/ミュージシャンだと思うのですが、自身では葉加瀬太郎をどんな存在だなと感じていますか?
葉加瀬太郎:自分自身変化してきてると思うので、年代によって随分違ってると思うから一概には言えませんが、元々クラシックしか知らない少年だったんで、かなりオタッキーというか、マニアですよね。そこから扉が開いたのは18歳になってやっとで、18歳から初めてクラシック以外の音楽が音楽として聴こえてきた。それまではポップスもロックも何もかもクラシック以外は音楽だと思ってなかったので。18歳をきっかけにいろんなことを勉強し始めて、だから僕にとってポピュラー音楽は学習したようなものなんですよね。小中学生のときに夢中になってたクラシック音楽とはちょっと存在が違う。--どうやってクラシック以外の音楽への扉は開いたんですか?
※Sex Pistols - Anarchy In The UK
--いわゆるポップスターと競演したり、自身で【情熱大陸フェス】を開催したり、時にはバラエティ番組にも出て行ったり。クラシック畑のミュージシャンがここまで派手に活動するケースを他に知らないんですけど、ここまで活動の幅を広げた理由やきっかけって何だったんでしょう?
葉加瀬太郎:クライズラー&カンパニーを解散したのが1996年なんですけど、そのときに解散してまた普通のヴァイオリニストに戻るのが怖かったんです。クラシックの業界に戻る事は難しかったかもしれないけど、スタジオミュージシャンやセッションミュージシャンになる可能性は多分にありましたから、それは自分の本意ではなかったんですよね。で、クライズラーは、僕以外の2人がクリエーター、アレンジャーや作曲家だったので、僕はわりとパフォーマーに徹してたんですけど、解散した事によってあの2人がやっていたことを自分でやるようになって。もっと言うと、ヴァイオリニストと呼ばれるのが一番イヤな時期だったので、こういう取材を受けても「ヴァイオリニストとは書かないでくれ」ってお願いして、「アーティスト」や「ミュージシャン」「作曲家」って書いてもらってて、後にそれはそれでウザくなってイヤになるんだけど(笑)。でもその時期はちょうど『情熱大陸』の曲とか「エトピリカ」を作曲/プロデュースしていた頃だったので、それをアピールしたかったんですよね。絵を画き始めて個展も始めたり、テレビのバラエティショーの司会もやったり、マルチなアーティストを目指してた。「別に音楽だけが僕の表現じゃないんだよ」っていうことを自分自身から発信してました。そこから何年間かはずっと。--なるほど。
葉加瀬太郎:あと、僕はセリーヌ・ディオンとのワールドツアーを3年間やっていて、100回以上のコンサートを彼女と出来たので、これはもう経験として物凄く勉強させてもらったと思ってて。それまではクライズラー&カンパニーっていう変なバンドをやりつつ、その当時の僕はかなりプリミティブな音楽にハマっていってたんですね。ラテンだったり、キューバンだったり、アフリカンだったり、或いはインディアンだったり、いわゆるワールドミュージックって言うのかな。それこそピーター・ガブリエルが興したリアル・ワールド・レコードみたいな、ああいうものにすごくintoしてる頃で。だからセリーヌのツアーを廻りながらも、彼女たちがやってるエンターテインメント音楽の意味が全く分かんなかったんです。仕事で自分も演奏はしてるんだけど、「……これのどこが面白いんだろう」って。--(笑)
※Celine Dion - My Heart Will Go On
リリース情報
葉加瀬太郎 25th Anniversary アルバム「DELUXE」~Best Duets~
- 2015/08/05
- [HUCD-10192/3]
- 定価:3,672円(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:内山直也
クライズラー&カンパニー再結成「呑み過ぎて、最悪だよ(笑)」
--自分が葉加瀬さんを初めて知ったのは、1995年、セリーヌ・ディオンの「To Love You More」でした。それまでヴァイオリニストの名をヒットチャートで目にしたことがなく、新鮮な衝撃を受けたのですが、あの経験が今の葉加瀬太郎の幅広い活動に繋がっていると思いますか?
Celine Dion - To Love You More (Official Audio)
--セリーヌ・ディオンとの活動がスタートしたと。
葉加瀬太郎:デヴィッドの家でレコーディングしては、ロスの街中のホテルに帰っていく1週間があったんだけど、スタジオから部屋に戻ったら3人で集まって「いつ解散しようか」っていう話をしてました。その隣の部屋ではプロデューサーたちが「よし、これを機会にアメリカ進出だ」みたいな話をしてたんだけど(笑)。--何ゆえに「いつ解散しようか」となったんでしょう?
葉加瀬太郎:音楽的な理由もあっただろうし、生活そのものも無茶苦茶になってて、それぞれが30歳を目前にして何か自分の道を……音楽も含め、生活も含め、考え始めなきゃならない時期だったんですよ。18歳から10年間毎日一緒にいるということはかなり濃密な事になるのでね、そこがもう限界だったってこともあったし、セリーヌのレコーディングに参加して、デヴィッド・フォスターが作ったトラックにちょこっとだけ自分たちのアイデアを入れるなんて、メンバーにとっては何も面白いことではなかったから。「太郎は太郎で別にデヴィッドとやりたかったらやれよ。セリーヌとやればいいじゃん」みたいな。--それで解散したんですね。
葉加瀬太郎:今、再結成してさ、ツアーで毎日一緒にいるんだけど、19年ぶりに。どうやって顔見れば良いか分かんないようなところから1年かけて修復し、そしてレコーディングをして、ツアーしてるんですけど、今から19年前の武道館で解散コンサートをした日のことは、3人とも何の記憶もないって言ってて。ゴソッて1日抜け落ちてる。複雑な想いだったんだね、やっぱり。--今、再び一緒に音楽を奏でられているのはどんな気分なんですか?
葉加瀬太郎:これはもう……頑張ってきたご褒美なんじゃないかな。こんだけ幸せなことはないよ。毎日、修学旅行だもん。呑み過ぎて、最悪だよ(笑)。他の仕事に支障を来すぐらい呑んでる!--まさしくバンドマン(笑)。
葉加瀬太郎:ヤバイよ、ウン年ぶりに部屋呑みしてるから(笑)。--葉加瀬さんは、日本の音楽シーンでも中島美嘉の楽曲プロデュース、ゆずとのコラボレーション、安室奈美恵の名曲をリアレンジ、そして【情熱大陸フェス】での様々な共演と、多くのポップスターと仕事をされています。こうした活動は葉加瀬さんにとってどんな意義を持つものだったりするんでしょう?
※安室奈美恵 / 「CAN YOU CELEBRATE? feat. 葉加瀬太郎」 (from BEST AL「Ballada」)
--そこが分岐点だったということですね。
葉加瀬太郎:【情熱大陸フェス】は、僕自身が東京と大阪の野音で【熱帯夜】って題して、いろんなゲストを招いたコンサートをしてたら、それを『情熱大陸』の番組スタッフが観て下さって、「ウチの名前を冠にしてもっと規模を大きくしていきませんか?」ってお声掛け頂いたんですけど、それから今年で15年。で、娘が今15歳。その頃に僕はいろんなことを始めてるんですよね。--何が15年前の葉加瀬太郎をいろいろと駆り立てたんですかね?
葉加瀬太郎:18歳ぐらいから持っていたアイデアを形にするチャンスだったのかな。ちょうどクライズラーを終え、セリーヌとの3年間の旅を終えて帰ったきたときなんですよね。帰ってきて、それで結婚して、家を建て、娘が生まれ、何かそこから続けていくものの種を植えたって感じかな。今思えば。それが今15年経ってるって感じ。家が出来たら庭が出来るから、そこに種を植えるんだよね、希望を込めて。で、自分の思い描いていたものを全てひとつひとつ小さいながらもスタートさせたものが、今ここまで育ってるんだと思います。継続は力なりじゃないけど、毎年夢中になって、それぞれのイベントをやってきた結果ですよね。今もJ-WAVEでやらせて頂いているラジオ番組も15年なんですよ。--何もかもがアニバーサリー。
葉加瀬太郎:どこ行ってもアニバーサリー(笑)。そのラジオ番組ではホストとしての役割をすごく勉強させてもらってるんです。その番組は1時間のトークショー、ただ旅の話を聞くだけなんですけど、ANAさんにずっとスポンサードして頂いてて。で、旅の話を聞くと人生の話を聞くことになるじゃない。おそらく900組ぐらいの旅=人生の話を聞かせてもらってるんだけど、それがきっかけで「今度、夏のフェスに出て頂けませんか?」或いは「【ライブ・イマージュ】に出てみませんか?」ってお声掛けしてるから、僕にとっての社交パーティの場というか、サロンみたいな状態なの。例えば、機内でふと見た雑誌で気になる人がいたら「この人呼んでみよう」とか。それで番組に呼んで話を聞いて、そこから何かの仕事に繋げていったりしてるんです。マーチン(鈴木雅之)さんにしたって、フミヤ(藤井フミヤ)さんにしたって、その番組で話してて「こんなことやってるんですけど、出て頂けませんか?」「もちろん」ってなってますからね。リリース情報
葉加瀬太郎 25th Anniversary アルバム「DELUXE」~Best Duets~
- 2015/08/05
- [HUCD-10192/3]
- 定価:3,672円(tax in.)
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:内山直也
【情熱大陸フェス】May J.とやるとき何を着るかだよね、まずね。
--それで【情熱大陸フェス】は年々豪華になってると。
葉加瀬太郎:あの夏フェスに関しては、出演してくれる方々が「他の夏フェスと全然違う」って仰ってくれていて。前夜祭も打ち上げもあって、ただひたすらみんなで呑み続けてるだけなんですけどね(笑)。アサヒビールがスポンサーだから……--完璧ですね。
葉加瀬太郎:売るほどビールはあるんで(笑)。皆さん、20分~30分の出番で、その後はずっと呑んでるんですよ。僕はホスト役として1日中出てて、みんなとコラボレーションするから呑まないようにしてますけど、出演者の皆さんは完全に出来上がった状態でアンコールに出てくるという。--夏フェスという名の宴会(笑)。
葉加瀬太郎:そう、宴会なの! フミヤさんがいつも言うんだけどさ、「太郎な。あのな、いまどき、一番最後に同じTシャツ着てみんなで出てきて、ラララ♪って歌ってる音楽祭、どこにもねーぞ」って、「だせーぞ。でも最高だな」って(笑)。フェスって自分の出番が終わったら帰るのが普通になっちゃってるんだけど、僕はあの場をそうじゃないものにしたくて。事務所とかレーベルとか超えて、そこでみんなが知り合えば他の仕事が生まれたりするし、気付いたらユニットが出来上がっていたりとか、知らない間に楽屋裏でそうなるんだよね。僕はそれがすごく好きで。仕事の仲間同士が、音楽家同士が繋がれば繋がるほど嬉しい人なので、そういう場を提供するのはわりと得意なんです。--昨年の【情熱大陸フェス】は、葉加瀬さんがアナ雪のコスプレまでして、いろんな意味で話題となっていましたが(笑)、葉加瀬さんにとってどんな成長をしたフェスだと感じていますか?
葉加瀬太郎:佐藤竹善とかフミヤさんとかマーチンさんみたいな常連組と作る空気感の中に、miwaとかMay J.とかが去年ニューフェイスとして入ってきて。で、僕はすべてのリハをずっと観てて「なんだ? この人」って感じだと思うんだけど、自分が弾かないところでも「よっ!いいね!」って1日中言ってるのね。それから前夜祭があって、前夜祭は元々僕と竹善と4,5人で焼肉を食いに行ったのが始まりなんだけど、その人数がどんどん増えていって、今では本番の前の日なのに朝4時、5時までみんな呑んでる。--めちゃくちゃですね(笑)!
葉加瀬太郎:竹善とか本番で歌ってやっと酒抜けてるような状態だから(笑)。バンドのメンバー含め、そんな奴らばっかなの。でも前夜祭をやることで本番の雰囲気が変わるわけよ。バックステージの雰囲気が全部そのままお客さんに届けられる。だからビックリしてると思うよ、どのライブも他のアーティストたちがずーっと観てるから。そんなイベントないからね。で、ステージの裏ではバーベキューやってるし、子供用にすげぇでっかいプールまで用意してるから、出演者が自分たちの家族を連れてきたりもするんですよ。ウチの息子なんてずーっとプールで遊んでるもん。そこで子供たちのサークルも出来るし、そうすれば母ちゃん同士が仲良くなるじゃん。--凄いですね、全部揃ってる。
葉加瀬太郎:そういうバックステージの雰囲気がそのままステージに出るんだよね。だから独特なフェスになってると思うし、その雰囲気のまま今度は世代を広げられたらと思ってます。僕たちがマーチンさんやフミヤさんから学んだことを次の世代に伝えていけるだろうし、楽屋でマーチンさんとクリス(クリス・ハート)が「今度一緒になんかやろうぜ」って話してたりするのって、まさにソレじゃん。平気で20年、30年の世代差を超えられるのが音楽だから、そういう場になればいいなって。お客さんにとっても。僕のファンがMay J.を知ってもいいし、May J.のファンが押尾コータローのギターを聴いてビビってもいいし、やっぱりフェスっていうのは思いがけない体験をする場でもあるので。で、そのあと、それぞれのアーティストのコンサートに行ってくれたら、みんなの人生が変わるでしょ。--フェス本来の醍醐味ですね。
葉加瀬太郎:あと、あのフェスは、ハウスバンドをね、1回目から予算かけまくって、てっぺんからミュージシャンを集めて組んでいて。でも最初の4,5年は皆さん自分のバンドを連れてきてたの。そりゃそれでしょうがないから「もちろんいいですよ!」って、「でもハウスバンドを用意してますから全然使って頂いて結構ですよ」って伝えて。でも怖いから自分のバンドを連れてくるじゃん。ただ、それが4,5年経った時期から変わったのよ。「情熱大陸のバンドで歌いたい」って。今ではみんな一人で来て、「自分のバンドより気持ち良く歌える(笑)。こんなフェス、どこにもない」って言ってくれるようになった。で、僕がリハをずっと観てるっていうのは、僕にとっての夏期講習だから。一緒にやってみたい、演奏を聴いてみたいミュージシャンを全部ブッキングして、ずーっとリハーサルから観て、学んで、すごく勉強になるし、それがまた自分のレコーディングをするときに「あいつとやってみようか」って話に繋がるじゃん。--自分で夏期講習の場を作ってるんですね。
葉加瀬太郎:そう。バンドだけのリハのときから、ずーっとスタジオで観てます。--たくさんあるとは思うんですが、今年の情熱大陸フェス【情熱大陸 SPECIAL LIVE SUMMER TIME BONANZA'15】の見どころ、聴きどころ、注目してほしいところがありましたら教えてもらえますか?
※May J. / 『Let It Go~ありのままで~(エンドソング)』 from 『アナと雪の女王』
--去年はアナ雪でしたからね。
葉加瀬太郎:去年やっちゃってるから。この前どこかのスタジオでMay J.に会ったときに「今回はまともに弾いてあげるからね」って言ったら、「そんなー。いいですよー」って笑ってて。それで「あ、これは何かやんなきゃなんない」と思って(笑)。1,2週間前にスタッフから「そろそろコスプレ考えて頂かないと、準備が間に合わないんで」って言われて、「え、そこかよ! 楽曲の要望とかは何もないの?」みたいな。元々は、スタイリストとかもつけている場合じゃないので、でも20曲以上演奏するから、それぞれのアーティストと1,2曲ずつコラボするから汗だくなわけ。だから自分の家のクローゼットから衣装になるものを全部持っていってて、その当日皆さんが何色の衣装を着るか、どんな雰囲気なのかを見ながら合わせて、自分で全部コーディネイトしてたの。その役をマネージャーがやるようになって、そしたら衣装がちょっとずつちょっとずつエスカレートしていき……--飛び道具みたいな衣装が用意されるようになり。
葉加瀬太郎:去年はとうとう女装することになって。でもそこはもうみんなも期待してるところだから頑張る。--大変ですね(笑)。
葉加瀬太郎:いや、でも、夜なべして作ってくれてるわけ! 事務所で! スタッフ:もうやめないッスか? 一同:(爆笑) 葉加瀬太郎:俺だってそう思ってるよ! スタッフ:でも引くに引けない感じになってますよね! 葉加瀬太郎:とりあえず披露する曲をみんなに出してもらって、そこでいっぺん会議しよう。衣装会議(笑)。もうやらない訳にはいかないから。--衣装以外で何かありますか?
葉加瀬太郎:アハハハ! あとはベストを尽くすのみ! 暑い中を頑張るだけなんですよ、本当に。1曲弾く度に汗だくだから、酸素吸いながらどうやって1日生き抜くか、みたいな。だって14年もやってりゃさ、始めたとき33歳なんだから。今、47歳。その差は大きいね(笑)。リリース情報
葉加瀬太郎 25th Anniversary アルバム「DELUXE」~Best Duets~
- 2015/08/05
- [HUCD-10192/3]
- 定価:3,672円(tax in.)
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:内山直也
音楽家がマジでやってないほどツラいものはないんです
--でも年齢を重ねていくごとにやることは大変になっていくという。
葉加瀬太郎:やることどんどん増えてるし、曲数も増えてる。最初はそんなにみんなのステージには出てなかったんですよ。自分のコーナーをガチってやって、他のアーティストのステージはポンポンって3,4曲ぐらいしか出てなかったんですけど、今は皆さんが「絶対、一緒にやりたい」って仰ってくださるんで。4,5年前に「出過ぎてるから、皆さんに一度説明して、出番を絞っていきましょう」って話になったんだけど、そういう訳にはいかないんですよ。ずっとリハーサルにいるから、そうすると「弾け」ってなる。マーチンさんから「この曲やって」って言われたら「いいえ」って言えないから(笑)、「はい、頑張ります。ベストを尽くします」って答える。そうすると、「なんでマーチンさんだけ3曲なんだよ。俺ともやろうよ」ってフミヤさんから言われたりするでしょ。で、最終的に「体力の続く限り弾かせて頂きます!」って腹を括ったんです。そしたら今は25,6曲。凄い大変よ、リハーサルから。でも夏はそれだけに集中するようにして。--そんな葉加瀬さんだからお聞きしたいんですが、今の日本の音楽シーンは葉加瀬さんの目にはどう映ってるんでしょう?
葉加瀬太郎:すごく面白いアイデアがいっぱい出てるから楽しいなって思うけど、エンターテインするだけだと消費されることになっちゃうから。もちろん消費されなきゃダメなんだけど、賞味期限の長いものを作ろうっていう意思を頑なに持ってほしいと思います。メッセージ性とか必要だと思うけど、それが今だけじゃないものになってほしいな。やっぱり半年とか1年で聴かれなくなっちゃう音楽はちょっと寂しい。僕はね。それでいいと思って作ってる人もいっぱいいて、それはそれでいいんだろうけど、そういう音楽ばっかり作るのにお金を使ってる場合じゃないのになって思います。--今の話はそのまま昨今のアイドルブームに対しても言えることですよね。
葉加瀬太郎:作る側の意識だと思うんだ。作る側が「とりあえずぶっ込んでみよう」って言ってさ、短絡的なアイデアでやってしまうと、そこにいる人たちの人生を崩すから。僕だってプロデューサーっていう立場もあるから、若いヴァイオリンの女の子を何とかしてくれっていう話はいっぱい来る訳ですよ。だからいつも「よく考えなさいよ」ってその人たちに言います。「どうなりたい?」って聞くと、「クラシックだけじゃなくていろんなことやってみたいんですよ。ポップなこともやって、そして音楽をみんなに知ってほしいんです」って言うんだけど、「どれぐらいの根性でやろうと思ってる? 結婚したら活動は難しくなるし、それまでの3,4年だけバァーって出来ればいいの?」って言うとみんな一回考え始めるよね。それはクラシック業界だろうとアイドル業界だろうと一緒だから。そういう考えがうやむやな女の子を引っ張りまわして捨てちゃイカンな。--最後に、葉加瀬太郎さんの核であるクラシックのお話を聞かせて頂きたいんですが、近年はクラシック奏者を主役としたドラマやコミックなども増え、クラシックがよりカジュアルな存在になった印象も受けます。葉加瀬さんはどう思われますか?
葉加瀬太郎:カジュアルになる必要は全くないと思う。--あー、なるほど。
葉加瀬太郎:クラシックとか歌舞伎とか古典と言われるものは何でもそうですけど、日本のクラシック、ヨーロッパのクラシックっていうものの伝統を守って、再現芸術として確立する為には、カジュアルになる必要は全くなくて。で、本当に好きな人が集まってソレを楽しめばいい。ただ、そこでしか生きてきたことがない人が「私はクラシックをもっとカジュアルにみんなに知ってほしいんです」って言うんですよ。僕みたいにいっぺんそっちを捨てて、こっちの業界でやってきてる人にとっては、あそこは聖域としてあのままであってほしい。サントリーホールにジーンズ穿いて、ビーサン履いて行く必要はないじゃないですか。分かりやすく言うと。僕はクラシックの中でもロマン派の音楽、特にブラームスとか、あの辺のものしか興味がないので、現代音楽とか、或いは中世ルネッサンス、ヴィヴァルディみたいなものに特に感動しないし、小説を読むようにショパンやベートベンやシューベルトを聴きたい人なので、それだけを守ってほしいし、自分もその場にいつか身を投じたいと思ってます。そのときはちゃんと燕尾服を着たいし。だからシティフィルや東フィルが日曜の午後に「ファミリーコンサートだ」と言って、「ピーターと狼」や「モルダウ」や「ツィゴイネルワイゼン」をやってるのが一番嫌いです。--言い切りましたね。
葉加瀬太郎:オーケストラのメンバーも指揮者もノーリハで、ちょろっと集まって、そこに子供たちを集めて、1000円のチケットで、何の想いもない演奏をしたところで、何にも伝わんないから。ガチンコでやってるマーラーを聴かせたほうがよっぽど良いです。音楽家がマジでやってないほどツラいものはないんです。あんなもん、観せちゃイカン。で、チケット安くしないと出来ない、その構造自体も良くない。チケット安くするのは良いんだけど、その分、日本がお金を出さなきゃどうにもならない。僕はロンドンに住んでたんですけど、ロンドンなんて本当に素晴らしいエデュケーショナルなクラシックコンサートがいっぱいある。10ポンドしない、1000円か2000円でマジなコンサートを観れるんですよ。何故かと言うとギャラがちゃんと払われてるから。その代わりに何をするかと言うと、「これからベートーベンのシンフォニーをやります」ってプレトークまでまず1時間。ベートーベンがどんな想いで作ったか、ベートーベンがどんな男だったか。「では、その男がこんな想いで作った曲をみんなで聴いてみましょう」それしかないんだって、クラシックは。--クラシックが如何に人間臭い音楽であるかを知った上で聴くという。
葉加瀬太郎:それしかない。クラシックは崇高は崇高なんですよ。なんで崇高かって言うと、それは300年も残っている音楽だから。モーツァルトだって、バッハだって、300年残そうと思って作ってるから。その時代も1ヶ月、2ヶ月で終わる音楽がいっぱいあったんですよ。その中で50年に1人ずつぐらいが歴史を作ってる訳です、平均すると。で、バッハなんてその当時は誰も知らなかったんだから。誰もだよ? あれほどの、音楽の基礎をすべて作った男なのに。ドイツの片田舎の城の教会に住んでて、毎日ただ曲を書いていただけ。今じゃ忘れられてる息子のほうがスターだったんだもの。で、100年経ったときにメンデルスゾーンって人がバッハを紹介してから有名になってる。全部そう。ベートーベンだって「100年残そう、200年残そう」と思って書いてる。奇人変人ばっかりなんだよ(笑)。--ただ、今の音楽シーンで「100年残そう、200年残そう」という意識を持って音楽に臨むって難しいですよね?
葉加瀬太郎:そうでしょうね。20世紀の後半から言うとさ、ビートルズ以降はなかなか難しい。ポールやジョンは「残そう」と思って作ってると思うけど、その意思を継いでる者がいたとしても、今はとにかく音楽の消費のされ方、聴き方、聴衆との関係性が変わってきてるから。まぁそれでも個人的には「この人の音楽をずっと聴いていこう」って思ってるアーティストは何人かいるし、残っていく人はいっぱいいると思うよ。ただ、形がどういう形かっていう話でさ。もっと言えば、坂本龍一さんがよく言ってますけど、別にもう「誰の曲か」とかじゃなくなるから。もっと匿名性になる。彼が作った音楽を彼が作ったから好きになるのではなく、そんなことじゃなくビジネスできるようになれば、作曲家は別に自分の名前を残す必要もなくなる。だから変な時代になるよ、きっと(笑)。--この先、葉加瀬さんが音楽家としてやっていきたいことって何なんでしょう?
葉加瀬太郎:この極東の島国に生まれて、4才のときから自分の意思ではなくヴァイオリンを始めてしまった訳で、ヴァイオリンっていう楽器は自分にとって運命で。さっき、ヴァイオリニストって言われたくない時期があったって話したけど、それから何年か経って、自分とヴァイオリンの関係を見直して、今はとにかくヴァイオリニストとしての意識が高いです。ヴァイオリンが大好きだと痛感しているので。だから、曲も書くし、イベントもやるし、いろんなことをやりながらだけど、軸は「ヴァイオリニストで死にたい」と思ってる。コイツだけは離せないんですよ。本当は離すとなんとなく思ってたんだけど、ヴァイオリンが離してくれなかったんです。Interviewer:平賀哲雄
Photo:内山直也
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葉加瀬太郎 25th Anniversary アルバム「DELUXE」~Best Duets~
- 2015/08/05
- [HUCD-10192/3]
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:内山直也
葉加瀬太郎 25th Anniversary アルバム「DELUXE」~Best Duets~
2015/08/05 RELEASE
HUCD-10192/3 ¥ 3,740(税込)
Disc01
- 01.TO LOVE YOU MORE
- 02.CAN YOU CELEBRATE? feat.葉加瀬太郎
- 03.ベイビー・アイ feat.葉加瀬太郎
- 04.Once Upon A Time In America ~デボラのテーマ~
- 05.Etupirka
- 06.組曲 「もうひとつの京都」 (vocal version)
- 07.情熱大陸 2007
- 08.春風 meets 葉加瀬太郎
- 09.I LOVE YOU
- 10.雪の華 (silent version)
- 11.黄昏のワルツ
- 12.放課後の音楽室
- 13.As Time Goes By
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