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トラックメイカー/DJ tofubeats インタビュー
中学時代から、ネットレーベルに音楽をアップし、様々なアーティストのリミックスやプロデュース、楽曲提供を行う神戸在住のトラックメイカー/DJのtofubeats。そんな彼が、Billboard JAPANチャートを通じて見えたことは何なのか。そして、そもそも音楽チャートは必要なのかについて語ってくれた。
無料と有料を提案して、最終的にはお客様が決着をつけてくれれば
――tofubeatsさんは、4月にリリースされた『STAKEHOLDER』を、パッケージとデジタルで販売しつつ、全てSoundCloudにもアップされています。tofubeatsさんにとって、無料で音楽を聴くことができるSoundCloudというのは、どういう存在ですか?
tofubeats:音楽に対して、人が思っている価値観というのは流動的であるというイメージを持っています。世の中には、「CDは買わないけど無料だったら聴こうかな」っていう人もいると思いますし、無料でアップされている音源があったとしても買う人もいると思います。おそらく、CDを買う人は、YouTubeで聴けたとしても買うと思うので、それであれば、CDがなくても聴ければ良いやって思う人にも、聴いてもらった方が、全体の接触回数が増えて得なんじゃないかなと思っています。
――無料でも聴けるし、それで気に入ってもらえれば、買ってもらえればっていうスタンスなんですね。
tofubeats:そうですね。なので、サブスクリプション型サービスと同じイメージです。少し前から、音楽にお金を払ってもらうのが難しくなってきたなあと思っていて。それであれば、“聴いてもらう”という体験だけは、無料と有料と両方を提案しておいて、最終的にはどこかでお客様が決着をつけてくれれば良いなと思っています。
――無料で出したら、売れなくなるという心配はないんですか?
tofubeats:今って、無料でアップしなくても、結局 違法なサイトにアップされてしまう場合もあるじゃないですか。そっちにアクセスされるくらいだったら、自分でアップして、自分のサイトのアクセスに繋げる方が得かなとも思っています。
――有料、無料問わず、音楽をアップできる様々なサービスが溢れている中で、心掛けてらっしゃることは、何ですか?
tofubeats:自分の中で矛盾が発生しないような売り方ができたらいいなと思っています。僕の中では、配信もするし、CDも売るし、無料でも聴けるというのを、全部することがしっくりくるんです。それがお客様に対して誠実に売るっていうことなのかなと思います。あとは、今はバズを重視している売り方がとても多いなあと思います。このチャートも見ても感じますが、YouTubeやTwitterなどで起こった瞬間最大風速を、どこまで伸ばせるかっていうのが、今後のヒットの鍵になってくるのかなと思っています。インターネットでのバズマーケティングって、大量にばらまいて誰もがぶつかるようにしたり、奇をてらったり、倫理的にギリギリのラインを攻めたり、色んなやり方がありますよね。そういうマーケティングが、これから音楽業界でも増えていくのかなと思っています。そういう意味で、今は転換期だとは思うので、これからどこに重心を置いていくのか、僕自身も考えているところです。
――日本でも、いくつかサブスクリプション型ストリーミングサービスがスタートしましたが、tofubeatsさんは使ってらっしゃいますか?
tofubeats:僕は、サブスクリプション型音楽ストリーミングサービスが、まだあんまり得意じゃないんです。本屋と図書館って、置いている本が同じでも気分が違いますよね。本屋は、自分でお金を払わないといけないから、ワクワク感があると思うんです。サブスクリプション型音楽ストリーミングサービスは、書店的な興奮が感じられなくて、図書館にいるような気持ちになる。僕らみたいに、チャートインしているような曲以外にも、もっと聴きたいっていう人にも応えてくれるようなサービスが欲しいなって思います。
――なるほど。
tofubeats:もちそん、全てのサービスを使ってみたわけではないし、僕もサブスクリプション型サービスにも曲は出していますが。やっぱり、お金と価値って関係があると思うんですよね。人間ってある程度払わないと興奮できないんじゃないかなあ。
――でも、アプリのダウンロード数も伸びていますし、今年は音楽の聴き方が大きく変わりそうですよね。
tofubeats:そうですね。でも、まだ公式のサービスより違法のアプリを使ってる人の方が多いんじゃないでしょうか。YouTubeをブラインドでストリーミングできるアプリもありますし、そういうサービスを使っている人からしたら、聴ければなんでも良いと思うし。僕は今、24歳ですけど、僕の世代でも もうCDを買ってる人ってほとんどいないんです。そんな自分と概念が全く違う人たちが、どうやって音楽を聴いているのかを、ちゃんと見ていかないといけないなと思います。もしかしたら、サブスクリプション型サービスなんて、そもそも必要ない人の方が多いかもしれないんですから。
本当は無料の方が良いのかもしれない
――最近では、音楽系の専門学校に通っている子でも、自分でCDを買ったり、ダウンロードをしないって聞いたことがあります。
tofubeats:そうですよ。オーディションに来る子ですら「YouTubeで聞きました!」って言って来ますから。「YouTubeから音源抜いてきました」とか。
――えぇっ。
tofubeats:でも、たしかに無料で聴けるのに「お金を払え」って強制するのも、おかしい話だとも思うんですよね。だから、最近 20代の人に出会ったら、「どうやってる?」って訊くようにしてます。
――そういう人たちを法律で縛るのではなく、お金を払ってでも聴きたいって思えるようなサービスを展開していくのが課題なんでしょうね。
tofubeats:それもあるかもしれませんが、本当は無料の方が良いのかもしれないとも思います。これからは音楽も、盆栽や陶芸のように、プロでできる人はすごく少なくって、趣味でやっている人の方が多い業界になっていくのかなとも思います。海外では音楽と他の仕事を両立してる人ってすごく多いですよね。アメリカの事情には詳しくありませんが、イギリスでは、ある程度有名なDJでも、DJ専業の人って少なくて、普通にみんな仕事しているんですよ。「なぜ?」って聞いたら、「音楽だけで生活していくなんて、嫌だ」って言いますもん。日本でも、メジャーデビューしている人で、他にも職業を持っている人って増えてきていますよね。個人的には、他に仕事をしている方が、(音楽的に)遊びも、できるんじゃないかなと思っています。だから、僕もたまに文章書いたり、他のこともやるようにしています。
――私たちは、6月3日から新しくYouTubeやストリーミングのデータを追加し、ビルボードジャパンチャートをリニューアルしました。tofubeatsさんは、このチャートをご覧になって、いかがですか?
tofubeats:この洋楽邦楽の入り乱れっぷりが、新鮮ですよね(笑)。1つ気になったんですが、この「YouTubeの再生回数」は日本国内の再生回数なんですか?
――そうです。日本国内における再生回数です。膨大な動画の中から、レコーディングの識別に利用される国際標準コードであるISRCが登録されている動画を、アメリカのニールセン経由で抽出し、カウントしています。
tofubeats:なるほど。面白いですね。
――そうですね。YouTubeでご覧になっている再生回数は、世界中の累計数なので、日本で再生された回数の週間ランキングは、今のところビルボードジャパンでしか見ることはできません。ちなみに、複合チャートの元となるデータについて質問が多かったので、解析できるサービス「CHART insight」も作りました。
tofubeats:データごとにソートができるんですね。(6月8日付チャートを見ながら)ラジオ順だと4位がゼッドなんですね。YouTube順で見ると、1位がゲスの極み乙女。の「私以外私じゃないの」で、2位がウィズ・カリファの「シー・ユー・アゲイン」なんですか!意外すぎるー! Superflyの「愛をこめて花束を」も、まだまだYouTubeで聴かれているんですね。
――そうですね。新譜をリリースすると、それに伴って過去の作品が、再度YouTubeで聴かれたりしますね。ちなみに、「CHART insight」ではYouTubeのリンクを貼っているので、気になる曲は、そのまますぐ聴くこともできます。あと、楽曲をクリックしていただくと、楽曲ごとにチャートインしてからの推移がグラフで見れます。
tofubeats:おお!すごい!これ、アプリとかで欲しいですねー。茶飲み話に使えますね(笑)。このグラフのページが一番良いです。トキメキがありました。面白いですね。
――チャートって、昔はプレイリストの役割だったと思うんですよね。そのワクワク感を、このチャートを通じて思い出してもらえたらなと思います。tofubeatsさんは、普段どうやって新しい音楽を探していますか?
tofubeats:全部やります。メールマガジンを見て知ることもあるし、SoundCloud もBandcampもYouTubeも見ますし、CD屋さんにも行くし、雑誌も買うし。特に、このやり方を一番信用しているというのはなくて、色々なところから情報を収集しています。
――tofubeatsさんは、どんな時に、自分の作品がヒットしたなって感じますか?
tofubeats:いやいや、まだ全然ヒットしてないですけど、個人的には「良い作品ができた」って思った時が、一番嬉しい時です。売上については、あとでついてきたら嬉しいなと思っています。CDの売上やiTunesのチャートでの順位など会社に対して説明できるくらいの数字が出てきたときには、「ヒットしたんだな」って思うことはあります。でも、Billboardのチャートだって、チャートの順位と、自分が好きな曲順って、誰にとっても全然違うじゃないですか。だから、YouTubeの再生回数や、売上の数字についても「 そうか、世の中の人はこう思っているのか」という程度に、捉えるようにしています。
――無料で聴けるYouTubeで再生回数が多い方がヒットなのか、売上枚数が多い方がヒットと言えるのか、どちらだと思いますか?
tofubeats:この「CHART insight」を見ても分かりますけど、わりとリンクしてるんですよね。だから、最初の質問の答えじゃないですけど、フリーでSoundCloudに出すのは理にかなってるのかなって思います。最近はCDは買うけどPCに取り込むドライブを持ってないからYouTubeで聴いているって人もいます。YouTubeで聞きながらブックレットを読むんですよ。他には、好きなアーティストを応援したいから、ライブも行くしCDも買うけど、CDの封は開けてない人もいる。色んな楽しみ方が増えてきているなあと思います。
音楽の価値は人それぞれですから
――私達は、PCにCDを取りこんだ際にデータベースにアクセスした回数もカウントしています。そのデータでソートすると、また違った順番になって興味深いです。
tofubeats:レンタルしたCDを取りこむ人って多いので、これを見ると若い世代にウケている曲が多いように見えますね。あとは、友達同士の貸し借りが多そうなアーティスト。所得との相関も見えてきますね。ちなみに、僕のファンの場合は、SoundCloudやYouTubeで聞いてくださっているファン層と購買層は100%合致してるくらい、ファンの純度が高いんですよ。YouTubeだけ見ているファンは少なくて、PVの再生回数とCDの売上枚数を比較すると、すごく割合が高い。
――接触から所有に進む人の割合が、高いんですね。
tofubeats:SoundCloudでの反応から購入へ結びつく割合を、今までは自分で計算していたんですが、このサービスでも、YouTubeやTwitterでの反応から購入へ結びつく相関が見れるのは面白いですね。
――え?自分で計算しているんですか?
tofubeats:僕は、いつもSoundCloudで聴かれている回数から、購入に結び付く割合を自分で皮算用しているんですよ(笑)。何人にリーチしたのかなって。他のアーティストの作品についても、オリコンのデータとYouTubeの再生回数を比較してみたり。
――面白いですね。純度が高いアーティストと、高くないアーティストの差って何なんでしょうか?
tofubeats:純度が高いっていうのは、逆にいうとエンドユーザーに広がってないってことですから、良い意味と悪い意味の両側面があるかなと思います。テレビ等でたくさん流れると、CDを買う気がなくても、とりあえず気になってYouTubeで聴いてみるでしょうし。なので、このグラフでは、そういう浸透度も見えて面白いです。あとは、このグラフによって、YouTubeやTwitter、ラジオでのプロモーションが、セールスに跳ね返っているのかが分かりますよね。そうすると、それらの広告価値にも影響してくるだろうなと思います。セールスに跳ね返っていることが分かれば、広告価値は上がっていくでしょうし。
――そうですね。
tofubeats:他には、ラジオとかTwitterの動きを見て、レコード会社が、シングル盤を出すのか出さないのかを判断する材料としても使えそうですね。
――たしかに、そんな使い方もできますね。
tofubeats:あとは、個人的には、この「PCによるCDの読み取り数」順が一番面白いです
――「PCによるCDの読み取り数」順とtwitterは日本独自のデータなんです。特に「PCによるCDの読み取り数」順については、レンタル市場の大きい日本ならではなので、アメリカのチャートディレクターになかなか理解してもらえませんでした。
tofubeats:アメリカは、すでにメガストアがどんどん減っていっていますからね。
――去年、イベントで来日した時はタワーレコードの写真を嬉しそうに撮って帰りました。
tofubeats:そうでしょうね。アメリカに住んでいる友達が、「タイラー・ザ・クリエイター」のCDが5パターンのジャケットで発売された時に、「どの店にも1パターンしか置いてない」って言っていました。なので、パッケージはamazonとかオンラインでしか買えないそうです。
――そうなんですね…。tofubeatsさんは、そもそも音楽チャートって必要だと思いますか?
tofubeats:僕は必要だと思います。音楽の価値は人それぞれですし、音楽チャートがあることで、聴きたい音楽を見つけることができて聴く人が増えるんだったら、裾野が広がるためにも良いと思う。僕だって、MTVのビデオランキングや、オリコンチャートを通じて音楽を知って、育てられたわけですから。あとは、お店が小さくて、あまりたくさんCDを置けないようなCDショップの場合、どんな品揃えにするかを決めるには、チャートは重要なデータになるでしょうし。ビルボードのCHART insightは、そういう意味でも興味深いデータだと思います。
――そうですね。このサービスは、法人用のメニューも用意していて、法人向けは100位までじゃなく、全順位を見ることができたり、一部のデータのみを合算するハイブリッドチャート機能も備えています。それによって、今までは販売データを見て発注数を考えてらっしゃった小売店の方々も、TwitterやYouTubeなど他の指標を通じて売れ筋を予測していただけるんじゃないかなって思っています。
tofubeats:田舎の小さなCDショップに入った時に、「おっ。良い品揃えしているな」って思うような、気持ちになりたいですもんね。僕も、チャートを賑わせられるように頑張ります。
STAKEHOLDER
2015/04/01 RELEASE
WPCL-12073 ¥ 1,650(税込)
Disc01
- 01.SITCOM (intro)
- 02.STAKEHOLDER
- 03.window
- 04.dance to the beat to the
- 05.STAKEHOLDER -for DJ-
- 06.She Talks At Night
- 07.T.D.M. feat.okadada
- 08.(I WANNA) HOLD
- 09.衛星都市
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