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MIKA 来日インタビュー
極上ポップ・メロディにのせたユーモアあふれるカラフルな楽曲、魅惑の高音ヴォーカル、エンターテインメント性の高いライブ・パフォーマンスで世界中を魅了し続ける、ロンドン在住のシンガー・ソングライター/プロデューサー、MIKA(ミーカ)。
600万枚以上の売り上げを記録した『ライフ・イン・カートゥーン・モーション』で鮮烈なデビューを飾り、これまで3枚のアルバムをリリース。【ブリット・アウォーズ】、【ワールド・ミュージック・アワード】など数々の音楽賞を総なめにし、さらにはイギリス&アイルランドで最も優秀なソングライターに贈られる【アイヴァー・ノヴェロ賞】を受賞するなど、ソングライターとしても高く評価されている。幼い頃から様々な国で暮らし、語学が堪能であることでも知られ、フランス語の楽曲も発表しているMIKA。近年では人気オーディション番組『ザ・ヴォイス』のフランス版に加え、『Xファクター』のイタリア版にも出演し、ポップスター“MIKA”とは一味違う、新たな一面を見せ話題となっている。
先日、約3年ぶりとなるニュー・アルバム『ノー・プレイス・イン・ヘヴン』を完成させたばかりのMIKAが、東京と大阪で公演を行うためにいち早く来日。新作のアルバム・ジャケットをモチーフにした小道具で飾り付けられたステージで新曲はもちろん、これまでのアルバムからの代表曲を惜しみなくプレイし、粋な演出や流暢な(?)日本語で会場を大いに沸かせた。今回は、新作の話題を中心にポップ界屈指の名シンガー・ソングライターに話を訊いた。
制限されることで、逆に自由になれた
――(ポラロイド写真に描いている絵を差しながら)それは猫ですか?
MIKA:そう、“イーヴル”(意地悪な)キャットだよ。昨日猫カフェに行ったんだ。
――そう言えば、昨日大きな地震がありましたが気づきましたか?同じぐらいの時間に日本に到着したと聞いたので。
MIKA:いや、まだ到着していなかったよ。でも経験できてたら、まさに日本に来たって感じだよね。猫カフェに、地震。猫カフェにいた時に地震にあっていたら最悪だったろうな。
――ですね(笑)。
MIKA:猫カフェ自体もいまいちだったから。
――そうだったんですか?
MIKA:すごく奇妙だった…。
――最近フクロウカフェもあるんですよ。
MIKA:知ってるよ!後で行こうと思ってるんだ。“イブカフェ”ってとこ(笑)。
――ではインタビューに。待望の新作『ノー・プレイス・イン・ヘヴン』が数週間後にリリースされるということで、MIKA自身もワクワクしているのでは?
MIKA:うん。ここ2年間TVの仕事をやりながら、曲作りをして、リリースする準備をしていたからね。こうやってまたツアーできて、みんなの前で新しい曲を歌えることに、とてもエキサイトしているよ。このアルバムは4作目で、演奏するレパートリーが増えたことは、ショーを一段と昇華させた、とも思うしね。アルバムとしても、とても誇りに思っているんだ。というのは、近年作られているポップ・アルバムに比べて、スウィートで穏やかだから。とてもインティメイトな作品なんだ。
――これまでのアルバム制作過程とはどのような点が違いましたか?今回はホーム・レコーディングされたと聞きました。
MIKA:あぁ、でも僕の家じゃないよ。制作過程に関しては、前作とは正反対でデビュー作に近い感じだね。3rdアルバムを作った時みたいに大きなスタジオでレコーディングする予定だったんだ。(LAにある名門スタジオ)コンウェイ・スタジオをブッキングしててね。でも、一度やったことをまたやるみたいで、嫌になった。「前作の時に1年半かけて行った過程をなんでまた繰り返すんだ?何か新しい方法を見つけなきゃ。」って具合に。そこで、LAに一件家を借りた。50年代からある全面木造のバンガローをね。「ここ、すごく雰囲気がいいな。」って思えたから、そこでレコーディングすることに決めたんだ。まずアップルストアに行ってパソコンを買って、ピアノを借りて、ミュージシャンを招いて。そして曲を書きながら、同時にレコーディングも行った。
――きちんとしたスタジオではない分、制限も多かったと思います。
MIKA:100%そうだね。パレットもそうだし、“遊べる”材料もまったくなかったから。ギター、ピアノ、それとすごくベーシックなシンセサイザーのみ。それに加えて、僕のヴォーカルと家の中にある叩けるものだけ。食器棚とかドラム代わりにしたゴミ箱とか。結果的に、僕がよりクリエイティヴにならなければいけなかった。制限があることがクリエイティヴィティーを促したんだ。それは僕が書いた詞、歌い方、メロディーからも感じとれると思う。制限されることで、逆に自由になれた。
――そういったリラックスした環境で、人目を気にせず作業できたのもいい影響を及ぼしたのではないかな、と思います。
MIKA:僕は、元々あまり人目を気にすることはないし、自分をさらけ出すことにも抵抗はない。それより、今自分が曲を書いているリビング・ルームという環境に浸りたかったんだ。スタジオで作業すると、後に世に出るものを作っている、ということをどこかで常に意識してるけど、そういったことはきっぱり忘れたかったから。
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僕もこういう穏やかな曲を作るべき時期なんじゃないか
??リード・トラックとなった「Talk About You」は、MIKAらしいアップビートなポップ・ナンバーでしたが、その後公開された「Last Party」と「Good Guys」は、内省的で少し悲しげな曲でしたね。
MIKA:メランコリックだけど心地よい、って感じかな。悲しみを扱う時は、何らかの方法で快楽が伴わないと(笑)。2曲ともドリーミーな曲だと思うね、特に「Good Guys」。心を揺さぶられるメロディーと、ソフトな感じが気に入ってる。僕もこういう穏やかな曲を作るべき時期なんじゃないかな、と思って。
??「Last Party」は、フレディー・マーキュリーへの叙情歌とのことですが。
MIKA:部分的にね。人がどのように悪いニュースを受け止めるかについての曲なんだ。これまでの人生で一番悲しいことを聞いた時に感じるユーフォリア。この2つの対立する感情は共在することが可能なんだ。それをどうやって伝えるか。言葉だけでは難しいけれど、音楽をプラスすることで容易になる。
??そして「Good Guys」では、数々のミュージシャン、作家や画家の名前をあげていますが、どのような想いでこの曲を書いたのですか?
MIKA:自分がこういう人間になりたい、というリマインダーとして作ったんだ。こういう音楽を作りたい、こういう作品を書きたい、こういう風に振る舞いたいという意味合いでね。それってすごく重要なことなんだ。
??ちなみにポーターというのは?
MIKA:コール・ポーターのことだよ。
2015.05.26 MIKA @ SHINKIBA STUDIO COAST
Photo: Yoshika Horita
??あぁ、なるほど!
MIKA:彼はアメリカを代表する偉大なるソングライター。ポーターが書いた詞は現代のポピュラー・カルチャーでも数多く引用されている。本当に素晴らしいことだと思うんだ。当時の彼はポップ・ソングライター最高峰で…今はポップとは見なされないかもしれないけど、彼の曲は今も生き続けている。その“タイムレス”なクオリティーに惹かれるんだ。
??ミュージック・ビデオも、これまでのカラフルなイメージとは一変して、シンプルでしたね。
MIKA:そう、新しいビデオも観てくれた?
??「Good Guys」のビデオですね。観ましたよ、まるでパフォーマンス・アートのような作品でした。
MIKA:まさに、その通り!「Talk About You」が、従来のカラフルでポップなイメージだとしたら、「Last Party」はその正反対で、「Good Guys」がその中間ってところだね。
??話は変わって、『ザ・ヴォイス』や『Xファクター』で、出演者にアドヴァイスしたりしながら若手シンガーたちを育成することで、自分の作品を見る目は変わりましたか?
MIKA:ノーかな。自分の曲作りには影響を及ぼしていないと思う。多くのライターがそうであるように、僕は自分のために、ある意味…身勝手に曲を書いているからね。他人のために曲を書いたり、それが自分と繋がりのない人についての曲だったら、CMソングを書いてるのと大して変わらないし、“リアル”でインティメイトな曲を書くのとは比べものにならない。
でも、自分がどういう人間で、どのように音楽を作っているか、という点に関して、一つ影響があったとしたら…これまではソングライターの自分と世間の自分に対するイメージはかけ離れていた。『ザ・ヴォイス』などに出演して、自分の意見を述べたり、自分の性格について知ってもらい、自分の意図や動機について発言する自由を得たことで、本来の自分の姿とみんなの僕に対するイメージが少しずつ近づいていった。今は、この二つの“MIKA”はほぼ均しい。僕がどんな人間で、なぜ音楽を作るのかを理解してもらえるようになったんだ。そうなることで解き放たれた感じもするね。
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自分のアルバムから離れた、全く違う場所で曲が生き続ける
▲ 「Lollipop (from Pitch Perfect 2)」 (Audio)
――今年初頭にシンフォーニー・オーケストラとともに新曲を世界初公開しましたが、このコンサートについて教えてください。
MIKA:そう、モントリオールでのシンフォニー・コンサートを行うのには、9~10か月間に及ぶ準備期間を要した。とてつもなく巨大なタスクに、僕とアレンジャーで挑んだんだ。細部にまでこだわって、僕のバックグラウンドを上手く見せれるようなライブにしたかった。曲を美化するのは絶対に嫌で、どちらかと言えばより“奇妙”で、アグレッシヴで、大胆にしたかったんだ。僕のクラシック音楽に関する知識を駆使して、何か素晴らしい物を創り上げるという、とてもアメイジングな機会だった。もちろん、新曲も演奏したよ。すごく、すごく楽しかった。
同時に、自分の曲が、他のポップ・ソングのようにプロダクションに縛られたものではない、ということを自分に、そしてみんなにも証明できた。僕の曲は様々な形態に順応すことができる―それが交響曲、映画の中、昔のMGM映画のミュージカル、コンピューターでプログラミングされた音楽…どんな形であっても。曲を書いた時に、何かのサウンドやスタイルに縛られないという自由さは、曲や音楽の寿命にとって、とても大切なことなんだ。そうすることで後世まで生き続けることが可能になる。
僕の曲がTV、映画で多く使われているのは偶然じゃない―それは特定のファッションやスタイルの枠外に存在しているからなんだ。映画『ピッチ・パーフェクト2』がいい例だよね。映画の中で、一番最初のフル・パフォーマンスに僕の曲(「Lollipop」)が使われている。しかも僕自身のオリジナル・バージョンより長いからね!全く違う曲になっていて、そこがとっても気に入ってる。そんな風に曲が生き続けていけるのは素晴らしいことだと思う。そういう時にこそ、ソングライターとしてちゃんとした仕事してるって感じがする。自分のアルバムから離れた、全く違う場所で曲が生き続けるんだ。
2015.05.26 MIKA @ SHINKIBA STUDIO COAST
Photo: Yoshika Horita
――従来のロックが“本物の音楽”で、所詮“ポップ・ミュージックだから”と過小評価されるスタンスも最近は変わってきていると感じるのですが、MIKA自身はこういった変化についてどう思いますか?
MIKA:すごくいいことだよ。ポップ・ミュージックだからといって、加工されたものである必要はなくて、オーセンティックにする方法があるって、僕は昔から断言してるからね。アーティスト本人、レコーディングされた音楽、そしてそれがどのように世に出るか、この3つの要素の距離が近いほど、オーセンティックな“本物”の音楽となる。曲調とかそういったものはあまり関係ない、すごくポップでキャッチーな曲でも“本物”なんだ。だから曲を人々へ発信する時に、レーベル側もなるべく、その距離を短く保たなければならない。それが彼らの責任で、仕事だと思うね。
――では最後に、ソングライター、アーティストとして活動していく上で、MIKAにとって一番大切なことって何でしょう?
MIKA:ズームアウトすること。自分がやっていることに対して客観的になること。1か月後ではなく、10年後に自分が書いた曲がどう受け止められるか、きちんと考えること。キャリア全体を通して、どのようなストーリーが語られているのか、把握すること。Twitter上のフィードだけじゃなくてね。
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ノー・プレイス・イン・ヘヴン
2015/06/17 RELEASE
UICO-1279 ¥ 2,695(税込)
Disc01
- 01.トーク・アバウト・ユー
- 02.オール・シー・ウォンツ
- 03.ラスト・パーティー
- 04.グッド・ガイズ
- 05.オー・ガール、ユー・アー・ザ・デビル
- 06.ノー・プレイス・イン・ヘヴン
- 07.ステアリング・アット・ザ・サン
- 08.ハーツ
- 09.グッド・ワイフ
- 10.リオ
- 11.オーディナリー・マン
- 12.プロミスランド (ボーナス・トラック)
- 13.ポーセリン (ボーナス・トラック)
- 14.グッド・ガイズ (ナイト・タイム・ミックス) (ボーナス・トラック)
- 15.ラムール・フェ・ス・キル・ヴ (ボーナス・トラック)
- 16.レ・ベゼール・ペルドュ (日本盤ボーナス・トラック)
- 17.ブーン・ブーン・ブーン (日本盤ボーナス・トラック)
- 18.ジェ・パ・オンヴィ (日本盤ボーナス・トラック)
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