Special

クラリネット奏者 吉田誠×アートディレクター 田村吾郎 スペシャル対談

クラリネット奏者吉田誠×アートディレクター田村吾郎 スペシャル対談

 パリ国立高等音楽院やジュネーヴ国立高等音楽院で研鑚を積み、2014年にはウィーン・フィルやウィーン国立歌劇場のメンバーによる「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」にてペーター・シュミ―ドルとともに「クロンマー:2つのクラリネットのための協奏曲」を演奏するなど、日本やヨーロッパを中心に活躍するクラリネット奏者・吉田誠。今回、新たな試みとしてアートディレクターの田村吾郎とともに、5つのテーマによるコンサートシリーズを開催する。第1回目の公演を目前に控え、それぞれのテーマの意味やコンサートに込めた想いについて、2人に話を訊いた。

吉田:今までコンサートを企画する時には曲目しか頭にありませんでした

??今回の吉田誠さんのリサイタルは、演奏会という枠組みを超えてアートディレクターの田村さんと共に作り上げるという面白い試みです。吉田さんは、今までアートディレクターの方にコンサートを演出してもらったことはありますか?

吉田誠:もちろん初めてです。なので、はじめはよく分からないまま打ち合わせに行きました。

??田村さんは、コンサートやオペラの演出を手掛けることになったきっかけは何だったんですか?

田村吾郎:たまたまです。僕は、祖父が絵画、母がデザイン、父が音楽という環境で育ちました。父は演奏したり、編曲したり、最近では趣味が高じてバロックオーボエを作ったりしています。子供の頃から家庭の中には常に音楽があったので、美術の道に進みつつ音楽とも接点を持ちたいなと漠然と思っていました。でも、学生時代はあまり機会がなく、芸大を卒業してから、ある音楽家と知り合って「何か一緒にやろうよ」って演出を始めたのがきっかけです。なので、今も仕事のメインは音楽ではありません。でも、自分たちのアイデンティティや立ち位置を示す上で音楽というのはとても重要なものだと思っています。

??田村さんは、初めて吉田さんとお会いされてどんな印象を受けられましたか?

田村:実は最近、音楽の仕事の大半は断っているんです。僕らはブランディングや開発など、デザイン系の仕事をメインに手掛けています。でもデザイン系案件の予算と音楽系案件の予算とじゃ残念ながら、ゼロの数が2つくらい違います。

??桁外れですね。

田村:ただ、さっきも言いましたが僕にとって音楽の仕事というのは、“自分たちが何者か”を示す上で非常に大切なもの。なので、自分たちにとって意味があったり、世の中に対してチャレンジングであったり、文化活動として価値があるものだと感じたら、ご一緒するようにしています。特に、今回の企画は僕にとっても初めての試みで、とてもチャレンジングな企画です。だから、この企画に対して吉田君が、どれくらい積極的にコミットしてくれるかが重要でした。「やりましょう」って周りがどれだけ言っても、やっぱり当事者が全面的に参加してくれないと。

??吉田さんの反応は、いかがでしたか?

田村:彼は、すごく深くコミットしてくるし、柔軟だし、覚悟を感じました。これは面白いものができるなと思って、一緒にやることを決めました。

吉田:僕は、今までコンサートを企画する時には曲目しか頭にありませんでした。何を演奏しようか、クラリネットをどう見せようか。なので、今回のようなコンサートは初めてですし、とても楽しみです。クラリネットという楽器には、とても可能性があります。もっと色んな人に魅力を伝えていきたい。だけど、ソロのコンサートの機会が、とても少ない楽器でもあります。もちろんオーケストラの中で演奏するのも僕は大好きですが、クラリネット1本だけの味わいをもっと知っていただきたいと常々思っていました。

??吉田さんが、音楽を勉強し始めたきっかけは何ですか?

吉田:両親の影響でピアノを習い始めたのがきっかけです。でも、小さい頃はプロになるつもりなんて全くなく、普通の中学校でサッカー部に入りました。中高一貫の学校だったので、高校に進む時に、普通は同じ部活を選ぶんですが、僕はあまりサッカーが上手じゃなくて(笑)。そんな時に、友達に吹奏楽部に誘われたんです。じゃあ入ってみるかという軽い気持ちで入部しました。

??なぜ、クラリネットだったんですか?

吉田:吹奏楽部で何の楽器をやろうか両親に相談したら、「クラリネットが良いんじゃないか」って。吹奏楽の中のクラリネットっていうのは、オーケストラの中で言うとヴァイオリンのような立ち位置なんです。主旋律を担うことが多いので、演奏していて楽しい。

??そうなんですね。

吉田:そして管楽器の中でもヴァイオリンと変わらないくらいダイナミクスが広いんです。4オクターブくらいかな。とても面白い楽器なんですよ。それで入部して1ヶ月くらいでハマって、専門的に勉強したくなりました。なので1ヶ月で吹奏楽部を辞めて、ソロのクラリネット奏者になる勉強を始めました。

??1ヶ月って、すごい決断ですね。

吉田:ちょうど将来の夢について考えていた時期でもあり、サラリーマンになるのではなく、手に職をつけたいなと思っていました。それが、後押しになったのかもしれません。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 田村:今回のアプローチは、普段と全く逆です
  3. Next >

関連キーワード

TAG