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ネッド・ドヒニー 来日記念特集
ウエスト・コースト・ロック全盛期の1973年に名門<アサイラム・レコード>からデビューしたシンガー・ソングライター、ネッド・ドヒニー。そんな彼の代表作と言ったら1976年に発表された2ndアルバム『ハード・キャンディ』だろう。プロデューサーにスティーヴ・クロッパーを迎え、デヴィッド・フォスターやタワー・オブ・パワーなども参加した今作は、ホワイト・ソウル/AORの傑作としても呼び声高く、リリースから40年経った今も世界中で愛され続けており、約4年半ぶりとなる来日公演では再現ライブを行うことも決定している。今も色褪せることのない名盤『ハード・キャンディ』の魅力を掘り下げてみよう。
からりと晴れた朝。ふと思い立って車に乗り込み、海の見えるお気に入りの場所へ向かって走り出す。エアコンのスイッチはオフにして窓を全開にすると、気持ちいい涼風が入り込んでくる。BGMはもちろん、お気に入りのAORやブルー・アイド・ソウル。米国西海岸の薫りに包まれたくなって、あの名盤をカーステレオにセットしてみた……。
そんなシチュエーションにぴったりなのが、ネッド・ドヒニーが1976年に発表した傑作『ハード・キャンディ / Hard Candy』だ。ボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェルと並べて常備しているというファンも多いだろう。すでに40年近く経つというのに、まったく古びない歌とサウンドは、まさしくクラシックス。今なお現役で、変わらぬ歌声を聴かせてくれている。しかも、この春に『ハード・キャンディ』をメインに歌うという企画で来日公演を行うという。このニュースにAORファンを狂喜させたネッド。今回はその魅力に迫ってみよう。
サーフィン・ミュージックに魅せられた財閥の御曹司
ネッド・ドヒニーは、1948年に米国のカリフォルニア州で生まれた。ビバリーヒルズに住む財閥の御曹司らしいが、自身はサーフィン・ミュージックに夢中になり、ギターを手にして音楽活動を始める。70年前後から、ジャクソン・ブラウンらとセッションしたり、デイヴ・メイソンとキャス・エリオットのアルバムに楽曲提供していたが、新しく設立されたレーベル、アサイラム・レコードから声がかかり、イーグルスやジャクソン・ブラウンに並んでデビューを飾る。それが、1973年ファースト・アルバム『ネッド・ドヒニー・ファースト /Ned Doheny』である。「オン・アンド・オン / On And On」や「悲しみを知って / I Know Sorrow」といった佳曲が詰まったシンガー・ソングライター然とした傑作だが、発表当時は残念ながらそれほど評価されることはなかった。
しばらくは裏方に徹してソングライターとして活動していたが、縁あってCBSコロンビアに移籍。満を持して1976年に、ウェストコースト・ロック史に残る名盤『Hard Candy / ハード・キャンディ』が発表される。本作の魅力は、一言では語れない。まず、プロデューサーにスティーヴ・クロッパーを迎えることで、ブラック・ミュージック色を盛り込んだのが成功の要因といえるだろう。加えて、豪華なミュージシャンたちがゲストに駆けつけているのも注目すべき点だ。イーグルスのドン・ヘンリーやグレン・フライ、リンダ・ロンシュタットにJ.D.サウザー、ローズマリー・バトラーといった盟友たち。そして、デヴィッド・フォスターやトム・スコット、タワー・オブ・パワーのホーン・セクションといった腕利きのミュージシャンまで、今では考えられない布陣が揃っている。
来日公演情報
Ned Doheny
plays “HARD CANDY”
ビルボードライブ東京:2015年5月5日(火・祝)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2015年5月7日(木)
>>公演詳細はこちら
BAND MEMBERS
ネッド・ドヒニー / Ned Doheny(Vocals, Guitar)
ケヴィン・フローノイ / Kevin Flournoy(Keyboards)
ジミー・ハスリップ / Jimmy Haslip(Bass)
マイケル・ホワイト / Michael White(Drums)
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
ハイ・クオリティーな楽曲が目白押し
▲ 「What Cha' Gonna Do For Me (Demo with Average White Band)」
楽曲のクオリティも申し分ない。冒頭の「恋は幻 / Get It Up For Love」は、アヴェレイジ・ホワイト・バンドやタタ・ヴェガや数々のカヴァーで知られる名曲だ。そのアヴェレイジ・ホワイト・バンドのハミッシュ・スチュワートとは気怠いソウル・チューン「ア・ラヴ・オブ・ユア・オウン」を共作し、アルバム中盤のポイントになっている。ちなみに、本作以外でもハミッシュとのタッグは他にもいくつかあり、チャカ・カーンがヒットさせたことで知られる「恋のハプニング / What Cha' Gonna Do For Me」が有名だ。
他にも、イーグルスの二人のコーラスがフィーチャーされた「恋におちたら / If You Shoud Fall」、グルーヴィーなリズムと爽快なメロディが絶妙に混じり合う「愛を求めて / Each Time You Pray」、ストリングスを配して儚いイメージを作り上げる「傷心の恋 / When Love Hangs In The Balance」、クールな雰囲気のAORナンバー「歌っておくれ / Sing To Me」、デヴィッド・フォスターのジャジーなピアノがアダルトな雰囲気を作り出すラストの「ヴァレンタイン / Valentine (I Was Wrong About You)」と、とにかく全曲についてじっくり語りたくなる名曲が目白押しなのだ。
ソフトで切ない歌声、青春や恋愛を昇華した詞
本作はネッドの才能豊かなメロディメイカーぶりはもちろんだが、ソフトでどこか切なさを感じさせる歌声も聴きどころだろう。そして、青春や恋愛の機微を見事に昇華した歌詞も、じっくり味わってもらいたい。AORというとサウンド指向のイメージもあるが、少なくともネッドに関しては、ギター弾き語りでも十分通用する言葉と旋律と声を持っており、その3つの重要要素がソウルフルなアレンジと一体化したのが『ハード・キャンディ』なのである。
この作品をさらに印象深くさせている要素のひとつが、シャワーをかぶるネッドのポートレートを使ったジャケットだ。これは気鋭のフォトグラファー、モシェ・ブラカによるもの。モシェは、ボズ・スキャッグス『Silk Degrees』、ロバート・パーマーの『Some People Can Do What They Like』、ビリー・プレストンの『Whole New Thing』といった名盤ジャケットを手がけているが、『ハード・キャンディ』はその最高峰といってもいい。また、昨年突如発表された、未発表のデモ音源などをまとめたコンピレーション・アルバム『Separate Oceans』では、『ハード・キャンディ』のジャケット写真の別ヴァージョンが使用され、ファンの間で大きな話題となったことも記憶に新しい。
マイペースながらも味わい名盤を生み続ける
さて、『ハード・キャンディ』をリリースして実力ぶりを発揮したネッドだが、意外にもその後は不遇だった。続くアルバム『プローン / Prone』(1979年)は日本のみのリリースとなり、しばらく一線から身を引くことになる。しかし、1988年には『ライフ・アフター・ロマンス / Life After Romance』を日本制作盤として久々にカムバック。1991年にはアコースティックのライヴ・アルバム『ポストカーズ・フロム・ハリウッド / Postcards From Hollywood』、1993年にも『トゥー・ワールズ / Between Two Worlds』を発表している。けっして多作ではないが、その時々でマイペースながら傑作をしっかりと生み出しているのだ。
原点に立ち返るかのように、40年近く前に制作した『ハード・キャンディ』を歌うネッド・ドヒニー。来日公演では、時空を超えた魅力を堪能してもらいたい。
来日公演情報
Ned Doheny
plays “HARD CANDY”
ビルボードライブ東京:2015年5月5日(火・祝)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2015年5月7日(木)
>>公演詳細はこちら
BAND MEMBERS
ネッド・ドヒニー / Ned Doheny(Vocals, Guitar)
ケヴィン・フローノイ / Kevin Flournoy(Keyboards)
ジミー・ハスリップ / Jimmy Haslip(Bass)
マイケル・ホワイト / Michael White(Drums)
INFO: www.billboard-live.com
関連リンク
Text: 栗本斉
ハード・キャンディ
2014/06/25 RELEASE
SICP-30643 ¥ 1,980(税込)
Disc01
- 01.恋は幻
- 02.恋におちたら
- 03.愛を求めて
- 04.傷心の恋
- 05.ア・ラヴ・オブ・ユア・オウン
- 06.ユア・ナンバー
- 07.オン・ザ・スウィングシフト
- 08.歌っておくれ
- 09.ヴァレンタイン
- 10.恋は幻 (Demo) <ボーナス・トラック>
- 11.恋におちたら (Demo) <ボーナス・トラック>
- 12.傷心の恋 (Demo) <ボーナス・トラック>
- 13.ア・ラヴ・オブ・ユア・オウン (Demo) <ボーナス・トラック>
- 14.ユア・ナンバー (Demo) <ボーナス・トラック>
- 15.オン・ザ・スウィングシフト (Demo) <ボーナス・トラック>
- 16.ラヴズ・ア・ハートエイク <ボーナス・トラック>
- 17.恋のハプニング <ボーナス・トラック>
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