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「触れたものすべてをソウルに変える男」 ジャロッド・ローソン来日記念特集

Chris Dave

 昨年、ソウル・ファン、とりわけインディ・ソウル愛好家のあいだで発売時から「2014年のベスト・アルバム」と推す声が出るなど騒がれた、ジャロッド・ローソンなる男のデビュー作。実際に、あの目利きたるジャイルス・ピーターソンからも2014年を代表するソウル・アルバムと言わしめたこの新星が、ついに日本の地に降り立つ。来日前に、改めてこの男が何者なのか紹介しよう。

 沖野修也、松浦俊夫、橋本徹各氏からの推薦コメント、最新インタビューも公開。

ジャイルス・ピーターソン〈Worldwide Awards〉
アルバム・オブ・ザ・イヤー 第2位

 「触れたものすべてをソウルに変える男」なるキャッチコピーのように、ジャズ、ゴスペル、フュージョン、AOR、ラテンなどのサウンドもソウルフルな輝きに変えてしまう。スティーヴィ・ワンダー、ダニー・ハサウェイ、アース・ウィンド&ファイアーやディアンジェロからテイク6、スティーリー・ダンなど幅広い音楽的土壌を感じさせるジャロッド・ローソン。彼のデビュー・アルバム『Jarrod Lawson』は、セルフ・プロデュース、さらに自主販売ということもあって、2014年5月頃にひっそりと発売された。

 だが、特にイギリスのソウル系メディアに注目された彼は、早くからディアンジェロと比較され――そう、あの頃はDが新作を出すとは誰も夢にも思っていなかった――、早耳のソウル・ファンのあいだで大絶賛されることになる。クチコミでその評判が伝わり、自主盤は瞬く間に完売。9月にはインディ・ソウルの良心といえる英レーベル Dome Recordsから再リリースが決まり、11月にはここ日本でも発売された。インディ界においてはインターネット・センセーションだと言っていい。Domeでの発売を契機に初のイギリス公演を行い、ジャイルス・ピーターソンの目に留まった彼は、『Jarrod Lawson』がジャイルス主催の〈Worldwide Awards〉においてアルバム・オブ・ザ・イヤー候補に選ばれ、最終的に2位に。また、BBC放送でのジャイルスの番組で放送されたスタジオ・ライブ音源が『Jarrod Lawson at the BBC』として限定生産ヴァイナル発売(英国ではデジタル配信も)されるなど、彼を取り巻く熱量はますます増すばかりだ。

(限定生産ヴァイナル発売のニュースはこちら。)


スティーヴィ・ワンダーに衝撃


▲Songs In The Key Of My Life

 彗星のごとく現れたかのようなこの天才だが、実はジャロッド・ローソンはすでに30代後半だ。

 米ポートランド出身のジャロッドは、スタジオ・ミュージシャンだった父親が昔はレコーディング・スタジオを持っていたということで、物覚えつく前からスタジオを遊び場にし、2歳にしてドラムがおもちゃだったという。この父親の存在は彼にとって非常に大きく、ジャロッドの得意とする鍵盤も父親から手ほどきを受け、また父親のレコード・コレクションから多くを学んだ。スタジオにはボブ・ジェームスも来ていたというから、英才教育というしかないだろう。

 父親のレコード・コレクションの中から発見したスティーヴィ・ワンダー『Songs In The Key Of My Life』に衝撃を受け、シンガー・ソングライターを志した彼は、大学で音楽を学びながら、聖歌隊やジャズ・アンサンブル、ソウル・バンドと渡り歩いていく。しかし早熟だったはずの彼が、なぜ30代も後半になるまでデビューを待つことになったのだろうか?

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ジャロッド・ローソンという男の“格”


▲2014年『Jarrod Lawson』

その最大の要因はおそらく、彼の完璧主義にあるだろう。まるで、敬愛するディアンジェロのように(実際に彼はライブで“One Mo' Gin”のカバーも披露する)。セルフ・プロデュースで制作されたデビュー・アルバム『Jarrod Lawson』は、実に完成まで10年以上もかかったそうだ。それだけ彼の“ソウル”が込められたこの作品が話題になるのは当然だったのかもしれない。そしてその強い信念ともいえる完璧主義に応え、このアルバムを最高のものに磨き上げた人物が2人いる。プリンスのレコーディング・エンジニアを長年務めたデイヴ・フリードランダー、そしてプリンス『Purple Rain』、マイケル・ジャクソン『Thriller』、スティーリー・ダン『Aja』、さらにはドクター・ドレー『The Chronic』まで手がけたマスタリングの名匠バーニー・グランドマン。自主制作盤ながら、アルバム制作の最終工程となるミックスとマスタリングをこれほどの大物が務めたことからも、ジャロッド・ローソンという男の“格”がうかがえる。

魅力的で豊饒なジャロッド・ローソンの音楽世界

 アイドルであるスティーヴィ・ワンダーとはアルバム発売前、2013年のスティーヴィ・ワンダーの誕生日パーティに呼ばれて共演を果たしたという。昨年6月の〈Capital Jazz Fest〉では、「注目の新星」としてジョン・レジェンドとエリカ・バドゥの前座に大抜擢。プリンス率いるニュー・パワー・ジェネレーションの一員として知られるリヴ・ウォーフィールドも、ジャロッドを「絶対的真理」と評する。30代後半になって脚光を浴び、その豊かな音楽性を卓越した歌と演奏で聞かせる、という点において、この衝撃は、10年前のラウル・ミドンと近しいかもしれない。先述の〈Capital Jazz Fest〉での前座では、バンド無し、ピアノの弾き語りだけで会場を盛り上げたジャロッド・ローソン。「白いディアンジェロ」という文句に留めるにはあまりに魅力的で豊饒な彼の音楽世界を、是非そのソウル・シンフォニーから生で体感してほしい。

Text: 末崎裕之(bmr)

http://bmr.jp/

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沖野修也、松浦俊夫、橋本徹からのコメント

男性ボーカルの至宝が、遂に初来日。ジャズ、R&B、フュージョン、ラテンを見事に消化/吸収した唯一無二のスタイルは、現代版のAORでありブルーアイド・ソウルでもある。僕のラジオ番組『JAZZ ain't Jazz』と連動する第二回<JaJAwards>では、ベスト男性ボーカルとベスト・ニュー・アーティストの2部門受賞!新たな才能の日本ライブ・デビューを見逃すな!!

― 沖野修也(Kyoto Jazz Massive)

ジャズとソウルを絶妙にブレンドした極上のサウンド。
魅力的なその歌声とコーラスのハーモニー、そしてピアノ・プレイ。
全てが聴き逃せないステージの幕がここ日本で開こうとしている。

― 松浦俊夫

昨年ソウル・ファナティックの間で“ホワイト・ディアンジェロ”と熱い話題を呼んだジャロッド・ローソン。ジャジー&アーバンな香りに満ちた歌から醸しだされるグルーヴとメロウネス、艶と色気の感じられる気持ちよさに魅せられる。スティーヴィー・ワンダー×マーヴィン・ゲイ、加えてジャミロクワイ×エリック・ベネイ、あるいはオマー×ビラル×ホセ・ジェイムズ、という感じだろうか。人気の「Music and its Magical Way」や「Gotta Keep」はもちろん、マイ・フェイヴァリットの「All That Surrounds」や「Walk in the Park」も、ぜひ生で味わってみたいですね。

― 橋本徹(SUBURBIA)

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ジャロッド・ローソン 最新インタビュー

--ジャイルス・ピーターソン・ワールドワイド・アウォーズ年間最優秀アルバム賞第2位と、ソウル・トラックス年間最優秀アルバム賞の受賞おめでとうございます。受賞のご感想をお聞かせください。

ジャロッド・ローソン:ファースト・アルバムでこのような素晴らしい賞を頂いて感謝の気持ちでいっぱいだよ。僕の音楽がこんなにも広く受け入れられるなんて夢にも思わなかったよ。

--ジャイルス・ピーターソンがあなたのアルバムを称賛していて、それが大きなサポートになっていると思われますが、それについてどうお考えですか?彼とはデビュー前から面識があったのですか?

ジャロッド・ローソン:うん、僕が無名の頃から、彼からのサポートを受けていて、そのおかげで僕の音楽が音楽評論家や流行の音楽に敏感な音楽ファンに知れ渡るようになったんだ。彼のサポートには感謝してもし切れないくらいだよ。実は、まだ一回も彼と会ったことがないんだけど、近い内に実現したいね。

--『ジャロッド・ローソン』はビッグヒットとなりましたが、アルバムの出来を聴いたときに最初に思い浮かんだ印象はどんなものでしたか?また、アルバムがこんなにもヒットするなんて予想していましたか?

ジャロッド・ローソン:誰だって自分自身や自分の作品に対して、ある程度の客観性を保つことはかなり難しいものだよね。特に僕のように、ひとつの作品に4年もの歳月をつぎ込んだりしたりするとね。そういうのもあって、作品を聴いた人たちの意見や批評がどんなものになるかなんてまったく予測がつかなかった。確かに、多くの人々に僕の作品を気に入ってもらいたいとか、彼らの人生と僕の音楽が、なにかしらいい意味でリンクしてくれるといいな、なんて思っていたけど、ここまでグローバル並みに大規模な反応を得るとは本当にこれっぽっちも考えてなかったよ。

--音楽に触れたきっかけとなった思い出はなんでしょうか?また、あなたの音楽に対する情熱に火を付けた作品や人物について教えてください。


▲Michael Jackson『Thriller』

ジャロッド・ローソン:2,3歳くらいの思い出なんだけど、当時住んでた米カリフォルニア州レッドウッド・シティーの5番街にあった父親のレコーディング・スタジオでドラムをたたいたり、マイクでふざけて変な声を録音したりして遊んでたことを覚えてるよ。たぶんその時のテープがそこら辺に転がってると思うよ(笑)。子供の頃にマイケル・ジャクソンの『スリラー』を聴いたときはすぐに虜になったね。あのアルバムにものすごく大きな影響を受けたと言える。それにスティーヴィー・ワンダーの『キー・オブ・ライフ』は僕の音楽への道を切り開いてくれた大切な作品で、あの作品によって僕の頭は完全に音楽へシフトチェンジされたし、あのアルバムを聴いた瞬間、僕の運命はシンガー・ソングライターになることなんだって確信したんだ。

--これまでの10年を振り返って、あなたの音楽キャリアの中でハイライトとなる出来事はなんでしょうか?音楽人生の中で最も重要なターニング・ポイントを教えてください

ジャロッド・ローソン:長年ミュージシャンとして活動してきて、その長い間に素晴らしい出来事は何度もあったけれど、ここ1,2年が最も思い出深い最高の出来事が多かった年だったね。2013年に開かれたスティーヴィー・ワンダーの誕生日会で彼と一緒にステージに立てたこととかさ。スティーヴィーは僕にとって偉大なる音楽のヒーローで、そんな彼のために開かれたパーティーで、しかも彼の隣で演奏する機会に恵まれたことは、今でも忘れられない、とてもスペシャルな出来事となったよ。ほかには、最近廻ったヨーロッパ・ツアーで、ロンドンにあるロニー・スコッツ・ジャズ・クラブやストックホルムのファッシング・ジャズ・クラブ、アムステルダムのノース・シー・ジャズ・クラブのような数々の名高い会場で公演できたことも、これまでのキャリアの中で大きなイベントになったかな。ターニング・ポイントを挙げるとしたら、今のところ、2014年5月にデビュー・アルバムを発表したことかな。

--これまでの音楽活動の中で最も苦労したことはなんでしょうか?

ジャロッド・ローソン:デビュー・アルバムを発表して以来ずっと、想像以上の過度な注目を浴び続けているんだ。それまでの僕は人々の注目の的になるようなタイプではなかったから、その状況に慣れて、受け入れることを身に付けることが一番大変だったね。今はだいぶこの状況にも慣れたんだけど、この経験から学んだことは、自分らしくいること、これまで通り地味におとなしく、謙虚にいることが一番の対処法ってことだよ。

--最近流行のポップ・カルチャーに興味はありますか?好きな若手アーティストやバンドはいますか?また、日本アーティストで興味のある方がいれば教えてください。

“taylor”
▲Taylor Swift「Blank Space」MV

ジャロッド・ローソン:ポップ・カルチャーに精通しているとは思わないけれど、ある程度の情報収集はしているよ。最近ではテイラー・スウィフトの「ブランク・スペース」のミュージック・ビデオを見て、キャッチーなサウンドとビデオの素晴らしい出来に、ものすごく感激したんだ。基本的に、僕はポップ・ミュージックにハマることはないんだけど、ダイヤモンドの原石のような将来有望となるアーティストを発見することは時々あるよ。僕は歌詞の内容に共感できるシンガーが好きで、そういう歌を歌うポップ・ミュージシャンはあまりいないんだけど、まれにポンと現れたりするよね。パラモアのヘイリー・ウィリアムズはまさにそういう人物で、僕は彼女の歌が大好きだ。日本人アーティストで言うと、僕は上原ひろみとDJ Krushの大ファンなんだ。もう一人、日本生まれじゃないんだけどリトル・ドラゴンのユキミ・ナガノも僕の好きなシンガーだよ。彼女はスウェーデン出身で父親が日本人のハーフなんだ。彼女の歌声は素晴らしくパーフェクトだよ。

--今年はどのような予定がありますか?ニュー・アルバムやEPの制作に取り組んでいるところでしょうか?以前、ジャイルス・ピーターソンの番組で新曲「ソウル・シンフォニー」を披露していますよね。

ジャロッド・ローソン:4月にヨーロッパ・ツアーを終えた後には、次のアルバム制作に取り掛かるつもりだよ。そのLP盤には新曲「ソウル・シンフォニー」も収録される予定で、年内に完成できればといいなって思ってる。

--今回が初めての来日になりますか?もし初来日となる場合、日本で何をしたいですか?

ジャロッド・ローソン:そうだよ、今回が人生初の来日になるから、とてもワクワクしてるんだ!ビルボードライブ東京と大阪での両公演はこの来日で一番の思い出になることは目に見えてるね。日本滞在中には必ず浅草寺を訪れたいと思ってる。あと、僕は園芸にとても興味があるから新宿御苑にも行きたいと思ってるよ。

--もし訪日経験があれば、日本の音楽シーンについて印象と感想をお聞かせください

ジャロッド・ローソン:正直、この質問にはうまく答えられないな。日本のローカル・ミュージックには疎いんだ。でも、日本の音楽はアメリカの音楽に比べて、ずっと精錬された上品なタイプの音楽が多いってことは知ってるよ。僕はポートランドにいる友人からこれまでずっと、日本にも目を向けるよう言われ続けてきたんだけど、今こうして僕の作品が日本の音楽シーンで評価されて、やっと彼らがそう言い続けてきた意味が分かったよ。個人的に、日本の音楽シーンにとても興味があるし、知る経験ができることにわくわくしているよ。

--日本公演ではどのような曲を披露する予定でしょうか?これまでディアンジェロやアース・ウィンド&ファイアーのカバーを披露したことがあるとお聞きしましたが、日本でもそのカバー演奏をする予定はありますか?

ジャロッド・ローソン:ショーで披露する曲目はまだ決まってないんだけど、デビュー・アルバムの曲はもちろん、未発表のセカンド・アルバムから数曲披露するつもりだから、そこは期待しててね。カバー曲も何曲か歌おうと思ってて、それはディアンジェロの曲かもしれないし、アース・ウィンド&ファイアーの歌かもしれないし、どうなるかはまだ誰も分からないよ。

--最後に、日本のファンの方へメッセージをどうぞ。

ジャロッド・ローソン:日本のファンの皆さん、僕の音楽を温かく歓迎してくれたこと、インディーズの僕に対する皆さんの量りきれないほどの手厚い応援に、本当に本当に心の底から感謝しています。ありがとう!3月に皆さんに会えることを楽しみにしています!!!

--あなたのお気に入りのソウル・アルバム5枚教えてください。


▲D'Angelo『VooDoo』

ジャロッド・ローソン:5枚選ぶなんて、無理だよ。だってスティーヴィーだけで5枚あるからね!好きなアルバム12枚でどうかな?

Stevie Wonder ? Music Of My Mind
Stevie Wonder ? Fulfillingness (First Finale)
Stevie Wonder ? Songs In The Key Of Life
Stevie Wonder ? Innervisions
Stevie Wonder ? Talking Book
Donny Hathaway ? Live
Etta James ? Tell Mama
Sly & The Family Stone ? Fresh
Al Green ? I'm Still In Love With You
Van Hunt ? Van Hunt
Erykah Badu ? Mama's Gun
D'Angelo - VooDoo

ジャロッド・ローソン「ジャロッド・ローソン」

ジャロッド・ローソン

2014/11/05 RELEASE
PCD-93844 ¥ 2,530(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Music and its Magical Way
  2. 02.Sleepwalkers
  3. 03.He’s There
  4. 04.Walk in the Park
  5. 05.All That Surrounds
  6. 06.Think About Why
  7. 07.Redemption
  8. 08.Spiritual Eyes
  9. 09.Together We’ll Stand
  10. 10.Needed
  11. 11.Everything I Need
  12. 12.Gotta Keep

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