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マーク・ジュリアナ 来日記念特集 -Jazz The New Chapter- 冨田ラボ、沼澤尚、菊地成孔からのコメント公開!
ブラッド・メルドーとのエレクトロニックデュオ、Mehlianaでシーンに衝撃を与えた今最も注目を集める若きドラマー、マーク・ジュリアナ。ブラッド・メルドーに、「ドラミングのエキサイティングなニュースタイルの最前線に立っている」と評されるほど、ユニークで妥協を許さないドラムスタイルで、世界的に高い評価を獲得してきた。そんな“今のジャズ”のキーパーソンともいうべき彼の魅力を、21世紀以降のシーンを網羅した世界初のジャズ本、『Jazz The New Chapter』を監修した柳樂光隆が解説。さらに、マーク・ジュリアナの音楽性、ドラミングに魅せられた冨田ラボ、沼澤尚、菊地成孔からのコメントも公開!
ジャズドラムの新たな表現の一つとして
完全にネクストステップに到達している
▲Avishai Cohen - The ever evolving etude
マーク・ジュリアナを強く意識するようになったのはおそらくイスラエルのベーシスト、アヴィシャイ・コーエンによる2008年作『Gently Disturbed』だろう。若き天才ピアニスト、シャイ・マエストロも含めたピアノトリオによる圧倒的なインプロヴィゼーションが聴ける本作は2000年代屈指のピアノトリオの名盤と言っても過言ではないだろう。でも、僕はこの時点では新たな超絶ドラマーの出現くらいにしか思っていなかった。
▲Donny McCaslin - Alpha and Omega (Boards of Canada cover)
はっきりと異変に気付いたのは、ドニー・マッキャスリンの『Casting For Gravity』あたりだろうか。ここでのボーズ・オブ・カナダのカヴァーに象徴されるようなミニマルで硬質なビートを聴けば、群雄割拠のUSジャズシーンのドラマーの中でも明らかに異質な個性があることは明らかだった。
同年リリースのリオーネル・ルエケ『Heritage』はその個性の違いをあまりにわかりやすく示してくれた好盤だった。全編でマークがドラムを叩いている本作は、ロバート・グラスパーがプロデュースし、デリック・ホッジがベースを務めていることもあり、自然にロバート・グラスパー・エクスペリメントのドラマーとの比較ができてしまうことで、マークのビートがクリス・デイブやマーク・コレンバーグのようなヒップホップ経由のそれとの違いをはっきりと認識することができた。
▲Lionel Loueke - Heritage - Freedom Dance
そんなマークが自身のプロジェクトを発表し、配信限定でいくつかのEPを発表。中でも”BEAT MUSIC”名義でリリースされた音源は、ジャズミュージシャンによるテクノやエレクトロニックミュージックとの関係の可能性の更新どころか、このドラマーの演奏がジャズドラムの新たな表現の一つとして完全にネクストステップに到達していることが確認できた。そして、今年、2014年にはマークは二枚のフルアルバムをリリース。中でも『Beat Music : The Los Angeles Improvisations』での、エレクトロニックに大きく踏み込んだそのサウンドに僕らはさらに驚かされた。
来日公演情報
マーク・ジュリアナ’s BEAT MUSIC
ビルボードライブ東京:2014/12/5(金)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2014/12/2(火)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
人力ドラムンベースやジャジーなテクノとは異次元の
新たなサウンドを体感することができるはずだ
近年のジャズシーンでは、ロバート・グラスパーの作品に代表さるれヒップホップ経由のブレイクビーツを叩きだすドラマーが注目を集めていた。中でもJディラが作っていたようなよれたり、ずれたり、跳ねたりするビートに取り組んだクリス・デイブらにより、ジャズシーンが大きな盛り上がりを見せたことは記憶に新しい。ただ、マークはそことは一線を画す。自身がもともとロックにあこがれていたことや、その後、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーなど、テクノやドラムンベースからの影響を公言しているように、ヨーロッパのエレクトロニックミュージックを生演奏に置き換えたスタイルが特徴だ。
とはいえ、ジョジョ・メイヤーだったり、KUDUというバンドをやっていたディーントニ・パークスだったり、人力ドラムンベース的なドラマーはこれまでにも存在していた。ただ、マークの特徴は彼らが取り組んできたものより遥かに”機械”に近い感触があることだ。これまでのドラマーにあったような、正確な反復ビートはさらに研ぎ澄まされ、スウィングのかけらもなければ、体温さえもない。彼のドラムの音にも汗の匂いが全くしないのだ。
▲Mehliana (Brad Mehldau & Mark Guiliana) - Hungry Ghost (Live)
映像を見ればさらにわかりやすい。無駄な動作が全くないミニマムなドラミングを見ていると、もはやプログラミングされているようにさえ思えてくる。
ブラッド・メルドーとのユニット、メリアーナを聴いていると僕にはメルドーが愛したレディオヘッドの元ネタであり、多くのテクノのルーツともなったクラウトロックへの憧憬が見えてくる。
近年のジャズミュージシャンは、もはやジャズからの影響だけでジャズを作っているわけではない。同時代の様々な音楽にインスパイアされながら、ジャズミュージシャンならではの新たな表現を模索している。マーク・ジュリアナもその一人であり、テクノ/ビートミュージックの影響を感じさせるジャズのエッジにいる。
▲David Bowie - Sue (Or In A Season Of Crime)
つい最近、突然公開されたデヴィッド・ボウイの新曲「Sue」は、現代最高のビッグバンド、マリア・シュナイダー・オーケストラが起用されていたことが大きな話題になったが、その中で特筆すべきは、そこにマリア・シュナイダー・オーケストラの不動のレギュラー・ドラマー、クラレンス・ペンの名前が無く、(おそらくマリア・シュナイダーとは初共演となる)マーク・ジュリアナがドラムの席に座っていたことだ。クラシックとジャズを繋ぐ至上のビッグバンドが、ロック・レジェンドの歌に拮抗するグルーヴを手に入れるために特例的にマーク・ジュリアナを起用したことは、今、このドラマーが世界の音楽シーンにおいてどのような位置にいるかを明確に表しているようでもある。
▲Mark Guiliana's Beat Music: Spirit Animal
今回の初来日では、Now vs Nowやドニー・マキャスリンのグループでもマークと共演し、ジャズとエレクトロミュージックの挟間でも刺激的な活動を続けている鍵盤奏者のジェイソン・リンドナー、アンドリュー・バードやベン・クウェラーなどと共演し、ロックシーンでも活躍するベーシストで、マークも参加したリーダー作『North Hero』で現代的なロックフィーリングのジャズで話題になったクリス・モリッシー。そして、本年度のジャズシーン屈指の問題作マーク・ジュリアナ『Beat Music : The Los Angeles Improvisations』にエレクトロニクスで参加しているスティーブ・ウォールとの4人で”BEAT MUSIC”名義でのパフォーマンスとなる。
ジャズとエフェクトとエレクトロニクス、即興とプラグラミングが入り混じる21世紀ジャズの最先端が遂に日本のビルボードのステージに立つ。これまでの人力ドラムンベースやジャジーなテクノとは異次元の新たなサウンドを体感することができるはずだ。この瞬間を見逃す手はない。
Text: 柳樂光隆
【Jazz The New Chapter 2】
「21世紀以降のシーンを網羅した世界初のジャズ本」の第2章。
シーンの最前線に迫るため、主要アーティスト約30名(!)に総力取材。
大好評だった記事・コラムは今回も充実し、各章ごとに重要作を網羅したディスクガイドも当然完備。進化は止まらない、空前の盛り上がりを見せる“今”のジャズを紐解く。
商品名: Jazz The New Chapter 2
(シンコー・ミュージック・ムック)
監修:柳樂光隆
定価: 1,836円
出版社: シンコーミュージック・エンタテイメント
詳細はコチラ>
来日公演情報
マーク・ジュリアナ’s BEAT MUSIC
ビルボードライブ東京:2014/12/5(金)
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ビルボードライブ大阪:2014/12/2(火)
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INFO: www.billboard-live.com
とにかく、ここ数年でもっとも楽しみにしていたミュージシャンの来日です。
―冨田ラボ
「マーク・ジュリアナとの出会い」
▲Avishai Cohen Trio - Nu Nu [2007]
ジェイソン・リンドナー2009年リリース『Now Vs Now』ではじめてマーク・ジュリアナ(以下MG)の名前を意識しました。それ以前にアヴィシャイ・コーエンでチラ聴きしていたはずですが、MGに注目できるほどちゃんと聴いていなかったようです。
ジェイソン・リンドナー作品は、ドラミングというよりはリンドナーの曲、サウンド、ンデゲオチェロのプロデュース・ワークに感心しました。久々にエキサイティングなコンテンポラリー・ジャズの新譜に出会えたと、当時興奮したものです。
▲Jason Lindner Live at Jazz Mix
ンデゲオチェロ・PROの賜物か、スポークン・ワーズなどもあしらわれブラック・ミュージックの要素も少なくない作品でしたが、それ以上に全体を包むジャズ・ロック、プログレ感が秀逸。そしてその感じはアフロ・アメリカンのドラマーでは出せないだろうから、ドラマーは白人、しかも実はかなりテクニカルな人だろうと思っていました(本作品ではテクニカルな部分は抑えめ)。で、そうやって興味を持ったミュージシャンはネットで映像を漁るわけです。
「Jason Lindner」と入力しライヴ映像を観はじめてぶっ飛びました。トリオとして凄い!本当に凄いユニットだったんだけど、てことは、そうです、ドラマーが凄い、MGが想像以上に凄かったんです←”ドラム良ければすべて良し理論”によります。
まあとにかく、この辺というか、ドラム・ソロ近辺だけ観て頂いてもMGの凄さがわかると思いますが、お時間ある方はリンドナーのは通しで観てください。ユニットとしての凄さも堪能できます←でも最近リンドナーとMGはあまり一緒にやっていない←と思ったら、な、な、なんと、今回の来日はリンドナーと一緒!!みなさん、これは、さらに、いや、絶対に観ておかなければいけません!ほかには奥方(グレッチェン・パーラト)との映像もフル・ステージ(別日・別場所)のがありますので検索を!あとメリアナ(ブラッド・メルドーとのエレクトリック・デュオ)もよい映像があるはずです。
「マーク・ジュリアナのここがすごい」
『ビート・ミュージック:ロサンゼルス・インプロヴィゼイションズ』のライナーにも書きましたが、伝統的なテクニックを正統的に継承(てか、ものすごくテクニカルですけど)、発展させた上に、リズム・マシン、ループ以降のコンセプト--生演奏だけでは発想されなかったフレージングやビート感と、それを実現するテクニックとタイム感--を自身の言語として自然に身につけているところが凄いです。マシン出自のフレーズもビバップのフレーズもポスト・ロック的なバック・ビートも、パッチワーク的にではなく、統合されて”MGの演奏”になっています。
またとてつもなく個人的な価値観ですが、よいドラマーからは必ずトニー(・ウィリアムス)を感じます。どんなにビート・ミュージック寄りのジャンルで叩こうとも、MGの端々からもトニーを感じますね。シングル・ストロークが凄く速いのもトニーっぽいです←くだらないと感じるかも知れませんが、音楽を沸騰させるのにわりと重要。
「ライヴの観どころ」
MGのドラミングを生で観られるのはもちろん、”Beat Music”というレギュラー・ユニットの公演ですから、音楽がどんどん有機的に発展していくのが楽しめそうです(かなりエレクトリックなのに・笑)。最近のBeat・Music映像でこんなのもありました↓
BEAT MUSIC Record Release: The Los Angeles Improvisations (#1 of 2)
とにかく、ここ数年でもっとも楽しみにしていたミュージシャンの来日です。
冨田ラボ(冨田恵一)
【冨田ラボ 即興作編曲SHOW
-NEW ALBUM レコーディング初日大公開!-】
2014年12月2日(火)ビルボードライブ東京
レコーディング初日を大公開するという自身初の試みをビルボードライブで開催!新たなサウンドが生まれる瞬間を目撃する貴重な一夜となる。
詳細はコチラ>
来日公演情報
マーク・ジュリアナ’s BEAT MUSIC
ビルボードライブ東京:2014/12/5(金)
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ビルボードライブ大阪:2014/12/2(火)
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INFO: www.billboard-live.com
超人的な能力が全ての「音楽的表現のため」のツール
-沼澤尚
「マーク・ジュリアナとの出会い」
▲Gretchen Parlato - Alan Hampton - Aaron Parks - Mark Guiliana Live at Lotos Jazz Festival 2013
渡米中にはチック・コリアの「オリジン」にも抜擢されていたイスラエル在住のベーシスト=アヴィシャイ・コーエンのトリオの作品で、その鍛え上げられた確実すぎるテクニックと研ぎ澄まされた音楽性で新しさをもちろん感じさせながらも、同時にドラムセットプレイの歴史の各時代が見え隠れしていて驚かされたのが初めてのマーク・ジュリアナ体験。
「マーク・ジュリアナのここがすごい」
▲Mark Guiliana drum solo with Jason Lindner's NOW vs. NOW
超絶極まりないとんでもなく高次元なテクニックと革新的で時代の流行り廃りを完全に把握しきっているあまりに多彩なアイディアが地球規模でドラム界はもちろんクラブ・シーンとジャズ・シーンを震撼させているのは既に周知の事実だが、個人的に彼に惹かれるポイントはその超人的な能力が全ての「音楽的表現のため」のツールでしかなく、そして常にルーツ色がしっかりと影を潜めているところ。
「ライブの見どころ」
大勢の音楽ファンが生で観てみたいと願っていたマーク・ジュリアナがついに来日というだけで彼のドラムセットの響きを初めて体感出来ることが楽しみなのは当たり前だが、いきなり自分のプロジェクトで登場するので、リーダーシップを含めて本人の本質的なテイストを感じられるはず、という期待感で一杯。
沼澤尚(Drums)
1983年大学卒業と同時にL.A.の音楽学校P.I.T.に留学,JOE PORCARO,RALPH HUMPHREYらに師事し卒業時に同校講師に迎えられた。
2000年までLAに在住しCHAKA KHAN,BOBBY WOMACK,LA ALL STARS,SHIELA E.,NED DOHENYなどのツアー参加をはじめ数々のアーチストと共演しながら"13CATS"として活動。
日本国内でも活動を始め,数え切れないアーチストのレコーディングやライブに参加。
'99に自身のアルバム"THE WINGS OF TIME, '14にはナカコー(中村弘二)プロデュースの"Entropy vol.1",'00年にアーティスト・ブック"THE SEVENTH DIRECTION",'06年からマルコス・スザーノ,内田直之との「ネニューマ・カンサオン・ソー・ムージカ」シリーズ5作品(勝井祐二,EXPE,OKIもゲスト参加したCD,DVD)を立て続けに発表するなどソロ活動も活発化し,ブラジルでのPERCPAN,国内のFUJI ROCK,朝霧JAM,RISING SUN,METAMORPHOSE,など各種フェスティバルに多数出演し好評を博す。
現在はシアターブルック,blues.the-butcher-590213,DEEP COVER,OKI DUB AINU BAND,NOTHING BUT THE FUNK,Koji Nakamura(中村弘二),Leyona,東田トモヒロ,teneleven(ナスノミツル),MARCOS SUZANO,内田直之,勝井祐二,益子樹,"Percussion Session"(with 辻コースケ),etc...と活動中。
一挙手一投足に世界中から注目が集まりまくっている
-菊地成孔
「注目の外人プレーヤーを見とかなきゃ」という感じがここまで盛り上がっているのも久しぶりで、フュージョン創成期を思い出します。<ポスト・ブラック・レイディオの時代の注目ドラマー>としてクリス・デイヴ、マーク・コーレンバーグ、リチャード・スペイヴン等と名を連ね、一挙手一投足に世界中から注目が集まりまくっているマーク・ジュリアーナが来日する訳ですから、そんなもん聴きに来るしか無いでしょう。
菊地成孔
http://www.kikuchinaruyoshi.net/
【菊地成孔 3DAYS】
2014年12月15日(月)~17日(水)新宿ピットイン
【ALL NIGHT CONCERT 2014~2015 菊地成孔GROUP】
2014年12月31日(火) 新宿ピットイン
来日公演情報
マーク・ジュリアナ’s BEAT MUSIC
ビルボードライブ東京:2014/12/5(金)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2014/12/2(火)
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INFO: www.billboard-live.com
ビート・ミュージック:ロサンゼルス・インプロヴィゼイションズ
2014/10/02 RELEASE
AGIP-3543 ¥ 2,420(税込)
Disc01
- 01.This Is Your Chance To Make Things Right
- 02.Hunter Thompson Is Watching
- 03.The Everywhere Spirit
- 04.Flaw & Order
- 05.Another Race Record
- 06.Bobby Moons
- 07.I Create Your Own Future
- 08.Faux Humility
- 09.Bang Biscuit
- 10.A Quote Machine
- 11.The Police Are Looking For Bobby Moons
- 12.That DeeJay Chick Works At The Bank Now
- 13.And Now... We Stare And Nod
- 14.Roofing With Biblical Integrity
- 15.Dear Earthquakes, Come Home
- 16.Bobby Moons Goes To Jail
- 17.I Once Had Fun In Hollywood
- 18.On Occasion Caucasian
- 19.Nice Job!
- 20.An Undeniable Letting Go Of Invaluable Necessities That In Which We Cannot Be Without
- 21.Did You See That Catch?
- 22.Faulty Filter
- 23.“Betty, Will You Cancel My 8 o’clock?”
- 24.Ode to Bobby Moons
- 25.I Listen To Dan Patrick Everyday
- 26.Human Highlight Film
- 27.Cheer Up Beautiful People
- 28.I Don’t Care About The Money, It’s You I Want
- 29.My Blood
- 30.Cole Whittle
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