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時代を反映するビルボード・チャートの魅力―ビルボード・チャート・ディレクター、シルビオ・ピエトロルオンゴ氏が語る
世界で最も影響力の大きい音楽ブランド=ビルボードは、様々なジャンルのチャートを通して、今、ホットな音楽は何なのかを発信し続けてきた。50数年以上に渡り、ヒット・チャートを牽引してきた実績と信頼性は今なお揺るぎがない。今秋、米ビルボードでチャート・ディレクターを務めるシルビオ・ピエトロルオンゴ氏が、初来日。ビルボード・チャートの変遷とその魅力について語ってもらった。
時代に合わせて変化する「チャート」
▲ シルビオ・ピエトロルオンゴ
Photo: Akihiro Nagata
??まずは、日本ではあまり聞き馴染みのないチャート・ディレクターという仕事について教えてください?
シルビオ・ピエトロルオンゴ:現在はビルボード・マガジンとビルボード・コムのすべてのチャートを統括する部門のヘッドを務めています。私のいる部署ではチャートの解析はもちろん、マガジンとWEBの記事も担当していて、以前は私自身もコラムを執筆していました。また、レコード会社やマネージメント会社など音楽ビジネスに関わる人たちと、アーティストや彼らの音楽をどのようにチャートに反映させるのがベストなのかを検討したりする役割もありますね。今後、ビルボードのチャートに加えていけるデータを持っている会社ともやり取りをしています。最近はやはり、主にSNSやストリーミング・データについての分析が多いですね。私がビルボードで働いてきたこの20数年は、音楽産業もそれに伴うチャートも非常に大きく変化しました。
??ビルボード・チャートのメインともいえるのが、55年以上の歴史を誇るHOT 100(楽曲)とビルボード200(アルバム)ですが、チャートの集計方式は時代と共に変わってきましたね。
シルビオ:HOT 100は1958年からスタートし、長い年月をかけて何度か変更を重ねてきました。時代の変化に合わせてポリシーや集計方法を変えてきたのは、何が最も人気があるかを正確にチャートに反映させるためです。最近でいえば、オンデマンドのストリーミング・データとYouTubeのデータを集計に加えたのは大きい変化でした。
??1998年にHot 100がそれまでの「シングル」チャートから「ソング」チャートに替わったのは大きな変化だったのでは?
シルビオ:そうですね。90年代にはレコード産業がアルバム・セールスに集中してシングルをリリースしなくなったため、何が今ポピュラーな曲なのかチャートに反映できなくなった時期もありました。そのため98年以降は、エアプレイでよくかかるシングルではない曲もチャートに入るように「ソング」チャートとして規定を替えたのです。2005年にはiTunesのデータを加え、現在はセールス/エアプレイ/ストリーミングなど様々なデータが集約されたビルボード史上最も正確で公平なものになっていると思います。
??iTunesの登場は音楽の聴き方や買い方も大きく変えましたね。
シルビオ:iTunesの登場によって、シングル盤の出荷枚数が終わってからでも曲が買えるようになり、アルバムの中の好きな曲だけをダウンロードしていつでも聴けるようになったのは大きかったですね。アルバム・セールス中心の考え方もiTunesの登場以降変わりました。そしてストリーミングが主流になりつつある今は、曲を買わずに聴けるという環境にまで進化しました。とはいえ、ストリーミングの要素が加わってもエアプレイやセールスで人気がある曲とそれほど違いはなかったのも事実です。
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