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ネイザン・イースト 来日記念特集~世界のトップ・アーティスト達が認めるその卓越したベース・プレイに迫る
ピアニストやギタリストと違って、ベーシストというのは非常に地味な存在だ。もちろんベースが主役となる音楽もたくさんあるが、基本的にその役割は縁の下の力持ち。あくまでもフロントマンを立てるための仕事が多い。しかし、それだからこそ重要なポストであり、しっかりしたテクニックとセンスの持ち主は重宝される。そんな職人的なベーシストの頂点に君臨するのが、ネイザン・イーストであることに異論はないだろう。40年近いキャリアで残した名曲と名演は数限りない。しかも、これ見よがしの派手なパフォーマンスをするわけでもなく、プレイヤーとしてのエゴや自己主張が強いわけでもない。ロック、ジャズ、フュージョン、ソウル、ポップスとジャンルを選ばず、淡々と的確に楽曲を引き立てる技量はまさに職人肌といえる。この度ようやく初のソロ・アルバムを制作し、来日公演も決定した。ここでは、世界でもっとも耳にされているというベーシストの足取りを辿ってみよう。
世界的トップ・アーティスト達の作品に参加
▲ 「I'm Gonna Love You Just A Little Bit More, Baby」 / Barry White
ネイザン・イーストは、1955年に米国フィラデルフィアで生まれた。ジュニア・ハイスクール時代からチェロを弾き始めるが、その後ベースに転向。バンド活動や教会での演奏などによって、少しずつ実力を付けていった。最初にプロとして注目されるきっかけとなったのが、ソウル界のゴッドファーザーことバリー・ホワイトとの共演。その後、クインシー・ジョーンズのお墨付きをもらったこともあって、ありとあらゆるアーティストから声がかかる。
▲ 「Cantaloupe Island (Live)」 / Herbie Hancock
バリー・ホワイトの他にソウルやR&Bでは、マイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダー、フィリップ・ベイリー、ホイットニー・ヒューストン、アニタ・ベイカー、ベイビーフェイス、ジャズやフュージョンでは、ハービー・ハンコック、ジョージ・ベンソン、ジョー・サンプル、マンハッタン・トランスファー、アル・ジャロウ、渡辺貞夫、ロックやポップス系では、フィル・コリンズ、ロッド・スチュワート、ケニー・ロギンス、ジョージ・ハリスン、エルトン・ジョン、マドンナなどなど。ここに列記するにはあまりにも膨大でビッグネームばかり。また、カントリーやルーツ・ミュージック系も意外に多く、ケニー・ロジャースやライ・クーダー、そしてブラジルのジャヴァンなどからもたびたびラブコールを受けている。また、ベースを弾くだけでなく、ソングライターやコーラスなどで客演している作品も数多い。
エリック・クラプトンとの出会い
▲ 「Layla (Live)」 / Eric Clapton & Friends
とにかく多くのアーティストと関わってきたが、もっとも重要な出会いといってもいいのが、エリック・クラプトンだろう。1985年の『Behind The Sun』を皮切りに、『August』(1986年)、『Journeyman』(1989年)といった80年代後半のクラプトンを支え、大ヒット曲「Tears In Heaven」を収めたグラミー受賞のベストセラー・アルバム『Unplugged』(1992年)でもわかるように、ライヴでも彼のプレイは欠かせないものとなった。ツアー・メンバーとしても不動の地位を誇り、このタッグは最新作『The Breeze: An Appreciation of JJ Cale』(2014年)に至るまで途切れることなく続いている。
ドリーム・チーム=フォープレイの一員としての活躍
▲ 「I'll Still Be Loving You (Live)」 / FOURPLAY
また、日頃はサポートに徹するネイザンのテクニカルな面にスポットを当てたのは、ロックでもソウルでもなく、フュージョン・シーンのスーパー・グループ、フォープレイだ。ドラムスのハーヴィー・メイソン、キーボードのボブ・ジェームス、ギターのリー・リトナー(その後、ラリー・カールトン、チャック・ローブへとメンバー変更)というメンバーとともに、1991年にアルバム『Fourplay』でデビュー。この大先輩ばかりのドリーム・チームの一員として、見事なベース・プレイで独特のグルーヴを築き上げた。松田聖子も参加した『Esprit De Four』(2012年)まで、12枚ものスタジオ・アルバムを残している。
来日公演情報
Nathan East
Billboard Live Tour 2014
ビルボードライブ東京:2014/11/10(月)~11/11(火), 11/13(木)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2014/11/12(水)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
小田和正との友情
▲ 「Finally Home(メイキング映像)」 / Nathan East&小田和正
他にも特筆すべき事項はたくさんある。我々日本人にとってなじみ深いのは、小田和正との友情だろう。小田がオフコース解散後に発表したサード・アルバム『Far East Cafe』(1990年)や、自身が監督した映画のサウンドトラックとして制作した『sometime somewhere』(1992年)、大ヒットを記録したセルフ・カヴァー・アルバム『LOOKING BACK』(1996年)など、重要な作品には必ずといっていいほどネイザンのベースがフィーチャーされている。小田和正サウンドの重要なパートとなっていることは事実だ。
豪華アーティスト参加の初ソロ作品
そして、ごく最近の話題としては、やはりダフト・パンクの大ヒット・アルバム『Random Access Memories』(2014年)での活躍ぶりだろう。ナイル・ロジャースのギターと合わせ、このアルバムに無くてはならないグルーヴを生み出していたこともあって、さらに彼のバリューもアップした。グラミー授賞式におけるパフォーマンスが大きな話題になったことも記憶に新しい。そんな誰からも重宝される実力派ベーシストであるにも関わらず、ソロ名義の作品は2014年まで待たなければならなかった。初めてのアルバム『Nathan East』は、まさに待望というべきネイザンの個性が堪能できる一作。マイケル・マクドナルドが渋い声を聴かせるヴァン・モリソンの「Moondance」、盟友エリック・クラプトンとの息の合ったコンビネーションが楽しめるメロウな「Can't Find My Way Home」、スティーヴィー・ワンダーのハーモニカをフィーチャーした美しい「Overjoyed」と、豪華なゲストに目を奪われる。しかし、本作のポイントはあくまでもネイザンの音楽センス。フォープレイの代表曲「101 Eastbound」、スティーヴィーの「Sir Duke」、パット・メセニーの「Letter From Home」といった冒頭3曲における緩急の使い分けや、メロディの引き立たせ方、絶妙なアレンジなど、ベーシストならではのバランスの良さと、聴き心地を追求した音作りはさすがだ。また、息子のノアくんのピアノとデュオ演奏したり、小田和正から「Finally Home」を贈られるなど、彼の人柄が透けて見えるのも微笑ましく、初めてのソロにふさわしい内容になっている。
超絶プレイヤーたちを率いたファン待望の来日公演
今回の来日公演では、スティーヴ・フェローン、ジャック・リー、マイケル・トンプソンといった強者たちを引き連れてのツアーとなる。ソロ・アルバムだけでなく、これまでのキャリアを総括するようなライヴになることは間違いない。世界最高のベーシストを、サポートとしてではなくリーダーとして、そのパフォーマンスを満喫できるはず。たんにベースを聴くのではなく、彼のベースを中心とした音楽宇宙を体感してもらいたい。
ネイザン・イースト来日公演トレーラー
来日公演情報
Nathan East
Billboard Live Tour 2014
ビルボードライブ東京:2014/11/10(月)~11/11(火), 11/13(木)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2014/11/12(水)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
NATHAN EAST
2014/03/19 RELEASE
YCCW-10217 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.101 イーストバウンド
- 02.サー・デューク
- 03.レター・フロム・ホーム
- 04.ムーンダンス
- 05.アイ・キャン・レット・ゴー・ナウ
- 06.ダフト・ファンク
- 07.セヴンネイト
- 08.キャント・ファインド・マイ・ホーム
- 09.ムードスウィング
- 10.オーバージョイド
- 11.イエスタデイ
- 12.ファイナリー・ホーム
- 13.マディバ
- 14.アメリカ・ザ・ビューティフル
- 15.フォー・オン・シックス -日本盤ボーナストラック-
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