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「ロックンロールを絶やさないために、音楽を続けていきたい」― ザ・ヴァインズ 最新インタビュー
1994年にフロントマンのクレイグ・ニコルズを中心に結成された豪シドニー出身のロック・バンド、ザ・ヴァインズ。2002年に『ハイリー・イヴォルヴド』で衝撃のデビューを飾り、米ビルボード・アルバム・チャートでは初登場11位、英NME誌の表紙を1年間で4度も飾るなど特に人気の高かったイギリスでは3位を記録、世界中で200万枚以上を売り上げた。またこの頃からクレイグの破天荒で予測不能なライブ・パフォーマンスや言動でも注目を浴びるが、後にアスペルガー症候群と診断される。
そんな中、病気と向き合いながら『ウィニング・デイズ』(2004年)、『ヴィジョン・ヴァリィ』(2006年)、『メロディア』(2008年)、『フューチャー・プリミティヴ』(2011年)とコンスタントに作品を発表してきたが、2012年に長年活動を共にしてきたメンバーが全員脱退。そして今年2014年には、ベースにティム・ジョン、ドラムにラクラン・ウェストを迎え、6thアルバムにして、ダブル・アルバム『ウィキッド・ネイチャー』をリリースし、再び3ピース・バンドとして再出発。そんな転機とも言えるアルバムの日本盤リリース日となった9月3日にクレイグへ電話インタビューを行った。
とにかくパワフルな作品が作りたかった―
人々の記憶に残り、人を動かすような
▲ 『Wicked Nature』 Album Announcement
??最新作『ウィキッド・ネイチャー』のリリースおめでとうございます。オーストラリアは昨日だったと思いますが、日本でも今日リリースされましたよ。
クレイグ・ニコルズ:グレイト!そう、昨日こっちでリリースされて…日本でもちゃんとリリースされたって聞くのは嬉しいね。
――実際に完成してからリリースまで、少し時間が経っていますよね。
クレイグ:そうなんだ。今ちょうどそのことを考えてた。でもやっとリリースされて、みんなに聴いてもらえると思うと嬉しいよ。今回はかなり短期間でレコーディングしたから、余計長く感じたのかも。ディスク1は12曲を12日間でレコーディングして、ディスク2は10曲を5日間でレコーディングしたんだ。曲自体もすんなりと書けたし、周りの反響もいい。まぁ、僕自身は自分が作った曲は全部好きだからね(笑)。
――前作の『フューチャー・プリミティヴ』同様に、今作でもテクノロジーや現代社会へ対するクレイグなりの想いを歌っていますね。
クレイグ:うん。前作に引き続き、それらのことは考えていた。アンチ・テクノロジー、プロ・ネイチャー。僕のテクノロジーに対してのフラストレーション…なぜかわからないけれど、まったく夢中になれないんだ。本能に反しているんだろうね。僕はシンプルな人間だから、情報力が多すぎるのが耐えられないんだ。曲を通じてその感情を発散するとともに、自分にとって有意義なものに変えていけるというのは、いいことだと思ってる。
――こういう感じの曲を作ってみようなど、あらかじめ決めてから、曲作りを行うことはありましたか?
クレイグ:たまにあるけど、大体の場合は、曲に導かれるという感じだね。ベーシックなアイディアやいくつか言葉があって、そこから書き進めていく。でも、アップビートな曲を書かなきゃ、とか自分から思う時もある。たとえば今作だったら、ディスク2の方は、バラードが多めのパーソナルな作品になってる。詞に真実味があって、自分が面白いと思えるような曲を書くことに集中した。それに加えてヴァラエティ豊なサウンド…。とにかくパワフルな作品が作りたかった―人々の記憶に残り、人を動かすような。たとえ、それが悲しかったり、アグレッシヴであったとしても。
――特にディスク1に収録されている曲の詞は二面性があるものが多く、アルバム・タイトルもそうですよね。こういった比喩的な要素は意識的に加えたのですか?
クレイグ:そうそう。君の言うようにタイトルもそうだし、曲の中でも二通りの意味を持つ詞が多数ある。特に自然を引合いに、男女関係を比喩したものが多いね。“ウィキッド”は、スラングっぽい感じでクールとかスゴいという意味もあるし、恐ろしいという意味もある。確かに、それはこのアルバムで、多少意識的にやったことの一つだね。今回のアルバムは、1曲に対して詞の量も比較的多い。時と共にソングライターとして成長することで、そういった技巧を用いて、自分のフラストレーションをより分かりやすく、巧みに表現することができるようになったという証しでもあると思うんだ。
――なるほど。今作では、クレイグがよりプロダクション面にも参加したとのことですね。
クレイグ:ディスク1は、起用したプロデューサーが主導権を握っていたけれど、ディスク2では共同プロデューサーという立ち位置だった。これまでもずっとプロダクションには携わってきていて、興味があったことなんだ。言葉だけでは、ちょっと退屈に聞こえるかもしれないけど、テクニカルな部分についてもっと学ぶことができた。ヴォーカル以外は全部ライブ・テイクで、数回のテイクのみで進めていった。アルバムの最後のトラック「Funny Thing」とか、ギター・ソロも即興でレコーディングしたものもいくつかあって、それ以外は大体1stテイクが利用されてる。ああいうギター・ソロは、ワイルドですごくイイよね、僕自身すごく気に入ってるんだ。ヴォーカルのメロディをコピーしたり、きちんとした骨組みがある曲もいいけど、そうじゃない曲を演奏するのも面白いよ。演奏自体も上達してると思うんだ…これまで自分がテクニカルなプレイヤーだとは思ったことはないけど。へヴィメタル・スタイルのテクニカルな超絶プレイより、ちょっとズレてる方が個人的に好きだから。
――確かに、タイトル・トラックの「Wicked Nature」の後半も、即興ぽい感じですし。
クレイグ:そう、それに反転してるんだ。あの曲が面白いのは、ギターのオーヴァーダブが一番多くて…4、5ぐらい使ってて、その半分を反転させてる。ああいう、ちょっと抽象的な感じが好きなんだ。
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ロックンロールやバンド・カルチャーを絶やさないために、
これからもずっと音楽を続けていきたい
――そして今作からは、ティム・ジョンとラクラン・ウェストを新たにメンバーに迎えていますね。
クレイグ:うん、彼らはグレイトだよ。それにいいプレイヤーだしね。僕が持ち込んだ曲に合うようなパートを、短時間で沢山考え出してくれた。レコーディングも楽しくて、仲良く進めていったよ。2人は元々同じバンドで演奏していたから知り合いだったけど、3人の間でもいいケミストリーが生まれたと思うね。だからレコーディングをあんなに短時間でやり遂げることができたんだ。
――因みに、彼らはクレイグより若いんですよね?
クレイグ:そうだね。確かティムは27歳ぐらいで、ラッキーが23か24歳かな。
――ということは、2人ともザ・ヴァインズのことを聴いて育った世代ですね。まさか後にバンドに入ることになるなんて、当時は思わなかったでしょうね。
クレイグ:実はレコーディングしてる時に、ザ・ヴァインズのTシャツを着てる17歳ぐらいの頃の写真を見せてくれたんだ。そういうのって、すごくクールだよね。まぁ、つっこんだ話はしてないけど…だって「え?聴いてたの?」とかそういうの、あんまり詳しく訊けないでしょ(笑)。
――確かに(笑)。
クレイグ:興味がなかったら、オーディションも受けてなかっただろうと思うし。でも、写真を見た時はちょっと胸が詰まる思いだった。アルバムのアートワークに入れようかなって考えてて…今となっては入れればよかったと思ってるよ。
――でもザ・ヴァインズが若いバンドに影響を与えたというのは紛れもない事実ですし、誇るべきことだと思いますよ。
クレイグ:これまでも何人かの人に言われてきたし、色々なバンドにも言われた。アークティック・モンキーズも影響を受けた、っていうのもよく言われるし。そういうのはすごく嬉しい。ティーンの頃にバンドを始めたのは、みんなと同じように音楽が大好きで、聴いていた音楽やバンドにインスパイアされて、音楽を作りたいと思ったからだった。ありきたりな表現かもしれないけれど…何か恩返しできるというのはいい気分だよ(笑)。ロックンロールやバンド・カルチャーを絶やさないために、これからもずっと音楽を続けていきたいと思ってる。
――話は戻って、アルバムの中で特に気に入ってる曲はありますか?私は「Truth」が好きですよ。
クレイグ:おぉ、そう言ってくれて嬉しいよ。僕もその曲が一番好きなんだ(笑)。レコーディングしている時から、その曲が好きって言う人が結構多くて…アルバムの中でも特出している曲だと思う。とてもシリアスだけど、ナチュラルでビューティフルだよね。
――昔から、どちらかというとクレイグが書くスローな曲の方が好きで…、それにソングライターとしての魅力もより際立つと感じるので。
クレイグ:じゃあ、きっと君はディスク2の方が好きだよね(笑)。
――当たりです(笑)。
クレイグ:実は、このダブル・アルバムをリリースする前に、アコースティックの曲を沢山書き溜めていたから、全編アコースティックのアルバムを作ろうと思ってた。曲もレコーディングして満足してたけど、やっぱりロックっぽい曲がやりたいと思ってね(笑)。そこから『ウィキッド・ネイチャー』のディスク1が生まれたんだ。あのアルバムは、ほぼ全曲アップビートなロックンロール・ソングで構成されていて、バラードは1曲しか入ってない。で、ディスク2にはもっと多様なスタイルの曲が収録され、よりレイドバックな内容になってる。知ってると思うけど、昔からヘヴィーなロック調の曲もあれば、それを中和するようなスウィートなバラードもあるアルバム構成を心掛けてきた。とにかく色々なスタイルにチャレンジしたくて、これからもやってみたいことがたくさんあるんだ。
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トレンドに流されることなく自分らしい音楽を作っている
“リアル”なアーティストには、シンパシーを感じる
――最近は、1日をどのように過ごしているのですか?主に曲作りや絵を書いたり、創作活動に費やしているのですか?
クレイグ:ものすごく創造意欲が湧くと曲をずっと書いてるし、そうじゃない時はギターを弾いたり…楽しみながら音楽と付き合っているよ。この1、2年間でアートをたくさん作った時期もあった。アルバムのジャケットもそうだし、絵画、コラージュだったり。後は、映画を観たり…けっこうメローで快楽主義的な感じの日もあるよ(笑)。もう都心にも住んでないくて、今はより自然が多いシドニーの郊外に住んでるから。
――なるほど。だから自然が、今作のキーポイントになっているんですね。
クレイグ:そうだね、やはり郊外へ引っ越した影響というのは大きいよ。5年前までは都心に何年か住んでいたけど、全然馴染めなかったし、嫌だった。それに、基本一匹狼だから。最近引っ越したというわけじゃないけど、やっぱり今自分が暮らしているのはここだし、自分の周りにある自然溢れる環境というのは、アルバムのインスピレーションにもなっている。まさに、“ウィキッド・ネイチャー”だね。
――そんな今でもライブを観に行ったりはしますか?
クレイグ:去年ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブを観に行ったけど、相変わらずグレイトだったよ。彼らのアルバムは全部好きなんだ。
――デビューしたのもザ・ヴァインズと同じぐらいの時期でしたしね。でもその当時から今でも活動している人たちは、残念ながらあまりいないですよね。
クレイグ:そうだよね。だから僕はBRMCの大ファンなんだ。止まることなく、いい音楽を作り続けているから。ほんと、もう解散してしまったか、音楽を作っていないバンドばかりだよね。
――他にも、現在活躍しているバンドやアーティストでシンパシーを感じる人はいますか?
クレイグ:う~ん。今話に上がったBRMCと…、もっといるはずだけど(笑)…。スーパーグラスとかブラー、もっと若いバンドだと…。
――同郷のテーム・インパラは?
クレイグ:お~、テーム・インパラはすごくイイよね。アルバム2枚とも持ってるよ。彼らのようなサウンドのバンドが一般受けして、成功したのは素晴らしいことだと思う。僕が初めて会った時はまだ無名で、その頃からすごくいいバンドだと思っていたから嬉しいね。ロックはもうダメだ、とか言われてるけど、まだまだいいバンドは沢山いると思う。自分で曲を書き、トレンドに流されることなく自分らしい音楽を作っている“リアル”なアーティストには、シンパシーを感じるし、尊敬しているね。
――現代はトレンド自体の移り変わりも恐ろしく早いですからね。
クレイグ:本当に。僕らがデビューした時からもかなり変わっていて、最近TVの音楽チャンネルが流しているのはダンス・ミュージックっていうのかな?そんなビデオばっかり。すごく大がかりで、製作費がかかってそうな。ずっとロックのビデオが流れてればいいのに、って僕は思うけど(笑)。
――自分が時代を間違えて生まれてきたと思うことはありますか?
クレイグ:イエス!特にテクノロジーの面では。僕は携帯電話も持ってないし、インターネットも使わないし、一生車を運転したいとも思わない。何百年前に生まれていても全然暮らして行けると思うよ。
――音楽の面では?
クレイグ:音楽に関しては、そんなに遡っちゃうとあれだけど…やはり僕にとって60年代がキーだから。尊敬する素晴らしいバンド達が活躍していた時代で、創作にかける情熱や意欲、それに完成した作品のクオリティも優っていたと思う。当時は1年に1枚はリリースすることが当たり前で、僕にもそれが出来ると思うんだ。でも現代だとビジネスの面もあるし、間に入る人も多いから時間がかかってしまう…。
――今回アルバムがインディーでリリースされたことで、そのプロセスがスムーズになったとは感じましたか?
クレイグ:う~ん。あまり細かいことは詳しくないから何とも言えないけど、自分の観点からは特にイライラすることもなかったし、円滑に進んだという印象だね。
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センシティヴでなければ、いいアーティストにはなれない
でも一番大切なのは、自分らしくあること
――では、20年近くソングライターとして曲作りをしてきた中で、どんな部分が成長したと感じますか?
クレイグ:17歳の頃に曲作りを始めてから、ノンストップで曲を書き続けていて、途中で投げ出そうと思ったことは一度もなかった。特に近年書いた曲では、真実を歌うことが怖くなくなった。もちろん昔から自分なりに正直な曲を書いてきたつもりだけど、若いと視座や価値観がまだ定まっていなかったりするからね。それに加え、経験とともに詞を書くのが上達していってる。多分それが僕にとって一番重要な成長かな。
――多くのソングライターがそうであるように、世界や自分の周りの環境に対して、普通の人に比べセンシティヴだと思いますか?
クレイグ:それはすごく思うよ。そこが僕が音楽を作っている要因の一つだから。人と話して解消できないようなフラストレーション、真実…僕にとって様々な感情のはけ口になっている。多分センシティヴでなければ、いいアーティストにはなれないと思う。でも一番大切なのは、自分らしくあることだろうね。
――今日話してみて、音楽を作るということは、クレイグにとってセラピー的な役割を果たしているんだ、というのが強く伝わってきました。
クレイグ:うん。本当にそうなんだ。今思えば、このダブル・アルバムを作るのも必然だったと感じる―ひらめいたアイディアやインスピレーションで建設的なことをしなければ、という面で。そして、それを上手く表現できたと思ってる。これまでは曲を書くのにかなり時間がかかっていたこともあったけれど、このダブル・アルバムの場合は、誰か他の人が書いたんじゃないか、と思うぐらい、いとも簡単に曲が生まれた。実は、もう既にアルバム1枚分の曲を書きあげていて、全部がまだ完成されているわけではないけれど、自分でもすごくエキサイティングだと思うものが何曲もあるから、来年には、またアルバムをレコーディングしたいと思ってる。あとは、エンパイア・オブ・ザ・サンのニック・リトルモアとコラボ・アルバムも作ったんだ。
――お、そうなんですね!サウンド的には、どんな作品に仕上がったのですか?
クレイグ:ザ・ヴァインズとエンパイア・オブ・ザ・サンの中間って感じかな。彼が得意とするエレクトロニック・ミュージックの要素もあるけれど、生身の楽器も多く使っている。ワールド・ミュージックで使うような面白い楽器も使ったよ。僕が書いて、歌っている曲もある。トラックのレコーディングは終わっていて、ミックスも完成しているよ。アートワークはまだだけど、僕がやる予定になってる。
――じゃあ、近々リリースされるということですね。
クレイグ:制作が終わってからの業界的な流れというは、よく理解できないけれど、多分来年の早い段階でリリースされるんじゃないかな。
――楽しみにしてます。では最後に、アルバムのツアーを行う予定はありますか?
クレイグ:イエス。そう言うことができて嬉しいんだ。僕自身、ステージに上がって新しい曲を演奏したい、とすごく思ってるし、新しいメンバーと演奏するのも楽しみにしてるから。
"Metal Zone" Music Video
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