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イダン・ライヒェル 来日特集

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 イスラエルを代表するプロデューサー/ソングライター、イダン・ライヒェルがついに来日を果たす。長年ワールドミュージックを追いかけてきた僕から言わせてもらえば、彼は現在、この惑星のポップミュージック界において、インドのA.R.ラフマーンと並んで、最も輝いているソングライターだと確信している。
 今回の初来日公演フライヤーのキャッチコピーにも書いたが、彼の音楽は東ヨーロッパの哀愁、地中海のロマンティシズム、中東の官能、ラテンアメリカのリズム、エチオピアの神秘性が複雑に織りなされ、それでいて、どの曲を聞いても彼だとわかる個性がある。

「Breakout」
▲ 今年7月にテル・アビブの野外会場で行われた最新コンサートから「She'eriot Shel Ha'Chaim (Scraps Of Life 人生の小片)」

 イダン・ライヒェルは1977年にイスラエル中部のクファル・サバという町で生まれた。東欧系ユダヤ人のルーツを持つが、彼自身のアイデンティティーはあくまで生まれ育ったイスラエルにあると言う。幼少時からアコーディオンを手にし、東欧のジプシー音楽やタンゴなどに親しみ、十代になると興味はキーボードとジャズに移行した。18歳になるとイスラエル国民の義務である兵役に着き、陸軍の軍楽隊に配属された。慰問先で自国や欧米のヒット曲を演奏し、バンドリーダーとしてアレンジやディレクションを行うことで音楽的な技術を高めていった。

「Bo'ee」
▲ 1stシングル「Bo'ee (Come With Me 一緒においで)」

 軍の退役後は、エチオピアやロシアなどから移住してきた移民の子供たちのための全寮制学校でカウンセラーとして働き、そこで様々な地域の伝統音楽を知る事になった。その後、22歳でプロの音楽家として活動を開始し、実家の地下に作ったスタジオでエチオピアやイエメン、南アフリカやスリナム、アラブなどをルーツに持つ約70名のイスラエルの音楽家たちとセッションを重ね、ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクトを発足させた。
 アムハラ語によるエチオピアの伝統的なメロディーを散りばめた1stシングル「Bo'ee (一緒においで)」を含む、2002年の1stアルバム「The Idan Raichel Project」はイスラエル国内で12万枚を超え、トリプル・プラチナ・アルバムとして大ヒットとなった。イスラエルの全人口が約802万人、そのうちユダヤ人が604万人なので、12万枚は日本でいう100万枚をはるかに超える数字である。

「Hakol Over」
▲ 3rd「ウィズイン・マイ・ウォールズ」からイダン節全開の「Hakol Over(This Too Shall Pass これもまた過ぎ去ってゆく)」

 東欧と中東が混じったような哀愁のメロディーに、エチオピア、イエメン、スリナムなどの音楽要素が加わった特異な音楽性は「人種のるつぼ」イスラエルを体現する音楽としてすぐさま国内外に認知された。イダンは8人(現在では16名ほどに倍増している)編成のバンドを結成し、ライブ活動を開始した。そして、2006年にアメリカのレコード会社が1stアルバムと2ndアルバムから12曲を選曲した編集盤「ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト」でワールドワイドにデビュー。以降、アメリカ、ヨーロッパ、南ア、インド、シンガポール、エチオピアなど世界中で公演を行ってきた。アメリカのR&B歌手インディア・アリーとは度々共演を果たし、マーティン・ルーサー・キングJr.記念日にはオバマ大統領の前でデュエットを行っている。

「Hakol Over」
▲ 3rd「ウィズイン・マイ・ウォールズ」からカーボベルデ人女性歌手マイラ・アンドラーデが歌う「Odjus Fitxadu (With My Eyes Shut 目を閉じたまま)」

 2009年の3rdアルバム「ウィズイン・マイ・ウォールズ」は彼がツアーで訪れた諸外国で出会った音楽家たちと、ホテルの部屋やコンサート会場の楽屋などでレコーディングを重ね、時間をかけて作り上げた。コロンビアの女性シンガーソングライター、マルタ・ゴメスや、この8月に初来日を果たしたフランス在住のカーボベルデ人女性歌手マイラ・アンドラーデ、アメリカ生まれのウガンダとルワンダのハーフの女性歌手ソミらがフィーチャーされ、言語も新たにスペイン語、クレオール語、スワヒリ語が飛び交っている。

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「Ha'baita Haloch Chazor(Travelling Home)」
▲ 日本未発売の3枚組ライブ・アルバム「Travelling Home」から「Ha'baita Haloch Chazor(Travelling Home)」

 2011年には20名近い大編成で行われたイスラエル・ツアーを録音した三枚組のライブ・アルバム「Travelling Home」をリリース。7曲の新曲を含む全38曲はこれまでの9年間の集大成にふさわしく、ハズレ曲が一つもないほどだ。大観衆があげる歓声に混じった彼らの演奏はいつ聴いてもワクワクしてしまう。

「Niger」
▲ トゥーレ・ライヒェル・コレクティヴ1st「テル・アビブ・セッションズ」から「Niger(ニジェール)」

 2012年、イダンはマリ人のギタリスト、ヴィユー・ファルカー・トゥーレとトゥーレ・ライヒェル・コレクティヴを結成し、1stアルバム「テル・アビブ・セッションズ」をリリース。ヴィユーのアフリカン・ギターをイダンのピアノがゆったりと追いかけ、音楽の対話を繰り広げる。
 なお、トゥーレ・ライヒェル・コレクティヴはこの秋、2ndアルバム「ザ・パリス・セッションズ」をリリースする予定。ヴィユーの父親で、マリを代表するギタリストであった故アリー・ファルカー・トゥーレはライ・クーダーとのデュエット・アルバム「Talking Timbuktu」で1994年にグラミー賞を受賞している。イダンはこの作品を長い間愛聴していて、「ザ・パリス・セッションズ」では、その収録曲をアリー・ファルカーの息子であるヴィユーとともに取り上げ、再演している。

「In Stiller Nacht」
▲ 最新アルバム「クウォーター・トゥ・シックス」から「In Stiller Nacht (静かな晩に)」

 ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト2013年の最新アルバム「クウォーター・トゥ・シックス」は「ウィズイン・マイ・ウォールズ」以来のインターナショナル路線を更に進め、マルタ・ゴメスやヴィユー・ファルカー・トゥーレ、ポルトガルのファド歌手アナ・パウラらが参加し、それぞれの母語で歌っている。中でも驚くのはドイツ人のカウンターテナー歌手アンドレアス・ショルが歌う、16世紀のイエズス会の神学者フリードリヒ・フォン・シュペーの詩を元にした「In Stiller Nacht (静かな晩に)」だ。まるでクリスマスの聖歌のようなこの曲はドイツ語で歌われている。ナチスによるホロコーストが一つのきっかけとなって生まれた国イスラエルでは、今もドイツの作曲家ワーグナーの曲の演奏がタブーとされ、ドイツ語を嫌悪する人も多い。しかし、イダンは果敢にもドイツ語のクラシック声楽家との共演をアルバムに収録した。

「Im Telech」
▲ ハヤルコン公園で行われた最新コンサートから「Im Telech(If You Go きみが行くなら)」

 この美しい曲に秘められた物語からもわかるように、ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクトの目標は、音楽のコラボレーションを通じて異なった文化や人種や宗教の障壁を壊し、相互理解を深め、平和へと至る扉を開くことである。ガザ爆撃などネガティブなニュースばかり伝わる近頃のイスラエル。しかし、イダンの音楽を聴いて、想像力を羽ばたかせることで、これまで知らずにいた何かが見え、感じ取れるかもしれない。10月7日の初来日公演が待ち遠しい!

ジ・イダン・ライヒェル・プロジェクト「クォーター・トゥ・シックス」

クォーター・トゥ・シックス

2013/06/16 RELEASE
CBR-23093 ¥ 2,530(税込)

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