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2019/10/15

『Head in the Clouds II』88rising(Album Review)

 米サンフランシスコ出身の日系アメリカ人、ショーン・ミヤシロが立ち上げた米ニューヨーク拠点のメディア・プラットフォーム=88rising。アジア系のアーティストとしては珍しく、所属アーティストのパフォーマンス、作品が手厳しいアメリカでも高く評価されていて、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で3位、R&B/ヒップホップ・チャートではNo.1を記録したJojiのデビュー・アルバム『Ballads 1』(2018年)や、今年7月にリリースしたリッチ・ブライアンの2ndアルバム『The Sailor』など、メンバー各々の精力的な活動がチームの知名度を高め、幅広い国で多くのファンを獲得している。

 本作『Head in the Clouds II( ヘッド・イン・ザ・クラウズ)』は、そのJojiがエグセクティブ・プロデューサーを務めた、88rising名義でのコンピレーション・アルバム第二弾。昨年夏に発表した前作『Head in the Clouds』同様に、88rising所属のアーティストと厳選したゲストによるコラボレーションが中心の内容。参加したのはアメリカ以外いずれもアジア圏のアーティストで、日本からもGENERATIONS from EXILE TRIBEと、大沢伸一によるユニット=RHYME SOがクレジットされ、話題を呼んだ。

 GENERATIONS from EXILEが参加した「Need Is Your Love」は、Jojiとのコラボレーション。彼等のサウンドにも直結するフロアライクなエレクトロ・ポップで、Jojiとの温度差を出さず、違和感なく溶け込んだボーカルを披露している。RHYME SOとのコラボ曲「Just Used Music Again」は、同じダンス系でも80~90年あたりのハウス・サウンドを取り入れた意欲作。この2曲をはじめ、本作は彼等がカテゴライズされているヒップホップからジャンルをクロスオーバーした、様々なサウンドが詰まっている。なお、「Just Used Music Again」はRHYME SO初の作品として前月に先行配信され、音とリンクした洒落てるカバー・アートはイラストレーターの空山基氏が手掛けたとのこと。『Head in the Clouds II』のアルバム・ジャケットも担当している。

 8月に先行リリースした「Indigo」は、動画アプリTik Tokで火が付き、思わぬ(?)プチ・ブレイクを果たした話題の一曲。アルバムのプロモーションとしても大いに貢献したこの曲は、インドネシア出身の女性シンガーNIKI(ニキ)がボーカルを担当した、90年代フレイバー満載のミディアムR&B。最近でいうと、エラ・メイに近い感じ。曲の一部は、トラックを基にNIKIがフリースタイルのような感じで入れ込んだそうで、その過程が「夜のドライブで写真を撮る雰囲気」に近いことから、タイトルを夜の空の色をイメージした「インディゴ」にしたのだそう。

 NIKIは、端正な顔立ちと甘いボーカルで魅了するバンコクのタイ人シンガーソングライター、プム・ヴィプリットとのアンニュイなバラード曲「Strange Land」と、リッチ・ブライアンとデュエットしたレトロなハチロク・メロウ「Shouldn't Couldn't Wouldn't」、ファルセットを響かせるアリアナ路線のミディアム「La La Lost You」の計4曲でメイン・ボーカルを務め、存在感を発揮した。前述のエラ・メイをはじめとした売れっ子シンガーにも見劣りしない、抜群の歌唱力も持ち合わせている。

 一方、アルバム・リリース直前に発表した「These Nights」は、80年代R&Bからインスピレーションを受けたそうで、たしかにシンセやステップがその当時(初期のジャム&ルイスあたり?)を思わせる節がある。この曲は、リッチ・ブライアンとK-POPグループI.O.Iの元メンバーとして知られる韓国の女性シンガー=チョンハとのデュエット・ナンバーで、構成やカラーバランス、ファッションも当時を意識したミュージック・ビデオでも相性の良さをみせ、完成度の高い作品を作り上げた。個人的には、無理くりエル・デバージみたいなリッチ・ブライアンの解釈がたまらない。

 80年代路線では、パフォーマンスや楽曲がいろんな意味で斬新な中国のヒップホップ・グループ=ハイヤー・ブラザーズによる「Hold Me Down」という曲がある。ラップが被さっているせいか“その感じ”は若干薄れるが、音だけ聴けばまんまエイティーズ・ファンク。彼等がリードをとったナンバーでは、韓国のボーイズグループGOT7のメンバー、ジャクソン・ワンも加わった「Tequila Sunrise」という曲があるが、こちらはトラップ・ブームに則った今っぽいヒップホップに仕上がっている。リッチ・ブライアンとのコラボ・ソング「2 the Face」も、ボーカルとラップを織り交ぜたポップ・ラップ。リッチ・ブライアンのソロ曲では、オーストラリアでの思い出をノスタルジックに歌う「Gold Coast」も好曲。

 前述のジャクソン・ワンは、Jojiとラッパーのスウェイ・リー 、ディプロ率いるダンス・ユニット=メジャー・レイザーをフィーチャーしたレゲトン・ソング「Walking」と、ジャカルタの美人歌手ステファニー・ポエトリーとデュエットしたアコースティック・メロウ「I Love You 3000 II」の3曲に参加しているが、いずれもテイストが全く異なるもので、何でも起用に(歌い)こなす人なんだなぁ……と感心してしまった。後者は、ステファニー・ポエトリーの原曲にジャクソン・ワンがフィーチャリング・アーティストとして参加した、リミックス・バージョンということになる。

 9月にリリースしたアルバムからの第二弾シングル「Breathe」は、1年ほど前にリークされたことが話題となった、Jojiとプロデューサー/DJのドン・クレズによるタッグ・ソング。当時チャートを賑わせていたメロディックな旋律のダンスホールで、前曲の「Walking」からの流れで聴くと尚良さが際立つ。米LAのコリアンタウンを拠点とするシンガー/ラッパーのAUGUST 08は、Joji&リッチ・ブライアンとコラボしたドスの効いたヒップホップ・トラック「Hopscotch」と、失恋(ともとれる)の痛手を感傷的に歌った「Calculator」の2曲を提供した。いずれも、バーニー・ボーンズがクレジットされている。

 アルバムとしての統一感はないが、そもそもコンピレーション・アルバムとはそういうものだし、国籍も得意ジャンルも異なるアーティストが集結すれば当然のこと。何より、若年層の彼等がこれだけ幅広い世代の音楽を研究し、それを我が物として見事表現していることには感銘を受けるというか、何というか。とにかく音楽が好きで、やりたいことがまだまだ溢れてる、そんなエネルギーが本作から十分に伝わった。


Text: 本家 一成