2019/04/01
「怖すぎる……」本作のカバーアートを見た知人が、そうつぶやいた。おそらく、“ベッドの下に潜む怪物”について歌ったリード・シングル「ベリー・ア・フレンド」をイメージしたものなのだろう。ビリーは、この曲の完成時に「作品の全体像が頭の中に浮かんだ」と話していたそうで、アルバムのテーマやビジュアルは、「ベリー・ア・フレンド」が核になっているのだと思われる。
同曲は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高14位をマークし、UK7位、オーストラリア3位、スウェーデンでは自身初のNo.1に輝く大ヒットを記録した。アルバムが予定通りリリースされたのも、この功績あってこそ。とはいえ、ヒット云々は別としても、これほどインパクトのある曲も珍しく、“友だちを埋葬する”というタイトルからして、聴かずにはいられない引力をもつ。ちなみに、ここでいう“友達”はもう1人の自分自身を意味しているのだそう。誰かへの恨み節かと思いきや、「自分の最大の敵は自分」という、地に足の着いた歌だった。
自問自答を個性的な表現で綴ったリリック、感傷を気だるさで表現したボーカル、コードを用いない不気味なエレクトロニカ、ほとんどホラー・ムービーの世界といえるミュージック・ビデオ。どれをとっても一級品で、とても17歳の女の子が(ほぼ)単独で仕上げたとは思えない出来栄え。それは「ベリー・ア・フレンド」のみならず、本作に収録された全ての楽曲にもいえること。なお、全曲の制作は、ビリーと彼女の兄でプロデューサーのフィニアスが担当している。デビューのキッカケを掴んだ「オーシャン・アイズ」(2016年)以降、すべての作品にフィニアスが携わっている。
アルバムは、笑い声飛び交う朗らかな雰囲気のイントロ「!!!!!!!」~テクノサイケ的なダンス・トラック「バッド・ガイ」で幕を開ける。この曲でテンションを最高潮にさせられ、次曲「ザニー」では子守歌のような優しい音色で一気にクールダウンさせられるから、忙しいの何のって。以降、エレクトロニカ、ハウス、ドリーム・ポップ、R&B~ヒップホップ、グランジ、ロックなど多様なジャンルが入れ替わり登場し、その慌ただしさはAppleのCM曲に起用されたラストの 「カム・アウト・アンド・プレイ」まで途切れない。
昨年7月にリリースされたアルバムからの1stシングル「ユー・シュッド・シー・ミー・イン・ア・クラウン」は、「ベリー・ア・フレンド」にも似た不気味さをもつ、ヒップホップやトラップの要素も取り入れた意欲作。イランの女性シンガーソングライター、セブダリザの「ヒューマン」(2016年)という曲からインスパイアされたもので、タイトルは英BBCのドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』に登場する台詞を引用したものだそう。「私には王冠がついていると思いなさい、そしてひざまずくのよ」と、街に溢れる愚民を罵ったような歌詞がユニークでいい。
4thシングルの「ウィッシュ・ユー・ワー・ゲイ」は、タイトルが示す通り「あなたがゲイだったらいいのに……」と独特な表現で項垂れる、いわゆる失恋ソング。なお、ビリーが片思いしていた“誰か”も本当にゲイだったと、自身のSNSでつぶやいたことが(リリース当初)話題となった。“ゲイ”繋がりでそう聴こえるだけなのか、サウンドもどこかケイティ・ペリーの「ユーアー・ソー・ゲイ」(2008年)を思い起こすところがある。歌詞については、アチラの方が爆発力あったが……。
10代の少女が抱えがちな、恋愛観や悲壮感を歌う曲もあれば、既に何かを悟ったような目線で物言いする曲もある。サウンドも、レトロ調のファンク・ロック「オール・ザ・グッド・ガールズ・ゴー・トゥ・ヘル」から、ピアノの音色に乗せて諭すように歌うバラード曲「ホエン・ザ・パーティーズ・オーヴァー」~「リッスン・ビフォア・アイ・ゴー」、ジャック・ジョンソン風のオーガニック・フォーク「8」もあり、知識と才能の幅広さに感服させられる。ハロウィン映えしそうなエレポップ「イロミロ」も面白い。個人的には、「マイ・ストレンジ・アディクション」からの「ベリー・ア・フレンド」の流れが、本作のハイライト。 単体で聴くよりも、前曲のスリリングな展開があってこそ、良さが際立つと思う。
米カリフォルニア州LA出身、2001年生まれの17歳。学校には行かず、ホームスクールで教育を受け、少年少女合唱団ではクラシック音楽を学ぶという、アーティストらしい生い立ちも彼女らしい。奇抜で個性的なセンスは、ファッション誌『ヴォーグ』にフィーチャーされるほど高く評価され、自身のインスタグラムでは、巨漢に見える全身赤のスウェット・スタイルや、セーラームーンがプリントされたモード系の黒シャツ、季節ハズレのハロウィン・コスチュームなど、なかなかブっとんだコーディネートを披露している。デビューしたてのレディー・ガガやケイティ・ペリー等の要素もあり、米ビルボード誌が<ネクスト・ブレイク>に選出するのも納得の大型新人だ。
Text:本家一成
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