2018/01/26
米津玄師といえば「多彩なアーティスト」としてその名を馳せているが、贔屓目に見ても彼の得意ではないことが一つだけある。おしゃべりだ。とはいえ『BOOTLEG』インタビュー(http://bit.ly/2mdmIWp)でも「どっか怪我の功名みたいなところがあるのかな。」と語られているように、人と簡単に繋がれなかったからこそ、現在の姿が在るわけである。
2018年1月9日、10日のニ日間にわたり、日本武道館で開催された【米津玄師 2018 LIVE / Fogbound】。初日のMCでは声援が起こるほど言葉に詰まり、「なにか言葉はないか、なにか言葉はないか」と頭の中を探し回ったのち、最終的には宮沢賢治『春と修羅』より「小岩井農場」の一節を暗唱する場面があった。それはそれで心に沁みたが、翌日はそんな彼が訥々と、身振りを加えながら、すべてを自身の言葉で伝えてみせた。
「15,000人(※実際は両日10000人、合計20000人)が来てくれてるみたいで。音楽っていうのは一人で簡潔するもんじゃないんだよね。だから数字にしちゃうのはすごく心もとない。これは「15000:1」ではなくて、『「1:1」が15000通りある』ってことだと思う。あなたが、聞いてくれることによって、自分の音楽は完成するものであって、自分は、あなたの、心の中、どこでもいい。どこでもいいから、ほんの少しでもいいから、あなたの心の中に居場所がほしい」
●「この瞬間が人生で一番楽しいっていうくらいの盛り上がりをね、わたくし、体験したいんですよ」
2017年11月1日にリリースとなった4thアルバム『BOOTLEG』は、Billboard JAPANの週間アルバムチャート(2017年10月30日~11月5日までの集計)で首位を獲得。そのほか音楽チャートでも軒並み1位となるなど、活躍の目覚ましい一年となった。ライブとしては7月に【米津玄師 2017 LIVE / RESCUE】を開催し(ライブレポート:http://bit.ly/2mlmWvw)、11月よりアルバム『BOOTLEG』を引っ提げたツアー【米津玄師 2017 TOUR / Fogbound】を敢行。年を跨ぎ、その追加公演となる日本武道館公演に繋がった。
会場が暗転し、dvsn「Think About Me」のSEでバンドメンバーを引き連れ登場した米津が歌い始めたのは、ツアータイトルとなっているトラップ調の「fogbound」。立ち込める靄にかすむシルエットの神々しい始まりである。一転、続いたのはハチ名義で発表した「砂の惑星」。イントロの「ど~も、米津玄師です! 今日はよろしくお願いしま~す」というメロディアスな挨拶で勢いづけると、今回のツアーでライブ初披露となる楽曲としてはまず、自身もアコースティックギターをかき鳴らす「飛燕」を演奏。序盤から一気にオーディエンスを引きつけ、【Fogbound】の世界観を丁寧に組み立てていく。
アルバムリリース直前の時点ではまだ武道館公演のイメージが見えていなかったとのことだが、その後しっかりと固まったようだった。ステージは立体的な骨組みで覆われており、背後には三角形や四角形のスクリーン、床はその一面がスクリーンという仕様。切なさ香るポップナンバー「春雷」ではその全体がカラフルに染まり、『BOOTLEG』以外から最初に披露された「アイネクライネ」では、四つ打ちのリズムで鮮やかなライティングが切り替わるなど、楽曲に寄り添った演出やパフォーマンスにはやはり抜かりがない。
かくして無数の星が散りばめられた「orion」のあと、米津が「この瞬間が人生で一番楽しいっていうくらいの盛り上がりをね、わたくし、体験したいんですよ。体験させてもらっていいかな? ついて来てくれますか? ありがとう!「LOSER」!」と叫べば大歓声。ミュージックビデオでのダンスが話題となった「LOSER」だが、武道館公演ではそんな彼が「師匠」と呼ぶダンサーの辻本知彦が登場。エレクトロ基調のダンスナンバーに視覚的な美しさをもたらしてみせた。
ここから疾走感溢れるナンバーが続いていくが、自由気ままな米津のムービングも多くの人の目を奪ったことだろう。さらに特筆すべきは、自身の声があまり好きではないらしいものの、その声を「音」に落とし込むのが上手いということだ。序盤で披露された「春雷」の呼吸音、【RESCUE】で披露された「翡翠の狼」の遠吠えなどは音源でも聞かれるが、この日は「LOSER」の終わりで狂ったように「ハッハッハッハ」と甲高く笑ってみせ、キャノン砲のテープ発射がされた「ゴーゴー幽霊船」でも叫ぶように声を上げる。ダンスの才能と併せて考えてみると、体の有効的な使い方が自然と備わっているのかもしれない。
●「今日みんなが来てくれてる。こんなに美しいこと、こんなに嬉しいことはない」
そもそもはインターネット出身ということもあり、幻のようだった「米津玄師」という存在。それが実体を得ただけではなく、肉体表現という新たな扉を開き、日の丸の下で大勢の人と空間を共有するまでになった。来てくれたことに対し「ありがてえ」と何度も呟く姿があった。武道館公演はそういった変化の体現ともいえるだろう。靄に隠された状態から始まり、鮮やかに視界が開け、終盤に披露されたアシッドハウス調の「Moonlight」でダンサーの菅原小春が友人として出演する流れなどは、彼が外の世界へ踏み出したことを改めて実感させるものだった。
さらに、この日は「スペシャルゲストをお呼びしております」と米津。もちろん「菅田将暉くん!」で、本人がステージへ登場すると会場は興奮の渦に。米津が「最後にやる「灰色と青」は彼がいなかったら出来なかった曲で。今回大きなステージで初めて二人で歌うことが出来るわけで、この日のために作ったんじゃないかなって」と語れば、菅田は「今年人前に出るのが初めてですからね。「菅田さーん、お仕事ですよー」って来たら武道館ですよ。あけおめ~」とゆるい挨拶。そんな二人は横並びで「灰色と青」を「灰色と青( +菅田将暉 )」として完成させ、最後は抱き合いステージを去っていった。
アンコールでは、先ほど「love」でも使用された巨大な紗幕がステージ前面に降り、米津はそこに投影されるアニメーションの奥で「ゆめくいしょうじょ」を歌い上げた。そこからメンバー紹介を経て、約10分にわたって自分の気持ちを吐露したわけである。「今日みんなが来てくれてる。こんなに美しいこと、こんなに嬉しいことはない。だから、これからも……誰も聴いたことがないような音楽を作ることによって、みんなと、あなたと、おしゃべりがしたい。そういう気持ちがいま、ものすごく強くなってます。今日は来てくれてありがとうございました」
音楽を通したこの日の「おしゃべり」は、【RESCUE】と真逆の締めくくり。<もういいかいなあ兄弟 ここらでおしまいで/なんて甘えてちゃお前にも 嫌われちゃうのかな>と子どものころの自分に問う「Neighbourhood」から、<今は信じない 果てのない悲しみを>というマイナスの乗算で希望を描く「アンビリーバーズ」という流れである。最後に不安を覗かせた半年前とは違い、米津はいまこそ“全てを受け止めて一緒に笑おう”としているのかもしれない。ならば一緒に笑いたい。そう思うのは私だけではないはずだ。
TEXT:佐藤悠香
PHOTO:中野敬久
◎セットリスト
【米津玄師 2018 LIVE / Fogbound】
2018年1月10日(水)東京・日本武道館
01. fogbound
02. 砂の惑星
03. ナンバーナイン
04. 飛燕
05. 春雷
06. かいじゅうのマーチ
07. アイネクライネ
08. orion
09. LOSER
10. ゴーゴー幽霊船
11. 表記未対応(※正式表記は、Aliceの中国語簡体字表記となります)
12. ドーナツホール
13. ピースサイン
14. Nighthawks
15. love
16. 打上花火
17. Moonlight
18. 灰色と青
EN1. ゆめくいしょうじょ
EN2. Neighbourhood
EN3. アンビリーバーズ
◎リリース情報
シングル『Lemon』
2018/03/14 RELEASE
<レモン盤(初回限定)(CD+グッズ)>
SRCL-9745~9746 / 2,000円(tax out.)
<映像盤(初回限定)(CD+DVD)>
SRCL-9747~9748 / 1,900円(tax out.)
<通常盤(CD)>
SRCL-9749 / 1,200円(tax out.)
アルバム『BOOTLEG』
2017/11/01 RELEASE
<ブート盤(初回限定)(CD)>SRCL-9567~9568 / 4,500円(tax out.)
※12inchアナログ盤ジャケット、アートイラスト、ポスター、ダミーレコードが付属
<映像盤(初回限定)(CD+DVD)>SRCL-9569~9570 / 3,700円(tax out.)
<通常盤(CD)>SRCL-9571 / 3,000円(tax out.)
◎映像
米津玄師 4th Album「BOOTLEG」クロスフェード:https://youtu.be/uINfdDaZ1Ww
米津玄師 MV「灰色と青( +菅田将暉 )」:http://youtu.be/gJX2iy6nhHc
米津玄師 MV「LOSER」:http://youtu.be/Dx_fKPBPYUI
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