2017/10/27
限りなく加速するグルーヴ――。
ニール・エヴァンスのハモンド・オルガンとアラン・エヴァンスのドラムスがもつれ合いながら疾走し、エリック・クラズノーのギターが2人の音を絡め取るようにして舞い上がる。アスリートのスピードで街を駆け抜けるビート・サウンドは、まるで都会の喧騒と躍動を奏でているようで……。NY・ウッドストック発。屈指のグルーヴ・トライアングル=ソウライヴが、丁々発止のパフォーマンスを繰り広げた。
名門レーベル、ブルー・ノートと契約した直後の2001年に初来日したソウライヴ。そのとき彼らにインタヴューした僕にとって、このグルーヴ・トライアングルが弾き出すジャズ・ファンクは、今も日々のサウンドトラックであり続けている。ジャム・バンド・シーンを牽引しながら、常にグルーヴを更新してきた3人は、ニールとエリックが率いるレタスと共に、時代の写し鏡とも言える“リズム”の革新に挑み続けてきた。例えば、それは新世代ジャズの注目株、デリック・ホッジやマーク・ジュリアナが打ち込みリズムを血肉化させている作業とは異なり、身体の内側から湧き起こってくるうねりを進化/深化させていると言って差し支えないだろう。言い換えれば、ソウライヴはジャズ・ファンクのモダナイズを通して、21世紀の都市のダイナミズムを表現し続けているわけだ。
ステージでの演奏記録を翌日にドロップする「インスタント・ライヴ・シリーズ」を除いても、12年の『Spark』までコンスタントにアルバムをリリースし、着実に独自のスタイルを極めているソウライヴ。作品を遡れば、そのまま“グルーヴの履歴”が辿れる彼らの最新の演奏が、今宵、六本木のクラブ空間で炸裂した。
たった3人の演奏だが、それでも彼らが繰り出す太く躍動的なサウンドは、聴き手の腰を直撃し、会場を一瞬にしてダンスフロアに染め上げる。揺らぎのレンジが広いドラムスのパルスが次第に熱を帯び、まるで潮の満ち引きのように大きなうねりに。ストイックさを増した直線的で一本鎗なサウンドが描き出す漆黒のグルーヴは、シックなモノトーンに貫かれている。白から黒に至る微妙なグレイのレイヤーよって表されるファンキーなアップ・ビートが心地好い。前傾姿勢で4段に並んだ鍵盤を操るニールと寡黙な表情で饒舌にハットを刻むアラン、その間で上半身を揺らしながら弦を弾くエリック。頻繁にアイ・コンタクトを取りながらリズムを加速させていく3人の、ライブならではの臨場感がとびきりクールでエキサイティングだ。
ときにはヴォーカルをフィーチャーしたり、ホーンを加えたりと、さまざまな編成にチャレンジしてきた彼らが、20年に及ぶキャリアを踏まえて原点回帰してきたかのような今回のステージ。半ば本能的な快楽原則に沿ったサウンドのうねりは、デビュー時に比べて格段にふくよかで艶めかしく、色気をたっぷり発散していて、身体が理屈抜きで反応してしまう。ダウンタウンに漂う生臭い空気を皮膚感覚で表現したような音の質感。じんわりと汗が滲むような体温と、街角のデリから漂ってくる匂いまでもが伝わってくる。間違いなく彼らはNYのリアルな風を運んできているのだ。ヒューマンで残酷な空気を体現しているソウライヴのグルーヴは、シビアな現実を突きつけながらも、聴き手の気持ちを勇気づけ、ポジティヴな気分に導いてくれるから格別だ。
アンコールを含め全6曲。終盤のメンバー紹介までMCは一切なく、潔いパフォーマンスを繰り広げたソウライヴ。とめどなく続く演奏に飲み込まれ、汗ばむ瞬間を重ねた100分を、観客は堪能していた。本編最後には、アフター・アワーズ・セッションのノリで披露したビートルズの「レヴォリューション」にニヤリ。くつろいだ演奏ながら、この夜の彼らのテーマは、まさにグルーヴの“革命”だったのではないかという思いが、頭の中をよぎった。
ひと足先の24日には、大阪で凄まじいプレイを繰り広げてきた彼らは、東京でも、もはや誰も手が付けられないほどのグルーヴ・マスターぶりを発揮し、鮮烈な印象を焼き付けていった。六本木という摩天楼にも似合う、タフでモダンな“うねり”をまき散らしていったソウライヴ。3人の再来日を望んでいるのは僕だけではないはずだ。間髪入れずの再登場にも対応できるよう、油断せずに参戦の準備を。OKかな?
◎公演情報
【ソウライブ】
2017年10月26日(木)※終了
ビルボードライブ東京
1st 開場17:30/開演19:00
2nd 開場20:45/開演21:30
Photo: Yuma Totsuka
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。急速に深まる秋と、すぐ隣にやってきた冬の狭間に、ちょっと戸惑い気味なこのごろ。こんな時季には“じっくりワイン”が心地好い。身体を温めてくれる肉料理などと一緒に、凝縮された果実味と舌を引き締める渋み、そしてふくよかなニュアンスをもたらしてくれる樽香が混じり合った赤ワインがお勧め。メドックやサンテステフなどのボルドー・スタイルはもちろん、北ローヌのシラーやイタリア北部のネッビオーロ、あるいはカリフォルニアのジンファンデルやオーストラリアのシラーズなど、濃密なワインを存分に楽しめる今を見逃さないで。
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