2017/05/12
スカート、ミツメ、トリプルファイヤーが、2017年5月2日に【第六回 月光密造の夜 キネマ倶楽部編】を開催した。元々はスカートのイベントだった【月光密造の夜】だが、主催の澤部渡(vo,g)曰く「ミツメとトリプルファイヤーを呼んだらとても上手くハマって、そのまま乗っ取られるという」事態に。“東京インディー三銃士”と称される同年代3組のイベントとなってからは3回目を迎え、今回はそれぞれのカヴァー音源を収録したコンピレーション・アルバム『密造盤』のデラックス・エディションも販売された。
鶯谷駅近く、ラブホテルの建ち並ぶ街にあるキネマ倶楽部は、グランド・キャバレーだった建物がそのまま使用されているため、内装は“大正ロマン”風、構造も風変わり。メイン・ステージ向かって左端と弧を描く二階席の間、中二階に位置するところにも小さなステージがあるのだが、この日はそこにDJブースが設置。幕間には臼山田洋オーケストラが立ち、RCサクセション、山下達郎、松崎しげるなどから、清酒『黄桜』のCMソング、アニメ『機動戦士ガンダム』の「翔べ!ガンダム」まで、レトロ且つユニークなプレイリストを披露した。
●【トリプルファイヤー】月光に似た奇妙な明るさ
DJブースの背後、重そうなカーテンを最初に開けたのは、遊び心に溢れたリリックをソリッドなサウンドに乗せる4人組バンド、トリプルファイヤー。階段を降りてメイン・ステージに立った吉田靖直(vo)が「【月光密造の夜】にようこそ」と発すると、鳥居真道(g)、山本慶幸(b)、大垣翔(dr)がタイミングよく音を鳴らし始める。初っ端から放たれたのは<ロックはもう終わってる>という言葉、タイトルは「SEXはダサい」である。
こんな楽曲を出だしに持ってきておきながら、「鶯谷と言えば“性産業”……すごい僕は雰囲気が好きなんですけど」と口火を切った吉田。そんな彼の才能は音楽だけに留まらず、4月に出演したテレビ朝日系『タモリ倶楽部』では、あのタモリから「お笑いをやった方がいい」と薦められる一幕も。常に予想の裏を行き、例えば「ジミヘンドリクスエクスペリエンス」では<ドストエフスキーを読んだことがあるか>という部分を「ギンズバーグ」に変更したり、「銀行に行った日」が終わるや否や謎のタイミングで「こんばんは」と挨拶したりと、その場の思いつきで言葉を紡ぐことも多い。
その後、鳥居のギターアレンジが印象的なミツメ「三角定規」のカヴァーを演奏。トリプルファイヤーにはあまりないメロディアスな楽曲を歌い終えた吉田は「自分で歌ってるとすごい上手く聞こえるんですよね。だから録音したの聴くとびっくりする……まあ人よりちょっと上手いくらいなんですけど」と照れ笑い。ラスト「カモン」では「2階こんなもんじゃないだろ!【月光密造】のみんな! 両手上げて! 体揺らせ!」などと煽り続けながらも、やはり素直にはノリにくいという絶妙な空気感を作り上げ、「次はミツメです」の言葉を残しステージから去っていった。
●【ミツメ】密造された狂気も運ぶセンチメンタル
どこか不安定で濃厚な世界観からは一転、川辺素(vo,g)を筆頭に、大竹雅生(g,syn,cho)、nakayaan(b,cho)、須田洋次郎(dr)から成るミツメは、過ぎ去りし青春のような虚しさ、吹き抜ける春風のごとき爽やかさ。リズミカルな「Disco」に始まり、川辺が「こんばんは、ミツメです。今日は楽しんでいってください」と軽く挨拶。日本のみならず、アメリカ、上海、韓国でもライブを行うなどグローバルな活動をするこの4人組バンド、妖艶な会場に歪なポップミュージックを響き渡らせる。
これまで“東京インディー三銃士”の作品はほとんど自主制作で発表されてきたが、ミツメは楽曲制作のために自分たちの作業場を持ち、活動費などもグッズの売上げなどからやり繰りしている。こういったDIY精神、独自の活動スタイル、バンドの持つシンプルな洒落っ気にも支持があり、東京インディシーンにおいては彼らが一つの“指標”になっている節もある。
続いてまだタイトルもない新曲、カヴァー楽曲としてはスカート「どうしてこんなに晴れているのに」、トリプルファイヤー「次やったら殴る」を披露。nakayaanがヴォーカルを担当したこの「次やったら殴る」、原曲は“たぶん次やっても殴られないだろうな”と思えてくる滑稽さも魅力なのだが、ベースの低音とシンセのハーモニーが印象的なミツメのカヴァーは“次やったら殺されそう”と感じるほどに狂気的だ。もちろん自分たちの楽曲では変わらず切ないポップサウンドを掻き鳴らし、「次でミツメの出番は終わりです。最後はスカートが出ます」と、ラストを飾ったのは先ほどトリプルファイヤーがカヴァーした「三角定規」。この日一番の鋭いフィードバックが高い天井まで突き抜けた。
●【スカート】夜に編まれるカラフルな音の布
トリはイベントの企画者である澤部のソロプロジェクト、スカート。この日もサポートメンバーとして清水瑶志郎(b)、佐藤優介(key)、佐久間裕太(dr)、シマダボーイ(per)を引き連れた5人体制で、「返信」からハイテクな織機のごとく多彩な音を編んでいく。最初のMCでは「あれ、カポタスト、どこかに転がってませんか? ……あっ、落ちてました」と足元にあったカポを拾い、目の前にある譜面台については「今日は新曲が多いので歌詞を見ます。許してください」とお茶目な一面も覗かせつつ、その言葉の通り疾走感溢れる「セブンスター」、オフビートで展開していく「タイトル未定(新曲)」など、仮タイトルも含む新曲が多数並んだ。
特に「視界良好(仮)」はお気に入りらしく、「星で言うと4つだっけ?」という佐久間の問いには、「4.5……とかいくかな。展開とかが凝ってて」と嬉しそうに語り、「手のなる方へ急げ(仮)」についても「これもねえ、好きなんですよ。ロックっぽいけどややこしくて」と触れた澤部。学生時代は不真面目だったとのことだが、音楽大学出身というだけあり、スカートの楽曲構成は複雑だ。それでも流れが自然でキャッチーなため耳に心地よい。この独特な持ち味は多方面から評価されており、様々なアーティストのサポートを務めているほか、映画、テレビ番組、企業ムービーなどにも楽曲を書き下ろしている。
ミツメ、トリプルファイヤー同様、スカートも長いこと自主制作を行ってきたアーティストだが、2016年の最新アルバム『CALL』はレーベル「カクバリズム」からリリースした経緯がある。澤部の“ギターヒーロー”だというトリプルファイヤーの鳥居は本作のレコーディングに参加しており、この日もゲストとして再びステージに登場。アルバムのタイトル曲をはじめ、コンガの民族的なリズムも冴え渡る「回想」など、このときには両手を上げて踊る人の姿も多く見られた。
●【スカート】【ミツメ】【トリプルファイヤー】頭上に浮かぶ本物の月
アンコールの2曲はスカートによるカヴァー楽曲。まずはスカートと共に川辺が登場し、先ほどミツメ自身でも披露した「Disco」を一緒に歌い上げた。続いて「川辺くんが出てきたということは、この曲もやります。トリプルファイヤーの吉田くん」という澤部の呼びかけから、こちらも先ほど演奏があった「スキルアップ」。どちらの楽曲も多彩なプレイヤーが多く揃ったことで迫力が増し、会場はそれこそグランド・キャバレーさながらの盛り上がりに。
そして遂に「またこの3バンドで集まる機会を作りたいと思いますので、そのときはよろしくお願いします。ありがとうございました!」という澤部の言葉で締めくくられた【月光密造の夜】。時刻は23時近く、入り組んだ通路から外に出ると頭上には月が浮かんでいた。眩しさの物足りない、本物の月だった。
写真:廣田達也
テキスト:佐藤悠香
◎セットリスト
【第六回 月光密造の夜 キネマ倶楽部編】
2017年5月2日(火)東京・キネマ倶楽部
■トリプルファイヤー
01.SEXはダサい
02.トラックに轢かれた
03.次やったら殴る
04.ジミヘンドリクスエクスペリエンス
05.銀行に行った日
06.コインとキノコ
07.三角定規△(ミツメのカヴァー)
08.人生を変える言葉
09.スキルアップ
10.野球選手
11.カモン
■ミツメ
01. Disco
02. Alaska
03. 忘れる
04. 新曲
05. どうしてこんなに晴れているのに (スカートのカヴァー)
06. 次やったら殴る (トリプルファイヤーのカヴァー)
07. Paradise
08. 煙突
09. あこがれ
10. 三角定規
■スカート
01. 返信
02. いい夜
03. 離れて暮らす二人のために
04. セブンスター
05. タイトル未定(新曲)
06. 視界良好(仮)
07. ストーリーテラーになりたい
08. ランプトン
09. 手のなる方へ急げ(仮)
10. CALL
11. 回想
12. 静かな夜がいい
EN1. Disco(ミツメのカヴァー)
EN2. スキルアップ (トリプルファイヤーのカヴァー)
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