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2016/12/07

コラム:ヒップホップと【グラミー賞】の希薄な関係

 現地時間の火曜日(2016年12月6日)に2017年【グラミー賞】のノミネートが発表された。ヒップホップと【グラミー賞】の関係は昔から希薄で、<年間最優秀アルバム>などの主要部門からシャットアウトされ、正当に評価されていないと批判されてきた。ノミネートされる数少ないヒップホップ作品やアーティストはラップ部門に限られ、大抵放映もされない。過去にはジェイ・Zやウィル・スミスなどの大物アーティストがボイコットをして抗議してきたが、今年のラインアップを見たところ、【グラミー賞】はまた歴史を繰り返すつもりのようだ。

 今年のヒップホップ・ジャンルの本命はドレイクで8部門にノミネートされている。アルバム『ヴューズ』は<年間最優秀アルバム>、リアーナとのコラボ・シングル「ワーク」は<年間最優秀レコード>、また<最優秀ラップ・アルバム>、<最優秀ラップ楽曲>(「ホットライン・ブリング」)、<最優秀ラップ・パフォーマンス>(「ポップ・スタイル」)にもにノミネートされている。主要部門でノミネートされているヒップホップ・アーティストはドレイクだけだ。これは確かに素晴らしいことではあるが、特に驚くべきことではなく、【グラミー賞】を主催するナショナル・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンスが進歩的な判断をしたとは言えない。ドレイクがノミネートされた部門の多くはポップス寄りの楽曲の力が大きかった上に、「ワーク」に関して言えば彼は単にフィーチャーされたゲストだ。彼のノミネーションで興味深いのは、「ホットライン・ブリング」と「ワーク」両方で<年間最優秀楽曲>を逃していることだ。噂されている手続き上のミスが原因だったのか、【グラミー賞】がしくじっただけなのかは不明だが、今年は代わりにマイク・ポズナーの「I Took a Pill in Ibiza」とジャスティン・ビーバーの「ラヴ・ユアセルフ」が評価された。

 カニエ・ウェストも8個のノミネーションを受けたが、主要部門では空振りだった。彼ほど影響力があるアーティストにしては不思議だ。アルバム『ザ・ライフ・オブ・パブロ』はラップ部門でのみノミネートされ、更には名前が挙がっている3部門で自分自身がライバルで、「Famous」と「Ultralight Beam」が両方とも<最優秀ラップ楽曲>と<最優秀ラップ/歌唱パフォーマンス>にノミネートされている。カニエは昔から【グラミー賞】を声高に批判してきた。今年の初めにもTwitterで「【グラミー賞】の表彰システムは的はずれだし実態を把握していない」と、レコーディング・アカデミーが時代遅れで無意味であると痛烈に非難した。

 アカデミーの会長、ニール・ポートノー (Neil Portnow)はカニエの主張に対し、「カニエはクリエイティブな先駆者であり、我々は何回も彼を高く評価し表彰してきた。カニエには個人的に直接我々と会って、音楽の未来について、そして音楽のクリエーターがその未来を形作る為に果たす役割について建設的に対話してもらいたい」との声明を発表している。

 【グラミー賞】の判断が正しかったと言えるアーティストはチャンス・ザ・ラッパーだろう。今年大ブレイクした彼は誰もが欲しがる<最優秀新人賞>を筆頭に7個のノミネーションを相応に受けている。チャンスのミックステープ『カラーリング・ブック』は、<最優秀ラップ・アルバム>候補作の中でも突出している。

 他にも新人のD.R.A.Mやデザイナーがノミネートされているが、今年大ヒットした作品をリリースしているレイ・シュリマー、A$AP Ferg、ヴィック・メンサ、ヴィンス・ステープルズ、そしてフューチャーはノミネートされなかった。

 レコーディング・アカデミーがラップが一過性のものではないと気付いた1989年に初めて【グラミー賞】でラップ部門が創設された。それから30年経った今、ラップは更に影響力を持つようになったが、【グラミー賞】がそれを反映しているとは言い難い。チャートの上位や放送などでは常に主役で、ポップ・カルチャーの時代精神のあらゆる側面に浸透したヒップホップを適切に評価する時が来ているのではないだろうか。

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