2016/06/17
限りなく美しく切ない旋律。絶妙にコントロールされたセクシーな声。ノーブルな身のこなしとエモーショナルなシンギング・スタイルが魅力のブライアン・マックナイト。
1991年にセルフ・タイトルのアルバムでデビューし、今年3月にリリースされた『ベター』が、実に14作目となる彼は、単なるシンガーではなく、作詞や作曲はもちろん、プロデュース業もこなす、マルチな才能を持つアーティストだ。当然のことながら共演者のリストも華々しく、クインシー・ジョーンズを筆頭に、メアリー・J・ブライジやヴァネッサ・ウィリアムス、マライア・キャリーやボーイズ・Ⅱ・メンなど、錚々たる名前が並ぶ。まさに20世紀の末からR&Bミュージックのミドル・ロードを邁進してきたブライアン。最新作はとてもジェントルでオーガニックな雰囲気を携えた“大人のソウル・ミュージック”を堪能させてくれる内容に仕上がっている。全編、パーソナルな“愛”について歌っている点も、デビュー時を思い出させるアプローチ。彼の歌のメイン・テーマがいささかもブレていないことを証明するかのような内容に、僕は思わず膝を叩いたほどだ。
本人も「今までで最高の作品」と胸を張る今作は、バンドの生演奏をメインにした音作りが、彼のアダルトな雰囲気とピッタリ重なって、聴き手の身体の奥深くまで染み込んでくるような優しさと包容力に溢れている。
2016年6月16日、そんな“自信作”を手土産にした今回の来日ステージ。さすがに顎に生やした髭には白いものが混じっているが、それだからこそ、酸いも甘いも噛み分けた彼の歌声に、心を奪われずにはいられない。会場には開演前から艶めかしい空気が充満している。彼の歌に包まれるために詰めかけた女性たちの熱気が、次第に濃厚になっていくのを感じずにはいられないほどだ。
そして、オーディエンスの恋愛感情にも似た期待を背負って登場したブライアン・マックナイト。シンプルなシャツと細いパンツに包んだ精悍な身体を身軽にこなしながら、ステージ横の階段を下りてくると、張りのあるハイ・トーン・ヴォイスで観客を鷲掴みにする。新作からの「ライク・アイ・ドゥ」やタイトル曲を織り交ぜながら、代表曲の「エニタイム」や、紛うことなき名曲の「バック・アット・ワン」、あるいは「6,8,12」といった独特な愛情表現の世界観を持つ曲を次々に披露していく。歌の途中で軽やかにラップをしたり、会場の女性に囁きかけたり――。その洗練された振る舞いはオーディエンスを釘づけにする。アコースティック・ギターを抱えて歌ったヴァン・モリソンの「クレイジー・ラヴ」のメロウな語り口。ジョー・サンプルを彷彿させる達者な腕前で鍵盤をなぞりながら歌った「ワン・ラスト・クライ」など、楽曲が歌われ始める度に黄色い声が飛び交う。まるでマーヴィン・ゲイの全盛期の魂が乗り移ったかのような存在感。これほどまでに大人の女性を夢心地にさせる魅惑的なライブを、僕は今まで観たことがない。
また、時代を超えても色褪せない、もはや“スタンダード”になっているナンバーも披露。そんな名曲の数々が、彼の熱い吐息と共に堪能できた今夜のショウ。現代最高峰のR&Bアーティスト/黒人バラディアーと言っても過言ではないブライアンのステージは、非常にオーソドックスで、しっかり歌を聴かせる内容にフォーカスされていた。
ステージを下りた後もアンコールを熱望する喝采は止まず、再び登場したブライアンは、ストゥールに腰かけて「スティル」をゆったりと歌い、オーディエンスの心を静めてくれた。
圧倒的なキャリアに裏打ちされた余裕と、会場全体を掌握するカリスマ的な手腕。彼の伸びやかなハイ・トーンの声が、今も僕の耳元で響き続けている。掛け値なしに素晴らしいライブを満喫した特別な夜になった。
なお、ビルボードライブ東京での公演は6月17、18日も開催。あたたかなメロディと成熟したビター・ヴォイスに包まれる一夜をお見逃しなく。
PHOTO:Yuma Totsuka
TEXT:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。まだまだ続く梅雨。ときには気温が上がり、かなり蒸し暑いのが梅雨後半の特徴だから、もう、一足お先に夏向けのワインもいいのでは。昨年も紹介したイタリアの『カプスーラ・ヴィオラ』や『フィキモリ』はもちろん、ニュージーランドあたりのソーヴィニヨンブランや、南アフリカのシュナンブランなど、南半球の白ワインが手ごろでサッパリした味覚なので、これからの季節には心強いアイテム。カペリーニなどの冷たいパスタや冷やし中華などにも意外に合うので、まずはお試しを!
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