2016/04/12
1996年に活動を始めたキリンジ(現 KIRINJI)。堀込高樹と泰行の兄弟を核とするこのバンドは、偏執的と言ってもいいほどクオリティにこだわるロック・バンドだ。曲のディテイルはスティーリー・ダンを彷彿させ、ひねくれたポップ感覚は10ccやXTCなどと同じ匂いを感じさせる。まさに“ストレンジ・ポップス”と表現できるような独自の音楽性は高い評価を得、10枚ものオリジナル作品とリミックス・アルバムなどをリリースし、傍からは順風満帆のように感じられた。
だが2013年、惜しまれつつ、弟の堀込泰行が脱退。キリンジ本体はKIRINJIに改名し、兄の高樹を中心に新メンバーを加えて新作も発表し、順調に活動を継続しているが、弟の泰行は2014年にソロデビュー曲「ブランニュー・ソング」をリリースしソロツアーを挟んだ後は、ハナレグミや安藤裕子、HARCOなどの作品にゲスト・ヴォーカルやコンポーザーとして参加してはいたものの、本格的な活動は開始していなかった。
しかし、今年になって『CHOICE』という名のカヴァー・アルバムがリリースされることが発表され、意外なかたちで本腰を入れたソロ・キャリアをスタートさせることになった堀込泰行。果たしてどんな楽曲を、どんなふうにカヴァーするのか? 泰行の音楽的指向性やこれからの方向性を予測させそうなステージを『ビルボードライブ』で行うことに――。ライブのタイトルは“IN A SIMPLE WAY~BBL NIGHTS”。キリンジ時代のねじれたポップ感覚とは異なる内容を連想させるタイトルだけに、興味の高まりはピークに達し、やっとライブの当日を迎えた。
女性のドラムス(北山ゆう子)と、ときにトロンボーンも吹く鍵盤奏者(伊藤隆博)を含む3人で登場した堀込泰行は珠玉の名曲、ニック・ロウの「クルエル・トゥー・ビー・カインド」でスタート。ややBPMを落とし、レイドバックしたムードを滲ませながら、次々とカヴァー曲を披露していく。バリー・マニロウの「コパカバーナ」、ホール&オーツの「リッチ・ガール」、ロイ・オービソンの「プリティ・ウーマン」、イーグルスの「言い出せなくて」、レオン・ラッセルの「マスカレード」など、印象的な美しいメロディラインを持つ曲の間にオリジナル曲も挟み、マイ・ペースで演奏していく。決して声量に恵まれているわけではない泰行の歌は、それでもリラックスしたやわらかい空気感を滲ませていく。何の仕掛けも、気の利いたMCもなく淡々と進むステージは、しかし、少しずつ会場全体に微熱をもたらすように、観客の反応が大きくなっていく。そのマイ・ペースぶりを観ていて感じたのは、今回のライブは泰行が自分の音楽的ルーツを見つめ直し、これからの方向性を確認していく作業の一環として位置付けていたのではないかということだ。その証拠に、アンコールでは「レコ発以来6年ぶりに演奏する」と言うキリンジ時代のナンバーや、ナイーヴながらキャッチーな表情を持つ「シャイニー」という仮題の未発表曲を披露し、過去との決別と、未来への抱負を音楽によって示してくれた。
決して華やかではないが、1人の才能あるミュージシャンの“手の内”を覗き込んだような感覚になった僕は、彼が心底音楽好きで、相当なヘヴィ・リスナーであるに違いないということが確かめられただけで嬉しい気分になってしまった。
そんな手作り感覚に満ちた今回のライブ。立ち位置のしっかりしたミュージシャンは必ず名曲を書くことを教えてもらったような気分になり、満開の桜を眺めながら今日のナンバーを口ずさみながら家路についた。
Photo:Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。桜も満開になり、春の陽気を全身で感じられるようになってきたこのごろ。日本の春=桜の季節には、やはり桜色のロゼ・ワインが気分でしょう。ロゼ・ワインにもさまざまな種類があるけど、爽やかさが欲しいならシャンパーニュのロゼ、オードブルなどと楽しみたいならグルナッシュ種から造ったフランス・ローヌ南部地方のタヴェルのロゼがオススメ。その他にも南仏・プロヴァンスのロゼもリゾート感覚に溢れていて、気分をリフレッシュしてくれる。今年の花見には、ぜひ、ロゼ・ワインを!
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