2015/12/17 20:00
ステージに姿を現すと会場は割れんばかりの喝采。ピアノの前に腰を下ろすと、失恋ソングの「友達のまま」の演奏を始めた。意外なほど静かな幕開け。そして「ジュリアン」、6月にリリースした新曲の「DREAM」をピアノ・ソロ・ヴァージョンにアレンジして聴かせる。いつになくしっとりした雰囲気。しかし岸谷香が描く、ワクワク、ドキドキも含めた女の子の心の揺らめきを表した冒頭の3曲で、もう100%、観客の心は鷲掴みにされている。
「だって、ひとりでもできるもん!」――そう宣言して、言葉通り1人でさまざまな楽器を操りながら曲を披露してくれた去年。そんな彼女が、今年は大人っぽさを纏ったソロで『ビルボードライブ東京』のステージに帰ってきてくれた。
去年のステージでは、旧いドラムマシーンにギターにベースにピアノにキーボードと、マルチな才能を発揮して、まるで楽曲の制作現場を見せるようなライブを展開した彼女。バンドを解散し、結婚、出産、子育てと、自分を取り囲む環境が変わっても、決して焦ることなく、さりとて諦めることもなく、マイペースでミュージシャンとしてのキャリアを積み上げてきた。3.11の翌年となる3年前(2013年)だけ、1年間の期限付きでプリプリを再結成させ、被災地を元気付けてきた彼女も、今は通常の日々に戻りつつ創作活動を続け、今年はシングルのリリース、オリジナルアルバムの制作、また数多くのアーティストに楽曲を提供するなど、幅広い活動を展開している。常に密度の濃い音楽活動を継続し、ファンの期待にしっかり応えてきたのだ。
冒頭の3曲のあと、ピアノからギターに楽器を持ち替え、その場で録音した楽器の音や声をループさせ、広がりのあるサウンドを作っていく岸谷。「今年は充実した音楽活動ができたの!」と満面の笑みを浮かべ、頻繁に両手を宙に向けて大きく広げて、オーディエンスの声援に応えている。また「今年は3回も海外に行ったの…」と楽しそうに話しながら、シアトルの公園で作ったという「ラプソディ・イン・ホワイト」を、ピアノを弾きながら熱唱し、客席から大きな拍手を浴びている。
歳を重ねても岸谷香のキャラクターは不変。ちょっとボーイッシュでキュートなしぐさや、フレンドリーなお喋りは、今もフレッシュな魅力を伝えてくる。彼女のパフォーマンスが会場にいる観客の意識を一瞬にして集め、ステージの中盤で演奏した「ハッピーマン」では、タイトル通りハッピーなムードが充満していく。そんな昨日(16日)のライブ、とにかくポップで、どこかコケティッシュで、そしてシックで…。観ていると、気づかないうちに歌の世界に入り込み、失恋の痛手や日常の中で傷ついた繊細な女の子の気持ちを感じ、とてもピュアな気分になっている。観客は常に笑顔で彼女に声援を送り、各々が手を振って曲を楽しんでいる。涙を拭いながら聴いている人もいる。女性が目立つのも彼女のライブの特徴だ。そんな愛され方をしている岸谷香。だからこそ、生演奏の回数が少なくても、聴きに来る人は増え続けているのだろう。
後半には、ゲストにチェリストを迎え、荘厳な響きを交えながらいつもとは曲想を変えて披露してくれた3曲。彼女が今、ステージの上で1人だけでできることを基本に、工夫を凝らして、アイデアいっぱいの歌を聴かせてくれた今回のライブ。師走の気忙しさをほんのひととき忘れて、知らないうちに錆付いていた心をクリアにしてくれる。彼女のライブは、そんな効果が絶大だ。
さぁ、来年も頑張ろう!――そんなふうに気持ちをポジティヴにしてくれる岸谷香のライブ。来年の彼女の活動が、今から楽しみで堪らない。さて、来年も彼女のライブに行くぞ!なぜか固くそう誓いながら(笑)、帰路につく僕がいた。
◎公演情報
岸谷香
KAORI PARADISE 2015 -年末スペシャル-
2015年12月16日 ビルボードライブ東京
www.billboard-live.com/
Photo:Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。街は師走の賑やかさ。イルミネーションもドリーミーな六本木や表参道は、もう夢心地の世界。こんな季節は変化球なしで、牛肉の赤ワイン煮などが身体も温まってオススメ。もちろん、ワインも正統派のボルドーの赤で。強い渋みが苦手なら、メルロ100%ながら、微かに心地好い酸味も感じる『プピーユ』などいかが? 近年、グングン評価を上げている1本だから、ワインのトレンドに詳しい彼女にも、きっと満足してもらえるはず。今が“旬”のワインで、ひと足お先にハッピー・クリスマス!
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