2015/02/11
XLレコーディングスからデビューを果たし注目を集めている、フランス在住の双子姉妹ユニット=イベイー。2014年にEP『Oya』を発表(日本盤もあり)、この2月11日ににはデビュー・フル・アルバムとなる『Ibeyi』をリリースした。ナオミとリサ=カインデのディアス姉妹は、かつてブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブに所属し、名だたるアーティストたちとも活躍して来たキューバン・パーカッショニスト=ミゲル・“アンガ”・ディアスを父に持つ(2006年、姉妹が11歳のときに他界)。デビュー・アルバムでは、父への思いを歌うナンバーも収録されている。
スペイン語とフランス語、英語に加え、ヨルバ語(奴隷制の時代、ナイジェリアから他の地域へと伝わった言語。キューバにはヨルバ系民族が数多く連れて来られた歴史がある)も操るという現在19歳の2人は、ナオミがカホンやバタといったパーカッションを、リサがピアノを演奏し、デュエットで歌うというスタイルだ。その歌詞には、英語とヨルバ語が共に用いられている。ちなみにイベイー(ibeyi)とは、ヨルバ語で「双子」を意味するのだそうだ。
XLレコーディングスの所属アーティストらしい、先鋭的で洗練されたエレクトロニック・ビートと、姉妹のアフロ=キューバン~フューチャー・ソウルな音楽性が生々しく躍動するさまは、それだけでも充分に美しく刺激的だ。ただし、イベイーの個性を際立たせているのは、他でもなくヨルバ語の歌である。言語固有の抑揚がメロディやリズムを形成するという、極めてプリミティヴな歌の構造が、彼女たちの作品からはありありと伝わって来る。
EPのタイトル曲であり、アルバム『Ibeyi』においても序盤に収められている象徴的なナンバーは「Oya」だ。Oyaとは、ヨルバ語でニジェール川(の精霊)を指しており、ヨルバ系民族にとって信仰の対象となってきた。アルバム収録のナンバーで、雄大かつ厳かに響く「River」も、おそらくはこの聖なる流れについて歌っているのだろう。言霊に宿された、強烈にスピリチュアルなエネルギーを臆することなく引き出している。イベイーは歌詞に英語とヨルバ語を織り交ぜることで、経済や情報の流れに捕われがちな、「ユニヴァーサルな歌=英語の歌」というポップ・ミュージック史の大きな問題に、一石を投じている。
音楽は国境や言語の壁を越えるが、それは必ずしも「音楽と言葉は無関係」ということを意味しない。言霊のエネルギーが音楽の源泉となり、より大きな意味をもたらすこともある。今後、世界のどんな場所へと羽ばたいてもこの双子姉妹はイベイーを名乗るように、彼女たちの言葉を乗せた歌声は、唯一無二の存在感を放ち続けるはずだ。
Text:小池宏和
◎リリース情報
『イベイー』
2015/02/11 RELEASE
BGJ-10231 2,371円(tax out.)
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