2019/08/04
1984年生まれ、米シカゴ出身のBJ・ザ・シカゴ・キッドは、古いソウル・ミュージックからファンク、R&B~ヒップホップまで幅広い音楽に影響を受けた、R&Bシンガー。「R&Bシンガー」というカタガキもいまいちシックリこないのは、彼の音楽もまた、ジャンルをクロスオーバーした幅広い音楽性を網羅しているからだろう。かつてはブランド力を誇っていた<モータウン・レコード>の、今を代表する実力派アーティストとして高く評価されているのも納得できる。
2016年にリリースした2ndアルバム『イン・マイ・マインド』は、ディアンジェロやマックスウェルといったネオ・ソウル系シンガーの影響をモロに受けた、アーバン・テイスト漂う傑作だった。全米R&Bチャートでは最高7位まで上昇し、自身初のTOP10入りを果たしている。本作『1123』は、その前作から3年半ぶりとなる、通算3作目のスタジオ・アルバム。長い期間をかけて制作された力作だが、大きな路線変更はない。
プロデューサーには、米マイアミのプロデューサーチーム=クール&ドレ―や、ジャスティン・ティンバーレイクやマライア・キャリーといった超大物を手掛けるデンジャ、ネオソウル・シンガーからラッパーまで幅広く手掛けるアンドレ・ハリスなどがクレジットされている。
オープニング・ナンバーは、米カリフォルニア出身のシンガー/ラッパーのアンダーソン・パークをフィーチャーした「Feel the Vibe」。ホーンの音がアクセントになった生音の質感が心地よいヒップホップ・トラックで、 アンダーソン・パークのラップも強調し過ぎず、いい塩梅に曲に馴染んでいる。グルーヴィーなジャズ・ファンク風の次曲「Champagne」も相当カッコイイ。ミディアムにもアップにも対応する、モダンで柔軟性のあるボーカルは、まさに唯一無二。男気溢れるギターリフが特徴的な、ねっとり甘いスロウ・ジャム「Time Today」では、ジニュワインのようなエロさも醸しちゃうから凄い。
3曲目の「Get Away」は、前作に引き続き米コンプトン出身のラッパー=バディがゲストとして参加している。また、バディの作品にフィーチャーされ注目を集めたケント・ジャムズと、J.コール率いる<Dreamville Records>所属のラッパー=J.I.Dの2人も、フィーチャリング・アーティストとしてクレジットされた。鍵盤打楽器や民族楽器の音がアクセントになっている現代風ネオソウルで、4者が入れ替わり、キャラに見合ったフロウを放つ。
「Can’t Wait」は、前4曲とはまたタイプの違う、トラップのような現代的要素を含んだオルタナR&B。後半は曲調が一転し、アシッド・ジャズのようなインストに展開していく。ミーゴスのオフセットをゲストに招いた「Worryin’ Bout Me」も、これまでの作品では聴けなかったタイプのトラップ(ヒップホップ)。オランダの人気プロデューサー/DJのアフロジャックがプロデュースしたハウス調の「Reach」も、彼の作品としては新しい試みといえる。
米LAのシンガーソングライター/プロデューサーのエリック・ベリンジャーが参加した「Back It Up」では、重量感のあるヒップホップ・トラックに乗せた、ワン・テンポずらしていく難易度の高いボーカル・ワークを披露。ラッパーのリック・ロスとタッグを組んだ「Playa’s Ball」ではマーヴィン・ゲイの、次曲「Too Good」ではダニー・ハサウェイの影をそれぞれチラつかせる。どこかニュー・ソウルの雰囲気を感じさせる「Close」でも、感情を振り絞る大サビに圧倒させられ、彼の魅力はやはりボーカルにこそあると実感させられた。
カリードやブライソン・ティラー、ミゲルにフランク・オーシャン。同路線の実力派R&Bシンガーを挙げればキリがないが、BJ・ザ・シカゴ・キッドは決して“売れ線”に走らず、独自のスタイルを貫いているところがいい。流行を一切無視するわけでもなく、レトロな要素も取り入れたセンスの良さ、そして曲夫々で様々な印象を与えるボーカルが、本当にすばらしい。変化には乏しい作品ではあったが、彼の場合、そういった“変化”は不要だということを本作で証明した。
Text: 本家 一成
◎来日公演情報
2019年8月27日(火) 東京・ビルボードライブ東京
Service Area :8,000円 / Casual Area :7,000円
2019年8月30日(金) 大阪・ビルボードライブ大阪
Service Area :7,900円 / Casual Area :6,900円
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